きょうの社説 2011年1月12日

◎石川にも伊達直人 「寄付文化」を根付かせたい
 「タイガーマスク」の主人公を名乗る人物から全国の児童施設に贈り物が届くなか、金 沢市や加賀市の施設にも果物や文房具、現金などが贈られてきた。暗いニュースが多いなかで、小さな善意の温かさが心にしみる。

 虐待や親の病気などの事情から、親と離れて施設で暮らす子どもたちは3万人を超える 。全国に広がる「伊達直人」現象は、すさんだ世相に胸を痛める多くの国民の共感を呼んでいる。この善意の連鎖が一時のブームに終わることなく、「寄付文化」を根付かせるきっかけにならないだろうか。

 三菱総合研究所の調査によると、日本人の成人1人当りの寄付額は、英国の16分の1 、米国の50分の1以下という。日本と英米では寄付金優遇税制の対象団体数や控除枠など税制の仕組みに大きな違いがある。日常的に寄付をする場も少ないという事情もあるにせよ、寄付が身近な行為となっている英米のキリスト教社会とは、宗教観を含めた根本的な部分で越え難い差があるように思える。

 金沢市や加賀市の児童養護施設に届いた贈り物や現金には、伊達直人名義の手紙が同封 されていた。全国に多数の伊達直人が続々と登場し、新たに漫画「あしたのジョー」の主人公「矢吹丈」を名乗る人物まで現れた。アニメのヒーローに託した思いは同じだろう。寄付が特別な行為ではなく、日常的な社会習慣の一つとなるよう、社会全体で「寄付体験」を積み重ねていきたい。

 児童養護施設の子どもに、子ども手当が支給されない矛盾を解消するため、代替措置と して子ども手当の同額相当を支給する制度ができた。しかし、各施設には、親が手当を受け取っている子どもと、親がいない子どもへの手当分の補助金を支給されている子が混在している。別居中の親が子どものためにお金を使うケースは少ないと見られるため、また新たな矛盾が生まれている。

 児童養護施設に一番最初に寄付をした匿名氏が、菅直人首相と同じ名前のアニメのヒー ローの名を借りたのは、とても偶然とは思えない。寄贈先に児童養護施設を選んだのも意図的だと思うのは、うがち過ぎだろうか。

◎国連安保理の「常連」に PKO原則見直しが課題
 国連安全保障理事会の「常連」の地位の定着をめざす政府は、2015年に行われる非 常任理事国の選挙にまた立候補する方針を決めた。日本は昨年まで非常任理事国を務めており、過去10回の当選回数は最多である。国連改革が実現するまで、非常任理事国としての責任を確実に果たし、常任理事国入りをめざす外交戦略を描いている。

 日本の国連予算分担額は依然、米国に次いで2番目に多い。その額に見合った地位を得 てしかるべきであるが、非常任理事国の定位置を確保し、さらに常任理事国入りをめざすとなれば、国際協力活動をさらに拡大しなければなるまい。そのためには、国連平和維持活動(PKO)の参加原則を見直す必要があろう。

 また、日韓両政府が締結へ向けて協議することで合意した物品役務相互提供協定(AC SA)は、日本の今後の国際貢献活動を拡大し、国連内の地位をさらに高めていく上でも重要である。

 日本がこれまで取り組んできた国連PKOは決して十分とはいえず、人的貢献度は安保 理の常連とは思えぬほど低い。このため、民主党はPKOを通じて平和構築に役割を果たすとマニフェストで訴え、岡田克也幹事長らは、現行のPKO参加原則を見直し、自衛隊活動の拡大を主張してきた。

 現在の参加原則は▽紛争当事者間の停戦合意▽紛争当事者の同意▽武器使用は要員の生 命保護など必要最小限―など5項目で、民主党政権はその緩和を検討している。党内には停戦合意の原則を見直し、国連の要請があれば可能とする案も出されているが、見直し作業は遅れており、政府が昨年末に策定した新防衛計画大綱も、社民党の慎重論に配慮して「参加の在り方を検討する」と、後退した表現にとどまった。

 PKOは武器輸出三原則とも密接に関連している。防衛省は、国際協力活動で自衛隊の 装備品を被災国などに供与する場合を三原則から除外するよう求めているが、この見直しも凍結されている。こうした状況ではPKOによる国際貢献の拡大はおぼつかない。