障害ゆえの犯罪行為、理解を

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弁護士会と連携、ハンドブック作成 大津・支援センター

ハンドブックの内容を協議する支援者ら=大津市のやまびこ総合支援センターで
ハンドブックの内容を協議する支援者ら=大津市のやまびこ総合支援センターで

 発達障害や知的障害がある人が犯罪を犯した際、裁判などで支援する試みが大津市で始まった。障害の特徴を理解してもらおうと、法廷での意見陳述やハンドブック発行に取り組む同市障害者相談支援事業所「やまびこ総合支援センター」の活動を報告する。(大津支局・猪飼なつみ)

 7月下旬、大津地裁で開かれた公判。被告は、女性の体を触ったとして、滋賀県迷惑行為等防止条例違反の罪に問われた20代男性。人とのコミュニケーションが難しいとされる広汎性発達障害がある。

 意見陳述した同センター相談支援専門員の佐藤紀子さん(35)は、事件前、男性が対人関係に慣れるため、共同生活を送るケアホームへの入所をセンターに相談していたこと、以前にも極度の緊張から女性の体に触ったことがあったと打ち明けていたことに触れた。

 センターのスタッフが法廷で意見陳述したのは、今回が初めて。男性が5月に逮捕されて以降、弁護人、主治医らと話し合いを重ね、意見陳述、支援計画づくりが必要と判断した。

 法廷で佐藤さんは「広汎性発達障害の人は、予想外のことが起こって緊張状態になると、混乱して妥当な判断ができなくなり、問題行動を起こすことがある」と説明。「本人が置かれている状態を周囲の支援者が察知できる環境を整える」と、今後、男性がケアホームに入所し、働くための支援計画も紹介した。

 男性は8月、懲役5月、執行猶予5年の判決を言い渡された。裁判官は「広汎性発達障害のため、適切な方法でストレスを発散できなかった」と述べ、障害に一定の理解を示した。

 センターは昨年3月、知的障害の男性がスーパーで万引をしたとして逮捕された際には、男性の障害の程度を調べた記録、今後の支援計画などをまとめた資料を大津地検に提出した。

 佐藤さんは「本人の力だけではどうにもできないことがある。障害を警察、司法関係者に理解してもらうとともに、周囲の人の支援が必要」と語る。

完成したハンドブック
完成したハンドブック

 こうした活動に加え、センターは、障害の特徴ゆえに犯罪行為と誤解されやすい事例、逮捕後の法手続き、弁護士会の当番弁護士の連絡先などを記したハンドブック(A5判、26ページ)を作成した。

 誤解例では「毛玉に固執する人が、女性の服の毛玉を触って痴漢と間違われる」「小さい子どもが好きで、急に抱っこして不審者としてみられる」「突然パニックになって暴れる」−などのケースが挙がる。

 センターに学識経験者や市社会福祉協議会、弁護士も加わって内容を練り、障害の例はイラスト入りで分かりやすく示すなど、工夫。「発達障害は、本人も家族も障害に気付かず、逮捕されてから分かるケースが多い」と、作成に携わったセンター相談員の越野緑さん(35)は、周囲が障害に気付くきっかけになればとの思いを込めた。11月初めに1万部発行し、警察、司法関係者や支援施設、障害者の家族らに配る。

 越野さんは「ハンドブックは刑を軽くするためや、起訴されないようにするためのものではない。日ごろから、警察や司法の関係者、地域の人たちに障害の特性を知ってもらうのが本来の目的」と話す。

 メンバーの1人、土井裕明弁護士(46)は「支援者の協力がなければ、有効な弁護活動はできない」と、弁護士会と支援者の連携こそがカギとみる。

 障害者の権利のため支援する「プロテクション・アンド・アドボカシー大阪」代表の辻川圭乃弁護士(52)は「大阪や埼玉でも弁護士と支援者が協力する取り組みが始まっている。支援者のネットワークがある滋賀では、裁判支援の輪が広がりやすいのではないか」と評価している。

(2010年10月28日)

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