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福岡・太宰府の車衝突転落:6人死亡 「子供が中に、助けて」 寒空に母の叫び

 ◇震えながら名前何度も

 ◇近所の人、総出で救助

 暗い池にゆっくり沈んでいく車、助けを求める母親の声--。福岡県太宰府市で24日深夜に起きたワゴン車と乗用車の衝突事故は、若い男女6人が死亡し、乳児1人が重体となった。近所の人たちが必死に池に浮かんだ男女を助けようとしたが、力尽きて沈んだ人もいた。乳児の母親は何度もわが子の名を呼んで助けを求め、集まった人たちはクリスマスイブに起きた惨事が信じられない様子だった。【関谷俊介、扇沢秀明】

 ワゴン車が転落した篠振池(しのふりいけ)に隣接して建つマンションの会社員、柚木藍さん(20)はテレビを見ていると、クラクションの大きな音がして外に出た。そこには信じられない光景が広がっていた。

 周囲が数百メートルの池の中央付近に車が浮かび、池のほとりにある歩道横の柵は約10メートルにわたってぐにゃぐにゃに折れ曲がっていた。「ロープはないか」。そう叫ぶ男性の声が聞こえ、池の中ほどから歩道方向に向かって泳ぐ山本佑紀さん(18)の姿が見えた。

 この日の太宰府市の最低気温は3度。日中から8メートル前後の強風が吹いていた。池の周辺に集まった人たちがさしのべたロープにつかまり、山本さんが水面から高さ2メートルはある歩道の上まで引き上げられると、池に向かって子供の悠斗ちゃんの名を何度も叫んだという。

 近くに住む会社役員、古賀博樹さん(55)も雷のような大きな音の後しばらくして「助けて」という声を聞いた。外に出ると池に車が落ち、水面に4人の姿が見えた。「中にまだ人がいる」という叫び声も聞こえ、近所の人が総出でロープなどを投げたが、なかなか届かなかったという。妻の優子さん(50)は毛布を持って駆けつけ、助け出された女性を温めた。山本さんは「子供が中にいる。まだ6カ月なのに。助けて」と叫び続けたという。

 池に落ちたワゴン車は事故後しばらくして到着したクレーン車で道路側にゆっくり引き揚げられた。中から次々に男女が助け出されたが、動きのある人は誰もいなかった。

 ワゴン車が引き揚げられたのは、事故から約2時間半たった25日午前2時20分。乗用車を運転し事故後、池に転落した男女を助けようと自ら飛び込んだとみられる秦(しん)智之さん(26)=太宰府市青葉台4=は、最後に午前4時10分に収容された。

 柚木さんは「クリスマスイブにこんな事故が起こるなんて」と祈るような表情で救出作業を見つめた。「3人は何とか陸に上がったが、1人は力尽きて沈んでいった。どうしようもなかった」。古賀さんはぼうぜんと振り返った。

 ◇「プレゼント渡せない…」 石原さん祖母が涙

 亡くなった6人のうち、井手綾美さん(17)は幼い頃から活発で剣道やバレーボールなどのスポーツが大好きだったという。井手さんは24日夕、祖父の見明さん(74)に福岡県久留米市内にある焼き肉店の食べ放題に行くとうれしそうに話し、迎えに来た男友達と一緒に出かけたという。

 その際、見明さんが「気をつけて行っておいで」と声をかけると、井手さんは「はい」と元気に答えたという。見明さんは目を真っ赤にはらして、孫の突然の死が信じられない様子だった。

 久留米市に住む石原瞳さん(18)も同校3年。この日は「クリスマスパーティーに出掛ける」と言って自宅をバイクで出たという。友だち付き合いが上手で、地元のよさこい踊りのチームに入って、いろいろな大会に出場していた。

 石原さんへのクリスマスプレゼントとして靴下やショールなどを買っていたという祖母の鶴長サユミさん(74)は「プレゼントも用意していたのに渡せなくなるなんて……。私が代わってやりたかった」と、泣き崩れた。

 秦智之さんの自宅では25日午前10時ごろ、顔を泣きはらした母親や姉とみられる女性が無言のまま帰宅した。近所の女性(67)は「あいさつをすると、笑顔であいさつを返してくれる明るい息子さんだった」。救助隊員が到着する前に秦さんが自ら池に飛び込んだという情報について、女性は「正義感が強い子だったから」とかみしめるように語った。【丸山宗一郎、松尾雅也、金秀蓮】

 ◇八女農業高が緊急職員会議

 亡くなった井手綾美さんと石原瞳さん、末吉泰子さん(18)の3人が通っていた県立八女農業高校は25日午前、緊急職員会議を開いた。出席した40~50人の職員に事故の状況を報告し、今後の対応などを協議したという。

 3人はいずれも生活科学科3年で同級生だった。

毎日新聞 2010年12月25日 西部夕刊

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