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【新聞に喝!】大阪観光コンベンション協会会長・津田和明
■世論調査に気をつけろ
幕末、フランスとイギリスは日本の内乱を自国の勢力拡張のチャンスと捉えていた。フランスは徳川幕府に多額の軍資金提供を約束し、イギリスは薩摩、長州を支援する密約を交わした。幕府の重臣・勝海舟、薩摩の実力者・西郷隆盛は国家の危機を知り、内戦を避けて江戸城無血開城を実現した。
そんな先訓があるのに、現在の国会は党利党略が優先し、国益を最優先に考えていると思えない。閣僚不信任決議、審議拒否、政治倫理審査会への出席問題。いずれも重要な案件だが、経済状況を見ても安全保障を考えても、そんなことをしている場合ではない。
民主主義体制の意思決定は、多数決で決まる。大衆の意見は重いが、大きく振れることがある。新聞各紙がしばしば行う世論調査がその象徴で、その度に政策がぶれていては、一貫した政治はできるはずもない。時には大衆の意に沿わなくても、説得しなければならないこともある。
政治家は世論調査で内閣支持率低下といわれると、回復しようとして意思がぐらつきやすいものだ。特に菅直人首相はその傾向が強いようで、参院選挙前に消費税10%の増税発言をしたのに、非難を浴びると引っ込めた。
財政再建には消費税増税に頼らざるを得ないが、増税の好きな国民はいないから、「賛成か」と聞かれると「反対」と答えるのは当然だ。
勢い世論調査は内閣支持率の低下を数字で示す。世論調査も訪問調査の頃は経費もかかるので、回数も少なかったが、コンピューターや電話の活用で費用が安くなり頻繁に行われる。このところ毎月のように各紙に数字が踊るようになったが、果たしてこれは国益に資することであろうか。
ネット調査はネットを使える人の回答であり、無作為抽出のRDD法調査は固定電話だけの調査なのだ。近頃多い携帯電話しか持っていない人は対象外だ。増税に関する例もあるし、その数字をもって国民世論とするのはどうであろうか。「大衆動向観測」程度ではないのか。
財政再建は日本の基本問題だ。政治家も世論調査に過度におびえず、日露戦争で戦勝におごった国民が戦争続行を主張したとき、非難を一身に浴びて自宅を焼かれながら、断固講話条約を結んだ小村寿太郎元外相の勇気を見習って、国益第一の政治をしてほしい。同時に新聞も国益を念頭に、世論調査の乱発を控えてはいかがか。
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【プロフィル】津田和明
つだ・かずあき 昭和9年大阪府出身。大阪大法卒。元サントリー副社長。