コラム

2011年01月11日号

【鷲見一雄の視点】
崩壊した『検察の起訴権独占』―指定弁護士の小沢氏に対する強制起訴C2年に亘った検察捜査のおそまつな結末


●小沢氏土地購入の経緯
 小沢氏の土地売買に関わったのは売主・土地分譲業者「東洋アレックス」(桑木勇一社長)、仲介業者・「ミブコーポレーション」(以下ミブ、三瓶輝夫社長)の2社と小沢氏の石川元秘書(現・衆院議員)である。

 土地取引の経過を検証する。

 「東洋アレックス」は平成16年3月31日、東京都世田谷区深沢8丁目28番5所在の土地を売買により取得。同日、根抵当権者みずほ銀行、債務者東洋アレックス、極度額6億2000万円の根抵当権設定。

 関係者によると、「東洋アレックス」が地元に強い不動産仲介業者「ミブ」に客付けを依頼、「ミブ」が分譲予定地としてチラシをまいたところ、小沢氏の公設第一秘書で陸山会会計責任者の大久保秘書が希望する旨の連絡をしてきたという。それ以後、交渉役は大久保秘書から石川秘書に引き継がれた、とされる。

 「ミブ」は会長の三崎滋氏が田中角栄氏の元秘書で越山会の女王といわれた佐藤昭子氏の側近だった朝賀昭氏と親しく、同氏の肝いりで小沢氏関係には複数の仲介歴がそれ以前にもあったという。「東洋アレックス」の桑木社長は小沢氏のファンだそうで「ミブ」とも親しい交流があった。

 「東洋アレックス」は5月6日、土地を7筆に分筆(28番5を元番として28番19乃至24に分筆)、この頃、石川氏は小沢氏と相談し、「東洋アレックス」「ミブ」の了承を得て小沢氏が購入する区画を28番5と19に決めたと推測される。
 「東洋アレックス」は6月10日から15日にかけて28番20乃至23計4筆を順次売却、それに伴い根抵当権1部抹消。残ったのは小沢氏の2区画の他1区画となった。

●石川氏に対する起訴状
 東京地検特捜部は、石川氏に対する起訴状に「石川被告は大久保被告と共謀し、2004年分の政治資金収支報告書の収入欄に、小沢氏からの借入金4億円と関連政治団体からの寄付計1億4500万円を記載せず、支出欄に土地取得費約3億5200万円を記載しなかった。」と記述しているのだから、04年に小沢氏からの借入金4億円の「入り」と「支出欄に土地取得費約3億5200万円」の「出」の記載のなかったことははっきりしている。
 小沢氏が04年10月頃、土地購入代金として4億円を貸し付けたことを認識していなかったとは思えない。認識していたと推測するのが合理的といえよう。

●所有権移転請求権仮登記
 「東洋アレックス」は10月29日、分譲対象5筆の最後の部分・28番24の土地と小沢氏が購入する2筆(28番5及び19)の取引を終了した。28番の方は通常の売買登記が行われた。小沢氏を含めて「東洋アレックス」は売買代金を全額受領した。
 ところが、関係者によれば《石川氏から「登記は来年にしたいのだがいいですか」と聞かれたという。「ミブ」は「買主さんが希望するならかまいません」と答えた、とされる。売主も同じだったそうだ》
 さらに、「ミブ」は「保全のため所有権移転請求権仮登記を付けること『東洋アレックス』との間の不動産引渡し完了確認書(04年10月29日完了)と05年度分の固定資産税を陸山会で負担するとの合意書を求めた」と関係者は話す。それをやらないと宅建業法の「8大禁止事項に引っかかる」からだと関係者は解説した。
 石川氏は了承した。10月5日売買予約に基づく小沢氏名義の所有権移転仮登記、即ち権利保全登記がなされた。この登記は売り主、仲介業者側の要望でなされたもので小沢氏側の都合ではない。
 しかし、小沢氏名義の所有権移転仮登記の手続きをするには小沢氏の司法書士に対する委任状が必要、検察が委任状を調べたという報道はない。仮に委任状が出ていたとすれば、小沢氏は土地代金が全額支払われていたことを04年10月29日の段階で知っていたことになるのではないか。

●朝日新聞記事のおかしな記述
 これまでの流れから言うと、朝日新聞2010年5月22日付朝刊の《「分かった」で「共謀」、無理筋だった》という見出しの記事のうち、次の記述はおかしいことになる。
 石川議員は「小沢先生に『仮登記のままで本登記は翌年でも良いので、翌年にずらします』と報告し、『そうか、分かった』と言われた」と供述。土地原資は裏金ではなく「小沢先生の個人資産」としたうえで、資金操作を含めた動機を「04年分の収支報告書は05年秋に公開される。06年の民主党代表選を前に、先生が多額の資金を持っている印象を与えたくなかった」とした。

 (2)については、(05年3月の収支報告書提出の前――のやり取りをめぐって)石川議員は小沢氏に陸山会を含む関連5団体の収入、支出、繰越金を記した一覧表を提示して報告、了承を得たと供述。「虚偽の内容を含んでいるとは報告していない。半年前に登記をずらすことは説明していたので了承して頂いていると思った」と述べた。(以上朝日新聞)

 問題が違うと思う。問題は「仮登記、本登記の問題」ではない。小沢氏から04年10月に4億円を借り、10月29日に3億4264万円の土地取得費を支払ったかは石川氏が起訴されているのだから借入と支払いは間違いない。
 問題は「その出と入りを小沢氏が認識、認容していたか」どうかだ。

 小沢氏は不起訴となった。村岡氏を起訴した東京地検特捜部と小沢氏を不起訴にした特捜部とが同じとは到底思えない。村岡氏同様、小沢氏も起訴すべきだったと私は思う。検察審査会の2回に亘る議決の通りだ。

●鷲見一雄の視点
 東京地検特捜部は、検察審査会の1回目の起訴相当の議決の後、少なくとも

 「東洋アレックス、ミブ」から、仮登記をつけた経緯について事情聴取すべきだったし、東洋アレックスの帳簿から3億4264万円その他、小沢氏関係からの入金状況、土地所有権売買に関する検証をすべきだった。裏付け資料を任意提出させるなり、参考人調書に写しを添付させるなり、すべきであった。それをしたという報道はない。検察審査会が再捜査について「検察官は再捜査において、小沢氏、元公設秘書大久保隆規被告、元私設秘書の衆院議員石川知裕被告、元私設秘書池田光智被告を再度取り調べているが、いずれも形式的な取り調べの域を出ておらず、本件を解明するために、十分な再捜査が行われたとは言い難い。」と非難していたが当然である。
 「ミブ」の関係者によれば「小沢氏を不起訴にする前には全く捜査に来られたことはありません」と打ち明ける。「検察はネットで話題になった後、検察事務官が1時間ほど事情を聴き、重要事項説明書、売買契約書を持っていかれただけです」とも話す。
 これが事実とすれば小沢邸に家宅捜索が入っていないことと相俟って「小沢氏を起訴する気は初めなかった」ということではないか。ただ、検察審査会の起訴相当の議決が出て以降、朝日新聞の《検察の一部には、(1)の石川議員の供述などを小沢氏の共謀を裏付ける証拠と解釈する意見もいまだ根強くある。「『虚偽記載しておきます』と小沢氏にわざわざ報告などしないのが常識」として、(1)の供述や、小沢氏が融資書類に署名した経緯などの証拠を総合的に判断し、小沢氏を政治資金規正法違反罪で起訴することは可能とする見方だ。》という報道・解説にみられるように検察審査会と同じ考え方の検事もいたのは事実のようだが、ある不動産会社関係者は「調べるのが遅すぎますよ。検察は小沢さんをやる気がなかったのではないですか」と感想を語る。2年以上に亘った検察捜査の結末にしてはおそまつと評するしかない。このように劣化した東京地検特捜部を見るのは情けない思いだ。

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