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【社説】

忍耐力が熟議育てる 週のはじめに考える

2010年12月29日

 二〇一〇年が終わろうとしています。首相は今年も代わり政策実現もままなりません。「熟議の国会」を育てるには、忍耐力も必要ではないでしょうか。

 年の終わりに、二つの政界ニュースが飛び込んできました。

 菅直人首相が「たちあがれ日本」に連立参加を打診して拒否されたことと、小沢一郎元代表が政治倫理審査会(政倫審)に出席する考えを表明したことです。

 この二つの出来事は、菅内閣と民主党が直面する厳しい状況を象徴しています。来年一月に召集される通常国会にどんな影響を及ぼすのか、目が離せません。

 参院選惨敗で状況厳しく

 たちあがれ日本への連立打診の背景には、与党が参院で過半数に達しない「ねじれ国会」の厳しい状況があります。

 与党がねじれ下で政策実現のために法律を成立させるには、野党側の協力を得て、多数派を形成するしかありません。

 安定政権をつくるために、連立を呼び掛けるのか、法案ごとに協力を求めるのか。その方法はさまざまですが、欠かせないのは国民生活をより良くするための政策を実現するという首相の覚悟です。

 首相は、再びねじれ状況となった十月の臨時国会で、こう演説しました。

 「私は今回の国会が具体的な政策をつくり上げる『政策の国会』となるよう願っています。そのために議論を深める『熟議の国会』にしていくよう努めます。野党の皆さんにも真摯(しんし)に説明を尽くし、誠実に議論していきます」

 七月の参院選で民主党を惨敗させ、与党を過半数割れに追い込んだのは、首相自らの不用意な消費税率引き上げ発言でした。

 だからこそ、首相が汚名をそそぐ決意を示したものと、誰もが受け取ったに違いありません。

 政倫審は実のあるものに

 ところが期待は裏切られます。「熟議の国会」のきっかけを得るどころか、与野党対立は深まるばかりで、政治主導確立法案など、民主党の看板政策も次々と先送りされる惨憺(さんたん)たるものでした。

 首相はその後、社民党から協力を得ようとしますが、安全保障問題などで不調に終わるのを見越して、たちあがれ日本との連立にも動きだします。

 たちあがれ日本はもともと「民主党に(参院で)過半数を取らせないために結党した」(平沼赳夫代表)政党です。

 いくら財政再建で一致しているとはいえ、選挙で真っ向から対立した、政策・理念が違う政党が協力し合うことは、国民には「数合わせ」としか映りません。たちあがれ日本側が拒否して当然です。

 このことは首相の「軸のなさ」を表しています。首相がどのような信条で政治を進めようとしているのかが見えてこないのです。

 首相の軸のなさは、「政治とカネ」の問題をめぐる小沢氏の国会招致問題でも顕著になりました。

 民主党は小沢氏が政倫審出席に応じない場合、招致を議決する方針を役員会で決めました。首相は小沢氏が議決に従わなければ「本人に出処進退を含めて考えていただくしかない」と、自発的離党を求める考えまで示しました。

 小沢氏に出席を促すためでしょうが、これでは疑惑解明や国会での説明という政治的責任を果たさせるのが主眼なのか、小沢氏を民主党から追い出す「脱小沢」が目的なのか、本音が分かりません。

 大事なことは前者です。首相にもし「脱小沢」で政権浮揚を図ろうという下心があるのなら、勘違いも甚だしい。

 その一方、政倫審が単なる通過儀礼に終わってもいけません。

 首相は小沢氏に対して、国民の納得のいく説明をさせるよう力を振り絞り、政治に対する国民の信頼を回復することが自らに課せられた使命だと心得るべきです。

 共同通信社の最新世論調査では菅内閣支持率は23・6%と低迷、不支持は発足後最も高い67・0%です。20%台は内閣が総辞職してもおかしくない危険水域ですが、首相を代えれば、厳しい状況は一気に打開できるのでしょうか。答えは当然ながら「否」です。

 総理1年の使い捨てでは

 「歌手一年、総理二年の使い捨て」との故竹下登元首相の言は昔のものになりました。在任一年の首相が四代続き、交代は年中行事です。これは決してよいことではありません。政策の実現や粘り強い外交には政権安定が鉄則です。

 歯がゆいかもしれませんが「熟議の国会」を育てるには、菅首相や与野党を粘り強く叱咤(しった)激励する「こらえ性」も国民に必要です。

 何しろ民主党を選んだのも、参院選で過半数割れさせたのも、私たち有権者自身です。その責任を放棄しては、健全な民主主義など育ちようがないのですから。

 

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