2010年12月31日
10年の日本/溶解し始めた「国」と「家」
日本という国家が溶解し始めている。大晦日のきょう、この1年に思いを馳せてみると、そんな印象を強くする。
危機感欠ける為政者
今年の国内10大ニュースのトップに本紙は尖閣諸島の中国漁船事件を選んだ。これへの対応で象徴される外交・安保の無策、確固たる未来ビジョンを示せない政治の混迷。1億2千万国民に誰が責任をもって世界の荒波を超えていくのか。このままでは日本丸は漂流船になりかねない。そう感じた読者も多かったのではないか。
世界ではグローバル化が一層進み、一国だけでは生きられない。それでも人々の生命と財産を守る最終的責任は依然として国家が担っている。その国家が本当に国民を守ってくれるのか。そんな疑念を尖閣事件が深めた。わが国を取り巻く国際環境は一段と厳しさを増しており、国の舵取りを誤れば、国民は奈落の底に沈むほかない。
そうした危機感が為政者に欠けている。普天間移設問題は迷走を続け日米同盟に影を落としたままだ。新たな防衛大綱は南西諸島の守りへ「動的防衛力」を打ち出したが、全体でみれば相変わらず削減路線で、懸案の武器輸出三原則や集団的自衛権行使の見直しは先送りにした。
政権交代から1年余、民主党政権の試運転期間はとっくに終わっている。この間、鳩山内閣から菅内閣に代わり、7月の参院選では大敗を喫した。マニフェストは移ろい、政治の道筋は今なお見えず、菅内閣の支持率は20%台に落ち込んでいる。これでは政治不信が再び頭をもたげ、国が溶解していかざるを得ない。
国内10大ニュースには所在不明の「100歳以上」が相次いだことも挙げた。戸籍が存在するのに現住所が確認できない100歳以上の高齢者が全国で23万人以上に上るという。世相を映す流行語に「無縁社会」が選ばれたように、人々の縁が薄れ、一人暮らし世帯が増え続け、高齢者ばかりか、若者の社会的孤立も浮き彫りになった。家族が溶け始めている。
このことは生活保護を受ける世帯が過去最多の約140万世帯、195万人に達したことからもうかがえる(今年9月時点)。1992年度には約59万世帯だったから、2・3倍以上に増えた。そのうち半分近くが高齢者、一人暮らし世帯は7割以上に上る。年明けにも200万人の大台に乗ると見られる。
戦後社会は家族よりも個人を尊重してきた。その結果、個人はついに「孤人」に至った。そう実感させられた1年だったのではないか。それでも菅内閣は個人化への政策誘導を強めようとしている。
例えば、12月に閣議決定した第3次男女共同参画基本計画がそうだ。家族形態の変化やライフスタイルの多様化に対応するとして「個人単位の制度・慣行への移行」を掲げ、配偶者控除の縮小・廃止や選択的夫婦別姓の導入などを検討課題に据えている。これでは家族や社会の絆が弱められるばかりだ。
立て直しと再生が課題
溶け出した「国」と「家族」をどう立て直し再生するのか。この課題は来る年に残された。