社説
社会保障と税制改革/与野党は腹割って協議を
社会保障政策が、党派の枠を超えて成案を求めるべきテーマと言われて久しい。 ようやくと言ったところか。政府・与党の「社会保障改革検討本部」は先月、年金、医療などの財源を安定的に確保しようと、消費税率の引き上げを含めた税制と社会保障の一体改革を、野党の協力を得ながら進める方針を決定した。 菅直人首相も年頭記者会見で「超党派の議論を呼び掛ける」と言明し、6月をめどに方向性を示す意向を明らかにした。 本来なら、菅内閣が「強い社会保障」を掲げて発足した昨年6月の時点で検討を開始する手はずだったが、参院選で民主党が大敗して消費税論議が封印され、見通しに狂いが生じた。 2011年度予算編成を終え、仕切り直しをして消費税を再び表舞台に上げようということだろう。高齢化や高度医療の進展などで社会保障費は膨らむばかり。税制の改革論議なしに財源を生むのはもはや限界だ。 遅きに失した感はあるが、今年を「社会保障改革元年」と位置付けて、野党も協議のテーブルに着き、一日も早く議論を始めることを望みたい。 年金、医療、介護の給付総額は、個人の保険料分も含めると、この25年間で3倍の105兆円(10年度)に増えた。 一方、11年度予算編成では、国債発行額44兆円以下と上限が設定され、事業仕分けの削減効果も3千億円にとどまった。 制約の中で、社会保障費の半分を占める年金は、基礎年金の国庫負担分(2分の1)の財源に困り、特別会計など「埋蔵金」を充当した。埋蔵金頼みは3年連続で、もはや限界という。 2年続けて本予算を組み、生みの苦しみを知った現政権が、税制との一体改革しか道はないと腹をくくったとも言えよう。 高齢者医療と介護保険は現在、新制度の策定が進んでいる。厚生労働省は見直し案を発表したが、すこぶる評判が悪い。 高齢者医療では、75歳以上のお年寄りの8割を国民健康保険に移し、給与水準が高い大企業の健康保険組合などの支援金を増やすことなどが柱。 介護保険では、高齢者の保険料軽減を念頭に、ケアプラン作成の有料化を打ち出したほか、ここでも健保などに追加負担を求めた。現役世代を直撃する両案に対し、民主党内から「抜本改革から程遠い」などの反対論が相次ぎ、先送りされている。 財源に穴が開く部分を、ほかの取りやすいところから取るというつぎはぎの手法が、とうに行き詰まっていたことの証左だろう。 政府は近く、与野党協議の場として、有識者も加えた専門会議を創設したい考えだ。自公政権時代にも超党派の協議が模索されたことはあったが、腹の探り合いで頓挫した経緯がある。 今は待ったなしの状況にある。税制論議に広げられれば、つぎはぎの施策を変える可能性も持つ。与野党は過去のいきさつにこだわらずに大局観に立って、国民の理解を得られる恒久的な改革を目指してほしい。
2011年01月06日木曜日
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