2011年1月9日11時28分
開発したエレキ三味線を弾く北川浩さん=三重県四日市市諏訪栄町
江戸時代末期から続く三重県四日市市の老舗楽器店が開発したエレキ三味線が売れている。時代が変わって今は主に洋楽器を扱うが、もともとは三味線屋。生の三味線のような自然な音が人気で、「伝統文化を絶滅させたくない」という思いも詰まっている。
エレキ三味線を開発したのは、同市諏訪栄町の「コスモ楽器」8代目店主の北川浩さん(45)。店は嘉永6(1853)年創業で、お伊勢参りで栄えていた四日市宿で芸子さんに三味線を売っていた。時代は流れ、昭和以降はギターなども扱っている。
3年ほど前まで店で三味線教室を開いていたが、習いに来るのは80代が中心だった。北川さんは「お年寄りの楽器になっている三味線を若い人にも普及したい」とエレキ三味線の開発を始め、2009年春から「BEN−TEN(ベンテン)」シリーズとして7〜12万円台の3種類を発売。ネット通販を中心にこれまで50丁近く売れた。5万円台からある通常の三味線を超える勢いだ。
人気の理由は、音の良さ。従来のエレキ三味線は弦の振動だけを電気信号に変える仕組みが主流で「どれもペチペチした音で生音とほど遠かった」。そこで注目したのは、音を電気信号に変えるピックアップをアコースティックギターにつけたエレクトリックアコースティックギター(エレアコ)の技術だった。
三味線の皮の内側にピックアップをつけ、皮の振動と胴の内部の響きをブレンドする仕組みを採用。アンプを外しても普通の三味線として使える。「非常にナチュラルな音が出るようになった。和楽器と洋楽器の両方を扱うからこその発想です」
日本の伝統音楽のプロの評価も高い。シンセサイザー奏者の喜多郎さんと共演するなど、ほかのジャンルの音楽家とのコラボレーションも多い三重県菰野町の尺八奏者、新田みかんさん(40)は「音が本当にリアル。普通の三味線の音をマイクで拾っているみたい」と驚く。
北川さんは小唄「お伊勢参り」をエレキ三味線で現代風にアレンジし、動画サイトに投稿する予定だ。「沖縄三線(さんしん)は『涙そうそう』などで知名度が上がった。昔ながらの三味線業界の人たちには嫌がられるかもしれないけど、文化的にも奥が深い三味線を普及させたい」と話す。
注文から完成までは1週間ほどかかるという。問い合わせはコスモ楽器(059・351・2268)へ。(中島嘉克)