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日本一多忙な精神科医、限界超え奮闘 高齢化する地方、患者増え続け

 自殺予防や未遂者治療の中核を担う総合病院の精神科医療。地方では、医師の数や病床が患者の増加に追いつかず、その疲弊ぶりは大都市に比べ顕著だ。「日本一忙しい精神科医」。そう呼ばれる山形県酒田市の総合病院に勤務するベテラン医師は、腰痛のため車椅子で診察したこともある。現場で何が起きているのか。【奥山智己、百武信幸】

 庄内平野の北、日本海を望む人口11万ほどの港町に山形県・酒田市病院機構が運営する日本海総合病院はある。精神科外来の待合室は朝から人があふれる。半数以上が高齢者だ。渡部俊幸医師(48)は「認知症がどんどん増えている。これが地方の現実です」と言う。

 取材中、PHSが鳴った。外科医からの相談だ。「がん患者が自殺を図りそうです」。入院患者が心の不調を訴えればすべて対応する。こうした要請は増えるばかりだ。

 精神科外来は年間で延べ約1万7000人。新規患者は約860人に上る。10年前の1・5倍だ。通常12人程度の医師が必要とされるが、渡部医師と若手2人の計3人の常勤医でこなしている。

 他に患者の行き場はないのか。市内には精神科診療所が2カ所ある。一つは老人保健施設への往診が中心。もう一つに1日100人前後が押し寄せ、待ち切れず帰る人もいる。大都市では診療所が急増する一方、ここは需要があるのに増えない。開業医(50)は「うちは手いっぱい。大きな市でないと新しく医者が来てくれないのか……」と嘆く。その分、この総合病院の負担は重くなる。

 市内には精神科の単科病院もあるが、患者にとっては都会より敷居が高い。医師(35)は「地方の人が抱く偏見を取り除くのは大変。総合病院の看板に患者は集まりやすい」と明かす。

 渡部医師はわずか10分の昼休みをはさみ1日12時間以上働く。夜中も精神症状の救急があると起こされる。腰痛で何度か立てなくなり、車椅子で診察した。「過労死」が頭をよぎる。病院機構の担当者は「大学病院に派遣を頼んでいるが、他の病院との奪い合いになって難しい」と説明する。

 精神科の病床がないこともこの総合病院のネックになっている。他科の病床を代用しているが、症状が重く暴れる人は他の患者に迷惑をかけるので入院させられない。「軽い人だけ受け入れる」状況だ。

 重い人は精神科医が救急車に同乗し、往復2時間かけて市外の県立病院に搬送しなければならない。専用病床を設けることも検討されたが、入院基本料など診療報酬が他科より低く、採算が取れないとして見送られた。

 渡部医師は体がきつくて5年で辞めようと考えていた。それが今年で16年目。どうすれば患者が治るのか、やっと見え始めた。「先生に会ったらほっとする」。そんな患者の言葉を励みに「ぼろぼろになるまで続けるつもり」と言う。全国には同様の精神科医が少なくない。かつてはメーリングリストで愚痴をこぼし合ったが、今はその暇さえない。

 山形県の自殺率は10万人あたり27・4人。全国で12番目に多い。酒田市を含む庄内地域は約40人で、県平均を大きく上回る。

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毎日新聞 2011年1月11日 東京朝刊

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