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クローズアップ2010:新防衛大綱決定 中国台頭で政策転換

南西諸島の部隊配備
南西諸島の部隊配備

 民主党政権が初めて改定した「防衛計画の大綱」(防衛大綱)は、自衛隊のあり方について従来の「基盤的防衛力構想」を改め、機動性や即応性を重視する「動的防衛力」を打ち出した。手薄な南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」も含めた二つの戦略から導き出されるのは、「静から動」「量から質」「北から南」への転換で、抑止力向上を目指す自衛隊の姿だ。ただし、部隊の再編成や配備、統合運用などの具体論はこれからで、周辺諸国との軍拡競争を招く可能性も指摘される。(11面に要旨)

 ◇南西シフト人員が課題

 「従来、冷戦型の偏りがあったのでは。ポスト冷戦時代、ある種の惰性のもとに編成、装備、配置を含めてそのようになっていたのではないか。日本が海に囲まれた環境の中でどのような防衛態勢を構築するかという問題意識で書かれている」。仙谷由人官房長官は17日の会見で防衛大綱についての認識を語った。

 大綱では「冷戦型の装備・編成を縮減し、部隊の地理的配置や各自衛隊の運用を適切に見直すとともに、南西地域も含め、警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処、輸送、指揮通信等の機能を重点的に整備し、防衛態勢の充実を図る」と明記した。米ソ両国が対立した冷戦期、装備や部隊の規模に着目し、北海道を重点に全国に均衡配備する「基盤的防衛力構想」から、自衛隊の情報収集・警戒監視能力を高め、機動的に部隊を展開する「動的防衛力」という新しい考え方への転換を意味する。

 陸自部隊は沖縄本島以西には配置されておらず、空自のレーダーサイトがある宮古島以西は「防衛上の空白地域」(10年版防衛白書)。このため、日本最西端の与那国島に約100人規模の「沿岸監視部隊」を新設して中国艦船の動向をレーダー監視する方針で、「初動を担任する部隊」(中期防衛力整備計画に明記)も新たにつくる。「複数の島への普通科部隊の配備を検討している」(防衛省幹部)と言い、石垣、宮古島を想定しているとみられる。

 北海道を重点に全国に均衡配備する陸自は冷戦後、人員削減を求められてきた。今回の大綱の別表で示す陸自定員について、財務省は現在の実員にあたる14万8000人以下にするよう要求。南西防衛強化を理由に「最低でも現状維持」にこだわった防衛省の言い分にほぼ沿った形で政府は、現大綱の15万5000人から1000人減とした。

 だが、大綱の掲げる「南西シフト」による部隊再編成をどう実現するか、陸自幹部は「人員は限られており、悩みどころだ」と漏らす。

 防衛省内では「対中国戦略では、航空・海上優勢の確保が先決」とし、南西地域の防衛の主力を海自と空自に担わせるべきだとの意見が強い。新大綱では潜水艦を現大綱の16隻から22隻に、弾道ミサイルの迎撃能力を持つイージス護衛艦を4隻から6隻に拡充。空自も那覇基地(戦闘機約20機)の1個飛行隊を2個飛行隊に増強する。

 また、北方の陸自部隊をすばやく南西地域へ展開するといった、機動性や即応性を重視した「動的防衛力」を機能させるには、陸海空自衛隊の一体的な運用が欠かせない。中期防には「統合幕僚監部の機能強化」が盛り込まれており、3~10日に日本の周辺海空域で実施した日米共同統合演習でも、「陸海空の統合運用体制で、より実戦に近い形」で取り組んだ。【樋岡徹也】

 ◇議論、政局に振り回され

 「民主党には安全保障の定見がないとの批判があったが、そういうことにも十分に応えられるものだ」。北沢俊美防衛相は17日の会見で、大綱改定での「政治主導」をアピールした。しかし、民主党政権として初めての大綱は、政治的要素に翻弄(ほんろう)された感が強い。

 政府は昨年10月「議論の必要性」を理由に、大綱の1年先送りを決定した。ところが、「素案」を作る「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)発足は、今年2月にずれ込んだ。普天間飛行場を巡り、連立を組んでいた社民党への対応に追われたためだ。

 8月には安防懇が提言をまとめたが、今度は9月の民主党代表選のあおりで党内議論が遅れた。党外交・安全保障調査会が党所属国会議員に大綱への提言を示したのは11月24日。

 象徴的だったのは、武器輸出三原則見直しだ。北沢氏は1月に見直し検討を表明。10月にはゲーツ米国防長官との会談で、自ら話を持ち出した。ところが、菅内閣は支持率下落に歯止めがかからず、三原則見直しに反対する社民党との連携に活路を求めるしかない状況に陥った。結局、北沢氏自身が同党との連携を優先すべきだと首相に切り出し、明記を見送った。【坂口裕彦】

毎日新聞 2010年12月18日 東京朝刊

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