社説
雇用を生む道 地域に根ざした発想こそ(1月8日)
日本経済の停滞が続く。デフレ不況が長引き、雇用が改善しない。
菅直人首相は年頭の記者会見で新成長戦略をもとに「元気な日本を復活させる」と力を込めたが、明確な道筋は示されていない。
問題は、国内総生産(GDP)の規模が拡大しても、地方の生活や雇用の改善につながるのか不透明なことだ。輸出を中心に大企業の業績だけが上向いても、それは真の「経済成長」とは呼べまい。
道内をはじめ地方は景気が冷え込み、雇用情勢も厳しい。
こうした状況を抜け出すためにも、地域に根ざして活性化を促す新たな構想を描きたい。
*まず生活の底上げだ
「仕事がない」。悲鳴のような声があちこちから上がっている。
昨年11月の完全失業率は5・1%と高止まりしたままだ。失業者の数は全国で318万人に達している。
大学生や高校生の就職内定率は低迷を続け、就職戦線は「超氷河期」のまっただ中だ。長引くデフレや中国など新興国とのコスト競争で企業が人件費を抑制しているためだ。
菅政権は新成長戦略で、介護・医療、環境分野への大胆な投資による雇用の拡大を打ち出した。
しかし新年度予算案では肝心の具体策が見当たらず、成長促進の目玉となったのは法人税減税など企業への支援策である。
想起すべきは2002年〜07年の戦後最長となった景気拡大である。
年平均成長率は2・1%で輸出中心に企業業績が伸びた半面、期間中の雇用者所得は0・7%減だった。
正社員を増やさず、非正規労働者の比率を高めたことも賃金が伸びなかった理由だ。「実感なき成長」とされたゆえんである。
雇用を抑制する企業の姿勢はいまも変わらない。好況時は地方にとって工場誘致の方策もあるが、円高でむしろ海外移転が進んでいる。
これでは景気が回復に向かっても、国民の暮らしの改善に結びつくか心もとない。働く人や地方が取り残されてはならない。
なによりも新成長戦略には地方振興の視点が弱いのだ。
柱には農産物の生産・加工・販売を進める「6次産業化」を掲げた。
だが政府は関税を原則撤廃する環太平洋連携協定(TPP)の参加を検討している。道内の基幹産業である農業は、新たな強化策や財政措置がなければ衰退するばかりだ。
中小企業を含め、地元の内発的な力を引き出す手だてが欠かせない。
企業に頼るだけでなく、職場をつくりだす「創職」を地域全体で考えることが大事だ。
*身近に目を向けたい
地域の自立と共生に向けた動きを応援したい。
札幌市西区の労働者協同組合「ワーカーズコープ札幌」は配送など生協の委託事業のほか、高齢者の生活支援を行っている。
庭仕事や軽貨物の運搬、除雪などを有料で請け負う。お年寄りから助けを必要とされて生まれた仕事だ。
労働者協同組合は全国に約400団体あるが、こうした生活支援事業を自力で成長させた例は全国でも数少ないという。
コープさっぽろを自主退職した仲間が2000年に設立し、50〜60歳代の男女約30人が働いている。
現田(げんだ)友明代表は「生活の中で何が求められているかを探ると、仕事はまだまだある」と話す。
3月には札幌市手稲区に「地域福祉事業所」を設ける。住民ニーズを探り、担い手を育てる拠点にする。
少子高齢化や地域のきずなの弱体化を背景に、住民の要望が多様化し、困りごとも増えている。行政では担いきれない分野も多い。
こうした身近なところでもっと働く場をつくれないか。政治や行政がうまく後押しする必要がある。
*変革の息吹をつかむ
地元にある貴重な資源にも着目すべきだろう。
上川管内下川町のNPO法人「森の生活」は、都市住民の疲れを癒やす森林保養地の構想を描いている。
町職員だった代表の奈須憲一郎さんが「地域を活性化するには小規模でも雇用の場が必要」と2005年に事業型NPOとして設立した。
町内の広大な森の魅力を伝えるエコツアーのガイドやトドマツの精油作りを主に行っている。観光客や移住者を引き寄せれば、宿泊施設をはじめさまざまな雇用が生まれる。
現在のスタッフは30歳代を中心に計9人。このうち6人が町外からの移住者である。これに限らず、地方の新たな活動に飛び込む若者が増えている。変革につながる息吹といえよう。その受け皿が必要だ。
利益ではなく、地域が抱える問題の解決に取り組む「社会的企業」はNPOなどを含め全国に約8千、事業規模は2400億円とされる。
地元や行政が手を結び、こうした活動のすそ野を広げたい。
規模や経営効率を競う経済から自立し支え合う地域づくりを−。新しい地方像に挑戦すべきときである。
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