小沢一郎民主党元代表の国会招致問題は20日、党代表の菅直人首相が説得に乗り出したにもかかわらず、小沢氏は拒否する姿勢を変えず、決着は長期化する見通しとなった。「両雄会談」は政権の危機を収める内容とはほど遠く、逆に対決模様を鮮明にさせた。内閣支持率が低迷する菅政権は強制起訴が近づく小沢氏の求心力を一気にそぎたい考えだが、小沢氏も徹底抗戦の構えで、党分裂含みの様相が次第に濃くなっている。【葛西大博、影山哲也】
「きょう1時間(半)話をした。小沢さんの方から何か新しい話がないのであれば、会ってみても仕方ない」
小沢氏との再会談の可能性を記者団から問われた菅首相は20日夜、冷たく言い放った。首相は繰り返し小沢氏に衆院政治倫理審査会(政倫審)出席を求めたが、平行線に終わり、大きな区切りととらえているようだ。
参院で少数与党の「ねじれ国会」を克服するために首相らは小沢氏の「政治とカネ」の問題にけじめをつけるのが不可欠と認識している。小沢氏は年明けにも強制起訴される見通しで、その前に党として毅然(きぜん)とした態度を示し、国民にアピールする狙いだ。それにしくじれば低迷する内閣支持率はさらに落ち込むとの危機感がある。
首相周辺によると、小沢氏が最後まで国会招致を拒めば強制起訴に合わせた離党勧告も視野に入れているという。小沢氏が主張する「挙党態勢」を拒否し「脱小沢」路線を貫くことで「菅カラー」を鮮明にさせる考えだ。
会談場所を巡っても、党本部を主張する小沢氏の希望を退け、首相官邸に「呼びつける」体裁を取った。
しかし、菅政権の足元も盤石ではない。党を二分する小沢氏ら反主流派を抱えて党内基盤が盤石ではないうえに、尖閣諸島問題や地方選の敗北で弱体化が進む政権にとって無理押しが利かないのが実態だ。岡田克也幹事長も20日の記者会見で「議論をしながら手続きを粛々と進めている」と強調し、拙速は避けたい姿勢を示した。
岡田氏が描いていた政倫審への招致議決も危ぶまれている。自民党や公明党など野党が議決に加わらない姿勢を見せ始めたのは執行部にとって誤算で、仮に民主党だけで議決しても「茶番だ」との批判は避けられない。
代わりに持ち出したカードが証人喚問。自公両党に同調することで与野党協力の足場を作る思惑があるが、証人喚問は政倫審よりもハードルが高い。衆院予算委員会が舞台になるが、喚問は理事会での全会一致が原則だ。
野党は賛成しても、偽証罪に問われる可能性がある証人喚問に小沢氏系議員が反対すれば、党内で喚問方針を決定できない。予算委の小沢氏系理事の差し替えなど強硬手段に出れば、党分裂の機運をあおる結果になりかねない。
来年1月召集の通常国会で11年度予算案や関連法案への野党協力取り付けには小沢氏の問題は放置できないが、執行部は野党の出方と党内反主流派の動きの両方をにらみつつ、「小沢切り」に向けた持久戦で臨む構えだ。
「この話は役員会ではやらないはずだ」。首相と小沢氏の会談後に開かれた党役員会。岡田氏が政倫審問題を持ち出すと、小沢氏に近い輿石東参院議員会長がクギを刺し、羽田雄一郎参院国対委員長も「民主党政権を追い込むため自民党が政倫審に出席しないこともある。民主党だけで決めるのは滑稽(こっけい)だ」と招致議決をけん制した。
執行部が政倫審開催に突き進んできたのは、来年1月召集の通常国会の障害を取り除くための戦術で、岡田氏も「野党も求めている」と説明してきた。
政倫審に出席しても、野党が政権を追い込むため「疑惑が深まった」と証人喚問を要求してさらに追い打ちをかけてくる--。輿石氏らが反発してきたのは執行部側に長期的な戦略があるのかという点だった。役員会で「証人喚問に発展しないか」との指摘が出ると、輿石氏は「前から何度もそう言っている」と激しいことばを浴びせ、首相や岡田氏らの国会戦略の甘さにいら立ちを隠さなかった。
当の小沢氏は首相との会談後、20日夜には支持グループが国会内で開いた忘年会に顔を出し、秘書らに「議員が活動できるのはみなさんのおかげだ」とねぎらう穏やかな表情も見せた。
ただ小沢氏側の危機感も深い。輿石氏は小沢氏との電話で「このままでは執行部は離党勧告までしてくる」と伝えた。
小沢氏は首相との会談後、鳩山由紀夫前首相に電話をかけ「(首相は)相当感情的になってきた」と岡田氏と同じ論理で政倫審出席を迫った菅首相への不満をぶちまけた。鳩山氏は「小沢さんは泰然自若でいい」となだめ、小沢氏も「そうしたい」と応じたという。
三井辨雄(わきお)副国土交通相ら小沢氏に近い政務三役は、この日も小沢氏系の会合に顔を出した。首相や岡田氏に対し「いざとなれば集団辞任」とけん制する意味がある。
「27日も何も決められない」。役員会終了後、輿石氏ら参院幹部は国会内の控室で対応を協議。岡田氏は27日の役員会での決着を目指すが、出席者の中では越年必至との見方が強まった。両院議員総会開催を求める署名活動も「まだタイミングではない」(参院幹部)と表立った動きはなく、当面は執行部側の次の一手を見極める姿勢だ。
毎日新聞 2010年12月21日 東京朝刊