社説
戦没者の遺骨 国の責任で遺族の元に(1月11日)
太平洋戦争末期に硫黄島で戦死した日本兵の遺骨収容が今年から本格化する。
菅直人首相が野党時代から強い意欲を見せていた。昨年夏には首相直属の政府特命チームが発足、米国の公文書館から同島での集団埋葬地を示す資料を見つけたことが転機となった。
遺骨を家族の待つ地にお返ししなければならない。これは責務だ。一人でも多くの遺骨の帰還につながるよう、全力を尽くす−。
昨年12月14日に同島での収容作業を視察した首相は、そう述べた。先の年頭会見でも収容と返還が国の責任であることを重ねて強調した。
首相は他地域にも広げる意向だという。その姿勢を評価したい。
遅きに失したとはいえ、こればかりは与野党間に意見の相違などあるまい。ここは超党派での前向きな取り組みに期待したい。
厚生労働省によると、あの戦争が終わって66年もたつというのに、本土以外の戦没者約240万人のうち、114万人の遺骨がいまだ日本に戻ってきていない。
フィリピンやインドネシア、南洋の島々、中国。旧ソ連軍によってシベリアに抑留されたまま、人知れず凍土に眠っている同胞も数多い。
遺骨収集が始まって60年近くたつが、NPOや民間に頼りがちな面も目に付き、国として必ずしも積極的だったとはいいがたい。
遺族の高齢化が進み、遺骨が眠る地域の自然環境も変わる。人々の記憶も薄れ、情報も減っていく。遺骨の収容は時間との闘いでもある。
特命チームが探し出した硫黄島の資料には、飛行場滑走路西側に約2千人、摺鉢山山麓に200人規模で埋葬されているとの記述があり、試掘で51柱の遺骨が見つかった。
国が本気になって取り組みさえすれば、手がかりはまだまだつかめるという証左でもある。
予算の制約もあろうが、あらたな態勢づくりを急ぐべきだ。
民間との連携をどうするのか。収容作業はどう進めていくべきか。対日感情の厳しい地域にはどう理解を求めていくのかなど課題は多い。
収容と返還は日本人に限らない。国内の寺院などには朝鮮半島から連れて来られ、炭鉱などで無理やり働かされた人たちの遺骨がいまなお残る。これも国の責任として、母国に送り届ける必要がある。
国外での収容作業に際しては、旧日本軍の犠牲になった人たちの遺族や関係者への配慮も欠かせない。
多くの日本人がなぜ、祖国以外で戦没しなければならなかったのかについても考えなければなるまい。
遺骨収容とは日本の過去と真摯(しんし)に向き合い、考え続けることである。
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