チリの鉱山の地下からは33人が、宇宙のかなたからは探査機「はやぶさ」が奇跡の帰還を果たした2010年。難しい国際問題が噴出する中、国内政治は混迷が続いた。検察は証拠改ざん事件に揺れ、尖閣諸島沖の漁船衝突映像や公安情報、ウィキリークスなど情報流出の話題も相次いだ。機密と共に失った信頼は返ってくるのか。
障害者団体割引制度を悪用した郵便不正事件で、偽証明書の作成を部下に指示したとして起訴された厚生労働省元局長の村木厚子さん(55)=現・内閣府政策統括官=の無罪が確定。捜査を主導した主任検事が証拠を改ざんしていたとして逮捕・起訴されるという前代未聞の不祥事に発展した。さらに当時の特捜部長と副部長が、その改ざんを隠蔽(いんぺい)したとする罪で起訴され、事件は、検察組織の在り方を問い、特捜部の「解体」まで議論される事態につながった。
大阪地裁で審理された村木さんの裁判では厚労省側の証人が村木さんの関与を認めた捜査段階の供述調書を次々と否定。地裁は検察側が証拠請求した調書43通中34通を却下し、9月10日、村木さんに無罪を言い渡した。
だが、事件はこれで終わらなかった。控訴期限直前の9月21日、最高検は大阪地検特捜部主任検事だった前田恒彦被告(43)を証拠隠滅容疑で逮捕した。捜査の矛盾を取り繕うため、押収したフロッピーディスクのデータを改ざんしたとする容疑だった。
この日、村木さんの控訴断念も発表。10月1日には前田被告の上司だった前特捜部長の大坪弘道(57)と元副部長の佐賀元明(49)両被告が改ざんを隠蔽したとする犯人隠避容疑で逮捕された。
捜査の中心だった3人が逮捕・起訴される事態を受け、特捜の捜査手法が厳しく問われることになった。最高検は12月24日、村木さんの逮捕・起訴の判断に「問題があった」と認める検証結果を公表。特捜部の独自事件に関して、取り調べの録音・録画(可視化)を来年2月以降に試行する方針も盛り込んだ。改革案の検討は法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」でも進められている。
昨秋の政権交代の熱気はこの1年3カ月で消えうせ、民主党政権にとって迷走と失速の2010年となった。
鳩山由紀夫首相-小沢一郎党幹事長の「小鳩」体制は、両氏の「政治とカネ」問題と米軍普天間飛行場移設問題の迷走で崩壊。6月に後を継いだ菅直人首相は「脱小沢」路線で世論の支持を集め、毎日新聞の全国世論調査で鳩山政権末期に20%だった内閣支持率は66%にV字回復した。しかし、「消費税率10%」への引き上げに言及したことが反発を招き、7月の参院選で民主党は惨敗した。
菅首相の前には、「ねじれ国会」だけでなく、小鳩グループが政権運営の障害として立ちはだかった。9月の党代表選で小沢氏を降し、48%に落ちていた内閣支持率は脱小沢効果で再び64%に回復したものの、党内対立は決定的となる。
そして9月24日、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で船長釈放を決めたことをきっかけに政権は再び失速。検察審査会から起訴議決を受けた小沢氏は国会招致に応じず、尖閣事件のビデオ映像流出も加わって、仙谷由人官房長官らの問責決議が参院で可決された。
11年度予算案を審議する通常国会で野党の協力を得ようと、民主党執行部は小沢氏が来年の通常国会までに衆院政治倫理審査会への出席要請に応じない場合、小沢氏招致を議決することを決めた。小沢氏が拒否すれば離党勧告も含め小沢氏を追い詰める戦略だった。しかし小沢氏は12月28日、一転し通常国会中の出席を表明、暗に仙谷氏の更迭を求めた。
これに対抗してまたも「小沢切り」で政権浮揚を狙い、証人喚問や内閣改造も視野に入れる党執行部だが、連立政権への参加を打診したたちあがれ日本には拒否された。「仙谷切り」を求める野党側の協力を得られる保証もなく、菅内閣は24%の低支持率で年を越す。
小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」を巡る政治資金規正法違反事件では、東京第5検察審査会が小沢氏本人を起訴すべきだとする「起訴議決」(9月14日付)を10月4日に公表した。小沢氏の国会招致を求める声が強まり、政治とカネを巡る問題が政権を揺さぶった。
小沢氏は検察官役の弁護士によって年明け以降に起訴される。
小惑星探査機「はやぶさ」が6月13日夜、60億キロの旅を終えて地球に帰還した。小惑星イトカワの地表から岩石を採取することを目指した。何度も致命的なトラブルに見舞われ、帰還が3年延びるなど、旅は7年に及んだ。月より遠い天体に着地し、帰還したのは人類初。
はやぶさの本体は大気圏で燃え尽きたが、切り離したカプセルはオーストラリアの砂漠に予定通り落下。日本で開封・分析した結果、中から見つかった微粒子のほとんどがイトカワのものであると判明。計画は完全な成功を収めた。
はやぶさの快挙は幅広い人々の共感を呼び、カプセルの全国巡回展示に大勢のファンが詰めかけるなど社会現象にもなった。
東京都足立区で7月28日、戸籍上は111歳だった「都内最高齢男性」の白骨化遺体が見つかる事件が発生。長女らが30年以上にわたって死亡を隠し、年金を不正受給していたとして逮捕された。
この遺体発見を契機に、各地の自治体が高齢者の所在調査を行ったところ、杉並区の都内最高齢113歳女性ら住民登録地に居住実態がなく、家族も親族も所在が分からない100歳以上の高齢者が、全国で271人もいることが、9月上旬までの厚生労働省まとめで判明。ほとんどは生死の確認も取れず、地域とも関係が途絶えており、孤立化する高齢者の問題が浮き彫りになった。
こうした高齢者も含まれると推測される身元不明の死者「行旅死亡人」が年間1000人以上に上ることもクローズアップされた。
また、戦中戦後の混乱などから死亡届が未提出で、戸籍上は生存したままになっている100歳以上の高齢者も全国で23万人以上いた。長崎県壱岐市で200歳男性の戸籍が確認されるなど「超高齢者」も続出し、行政の怠慢も指摘された。
大相撲の不祥事が続いた。
2月、初場所中の知人男性への暴行の責任を取り、横綱・朝青龍が引退した。5月には、昨年の名古屋場所で暴力団幹部が座る資格のない「維持員席」で観戦した際に、入場整理券を手配した木瀬親方(元前頭・肥後ノ海)が2階級降格と木瀬部屋閉鎖の処分を日本相撲協会から受けたが、不祥事の連鎖は止まらなかった。
夏場所中には週刊誌報道で野球賭博事件が発覚。力士や親方などが多数関与したことが明らかになり、大関・琴光喜や大嶽親方(元関脇・貴闘力)らが解雇された。協会は名古屋場所開催に踏み切ったものの、野球賭博に関与した幕内力士6人、十両力士4人などを謹慎させた。
NHKは名古屋場所のテレビ・ラジオ中継の中止を決定(秋場所から再開)。協会は天皇賜杯を含むすべての外部表彰の自粛・辞退を決めた(同)。8月、一連の不祥事の責任を取って、武蔵川親方(元横綱・三重ノ海)が理事長職を辞任し、放駒親方(元大関・魁傑)が新理事長に就任。新体制で「暴力団等排除宣言」をした。
民主党の目玉政策の一つ「子ども手当」の支給が6月、始まった。ばらまきとの批判もあったが、すべての子を社会で支えるとの理念から、所得制限は設けなかった。10年度は中学生までの子1人につき月1万3000円。11年度から2万6000円に増額予定だったが財政難で見送られ、波乱含みのスタートに。
一般社会における漢字使用の「目安」となる常用漢字表が見直され、11月30日告示された。81年に旧常用漢字表を制定して以来29年ぶりの改定。5字削除する一方、196字追加し計2136字になった。パソコンなどの普及により、漢字変換が容易になったことが改定の背景にあり、憂鬱の「鬱」などが加わった。
鈴木章・北海道大名誉教授(80)と根岸英一・米パデュー大特別教授(75)がノーベル化学賞を受賞した。両氏は70年代、金属のパラジウムを触媒(化学反応の仲介役)に使って、異なる有機化合物を自在に結合させる「クロスカップリング反応」をそれぞれ開発。医薬品や液晶など先端材料の製造に広く応用されている。
制度施行から1年半余の裁判員裁判は10月以降、死刑求刑が5件相次ぎ、裁判員が重い判断を求められた。求刑第1号の東京地裁は無期懲役だったが、横浜、仙台、宮崎各地裁では極刑が選択され、このうち仙台では少年(19)に死刑が言い渡された。一方、鹿児島地裁は12月10日、高齢夫婦殺害事件で無職男性(71)に無罪を言い渡した。
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7日▽藤井裕久財務相、健康不安理由に辞任。
12日▽カリブ海の島国ハイチでマグニチュード(M)7.0の地震が発生、死者23万人。
15日▽小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で石川知裕衆院議員ら逮捕。
19日▽日本航空が会社更生法の適用申請。負債2兆3221億円は事業会社過去最大。
24日▽沖縄県名護市長選で米軍普天間飛行場の県外移設を主張する稲嶺進氏が当選。
26日▽トヨタ自動車が北米でアクセル不具合の恐れがある8車種の販売一時停止。
27日▽日本経団連会長に米倉弘昌・住友化学会長が内定。初の旧財閥系出身。
▽兵庫県明石市の歩道橋事故で、初の検察審査会議決による強制起訴決定。
1日▽日本相撲協会理事に二所ノ関一門を離脱した貴乃花親方が初当選。
4日▽「陸山会」事件で3人起訴。小沢氏は容疑不十分で不起訴に。
▽戦時中最大の言論弾圧とされる「横浜事件」で元被告5人を事実上無罪と認定する刑事補償決定。
▽知人男性に暴行、重傷を負わせたとされる問題で、横綱・朝青龍が現役引退。
6日▽小学5年生の藤沢里菜さんが史上最年少の囲碁棋士に。祖父は故・藤沢秀行名誉棋聖。
10日▽宮城県石巻市で元交際相手の家に押し入った18歳少年が3人を殺傷。
16日▽クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)の8月1日発効決定。
20日▽ベルリン国際映画祭で寺島しのぶさんに最優秀女優賞(銀熊賞)。
25日▽多数の人が利用する施設の原則全面禁煙を求める厚生労働省通知。
26日▽囲碁の張栩十段が棋聖位奪取。史上2人目の「7冠グランドスラム」に。
27日▽南米チリ中部でM8.8の地震、死者・不明500人超す。日本沿岸にも津波。
1日▽小林千代美衆院議員陣営の違法献金事件で、北海道教職員組合幹部ら逮捕。
9日▽外務省有識者委が核持ち込みなど三つの日米密約の存在を認める報告書。
10日▽鎌倉の鶴岡八幡宮で樹齢1000年の「大銀杏(おおいちょう)」が強風で倒れる。
▽佐渡トキ保護センターでトキ9羽が野生動物に襲われ死んだと環境省発表。
11日▽国内98カ所目となる茨城空港が開港。
12日▽南極海で日本の船に侵入した容疑で反捕鯨船のニュージーランド人船長逮捕。
13日▽札幌市の認知症高齢者グループホームが全焼、入居者7人が死亡。
17日▽将棋の久保利明棋王が初の王将獲得。
20日▽静岡県の陸上自衛隊東富士演習場で、野焼きの火に巻かれ男性3人が死亡。
22日▽米グーグルが中国本土から撤退。
24日▽民主党政権初の当初予算が成立。一般会計は過去最大の92兆2992億円。
26日▽90年に4歳女児が殺害された「足利事件」再審で菅家利和さんに無罪判決。
▽08年の冷凍ギョーザ中毒事件で、中国警察当局が製造元の元臨時従業員逮捕。
▽韓国海軍哨戒艦「天安(チョンアン)」が北朝鮮の攻撃で沈没。死者・不明46人。
29日▽水俣病未認定患者を巡る損害賠償請求訴訟で初の和解へ基本合意。
▽機関紙配布を国家公務員法違反に問われた旧社会保険庁職員に逆転無罪判決。
30日▽95年の警察庁長官狙撃の時効成立。警視庁は「オウム真理教のテロ」と公表。
▽島根原発で123カ所の点検漏れが見つかり、1号機の運転停止。
1日▽第一生命が株式会社に転換し東証1部上場。株主は国内最多の約140万人。
2日▽若林正俊元農相が、参院本会議採決で青木幹雄氏の投票ボタンを押した責任を取り、議員辞職。
▽北海道厚沢部町で駐車中の車が燃え幼い姉弟4人死亡。使い捨てライターの火遊びが原因とみられる。
5日▽山崎直子宇宙飛行士らを乗せたスペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ。
▽名張毒ぶどう酒事件で最高裁が審理差し戻し決定。再審開始の可能性に道。
7日▽中央アジアのキルギスで野党勢力が「臨時政府」樹立宣言。
8日▽米露が新たな核軍縮条約に調印。
9日▽東京地裁が沖縄返還(72年)を巡る日米間の密約の存在を認める判決。
10日▽バンコクで軍、警察とデモ隊衝突。銃撃で日本人カメラマン村本博之さん死亡。
13日▽核安保サミットが「核物質管理を4年以内に徹底する」とする政治声明採択。
14日▽中国青海省玉樹チベット族自治州でM7.1の地震、死者2000人超。
▽アイスランドで火山噴火。火山灰広がり、欧州で航空便欠航や空港閉鎖相次ぐ。
17日▽東京都心で降雪。観測開始以来最も遅い記録と41年ぶりに並ぶ。
20日▽米メキシコ湾の海底油田が爆発。3カ月で推計490万バレルの原油が流出した。
23日▽財政危機のギリシャが欧州連合(EU)などに450億ユーロの緊急融資要請。
26日▽偽装献金事件で、検察審査会が鳩山由紀夫首相の「不起訴相当」の議決公表。
27日▽殺人罪などの公訴時効を廃止する改正刑事訴訟法が成立し、即日施行。
1日▽上海万博開幕。
6日▽95年のナトリウム漏れ事故で停止していた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)が14年5カ月ぶりに運転再開。
7日▽ユーロ圏16カ国がユーロ防衛基金設立に合意。
11日▽英国で戦後初の連立政権誕生。
14日▽新生銀とあおぞら銀が合併契約解消。
18日▽家畜の伝染病「口蹄疫(こうていえき)」による殺処分対象の家畜が11万4000頭にのぼり、宮崎県知事が非常事態宣言。
19日▽大阪地裁が石綿被害で国の責任を認める初めての判決。
▽将棋の羽生善治名人が防衛。2度目の3連覇で、名人獲得は通算7期。
25日▽暴力団幹部の名古屋場所観戦に親方2人の関与発覚。
28日▽政府が米軍普天間飛行場の移設先に「辺野古崎地区及び隣接する水域」を決定。閣議での署名に応じない社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相罷免。
30日▽社民党が連立政権離脱。
1日▽子ども手当支給スタート。
2日▽宇宙に163日滞在した野口聡一飛行士が帰還。
4日▽鳩山内閣が総辞職。首相の在任日数は262日。民主党代表選で菅直人副総理兼財務相が当選し、第94代首相に。
11日▽亀井静香金融・郵政担当相が、郵政改革法案の成立見送りに反発し辞任。
13日▽小惑星探査機「はやぶさ」が帰還。打ち上げから7年、60億キロの旅だった。
14日▽大関・琴光喜ら29人が過去5年以内に野球賭博をしていたと相撲協会発表。
16日▽民事再生手続き直前に資産を流出させた疑いで、商工ローン大手「SFCG」の元社長ら逮捕。
▽元抑留者に特別給付金を支給するシベリア特措法成立。
18日▽浜名湖で野外体験学習のボートが転覆。中1女子死亡。
19日▽中国人民銀行(中央銀行)が、人民元の「弾力性を高める」と発表。
22日▽広島市のマツダ本社工場に元期間従業員が乗用車で侵入。はねられた従業員1人が死亡、11人が重軽傷を負った。
26日▽主要20カ国・地域(G20)の首脳会議がカナダ・トロントで開幕。
28日▽国鉄分割・民営化に伴うJR不採用問題で、最高裁で和解が成立。
▽高速道路無料化の社会実験を全国37路線50区間で開始。
29日▽囲碁の山下敬吾天元が歴代16人目の実力制本因坊に。
毎日新聞 2010年12月30日 東京朝刊