消費税とTPP「6月」の意味 “クリンチ”と選挙で延命図るが、経済的には下策だ

2011.01.07

 菅直人首相は年頭所感で、消費税増税と環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加検討にむけて、2011年半ばまでに姿勢を示したいと意欲をみせた。

 年頭所感では、内容として異例である小沢一郎氏の政治とカネの問題ばかりが取り上げられるが、国民生活の観点からは経済政策の方がはるかに重要だ。

 まず期限を今年半ば、つまり6月までと区切ったことの意味は何か。政治日程を考えると、4月上旬から下旬にかけて統一地方選挙がある。小沢氏が批判するように菅政権は地方選で連戦連敗と分が悪い。6月までというのは、統一地方選のときに具体的な内容を話す必要のない日程になっている。

 さらに、通常国会は1月下旬の開会で日程調整されている。国会開催が1月下旬にずれ込むのは、民主党内の求心力を確保するために党大会直後に内閣改造を行うので、新閣僚が国会準備に時間を要するというのが表向きの理由だ。

 だが実際は、国会開会までに閉会中国会への招致などで小沢氏にプレッシャーをかけ、政権支持率の浮揚へとつなげたいためだ。通常国会開催が1月下旬になると6月いっぱいは会期中となる。つまり、通常国会開催中、民主党は消費税増税・社会保障改革で主張の似ている自民党に「クリンチ戦法」で臨むと宣言しているのだ。

 さすがに自民党も、支持率低下の菅政権と同じ政策に乗るわけにはいかないだろう。消費税増税・社会保障改革には触れずに、高速道路無料化、農家戸別補償、子ども手当で民主党との政策の違いを強調し対決姿勢をみせ、解散・総選挙に追い込もうとしている。

 特に、ねじれ国会によって、3月末までに予算関連法案の成立を実質的に阻止でき、予算が事実上成立しないので、それまでに菅政権を追い込みたいところだ。

 今のところ政治的には消費税増税とTPP参加が実現する可能性は少ない。しかし、小沢切りで支持率が高まり菅政権が解散・総選挙に踏み切ったり、逆に支持率低下で国会運営に行き詰まり破れかぶれ解散になると、皮肉にも実現可能性が高まる。

 自民党も消費税増税とTPP参加で大きな異論がないから、民主党と自民党のどちらが政権を取っても同じ結果になるからだ。

 もっとも、その場合、経済政策としては下策になる。実は両政策の前にデフレ脱却しておくべきなのに、民主党も自民党も現在の執行部はデフレ脱却にまったく熱心でない。デフレ脱却すれば、名目成長率が高まるので税増収で消費税増税は不要になり、同時に円安になるので貿易問題は処理が簡単になるのに、残念な状況だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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