「自民党が変わったということを訴えきれなかった」。参院選投開票の今年7月11日夜、がらんとした奈良市の選挙事務所で、自民新人、山田衆三氏(35)は涙を浮かべて敗戦の弁を述べた。全国的には民主が大敗、自民は堅調という結果となったが、奈良選挙区は民主現職の前川清成氏(48)が再選を果たした。
山田氏は自民県連が初めて実施した公募で選ばれた候補者だった。民主党が昨夏の衆院選から掲げたマニフェストの目玉政策「子ども手当」について、山田氏は街頭演説で「子ども手当を増額する財源があれば、保育所整備などに回すべき」と繰り返し訴えた。
現金か現物かの違いはあれ、「子育て支援の充実に財源を回すことは不可欠」という理念を両党が共有しているように思えた。選挙後の国会では少子化対策の議論が深まるかもしれないと期待した。
一方で、山田氏が選挙期間中に繰り返した「民主党は自民党のまねばかり」という発言には違和感を覚えた。最も大切なのは政策を実現することなのに、「私が最初に提唱した」と主張するのは学者の論争のように映ったからだ。
自民県連は、田野瀬良太郎会長が参院選敗北の責任を取る形で辞任した。しかし、敗因を分析し、政策実現に努力する姿は見られない。有権者は「生まれ変わった自民党」を実感できないままだ。
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大敗した民主が全国29の1人区で勝利したのはわずか8選挙区。そのうちの一つが奈良だったが、高揚感は全くなかった。「この結果をどう受け止めればよいのか」。投開票から一夜明けた12日、民主県議の一人は困惑した様子で語った。
民主県連は参院選後、来春の統一地方選での議席増を目指して動き出した。しかし、菅内閣の支持率低下とともに失速。知事選では独自候補擁立を断念し、県議選は21人擁立という目標達成は厳しい状況だ。
「選挙で負けているのは政党」と、専門家は指摘する。民主、自民両党など既成政党の党勢が伸び悩む中、統一選では橋下徹・大阪府知事が代表を務める地域政党「大阪維新の会」の動きが注目を集めている。
知事選で再選を目指す荒井正吾知事は、政党の推薦を受けない考えを明らかにした。自民党を離党し、みんなの党から県議選に出馬する現職県議もいる。既成政党の公認候補が統一選でどんな戦いをするのか、注目したい。【大久保昂】
毎日新聞 2010年12月23日 地方版