《センター国語・一網打尽》 −傍線部を文章自体によって「訳せ」− 文責 仏龍七 |
《センター国語征服の戦略》 この2年ほど,センター国語にあまり関与しない仕事を続けていたせいか,2003年度の問題を解いてみて,何やら難しかった。そこでセンター国語は難しい!と言うことにしました(笑)。しかしながら,腰を据えて解説してみると,いやあやっぱり大して難しくないということになってきました(笑)。何事にせよ,片手間に,酒を飲んだり,お菓子食いながらでは失敗するということに過ぎなかったようです(笑)。 で,戦略を再確認します。センター国語は時間との戦いであり,文章全体の要旨をまずつかんで,などというまどっろこしいことをしているヒマはありません。 従来通り,設問に対して基本的に,傍線部自体+前後+傍線部の同意,反意の語句の近くへジャンプの方法を取るべきでしょう。つまり,傍線部自体の意味を確認し,前後からすぐに傍線部を「訳し」,文の成分を補足し,離れていても同類語句の近くへジャンプして,そこから拾って合成して,記述解の場合の原型を作り,それと選択肢を照合するという方法を取るべきなのです。その原型を繰り返し読んで,そのイメージを頭の中に叩き込んで選択肢と照合すべきなわけです。 この場合,記述問題と違って,センターなどのマーク型問題では,拾って合成することがすでに問題作成者によって行われています。マークの場合,単に拾って合成するのに徹すれば,正解は容易に見つかることになります。そこで,拾った部分を可能な限り,言い換えて選択肢を作る作業が行われています。この問題作成者の言い換えの過程を,合理的にたどる練習が必要です。 また私は内容一致型も併用してきました。つまり選択肢の語句と同一,類義の語句を含む対応部分を探して,それが選択肢の表現に矛盾しないか,あるいは選択肢の表現に当たる部分が有るか無いかを調べ,矛盾したり,対応部分が無ければ誤肢と見なす方法です。最近も,語句を言い換えたり,語順や組み合わせをいじったりして矛盾や無を見えにくくするという選択肢作りが行われているようですが,基本に変わりはありません。あるいは前後型で解けるものを,広く言葉を拾って内容一致型に見せかける方法も使われていますが,解答における真摯な姿勢,注意深い配慮があれば解けるでしょう。 で,2003年のセンター国語の解剖を試みることにしました。問題が手元にない人は赤本その他を参照なさってください。また2003年の問題はたとえばyahoo!でセンター国語と検索すれば,いろんな所で読めるでしょう。 センター現代文方法論 |
第一問 |
《2003年国語T・U》 『第一問 現代文/評論』-山下勲「世界と人間」- 【問1】漢字問題。省略。 【問2】 《設問》傍線部A「それが分化した時」とあるが,なにがどうなることか。 《解説》 まず「それ」の指示内容は,直前から「意識の根源に存在するそのような一体化した状態」ということになり,これが主語。さらに「そのような」の指示内容は「主観と客観が」である。またこの傍線部を含む一文の後半「人間の意識の世界が現れてくる。」は,傍線部と因果関係になっており,「分化」と同時に現れる結果の説明である。で,この「人間の意識の世界」はその直後で「それは」で指示され,「意識するものとされるものの世界」,さらに「私と私でないものの区別が明瞭となる世界」と説明されている。 記述解の原型は「意識の根源に存在する主観と客観の一体化した状態が,分化し,意識するものとされるもの,私と私でないものに明瞭に区別されるようになること」ぐらいになる。 傍線部「それ」の指示内容に当たる主語がAでは「我々が」,Bでは「私の意識が」,Dでは「私と私でないものの世界が」となっており,誤り。@とCでは,主語,述語ともに,Cのほうが本文の表現に近い。正解はC。 【問3】 《設問》傍線部B「言葉を話す人間は象徴を操る動物である」とあるが,その説明として最も適当なもの。 《解説》 傍線部は直前の「動物の言葉が現在において一対一の関係で直接にものごとを示す信号であるのに対し,人間の言葉は,あらゆる時の一定の類似した現象すべてを表す一般的記号であるため特に象徴と呼ばれる。」とほぼ同義である。2つのつなぎ目は「つまり」のように思われる。記述解の原型は「人間は言葉をあらゆる時の一定の類似した現象すべてを表す一般的記号すなわち象徴として使用する動物であるということ」ぐらいになる。 これを頭の中で反復し,選択肢と照合する。「あらゆる時の」の部分が表現されているのは,Bの「時間を超えて」とCの「時とともに変化する」だけであり,また「一定の類似した現象すべてを表す」が表現されているのはBだけである。正解はB。 ここでは選択肢の表現が,広く類義的な部分を拾ってちりばめられ,生徒を撹乱しようとしている。だが,記述解の原型を前後から作れば,撹乱されないで済む。内容一致型で扱うと撹乱される。「確かに動物にも言葉はある。言葉とは,それによって何かを指し示す記号である。しかし,動物の場合,…その言語(記号)は必ず現在のものを指し示すことに限られている。」などからも「時」の重要性は補強されよう。 【問4】 《設問》傍線部C「そのような日常言語は,人によってニュアンスが異なり多義的である」とあるが,「そのような日常言語」の具体例として最も適当なもの。 《解説》まず「そのような日常言語」の指示内容は,直前の文から「個々人によって異なった過去の経験に基づく異なったイメージが反映している言葉」ということになろう。それが「人によってニュアンスが異なり多義的だ」ということである。 選択肢はその例示,具体例としてどれが最も適切かということである。@は残っている水に対するその場でのイメージの違いで×。Aは言葉に対する既知,未知の違いで×。Bは絵画に対する同じイメージで×。Cは指す場所が違ったということで×。Dが「近い」という言葉の意味が違ったということで正解。 【問5】 《設問》傍線部D「対象化を徹底した知の世界」とあるが,その特質の説明として最も適当なもの。 《解説》 傍線部を含む一文の前半には,「これに対し科学は,我々の意識が物との直接のつながりを完全に断ち切り,」とあり,主語は「科学」。「これ」の指示内容は,芸術,道徳,宗教,哲学などは「イメージの持つ象徴性が想像力によって様々な形が与えられる。これらは感覚的経験と同様,世界とつながった実存の世界である。」と書かれている。また,傍線部の直後の文には因果関係で「感覚の主観性やイメージの象徴性は完全に排除されている。」とある。 ここで選択肢を見ると,芸術,道徳,宗教,哲学との対比は全く述べられていない。前後型で解答を作ろうとしていないのである。選択肢での対象化の説明は,同意部分へ跳躍して,2つ前,3つ前の数学について述べている段落に依拠しているように見える。しかも,さらに言い換えを激しくし,対応部分をばらばらにちりばめて内容一致型の選択肢にしている。で,「(日常言語)の曖昧さを解消するため,意味が明確に定義された言葉が現れてくる。それが概念,専門語であり,学問が成立するのはこのレベルにおいてである。そしてこの言語の客観性をさらに徹底させたものが,数学という自然科学の言語である。これは概念のもつ質的本性も量的単位に換言する最も抽象度の高い記号・数式である。」や「感覚といえど何らかの対象を知るのであるから対象化の萌芽はあるが,概念においてはじめて,ものごとのつながりを離れた客観化・対象化が完成する。しかし,なお質的把握という点で問題を残していて,その対象化をより徹底させたのが近代科学の見方である。これは物と心との一体的関係から最も遠ざかっている。そのため知のなかの最も確実な知とされているが,ものごととの生きたつながりを失った抽象的な世界である。」のあたりが問題である。 @は「対象化」の説明が「ものごとのつながりを離れた客観化・対象化」に矛盾して×。Aは矛盾無しで○。Bは「数学は人間の経験の集積を量的単位に還元する」が「概念のもつ質的本性も量的単位に換言する」に矛盾して×。Cは「ものごとを知ること自体がすでに対象化への出発である」が「感覚といえど何らかの対象を知るのであるから対象化の萌芽はある」に矛盾しており,また「抽象的記号」は「質的把握の面で問題を残」さないはずであるので×。Dは科学では「感覚の主観性やイメージの象徴性は完全に排除されている。」ことに矛盾していて×。 【問6】 《設問》本文の内容と合致するものを二つ。 そのまま引用せず,語順とか組み合わせをいじくり,言い換えも相当行われているのでけっこう難解かも知れない。選択肢の表現と部分的に同一の対応部分を探して,主部,述部などを中心に矛盾がないか,対応部分が無いかなどを調べる。消去法でやるほうが手っ取り早い。 @正解。 A「数学」が「ものごととの生きたつながりを失った抽象的な世界」とはあるが,「人間の営みからは独立したもの」とは書かれていない。 B正解。 C「主客合一的」なのは「日常言語」ではなく,「意識の起源の世界」「直観の世界」である。×。 D「曖昧さの解消」は「概念」による。×。 E「科学の知」が「はじめて原初的な世界を分化させ」たのではない。「感覚」が「対象化の萌芽」に矛盾。×。 以上。 |
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