昨夏参院選の民主党大敗後、菅直人首相が最も秋波を送ってきた相手が公明党だ。12月に発表した同党の「新しい福祉社会ビジョン」で提唱された社会保障の与野党協議機関設置について、首相は「共通性が大きい」と強調した。しかし、対決路線を宣言する。
「闘う野党を明確なスタンスとして出していきたい。民主党はいいかげんなマニフェストを作り、実現できないことを言って政権を取ったのだから、それを一回白紙にしてもらわなければ、今の政権にわが党が協力することはない」
昨秋の臨時国会で仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相の問責決議に賛成。仙谷氏らの交代を求め、通常国会でも両氏出席の審議には応じない姿勢だ。だが、首相は小沢一郎民主党元代表に衆院政治倫理審査会出席を迫ることで野党の理解を得ようとしている。
「小沢さんの問題は党内問題。取引材料になり得ない。問責問題に決着がつけば審議には応じる。だが、それと『予算に賛成してくれ』というのは無関係だ。これも取引の対象にならない。予算そのものは反対になる」
政局が動くのは11年度予算成立後とにらむ。仮に公明党が反対すれば、税制改正など予算関連法案の成立は軒並み危うくなり、菅政権は窮地に立たされる。いきおい衆院解散・総選挙が視野に入る。
「問題は予算関連法案だ。バラマキ路線が継承されている法案なら賛成できない。関連法案の(審議される)頃が一番、菅内閣が行き詰まりを来す時期だと思う。3月末か4月、何が起きるか分からない状況に入るのではないか。(解散・総選挙も)あり得る」
4月の統一地方選を重視する公明党は、早期解散の回避を求める声が強いとみられていたが、解散も受けて立つ、と踏み込んだ。
「吹っ切りました。このような状況で国の運営はうまくいかない。一度、信を問わないといけない」
公明党は次期衆院選後の連携相手として民主党を否定していない。社会保障の与野党協議呼びかけも「菅政権後」を見据えている。
「丸々の民主党と公明党がくっつくことは考えていない。あるとすれば自民の一部、公明、民主の一部(が組むような)、政界再編だ。自公連立に戻るとか、民公が一緒になるとかは難しいだろう。小沢さんの問題については国民の8割が説明責任を果たせと言っている。この方がいらっしゃるところとは一緒に政治をやることはできないのでは」
今年前半にも衆院解散があるとみて準備を進める。09年衆院選では候補者を立てた8小選挙区で全敗した痛手が重くのしかかる。
「8選挙区を取り戻す。自公連立10年が国民からノーと言われたことは謙虚に受け止め、非民主・非自民の独自路線を歩むが、小選挙区は自民党との連立で積み上げてきた票をしっかり掌握しなければならない。そういう意味で(自公の選挙)協力はあるだろう」【聞き手・岡崎大輔】=つづく
毎日新聞 2011年1月6日 東京朝刊