菅直人首相は4日の年頭記者会見で、民主党の小沢一郎元代表が強制起訴された場合は離党や議員辞職を含む出処進退を自ら判断するよう求め、昨年末からの「小沢切り」姿勢を一層強めた。消費増税を含む社会保障と税制の一体改革を進めるには、小沢氏の問題を解決し、政権の求心力を高めて野党の協力を得ることが不可欠だからだ。だが、首相が「小沢切り」に突き進めば党内の反発も強まり、求心力がさらに低下する可能性もある。野党の協力機運も乏しく、首相の「初夢」実現までには、さまざまなハードルが待ち構えている。
「私が初めて衆院選に立候補したのは、ロッキード選挙と呼ばれた選挙だった。政治とカネを何とかしなければ、日本の民主主義はおかしくなってしまうと立候補した」
菅首相は年頭会見で、小沢氏の政治の師である田中角栄元首相を引き合いに、小沢氏を厳しく批判した。
通常国会開会前に小沢問題にけりをつけ、野党との連携強化に進まなければ、政権維持はおぼつかない--。首相ら党執行部は、国会開会までに小沢氏の衆院政治倫理審査会(政倫審)出席を実現させ、小沢氏の強制起訴があれば離党勧告にも踏み切りたい考え。さらに、13日の党大会後、すみやかに内閣改造・党人事も行い「強力な態勢」を構築した上で、国会で野党の協力を得ながら11年度予算案の早期成立を目指す。
だが、小沢氏周辺は「国会開会前の政倫審出席まで(党が)決めたわけではない」との立場。小沢氏が出席を拒んで執行部が離党勧告に踏み切ろうとしても、勧告には小沢氏側の議員も多い常任幹事会の決定が必要で、実現は容易ではない。
小沢氏は4日のBS11の番組収録で「私自身のことは、私と国民が判断する」とけん制する一方「党内政局レベルの話ばかりになると、国民も『何をやっているんだ』という話になる」と述べ、首相の姿勢を批判した。
小沢氏側は党大会前に開かれる役員会や常任幹事会、全国幹事長会議に照準を合わせ、執行部批判を強めようともくろむ。4月の統一地方選を控えた地方議員が党内抗争の続く現状を批判することも予想され、これが小沢氏側に有利に働く可能性も否定できない。
小沢氏批判の急先鋒(せんぽう)である前原誠司外相も、4日の会見で「政治とカネの問題は大事なテーマだが、政権が信頼されるために大事なことは政策の中身ではないか」と指摘。小沢問題に集中するあまり「本論」がおろそかになっていないかとの懸念を示した。【葛西大博】
「全力を挙げて与党を追い込み、解散を勝ち取ることが今年の目標だ」。菅首相に先立ち伊勢神宮を参拝した自民党の谷垣禎一総裁は、会見で対決姿勢をあらわにした。問責決議を受けた仙谷由人官房長官らを首相が交代させない限り、通常国会で審議に応じない姿勢も改めて強調した。
首相は社会保障と税制の一体改革のための与野党協議を呼び掛けたが、野党側に歩み寄りの機運は乏しい。谷垣氏は会見で「政府は素案を用意して対話を呼び掛けるべきだ」と述べる一方「(農業の)戸別所得補償や子ども手当をそのままにして、どれだけ消費税率を持っていくのか展望が明らかでない」と批判。公明党の山口那津男代表も4日「社会保障のあり方の中身が示されず、消費税だけが出てくるようでは国民に違和感が生じる」と記者団に述べ、税制改正論議が先行しないようけん制した。
社会保障に関する与野党協議は、かつて自公両党も与党時代に提唱しており、谷垣、山口両氏とも門戸を閉ざしてはいない。だが、4月の統一地方選前に、求心力の衰えた菅政権に安易に手を貸せば、それぞれ党内で不満が噴出しかねない。対決姿勢は簡単には変えられないのが実情だ。
共産党の志位和夫委員長は同日、党の会合で「大企業への減税ばらまき反対と軍事費削減の旗を掲げ、消費税増税反対の戦いに取り組みたい」と力説。みんなの党の渡辺喜美代表は栃木県大田原市で「社会保障を守るには4%の(経済)成長を達成すればできる」と、社会保障財源としての消費増税に反対した。【野原大輔、柴田光二】
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加について、菅首相は「最終判断は6月ごろが一つのメドだ」と表明した。閣僚間で意見が分かれていた判断時期を、首相が初めて明言したことで、政府はTPP参加で打撃を受ける国内農業の強化策の具体化を急ぐことになる。
参加の是非を判断する時期について、仙谷由人官房長官ら積極派は、政府の「農業改革の基本方針」がまとまる6月ごろと示唆。鹿野道彦農相ら慎重派は、米ハワイでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開かれる11月までとの認識を示していた。
しかし、TPP交渉に参加する米国など9カ国は、今月から関税撤廃に関する協議を始めることで合意している。「参加が遅れるほど、不利なルールをのまざるを得なくなる」(日本政府関係者)との懸念が首相の「6月発言」につながった。
ただ、6月に参加しても「協定の大枠作りに関与するには遅すぎる」(同)可能性がある。国内農業関係者の反発も強く、参加へのハードルは依然高い。【立山清也】
毎日新聞 2011年1月5日 0時04分(最終更新 1月5日 1時38分)