飛躍の年へ決意を新たにする浦和の橋本光夫代表 |
王座奪還へ、昨季リーグ10位に終わった浦和が再出発を図る。「闘将」の異名を持ち、かつて浦和でプレーしたゼリコ・ペトロビッチ新監督を迎えて、2006年以来、5年ぶりのリーグ制覇を狙う。埼玉新聞社の単独取材に対して橋本代表は「リーグ優勝を目指す」と宣言。静かな口調ながら、不退転の決意を強調した。
■課題残る昨季
−昨年の総括を。
「09年からレッズスタイルの構築という取り組みを始め、一つは新しいサッカーのスタイルをつくること。具体的にはイニシアチブを取ったサッカーをするということ。もう一つは積極的に若手選手の成長を促すこと。この2点に関しては、ある程度浸透してきたと思う」
「ただ、もう一つの目標である強い浦和レッズをつくるという部分に関しては、残念ながら結果を得ることができなかった。その点では課題が残ったシーズンだと思っている」
−昨年12月4日に埼玉スタジアムでのリーグ最終節のセレモニーで、サポーターからは「橋本代表にあいさつをしてもらいたかった」という声が出たが。
「そういった声は私も直接サポーターから聞いている。埼玉スタジアムのピッチは、トップチームのパフォーマンスをお見せする場というのが従来からの考え方。昨年はまだ天皇杯が残っていたし、ポンテとフィンケ監督のお別れのセレモニーはしっかりやってあげようというのもあった。クラブに貢献してくれた2人なので、そこはしっかりやろうと」
「ただサポーターの皆さんから、『社長があいさつをするべきではなかったか』との意見が寄せられたのは事実。その部分は真摯(しんし)に受け止めている」
−昨年はホームタウン活動にも力を入れた。
「私が着任した時にホームタウン活動を重点的にやるという思いだったので昨年、ホームタウン推進本部をつくって、クラブ全体で積極的に取り組もうと話をした。トップチームの選手が小学校を訪問する活動など、さいたま市や埼玉県と連携強化を図りつつあるという状況で、新しい一歩を踏み出せたのではないかと思う。それは2011年にもつなげていかないといけない」
■次のステージへ決断
−改革はまだ道半ば?
「チーム、クラブともに改革は道半ばだと思っている。今年はレッズスタイル構築という大きな目標の基本路線は変えずに、現状の課題を冷静に判断して、勝負に対してこだわりを持ったチームをつくり上げたい。新しい指導体制の下で次のステージに進みたいと決断をした」
−フィンケ監督が行った改革については、どのような評価をしているのか。
「手応えは感じている。09年シーズンは夏場に公式戦8連敗をしたり、天皇杯の初戦(対松本山雅)で敗退したりと、サポーターの方からは非常に厳しい意見をいただいた。ただ、改革を断行しようと思ったら、ある程度継続することが大事だと判断した。だから、昨シーズンはフィンケ体制をもう1年バックアップしようと決断した」
「ただ、11年シーズンを見越した時に大きな改善を期待できるかという視点で強化本部とも話し合いをして、新しい指導体制でいくことを決めた。09年シーズンが終わった時点で翌年もフィンケ監督でいくと決断したのも私だし、昨年を終えて今年は新しい指導体制でいくと決断したのも私自身。継続するという決断と変えるという決断は両方とも覚悟が要る。私自身としてはより大きな覚悟を持って、今回の決断をしたつもりだ」
「周囲からは『賭け』と言われるかもしれないが、私は単純に賭けではなく、この1年間にわたって強化本部にチームの状況をしっかり把握してもらい、フィンケ監督ともコミュニケーションを十分に取った上で、根拠を持って決断したつもりだ」
■クラブ一丸で結果を
−結果を出すための決断をしたということか。
「仕事始めのあいさつで、『Jリーグ優勝を目指す』とクラブスタッフ全員に話した。昨年の秋以降、柱谷ゼネラルマネジャー(GM)にはその思いを伝えてあった。フィンケ監督就任当初の目標設定が少し曖昧にスタートしたことの反省も踏まえて、今年は明確に『Jリーグで優勝できるだけの戦力補強を考えてくれ』と強化本部に指示して、それに沿って動いてもらっている」
「ペトロビッチ監督に対しても、今年の目標は『Jリーグ優勝』とクラブから明確に伝えた。その目標に対して合意をしてもらった上で正式に監督就任を要請した。今シーズンは監督ともクラブスタッフとも目標を共有できており、大きな覚悟を持って臨む」
■新監督の手腕評価
−リーグ優勝という明確な目標を掲げる中で、ペトロビッチ氏を新監督に選んだ決め手は何か。
「ペトロビッチ監督には浦和の選手として活躍した時代もあって、ある程度浦和のことを理解してもらっている。日本のサッカーについても理解してもらっているというバックグラウンドがある。それに加えて、浦和を退団した後も欧州で難しいコーチライセンスをしっかり取って、その後、いろんなクラブで監督やコーチの仕事をしている。浦和レッズが目指す『イニシアチブを取ったサッカーをしたい』ということも合意している。改革を継続する上で適任者だと思っている」
−新監督が浦和をよく知っているというのもポイントか。
「監督の役割とクラブの役割を明確にすることは、新しいレッズをつくっていく中で重要なこと。浦和レッズが過去から現在にわたってどう変わってきたのかを理解する必要があるし、浦和という街、浦和のサポーターのサッカーに対する考え方も十分理解しないといけない。クラブの現状というのも理解した上で、監督の役割、クラブの役割を互いに合意しなければならないと思っている」
−ペトロビッチ氏は監督としての実績は少ないが、不安はないか。
「以前監督だったギド・ブッフバルトは、監督、コーチの経験がなくても結果を残したし、経験が全てでないと思っている。ペトロビッチ監督の場合、監督やコーチとして長いことやってきているし、不安はありません。チームはこの2年間、フィンケさんに指揮を執ってもらい、目指すスタイルの浸透が図られている。それがベースになって、さらに『勝利』という上積みが得られるのではないかと思う。私はそれをレッズスタイル構築のための第2ステージと位置付けている」
「ペトロビッチ監督を招聘(しょうへい)したことに対して、一部のメディアでは現役時代のプレー内容から、勝負に対して強いメンタリティーを持っているというのが前面に押し出されている。確かにその部分を期待しているのも事実。重要なファクターではあるが、もう一つ重要なのは、しっかりした戦術をチームの中に植え付けて、それを発揮できるかということ。このサッカーで得点を取るんだ、こういったプレーで得点を取るんだという浸透を図らなければいけない。気持ちだけでリーグ優勝ができるほど簡単なものではない」
「一部のメディアでは、一方の部分だけが強調されているが、私としては両方を加味して選んだつもりだ。そうでなければ、レッズスタイル構築というのは難しいと判断している。指導者としての手腕も評価しているということです」
−サポーターへのメッセージを。
「クラブとしては厳しい結果が3年間続き、タイトルも取れず、ACLの出場権も獲得できませんでした。11年はJリーグ優勝を目指します。そのために新しい指導体制で、必要な選手の補強も行っています。ホームタウンの皆さんとは、さらに深い結び付きをつくっていきたい。そしてレッズが頑張ることで地域の方々とともに喜び、埼玉を元気にしていきたいです。引き続き熱いサポートをお願いします」