2011年1月8日
菅直人首相が7日、インターネットの生放送に出演した。ネットの生放送に現職首相が出演するのは初めてという。支持回復を狙ってのことだが、視聴者からは「国民の声を聞いて」「具体的に話して」という声が多く寄せられた。発言や映像を編集するという理由で既存メディアを嫌う政治家のネット発信は増えるが、対応を誤れば厳しい批判が瞬時に押し寄せる。
7日午後7時半。ネット上に背広姿の菅直人首相が現れた。「生の私の姿を伝えたいと思って出ました」と切り出し、約1時間半にわたって宮台真司・首都大学東京教授(社会学)らに自らの政治哲学を語った。
ニュース専門インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」の番組だ。別のネット動画配信サービス「ニコニコ動画」(ニコ動)でも流され、ニコ動では7万3千人が見た。
「いろんな思いが伝わらないことで、気持ちがなえるんです」。菅首相は終了間際、短命で終わった過去の首相たちの辞任理由をこう推し量った。一方で「私は徹底的にやってみようと思う」と政権運営への意欲も見せた。
今回の出演は、首相本人の強い意向で実現した。首相には、昨夏の参院選での消費税発言が「大手マスコミを通じて誤解されて伝わった」との思いが強い。
視線の先には、対立を深める民主党の小沢一郎元代表がいる。ネットへの露出で、小沢氏は先行する。
昨年9月の党代表選で菅氏に敗れて以降、ネットメディアにすでに4回出演。一方で地上波テレビへの出演はほとんどなく、大手新聞や通信社の取材は、一貫して避けている。「政治とカネで、大手メディアから徹底的なバッシングを受けてきた」(側近議員)との強い不信感がある。
「メディアは旧態依然で発想が古くさく、勉強していない。だから僕はネットに出る。ストレートで真実が直接伝わるからいい」。小沢氏は5日放映された衛星放送の番組でこう語った。(金子桂一、松田京平)
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「ビデオニュース・ドットコム」があるのはJR目黒駅そばのマンション一室。リビングを改装したスタジオだ。
新聞とテレビの総理番記者はスタジオに入れず、17人が1階ロビーに置かれたテレビで中継を見つめた。
局を運営する「日本ビデオニュース」代表で、この日の番組で司会を務めた神保哲生さん(49)は「ネットが、総理にも出てもらえる情報の伝送路としてようやく認められた」と話した。首相の「なえる」発言については「台本に沿って時間通りに終わってしまうテレビでは引き出せない言葉だった」と言った。
「権力監視」の役割をネットメディアも担えるかについて問うと、「メディアが多様化した現在では、権力を直接監視するだけではなく、視聴者が監視するための材料を提供する立場もあっていいのではないか」と語った。
記者会見を拒否し、動画投稿サイトで退任理由を語った秋葉忠利・広島市長など、政治家のネット利用は増えている。この動きをリードしてきたのがニコ動だ。昨年11月の「小沢一郎ネット会見〜みなさんの質問にすべて答えます!」はこれまでに22万5773人が視聴している。
広報担当者によると、ニコ動は従来、アニメやゲームなどサブカルチャー的な内容が主流だった。
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生中継の間、簡易ブログ「ツイッター」上では、視聴者のコメントが首相に直接届かない番組づくりに視聴者の不満が多く書き込まれた。
「伝えるだけで、意見を受ける気はないってことだ」「自分の意見がカットされないところに出たいわけね」
この番組の形式は元々、ツイッター上の質問を菅首相に直接投げかけるものではなかった。またニコ動の売り物である視聴者の意見が画面上に表示される仕組みも使えなくなっていたからだ。両社によると、番組を製作したビデオニュースの放送スタイルにあわせたという。
一方で「生出演したことは評価できる」「首相の一定時間の沈黙が、いろんな意味で考えさせられた」と評価する声もあった。
ネットメディアに詳しい評論家の浜野智史さんは「首相の声が編集されずに1時間以上続く番組はテレビでは不可能で、その意味では画期的。ただ、国民の声を聞きたいといいながら双方向性は生かせなかった」と話した。
浜野さんは今後の番組作りに期待する。「即時的なコメントは、視聴者のガス抜きにはなっても政策論議は深まらない。本当の意味で意見を集約できるあり方が求められる」
既存メディアのあり方も問われる。ブログ「ガ島通信」を主宰するジャーナリストの藤代裕之さん(37)は「ネットの登場で、権力者は言いたいことを思うように言える場を得た。権力監視の役割を果たせるか、既存メディアの胆力が試される」と指摘する。(福井悠介、仲村和代)
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