社説
2011年1月8日

日米外相会談/普天間問題で沖縄に誠意示せ

 前原誠司外相はクリントン米国務長官との会談で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題の解決に期限を切らない考えを伝えたが、クリントン長官は今春の菅直人首相の訪米までに実現の道筋を付けるよう求めた。普天間問題解決のため、民主党政権は沖縄県民の信頼を回復できるよう誠意ある対応が求められる。

高まる県民の不信感

 一昨年の衆院選で民主党は移設先を「最低でも県外」と公約した。しかし鳩山前政権は昨年5月、県内移設に方針転換して米国と沖縄県名護市辺野古に移設する合意を交わした。このため、沖縄県民の民主党政権に対する不信感は高まっている。菅首相が昨年12月に同県を訪問した際も「辺野古はベストではないが、ベターな選択肢」と述べたのに対し、仲井真弘多知事は会談後に「県内はすべてバッドだ」と態度を硬化させた。

 日本や東アジアの平和と安定のため、沖縄が地政学的に極めて重要な位置にあることは確かだ。普天間問題で日米間に齟齬を来したことが、尖閣諸島沖の中国漁船領海侵犯事件で中国の高圧的な姿勢を招き、メドベージェフ露大統領の北方領土訪問を許す一因となったのは間違いない。

 日米同盟深化のためには普天間問題解決が不可欠だと言える。クリントン長官が今回日米合意の早期履行を求めたのは、昨年11月の沖縄県知事選に配慮してきた経緯があるからだ。これ以上の先送りは日米同盟を大きく損ないかねない。

 しかし、問題解決のためには沖縄県民の負担に対する配慮も求められよう。その意味で、菅首相がどれほど県民感情を理解しようとしたか疑問だ。仲井真知事に一方的に県内移設への同意を求める姿勢を見る限り、沖縄訪問は単に政権浮揚を狙ったものと言われても仕方がない。沖縄の基地負担を「甘受していただく」という仙谷由人官房長官の失言が飛び出すようではなおさらだ。

 菅首相は県民感情を十分受け止めた上で、なぜ民主党政権が県内移設に方針転換したかを丁寧に説明する必要がある。具体的な基地負担軽減策を練り上げることも欠かせない。

 外相会談では、安全保障分野での日米協力の指針となる「共通戦略目標」を見直すことでも合意した。これは最近の中国や北朝鮮の動向に対応したものだ。特に中国海軍は、日本周辺の海域で活動を活発化させている。昨年4月には中国艦隊が日本最南端の沖ノ鳥島の西方海域まで進出したほか、艦載ヘリが海上自衛隊の護衛艦に2度にわたって異常接近した。

 こうした中国の動きに対し、日米の結束が必要なのは言うまでもない。普天間問題解決に向けて、菅首相は強い指導力を発揮しなければならない。

もっと頻繁に訪問を

 菅首相が昨年6月の就任以来、沖縄を訪問したのはわずか2回だ。県民の信頼を回復するためには、もっと頻繁に訪問して親身に話し合い、沖縄振興と基地負担軽減のため、できる限りのことをする必要がある。その場しのぎの対応では米国と沖縄両者の信頼を失うばかりだ。


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