支持率低迷にあえぐ菅直人首相は本気で「決断と実行」を果たすことでしか、もう活路を見いだすことができないであろう。
口にした重要な政策課題はその場限りの腰砕けに終わり、言葉の軽さを浮き上がらせているからだ。首相としての指導力と資質に大きな疑問符が付いているのである。
「決断と実行」は政治家になくてはならない資質だ。政権交代を果たし、政権のトップに立ったいま、常時「決断と実行」を求められていると言っても過言ではない。
自ら「仮免許」と言ってみたりする不用意な発言は、まだ野党時代の発想から抜け切っていないからだ。
菅首相もそれに気付いたのだろう。年頭記者会見では指導力を発揮する首相を演出してみせた。目指す国の在り方として順に次の三つを挙げた。(1)「平成の開国」元年(2)最小不幸社会(3)不条理を正す政治―。具体的には、貿易自由化と国内農業の再生を図る環太平洋連携協定(TPP)、消費税を含む税制と社会保障制度改革、「政治とカネ」―の問題である。
だが、社会保障制度改革とその財源について超党派の協議を呼び掛けたが、政権党として具体案を提示しているわけではない。党内部からも異論が多いTPPについても同様である。不条理と言えば、沖縄に押し込めようとする米軍普天間飛行場の辺野古移設こそ最たるものだ。それを解消もせず、おわびで済まそうとするのは矛盾している。とても納得できるものでない。
国会は「衆参ねじれ」である。与党は参院で過半数に届かず、衆院でも再可決に必要な3分の2に達していない。年末に「たちあがれ日本」を政権に引き込もうとしたのは、それを打開しようとする試みだったが、頓挫した。
2011年度予算案は衆院の議決を優先する憲法の規定で成立するが、関連法案に優先規定はなく成立しないと予算は執行できないのである。
野党側は参院で問責決議された仙谷由人官房長官らを更迭しない限り審議拒否の姿勢を変えていない。小沢一郎元代表の国会招致問題も喉元に刺さったとげである。野党側を予算審議の土俵に乗せる努力を尽くした上で柔軟姿勢を示さないとにっちもさっちもいかなくなるだろう。
昨年秋の臨時国会で法案の成立率はわずか37・8%にとどまっている。過去10年間で最低だった。「衆参ねじれ」のためである。
菅首相が「決断と実行」を体現できなければ八方ふさがりに陥るのは間違いない。崖っぷちに立たされていることを肝に銘じてもらいたい。
通常国会は今月末に召集される。新年度の予算審議の場であり、国民生活に直結する。菅首相が野党時代を振り返って自省したように、野党が「政策より政局」を重視するのであれば、矛先は野党にも向いていくだろう。
抱えている政策課題は内外とも山積している。与野党が内向きの権力闘争に明け暮れるようだと、日本は国際社会から取り残されていく。それを強く懸念する。