東奔政走

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衆院解散か大連立か 2011年政局は大波乱必至

 ◇古賀 攻(こが・こう=毎日新聞政治部編集委員)

 漠たる不安に包まれた年の瀬である。この国がどうなっていくのか、まったく見通しが利かないために、晴れ晴れとした気分で新年を迎えることができない。

 不安の渦の中心に民主党がいる。

 マニフェスト(政権公約)の実現が不可能であることは、2009年の予算編成で十分証明されたはずなのに、恒久財源なきバラマキをやめられない。今回はその場しのぎの増税策ばかりが浮かんでは消え、歳入構造はいびつになる一方だ。

 ◇財界も菅政権を見切り始めた

 自民党の高村正彦元外相が12月9日に東京都内で開いた政治資金パーティーは、09年同時期の2倍近い来場者でにぎわった。

 「みんな先行きが不安だから、自民党にも保険をかけておこうという会社が増えたんでしょうねえ。このまますんなりと民主党政権が続くとは思えませんからね」

 財界の重鎮である旧財閥系企業の幹部はそう解説した。実際に高村事務所によると、政権交代直後の09年は出席を見合わせていた企業が、10年は数多く復活したという。

 12月3日に閉幕した臨時国会の寒々とした風景が、企業の行動様式を変え始めているのだろう。

 民主党代表選(10年9月14日)で政敵の小沢一郎元代表を破った菅首相は「いよいよ(政権が)本格稼働する段階だ」と述べ、内閣改造(9月17日)、臨時国会(10月1日スタート)へと突き進んだ。

 首相就任後、3カ月も経ってから「本格稼働」と平気で口走る感覚自体がおかしいが、菅首相は当時、「公明党が協力してくれる」と思い込んでいたふしがある。

 首相は9月26日昼、東京・八王子にある池田大作・創価学会名誉会長ゆかりの東京富士美術館を訪れ、開催中の「ポーランドの至宝」展を見学している。米国からの帰国直後という慌ただしさを押しての唐突な訪問だった。

 野党時代に公明党・創価学会批判の急先鋒だった菅氏だけに、露骨な擦り寄り作戦であることは明らか。富士美術館サイドへは、首相側近で八王子市を選挙区とする阿久津幸彦内閣府政務官が2日前に予約を入れていた。ただ、当日は日曜日だったため、普段でも混雑している会場が首相警備のために一層規制され、来場者の不評を買った。

 菅氏としては、水面下で進んでいた民主、公明両党の補正予算協議をにらみながら、学会員向けに公然と融和を求める好機と考えたのだろう。公明党は民主党に要望項目を提出し、その成績次第で補正予算案に賛成してもいいと考えていた。

 しかし、民主党のやり方はやはり幼稚だった。公明党側の感触に気を良くした仙谷由人官房長官らは相手の準備が整わないうちに「公明党は補正に賛成するぞ」との情報を流し始めた。果ては、井上義久・公明党幹事長の親族がピース缶爆弾事件(1969年から71年に、都内で連続した爆破殺傷事件)で起訴された際、仙谷氏が弁護士として貢献したため井上氏は恩義に感じている、といった情報が飛び交うに及んで、公明党は態度を硬化せざるを得なくなった。

 結局、尖閣諸島をめぐる事件処理の不手際と、閣僚による相次ぐ放言、失言で菅内閣の支持率が急降下するに至って「民・公部分連合」構想は幻と消え、菅内閣は本格稼働どころか、補正予算を成立させると這々の体で臨時国会を閉じた。

 11年の政局が見定められないのは、通常国会で公明党の「寸止め」をあてにできないためだ。予算本体は衆院の議決で成立するにせよ、公明党が参院で関連法案に反対したら、予算執行は不可能になる。菅首相が参院で問責決議を受けた仙谷長官らを交代させられなければ、なおさらだ。

 菅氏はその保険として、一度は離縁した社民党との「復縁」に乗り出した。衆院与党は民主307、国民新4の計311。これに民主党離党組の2人を加えれば、313議席が事実上の与党勢力になる。参院で否決された法案を衆院で再可決、成立させるのに必要な「3分の2」ラインは現在319。6議席の社民党が加われば必要数に達する。

 ◇「これからが本番」と言うが……

 ただ、これは砂上の数合わせだ。夜中に自宅のベランダから転落した民主党の三宅雪子衆院議員のように事故で入院する与党議員が1人でも出たら、万事休すとなる。しかも、朝鮮半島情勢がきな臭くなっているこの時期に、安全保障政策が180度違う社民党をパートナーにすることは危険極まりない。

 社民党の福島瑞穂党首は、菅内閣が検討していた武器輸出三原則の見直しについて「私がぶち切れることはしないでほしい」と訴え、防衛大綱から削除させた。福島氏は調子に乗って「11年度予算に(普天間飛行場の移設先である)辺野古関連が入っていたら、賛成しない」などと要求をエスカレートさせている。

 まさにわずか6議席の尻尾が胴体を振り回す愚である。自民党はかつて公明党を政権に迎え入れるのに「地域振興券」の予算化に踏み切り、「公明党に対する国会対策費だ」と自嘲していた。おカネでかたがつくなら、まだましである。6議席のために安保政策をねじ曲げたら取り返しがつかない。

 菅首相はさらに12月10日になって消費税増税のための与野党協議を呼びかけた。消費税増税なしに予算編成などできないことが明白になったためだが、民主党は鳩山由紀夫前首相が「4年間は増税の論議すら必要ない」と述べたことや、福田康夫内閣による与野党協議の申し出を蹴飛ばした過去を、都合よく忘れている。

 小沢氏を衆院政治倫理審査会に出席させるべく、民主党として意思統一を図る構想も、党内外で支持率狙いのパフォーマンスとしか受け止められていない。小沢氏にまつわる「政治とカネ」の問題に決着をつけたいのなら、なぜ臨時国会の最中に放置してきたのか。岡田克也幹事長が「リスクを取って」などといきり立つのは、不自然である。

 菅首相は12月12日夜、支持者との交流会で「(就任からの半年間の)仮免許を経てこれからが本番だ」と語ったという。一体、首相に本番が来ることがあるのか。衆院解散による政権のリセットか、大連立による「救国内閣」の誕生か、11年は大波乱の気配が濃厚だ。

2010年12月20日

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