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[25165] 【習作】通りすがりのじくうけんし (ネギま!×TOP&TOE要素+オリ主)
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:6b87a2f4
Date: 2010/12/30 02:36
初めまして、しゅりとと申します。
SS投稿は初めてのド素人ですが、よろしくお願いします。

このSSは原作知識を持ったオリ主が、テイルズオブシリーズの中からファンタジアとエターニアの能力等を付与されて、現実からネギま!の世界へ飛ばされるお話です。

シリアス成分薄目で、ほのぼのした感じで書いていきたいと思います。

TOPとTOEの中からちょこちょことネタを使う予定なので、原作をやっている方は楽しめるかもしれません。



よってこのSSには以下の成分が多く含まれますのでご注意を。


・オリ主最強

・独自解釈

・厨二

・原作知識持ち

・原作キャラとのフラグ

・ご都合主義

・作者の自己満足


無理な方はブラウザバック、大丈夫な方はそのままどうぞ。
作者は自他共に認めるドMなので、厳しい感想も問題ありません。
むしろお願いします。
そのほうがモチベーションもあがると思うので。
それではよろしくお願いします。





[25165] 第1話
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:cc32c781
Date: 2010/12/30 02:33
気づいたら闇の中にいた。嘘は言ってない。

俺は部屋でTOEをやってたはずなのに……

フェイクにブルーアース決めてた所だったのに……

いやいや考えることが違うだろう、確かに経験値もったいなかったけど。
……ともあれ先ずは現状確認しておこう
あたりを見渡してみる

暗い

何も見えない
下も上も真っ暗、辛うじて足が地についているということはわかる。
パニックになりそうな頭を静めて考えてみる
普通の大学生の俺にはついていけないですよ……
夢?明晰夢ってやつか?
いやいや、それにしては感覚がリアルすぎるだろう
さっきから体になんともいえないふわふわした感じがする
……これはあれか、死後の世界とかそういうやつか。
まわりは暗いし、音は無いしそれぐらいしか思わなかった。
死んじゃったかー、まぁしょうがないかなぁ
まだまだやり残したこと沢山あったんだけどな、主にテイルズで。
冷静でいられるのが不思議だった。俺、こんなにマイペースだったっけか?
とか考えていると、いきなり空間にスポットライトみたいに光が点いた。

「はーい、こんちわー神様でーす。藤咲 悠人君……であってるかな?間違ってたら大問題なんだけどさ」

出てきたのは白いローブを着たオッサンだった
いやいや、いきなりなんですか?春先に現れる痛い人ですか?
それになんで俺の名前知ってんの?
顔はかなり胡散臭いし、髭は生えてるし、下手しなくても通報レベルの風貌だろ
訝しむ俺を見かねてか、目の前にいる自称神は微笑を浮かべながら

「いやぁごめんね、ちょいと手違いおこしちゃってさぁ、いきなりだけどこっちの世界に転移してもらったよ。」

などと抜かしやがった
うわぁ……理不尽……
え、なに?自分手違いで転移されちゃった系なの?

「他に何系があるか知らないけどそうなんだよね。つきましてはお詫びに他の世界へ行ってもらおうかなーとか思ってるんだけど……いいよね?」

何を言い出すかと思ったらよくある転生モノのSSで聞いたことあるような設定持ち出しやがったよ……
他の世界?異世界でもあんの?

「異世界っていうか君もよく知る世界だよ。ぶっちゃけネギまの世界ね。」

神様もネギま知ってるんだ……
って、漫画の世界に入れんの?しかもネギまの世界?……ktkr!

「簡単に説明すると、君達人間が作り出した漫画とかゲームとかの作品には世界があるわけだよね。それらは君達が認識できないだけで、ちゃんと存在してるってわけ。某煩悩爆発歴史ADVで言うところの『外史』と言われてるやつだね。まぁ、お気に召してくれたようで何よりだよ。そうじゃないとお詫びにならないからね。」

恋姫の設定まで持ち込んでくるとはね、神様もなかなかお好きなようで
まぁ俺も人のこと言えないけど
それにしても、ネギまの世界か……
今まで何回妄想してきたことか……
SSでもこんなのばっかりみてたよ。
そしてこういう設定のSSにありがちなのが……
もちろん能力とかつけてくれるんだよね?ね?

「ちょっと厚かましくなってきたのが気になるけど、もちろんそのつもりだったよ。どんな能力がいい?」

それはもちろん……


テイルズシリーズの能力ちょーだいな!


自分で言っといてなんだけど厨ニ臭ぇ……
でもテイルズ好きだし、かっこいいし……

「テイルズシリーズかぁ、んー全部の作品の能力はちょっとキツイから、一作品ぐらいなら良いよ。」

1つかぁ……TOPも捨てがたいし、TOEも……いやいやTODでも……
ごめんなさい、ちょっと時間かかりそうです

「……決めれないんだったら二つぐらいでもいいよ?」

さすが神様太っ腹ぁ!
やっぱり……TOPとTOEかなぁ
初テイルズだったTOPには思い入れあるし、TOEはさっきまでやってたし……

「まぁ今回はこちらが全面的に悪かったからね、少しぐらい融通は利かせてあげれるよ。それにテイルズは僕も好きだからね」

この神様、俺と似た趣味なんじゃないだろうか
あ、なんか武器とか無いの?丸腰でもファラの体術があるからいいけど、不安かなぁ

「こんなこともあろうかと!ちゃんと武器は用意しといたよ。はいカタログ。」

どれどれ……おお!エターナルソードにエルヴンボウにBCロッド……etc
TOPとTOEの最強クラスの武器……よっしゃ、これで心配は無い!

「防具は流石につけて出歩くわけにもいかないからカットしといたよ。あとグルメマスターとか称号関係もつけといたから詳しくは向こうに着いてから取説読んでねぇ」

最初は胡散臭いとかいってごめんなさい。
実はやり手なんですねあなた。

「責任感じてるしねぇ、ちょっと頑張ってみたよ。まぁ向こうに行っても頑張ってくださいな。ちなみに、身体能力とかはある程度強化して送るから安心してね、性別は変わらないよ。」

TSモノじゃなくてよかった……
さすがに性別が変わるのは抵抗がある
あのーちょっと聞きたいんだけど元の世界の俺ってどうなってんの?

「ちょっと言い辛いんだけど、『最初からいなかった』事になってるんだよね……」

……そっか、別に対して未練があるわけでもないからいいんだけどさ
聞いちゃうとしんみりするもんだな。

「ほんとにごめんね。でもこちらとしても最高の条件で転移させてあげるからそれでチャラにしてください。……そろそろ時間のようだ、君を送るとするよ。」

送るってどうやって?また転移しないといけないのか?

「ただ転移させてもつまらないから、ちょっと君向けに趣向を凝らせてもらうよ。」

ニヤリと大きな笑みを浮かべて、神様は言った。
趣向?
それに俺向けって……なんかいやな予感しかしないんだけど

「まぁまぁ多分この先会うことも無いだろうから付き合ってよ、一回やってみたかったことがあるんだよねぇ。君は合わせてセリフを頼むよ。」

セリフ?
何をするかわからんけど付き合ってやるか……

「ではでは……ゴホンッ」


‐天光満つる所我は在り‐


その一言で全てを察した。
……確かに俺の趣向にぴったりだけどよ
俺がダオス役かよ……。やたらと渋い声を出す神様を見て、俺は苦笑した。


-黄泉の門開く所汝在り-


-出でよ、神の雷-


「何?……それは!?」

「これで最後だ!『インディグネイション』」

「そんな、そんな馬鹿な!?……うわぁぁぁぁ!」

荒れ狂う雷の一撃を食らった瞬間、俺はダオスよろしく光の玉となって、消えた。












〜あとがき〜

はいはいテンプレ乙

最初からやってしまった感がありますが、お気になさらず。
生暖かい目で見守って下さい。

まだまだ描写が甘いので、書き直しが入ると思います。






[25165] 第2話
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:78153ba0
Date: 2010/12/31 03:59
-藤咲 悠人-

次に気がついた時、視界には雲ひとつ無い綺麗な星空が広がってた。
そして背中には地面の冷たい感触、結構な時間仰向けになっていたようだ。
立ち上がって自分が倒れていた辺りを見ると、自分がいた所を中心にして円形に草が無くなっていた。
体に痛みは無い。どうやら、転移は無事に済んだようだ。
次に自分の周りを見渡してみると、ものの見事に木しか存在していなかった。
どうやらここはどこかの森の中らしい。
だが、幸いなことに遠くには明かりが見えている。転移して早々迷子にはならずに済みそうだ。
……こんなことなら神様にどこに送られるか聞いとけばよかった。
SSでありがちな転移先といえば、魔法世界か京都の関西呪術協会の近くか麻帆良学園の近くって所だろうが、まだ検討がつかない。
少しげんなりしたが、後の祭りだろう。
まぁどこに転移されても人のいる所につけばなんとかなる。
とりあえず明かりを目指して進んでみようとして、ふとズボンの右ポケットに手を突っ込むと、小さなメモ帳が一つ入っていた。
表紙は何も書かれておらず、一枚ページをめくってみるとそこには


《付与された能力の使い方》


とページの一番上に書いてある。
そういえば、神様に能力もらったんだったな。忘れてた。
不可思議な事が立て続けに起こったせいか、俺の頭はまだついていけてないようだ。
だってほんの少し前までは普通の大学生だったんだぜ?いくらゲームや漫画が好きであろうと、現実に起きたのなら話は別だ。
まだまだ頭がうまく働かないが、ずっと考えても仕方がない。
気を取り直してメモ帳を見てみよう。


1、術技の発動

・術技に対応する武器等を装備して技名を叫ぶ(TPに注意!)


……まさかの音声入力式かよ。
どこぞのスーパーロボットじゃないんだからさ。
じゃあ何?いちいち「魔神剣!」とか「サンダーブレード!」とか叫ばなきゃいけないの?
すごく恥ずかしいんだけど……
確かにネギまの世界じゃみんな技の名前叫んでるけどさ、それは漫画だからこそであって、リアルでやるのはかなりの羞恥心が伴いますよ。
それにTPってネギま!の世界じゃどういう扱いなんだろうか、いわゆる魔力と呼ばれるものなのか?
神様は身体を強化して送るとか言ってたけど、どこが強化されたかなんて全然わからん。
腕も足も筋肉がついたという訳でもないし、腹に力を入れても腹筋が浮き出るわけでもない、元の世界の自分そのままだ。
腹筋も浮き出ない自分の身体に涙が出そうになるが、元の世界では運動も最低限しかしていなかったから仕方が無い。
ため息を一つついて、メモ帳を捲る。
次のページには《装備、アイテムの取り出し方》と書いてある。
これはありがたい。こんないかにも何か出そうな森の中で丸腰とか不安すぎるからな。
えーっと何々……


・マジカルポーチを持って欲しい装備を頭に思い浮かべながら中に手を突っ込むと、思い浮かべた装備が出てきます(例外有り)。戻すときはそのまま入れてください。


ところで、俺のマジカルポーチを見てくれ こいつをどう思う?

すごく……チートです……

思わずくそみそ風になってしまったが、なっても仕方が無い性能だろこれ!
思い浮かべたアイテムを取り出せるとかバランスブレイカーにもほどがあるよ!
マジカルポーチって歩いてたら食材とか装飾品が出てくるアイテムだったような気がするんだけれど。
これじゃ神様に見せてもらったカタログ意味なかったような……
四○元ポケットじゃあるまいし……
あ、でもどちらかと言えば取り寄せバッグだろうか?見た目的にもね。
無駄なことを考えてしまったが、肝心のマジカルポーチはどこにあるんだろうか。
左ポケットに手を突っ込むと布の感触。
取り出すとどぎついピンクの色のしたものが小さく折りたたまれていた。
広げると、TOPでみたマジカルポーチがそのまま大きくなって出てきたようだった。
これって、普通の男子大学生が持つのはちょっと危ないんじゃないか……?
だってウルトラショッキングピンクだぜ?完全勝利の誓いじゃあるまいし。
また別なことを考えてしまった、俺の頭は現実逃避を望んでるらしい。

深呼吸を一つして、次のページ捲ろうとしたその時、いきなり何かが爆発するような音が近くで響いた。
……どうやらさっきから妙に感じていた嫌な予感が、現実のものとなったようだ。
目の前で木がニ、三本ミシミシと音を立てて倒れる。そして出てきたのはそこらに生えている木と同じくらいの大きさをした化け物だった。


『THE 鬼』


くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」!?
突然すぎて俺の頭はまたパニックに陥ったようだ。
こんな時にも現実逃避に走るなんて、なかなか肝が据わってるんじゃなかろうか。
目の前にいる頭に角を生やした方は人間離れした顔をしていて、どう見積もっても俺の身体より数倍はでかい棍棒を持っていた。
腕なんて俺の身長より太いんじゃないだろうか。
そして、視線を下に下げて俺の姿を捉えると

「んー?兄ちゃんもわしを倒しに来たクチか?」

原作通りの関西弁で俺に聞いてきた。いやいや違いますよ。
返事をする事もできないまま、俺は唖然とした顔で化け物を見上げる。
何も出来ない俺を見て、一方的に話しかけてくる

「なんや一般人か、どこから迷い込んだんだか。運が悪い奴やなぁ。……すまんが術者からの命もあるし生かしてはおけんのよ。ま、こんな時に外へ出て来た自分を呪うんやな。」

俺のことはすぐに殺せると思っているらしい。
鬼が近づいてくる。
俺は震える足に叱咤して、その場から逃げ出そうと持っていたポーチとメモ帳を握り締めて、遠くの明かり目指して走りだす。
しかし、向こうはそれを許してくれないようだった。

「逃げても無駄なのになぁ。往生際が悪いで、兄ちゃん。」

俺の後ろにピッタリとついて、やれやれといった感じに話しかけてきた。
俺は鬼の予想外のスピードに驚き足をもつれさせて地面に倒れこんでしまった。
まだ転移されたばかりだっていうのに……
なにか、なにか起死回生の一手を!!

「さ、これで終いや。ごめんな兄ちゃん。」

その巨大で何か金属で出来ているであろう棍棒を俺に当てようと振り上げるのを見たとき、俺は手に握り締められているマジカルポーチに気付いた。
これしかない。
火事場の馬鹿力とも言えば良いのか、自分でも驚くスピードでポーチの中に手を突っ込んだ。
そして思い浮かべるのは時を操る一振りの魔剣。


(エターナルソード!!)


手に何かを握る感触を得て、俺は無我夢中でポーチから手を引き抜き、上に掲げた。
甲高い音があたりに響いて、思わず目をつぶってしまった。
恐る恐る目を開けると、そこには振り下ろされた棍棒を止めたあまりにも綺麗な剣が俺の手に握られていた。

「……なんや兄ちゃん、ちゃんと戦えるやないか。さっきのは油断させるための演技か?」

いえいえそんなことあるわけ無いでしょうに。
さっきまでガチ逃げでしたよ。あれを演技でやるとか無理がある。
それに自分でも何をしたのかよくわかっていない。
だけど、剣を握ったときからなぜか頭が冷静になっている。
思いっきり力をこめて棍棒を押し出して、身体を起こす。
身体が軽い、どうやら身体能力も向上しているようだ。

「綺麗な剣やなぁ、その剣気に入ったわ。西洋剣っていうんは微妙やけど、術者に持っていけば喜ばれるやろ。」

持っていく気かこのやろう。そうは問屋が卸さないぜ。
さっきのメモ帳の中身が本当ならば、このまま技名を叫べば技が発動するだろう。
身体の奥から湧き上がる高揚感に後押しされて、俺は叫んだ。

「次元斬!!」

叫んだ瞬間、身体が勝手に動いて一瞬で空に飛び上がり、鬼が俺を見上げる形になった。
そして剣に青い光が迸り、操られるように振り下ろして、鬼の身体を棍棒ごと真っ二つにしたのだった。









-桜咲 刹那-

今日も今日とて、私はいつも組んでいる龍宮と共に関西呪術協会からの刺客である鬼達を撃退するため、麻帆良学園から少し離れた森の中を駆け抜けていた。
先ほどから鬼と烏族を何体か倒しているが、いつもの襲撃とは何か違うと感じていた。
どこかおびき寄せるような……そう、囮のような感じが否めない。
しかし、烏族を囮に使うとは思えない。烏族は陰陽術師が召喚する中でもかなり力を持った存在だからだ。
考えすぎかと思ったが、常に最悪の状況を思い浮かべなくてはいけない。隣を走っている龍宮に顔を向けてみる。
私と同い年とは思えない長身、そして端正な顔立ち。褐色の肌が夜に似合っている。
彼女は、稀有な魔眼持ちの凄腕のスナイパー。気配には敏感なはずだ。

「龍宮……さっきから何かおかしいと思わないか?」
「私もさっきから疑問を感じていたよ、刹那。……多分私達がさっき戦った奴らは囮だろう。」

やはりそうか……実戦経験が豊富な彼女が言っているのだから、間違いないのだろう。
龍宮は私とは比べ物にならないほど実戦を経験している。
きっと幼い頃から戦いに参加してきたのだろうが、そんなことは聞けない。
誰にも言いたくない過去の一つぐらいあるだろう。私にだってある。
さっきの奴らの中に烏族がいたのには少々驚いてしまった。
彼らの中に私の出自を知る者がいないとも限らないのだ。
……少々長考してしまったようだ。龍宮が訝しげにこっちを見ている。

「一旦止まろう、龍宮。やはり何かおかしい、気配が無さ過ぎる。」
「……そうだな。囮がいるということは、一匹大物が潜んでいるかもしれない。ひとまず高畑先生に連絡を……」

そう言って進路を逆にしようとした瞬間、前方に巨大な気配が膨れ上がった。
間違いない、大物だ。

「嫌な時の勘というのは当たるものだな、龍宮。」
「ああ、どうやらビンゴのようだな。増援を呼んでいる暇は無い。行くぞ!」

気配を感じた方向に向って走り出す、気配の大きさからして、かなりの強者だろう。私達二人で抑えきれるか……?
考えていても仕方が無い。今日は高畑先生と刀子さんも出張っているはずだ。
敵わなくとも二人が来るまで持ちこたえればいいだけのこと。
お嬢様を守るため、私は足に力を込めて走り出した。





走り出して数分、木と木の間に一匹の大きな鬼がいるのが目視できた。
当初考えていた通り、かなりの強さを持っているのが目に見えてわかる。
ふと、何か別の気配を感じて、目を凝らしてみると、なんと一人の人間が鬼の近くに倒れこんでいるではないか!
倒れているのは気も魔力も持たない一般人。どうやら男の人のようだ、震えているのが見える。
そして鬼は何かつぶやいて、棍棒を振り上げる。下にいる人は、動けていない。  
不味いっ!

「龍宮!」
「わかってる!」

龍宮も気付いて、慌ててライフルを構えるが、全て遅かった。
非情にも棍棒が振り下ろされる。私は直視できず、思わず目をつぶってしまった。
絶対に死んだ。何も出来ない一般人に、あの棍棒を防ぐ術はない。
目を開けるのが怖かった。
自分の目の前で、誰かが殺されるという事態に私の思考は停止してしまった。

「……刹那。見てみろ。」
「え?」

龍宮に促されて恐る恐る目を開けると、そこには振り下ろされた棍棒を剣で防いだ人の姿があった。
ここでまたも私は思考を停止してしまった。
絶対に助からないと思ったのに、助かった。
私と龍宮は信じられないものを見る目で剣を構える彼を見ていた。
龍宮でさえ、その場から動けていなかった。あまりの衝撃に目を奪われている。
そして、次に起こった事象はさらに私達の目を釘付けにする。


「次元斬!!」


鬼の棍棒を押し返して、起き上がったと思えば、いきなり何かを叫んだ。
そしてその瞬間、彼は大きく飛び上がり、青く光る剣で鬼を棍棒ごと真っ二つにしたのだった。








-藤咲 悠人-

鬼を真っ二つにした瞬間、俺の身体は酷い痛みに襲われていた。筋肉痛だ。
無理もない。運動なんか碌にしていないのにあんな無茶な動きをすれば、必然的にそうなる。
痛みを堪えながら、右手に持ったエターナルソードを見てみる。
不思議な、そしてどこか惹かれる魅力がそこにはあった。
目の前を見ると、ちょうど消えていく鬼の姿があった。
そういえば、別に死ぬわけじゃないもんな。
真っ二つにしたにも関わらず、目の前の鬼はしゃべりかけてきた。

「兄ちゃんやるなぁ。わいは鬼の中でも位が高いというに……実力を見誤ったかなぁ」

真っ二つにされてしゃべれるとはこれいかに。
不気味すぎて返事できません。

「負けたけど、なんか気持ちええわ。久々に負かしてくれたからかもしれんな。……まぁ機会があったらまた仕合おう。」

そういって、鬼は消えた。
原作でもそうだが、鬼とかってみんなあんな感じなんだろうか。人?がいい。
ふぅっと一息つくと、何か背中に視線を感じた。
また厄介事ですかそうですか。
さっきの鬼を見つけたような感じに恐る恐る振り返ると、そこには二人の女の子がいた。そして驚いた。
刹那!?それに龍宮!?いきなり原作キャラかよ!
サイドテールに白い肌、そして俺を超える身長に特徴的な褐色の肌。間違いない。
思わず叫びそうになるが、必死に堪える。
誰に出会ってもおかしくないが、これで転移された場所がわかった。
……麻帆良学園の近くか。
刹那と龍宮が行動を共にしているということは、これ以外ありえないはずだ。
それにさっきの鬼……多分関西からの刺客だろう。
だがいきなり原作キャラと会ってしまうとは……まさにテンプレ乙と言わざるを得ない。
森の中で刹那達に出会うというパターンはいろんな二次創作で見たことがある。
考えをはべらせていると、二人が近づいて、俺の目の前まで来た。

「……貴様は誰だ?どうしてここにいる?」

龍宮が警戒しながら話しかけてきた。……無理もない。
彼女達からすれば、俺はイレギュラー。怪しむのも当然だ。

「あなたも関係者なんですか?それにしてもあの鬼を一撃なんて……」

刹那も聞いてくる。二人とも目が怖い。
射抜くような視線を受けて身体が硬直してしまう。
冗談を言っても聞いてくれないだろう。

「聞いているのか?黙っているだけじゃわからんぞ!」

だから怖いですって龍宮さん……聞こえてるからそんなに怒鳴らないで……
何か言おうとして、右手にエターナルソードを持っていることを思い出す。
その時ピコーンっと効果音が鳴りそうな勢いで俺の頭は名案を思いついた。

「あの……俺は……」
「「?」」

何か言おうとしているのが伝わったのか、二人は固唾を飲んで俺を見ている。
だが、二人とも自分の獲物に手をかけているのがわかる。
そんなに危ない事する人に見えますか?
まぁいいや……聞けぃ!俺の凄い思いつき!

「俺は……通りすがりの『じくうけんし』だ!!」

ポーズを決めて叫んだ。……音が止んだ。
あたりにセルシウスが現れたかと思うぐらい、寒さを感じた。
もしくはアブソリュートか。
そして感じるのは虫を見るような目をした龍宮と刹那の無言の圧力だった。
……心が折れそうだ。
五秒ほど経って、じっと二人の反応を待ってると、いきなり眩暈に襲われた。
心臓が激しく脈動し、足が震える。
やばいと思った瞬間、俺の身体は地面に倒れ、視界がブラックアウトした。
刹那や龍宮が何か言っている気がするが、もう俺の耳には何も聞こえてこなかった。









~あとがき~

何とか日付が変わる前に書けました。
ことごとくテンプレ通りの内容になっていきそうですが、そうならないように頑張ります。
誤字、脱字があった場合はお知らせください。
作者も気をつけますが、ちょっとどんくさい所があるので……
今回は長めに書いてみました。

※読み返すと誤字脱字がたくさんあったので、修正しました。







[25165] 第3話
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:78153ba0
Date: 2011/01/02 15:31
-タカミチ・T・高畑-

昨日の襲撃から一夜明け、僕は今麻帆良学園本校女子中等部の保健室にいる。
今日は休日なので、生徒は学校内にはいない。
目の前のベッドで寝ているのは昨日襲撃された森で刹那君と真名君が発見したという青年だ。
背は僕より少し小さいぐらいで、さしたる特徴も無く、普通という言葉が一番似合っている。
刹那君に背負われて運ばれて来た時、彼の身体に目立った外傷はなく、少しの擦り傷と服についた汚れがついていただけだった。
それにしても……僕ぐらいの体格の男性が刹那君のような女子中学生に背負われてくるというのは些かインパクトがあるものだね。
……もちろん気で強化して運んでいるだろうが。
彼について驚くことが二つある。一つは彼の持ち物……彼が眠っているベットの隣のテーブルにおいてある剣とポーチだろうか。
ひとつメモ帳も持っていたが、中を見ても真っ白で何も書いていなかった。
真名君に彼が持っていたという剣を渡された時、酷く動揺した。
何か得体の知れない力を感じたからだ。
魔力がこめられていると思ったが、そんな単純な物ではない。
形状は両刃の西洋剣と呼ばれる類のものだろうが、刃の背には青く光る紋様が施されていて、装飾剣のような印象を受けた。
一目でかなりの業物ということがわかったが、それ以上にどこか惹かれる不思議な魅力がその剣にはあった。
それは剣を運んできた真名君達も同じようで、ずっと剣を見つめていた気がする。
そしてもう一つ、ポーチのことだが、これは先ほどの剣のような事ではなくて彼のような男性が持つにはあまりにも不自然な色をしていた。
蛍光色のピンク……という表現が一番適切だろうか。
持って街を歩いたらかなりの人が注目するであろうそのポーチだが、中身は空っぽで、少々拍子抜けした。
二つ目は彼の身体から気も魔力も感じないということである。

「ただの一般人……か。」

刹那君達の報告で、彼は昨日現れた鬼の中でもっとも強い者を一撃の元に切り伏せたと聞いたが、にわかには信じられなかった。
僕はもちろん、昨日一緒に出張っていた刀子先生も彼のことは知らなかった。
少なくとも魔帆良の中で彼の姿を見たことはない。
寝ている彼には悪いが、検査をさせてもらった。
すると確かに魔力も気も検出されず、ただの一般人という評価が下されたのであった。
一般人に鬼を倒せるような力はない。立ち向かっても無惨に殺されるだけであるが、彼は違った。
怪しいとすれば彼が鬼を切るときに使ったという剣だが、今のところ疑問ばかり増えていく。謎は深まるばかりだ。
学園長に報告したところ、とりあえず彼が目を覚ますまでは何もわからないと言われたので、さっきからベッドの横で待機しているわけだが……非常に眠い。
ついさっきまで襲撃者を撃退して、そのまま一睡もせずに彼を見ているのだ、無理もない。
刀子先生が交代制でやりませんかと申し出てくれたが、丁重に断っておいた。夜更かしは先生ぐらいの年齢のお肌にキズだから……とは口が裂けてもいえない。
刹那君や真名君には一旦帰ってもらった。彼のことは彼女達も気になるようで、目覚めたら連絡すると言っておいた。
身体に異常はないので、そろそろ目が覚めてもおかしくないはずだけど……
そう思ったつかの間、窓から注ぐ朝の太陽の光を浴びる彼の目が眩しそうに開いた。
僕は警戒しながら、彼を見る。彼が襲って来ないとも限らないからだ。
だがその予想は外れて、彼は天井から視線をそらさず、何秒か経ってやっと口を動かした。

「知らない天井だ……。」

彼は僕の姿に気付かず、呆然としながら空中につぶやいたのだった。









-藤咲 悠人-

目を開けた時、眼前には白い天井があった。そして太陽の光が目に降り注いで非常に眩しい。
確かこういうときにつぶやくべき言葉があったはずだ。それは……

「知らない天井だ……。」

某アニメの第二話のようにつぶやくと同時に頭も徐々に覚醒していく。
ここはどこだろうか。森の中で鬼を真っ二つにして刹那と龍宮が現れたところまでは覚えている。
背中にはふかふかのベッドの感触。枕もちょうど良い柔らかさで心地よい。いいものを使っているようだ。
ふと隣に誰かの気配を感じた。首だけを真横に動かす。

「……やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」

微笑を浮かべてこちらを見るダンディズム溢れるオッサンがそこにいた。一目でわかった、タカミチだ。
唐突過ぎて、思わず目を見開いてしまった。会う人会う人みな原作キャラとは……心臓に悪い。
驚く俺を知ってか知らずか、タカミチは椅子から立ち上がり、ゆっくりと話しかけてきた。

「昨夜、君は森の中で意識を失ったのだけれど……覚えているかな?」

好意的な口調で話しかけてくるが、両手はしっかりズボンのポケットの中に納まっているのがわかる。……警戒しているようだ。
刹那といい龍宮といい俺が一方的に知っているだけなので、ボロを出すわけにはいかない。

「はい……覚えています。それで、ここはどこなんでしょうか?」
「ここは麻帆良学園女子中等部の保健室だよ、倒れた君を刹那君と真名君……言ってもわからないだろうけど、女の子二人が運んできてくれたんだ。」

ベッドから半身だけ身を起こしながら返事をする。動いたときにタカミチが一瞬反応したが、何もしない俺を見て直ぐに止めた。何もしませんってば……。

「刹那君と真名君からの報告によれば、君は昨夜森に現れた鬼を剣で切り裂いたと聞いたんだけど……間違いないかな?」
「間違いありません。けれど、無我夢中だったので何をしたのかははっきり覚えていません。」

本当は覚えていたが、嘘をつくことにした。いまさら遅いとは思うが、実力を隠しておいたほうが都合が良いだろう。……直ぐにバレるだろうが。
気も魔力もない一般人が鬼を倒したとなれば、向こうからすれば怪しさ満点だが、今の俺には何も出来ないのでいきなり襲いかかってくることはないだろう。温厚なタカミチならなおさらだ。

「目覚めたばかりで悪いのだけれど、君が目覚めたらこの学園の学園長に連れてくるように言われていてね。君の事はそこで話してもらうよ。」
「……わかりました。あの、一つ聞きたんですけど俺が持っていたポーチと剣とメモ帳知りませんか?」
「ああ、それならテーブルの所にあるよ。だけどこれらはまだ君に渡すわけにはいかないな。とりあえず、ついてきてもらうよ。」

そういって立ち上がるように促すタカミチ。俺はベッドの下にあったスリッパをはいて立ち上がる。
タカミチはドアを開けて保健室を出る。剣やポーチは保健室に置いたままだ。
これからどうしようかと考えながら、俺もタカミチの後に続いて、保健室を出た。





学園の廊下をタカミチの後ろを少し離れてついていく。相変わらず両手はポケットの中に突っ込んだままだ。
少しでも攻撃する素振りがあれば居合拳の餌食になるだろう。もちろんそんなことをするつもりは毛頭ないが。
生徒の姿が見えないところをみると、今日は休日らしい。
これからリアルぬらりひょんである学園長の近衛 近右衛門に会うことになるだろうが、さて……どんな説明をしたら良いものか。
麻帆良に藤咲 悠人という名の人物がいないことなんて直ぐにばれるだろう。
ガンドルフィーニや高音辺りの頭の固い奴らなら直ぐに俺を監禁しようとするかもしれない。
それは非常にまずい。どうにかして衣食住を確保せねば。
そのためなら広域指導員でもなんでもやってやろう。
まずは学園長をなんとか説得しないとな。
考えながら歩いていると、タカミチが立ち止まった。どうやらついたようだ。
こちらを向いて

「さぁ、ついたよ。ここが学園長室。中に学園長がいらっしゃるから、君は僕の後に入ってきてくれ。」

うなずきで返すと、タカミチは扉に向き直りコンコンと二回扉をノックして、扉を開けた。いよいよか……

「失礼します。学園長、彼をお連れしました。」
「ご苦労じゃった。……身体の方は大丈夫そうじゃの。」

リアルぬらりひょんがそこにいた。前に漫画で見た造形そのままだった。本当に妖怪じゃなかろうか。

「はい、大丈夫です。あの、ありがとうございました。迷惑をお掛けしてしまったようで……。」
「それは何よりじゃ。まずは自己紹介といこうかの。わしの名は近衛 近右衛門、麻帆良学園の理事長を務めておる。気軽に学園長と呼んでもらって構わん。君には聞きたいことがあってここに来てもらった。……薄々わかっていると思うがの。場合によっては君の事を拘束せねばならぬが……単刀直入に聞こう、君は何者じゃ?」

初めはゆったりと話しかけてきたが、最後の方は少し緊張しているようだった。
だが、どこか余裕も感じられた。学園最強というのは伊達じゃないらしい。
俺は、さっきから考えていたことを口に出し始める。

「……まず、俺の名前は藤咲 悠人といいます。そして俺はここ、麻帆良の人間ではありません。別の世界から来ました。」

言って二人の表情をみる。少なからず驚いているようだ。

「ふむ……それでは君は魔法世界の人間ということかの?」
「いえ、そうではありません。信じられないと思いますが、今から話すことは全て本当です……俺は旧世界で魔法世界でもない、異なる世界からやって来ました。」

俺の言葉は予想外だったようで、二人の顔は驚愕に染まる。それもそうだろう、いきなり異世界から来ましたとか言われれば誰だって驚く。

「藤咲君といったかの……詳しく話してくれんか?」

動揺を隠し切れない様子で学園長は聞いてきた。

「俺がいた世界はこの世界に対して平行して存在している場所にあって、大部分は同じです。ただ、麻帆良という場所は存在していませんでした。そして、俺はエターナルソード……俺の持っていた剣のことですが、それの力でこちらにやって来ました。言うなれば……『じくうけんし』と言ったところでしょうか。」

はい嘘乙。エターナルソードで第二魔法を顕現なんて出来ませんよ。宝石剣じゃあるまいし。
時間と空間を操るぐらいしか出来ないはず。それでも十分過ぎる能力なんだけどね。
二人は俺の言葉を真剣に聞いている。嘘をつくのは忍びないが、神様云々の話をするよりましだろう。

「異なる世界からの異邦人……か。にわかには信じがたいのじゃが、嘘をついているようには見えんしの……。」
「君が言うことが本当なら、なぜ僕達の世界にやってきたんだい?何か目的があるんじゃないか?」

ずっと黙って聞いていたタカミチが質問をぶつけてくる。流石に黙って聞いてるわけにもいかなくなったようだ。
そして学園長、エトランジェなんていわないでください。永遠神剣なんて持ってませんよ。

「こちらの世界にどうしてやってきたかは俺にはわかりません。俺はただエターナルソードの導かれるまま来ただけですから。」
「剣に導かれるままにか……そのエターナルソードとやらで元の世界に帰ることは出来ないのかい?」
「どうやら、今は機能を失っているようです。普通の剣として使うのなら問題ないようですが。……一つ言っておきますが、俺はあなた達と敵対するつもりは毛頭ありません。今の俺には生きるための要素が欠けています。この世界には俺の戸籍も何もないんですから。」

うう……俺の良心が痛む……。嘘を嘘で塗り固めているけど、まさかここまでうまくいくとは。
自分の演技力を褒めてやりたい。
学園長は俺の話を聞いて少し考えているようだ。戸籍という部分を強調して言ったのでうまく意図を読み取ってくれると助かるんだが……。
俺としてはもう切れるカードはない。大分ごまかしてしまったが、大体のことは喋ったのでこれ以上何か聞かれても困る。
何秒か沈黙が続き、学園長は口を開く。

「藤咲君……まだ、君の事を判断するには時間が足りないようじゃ。一日だけ考えさせてはもらえんかの?幸いなことに明日も休日じゃ。もちろん、寝る場所と食事は用意してあげよう。教員用の寮が何部屋か空いていたはずじゃ。」
「ありがとうございます。素性の知れない俺にここまでしていただいて……。」
「フォフォフォ、構わんよ。君はどうやら信頼できそうな感じがするようじゃしの。まぁ長年の勘という奴じゃ。タカミチ君、彼を寮まで案内してやってくれるかの?」
「わかりました。さ、それじゃあ行こうか。君の持ち物も返してあげよう。」

タカミチに促されて学園長室を出る。俺は事のほかうまくいったと内心ほくそ笑んでいた。
学園長は一日時間が欲しいといっていたが、おそらく内心はもう俺に衣食住を提供する気満々だろう。
そしてそのための条件として広域指導員にでもならせるつもりだろうが……
俺の実力はもう学園長の耳に入っているだろうし、今人材が不足している撃退の仕事にはうってつけだ。
おそらくはここで好条件を突きつけて、後々の面倒な仕事をやらせるつもりなんだろうけど。さすが学園長、強かだ。
別に多少面倒な仕事でも構わない。神様からもらった能力を使えば問題はないはずだ。
まずは生きるための環境を整えるのが最優先。それ以外は後回しだ。
タカミチの隣を歩いて、学園を出る。行きがてらポーチと剣とメモ帳は返してもらった。

「そういえば、まだ僕の自己紹介をしていなかったね。僕の名前はタカミチ・T・高畑。麻帆良学園女子中等部の2-Aの担任兼広域指導員を担当しているよ。気軽にタカミチと呼んでくれ。僕はあんまり口調とかを気にしない主義だから、タメ口でも構わないよ。」
「……わかった。よろしく、タカミチ。」

目上の人にタメ口で話すのは少々憚れるが、せっかくの申し出なので、お言葉に甘えることにした。





他愛のないことを話しながら数十分。寮についた。中々良いところだ。

「さ、ここが教員用の寮だ。中に家電やお風呂等はある程度準備されているはずだ。……使い方はわかるね?向こうの世界と勝手が違うかもしれないけど、説明が書かれているはずだから、わからなかったら読んでくれ。あと、今日はこの寮からは一歩も出ないで欲しい。何かあったら危ないからね。食事に関しては冷蔵庫の中にレトルトのものや台所の下にカップ麺がいくつかあったはずだ、物足りないかも知れないけど、今日のところは我慢してほしい。明日の朝に迎えに来るから、それまで待っていてくれ。」
「何から何まで、ありがとう。助かります。」
「気にしなくてもいいよ。なんたって君は異世界からのお客様だからね。今はまだ明るいけど、君はもう疲れているようだし、ゆっくり休んだほうがいいよ。……それじゃまた明日。」

そういってタカミチは帰っていった。
俺は部屋に入って中を見る。
本当にいい部屋だ。元の世界の俺の部屋の何倍も豪華な気がする。
テーブルにエターナルソードとポーチとメモ帳を置いて座り込む。……思いっきりお腹が鳴った。
そういえば昨夜からなにも口にしていなかったと思い、とりあえずは飯にしようとカップ麺を用意する。
今の時間は……午後の十二時過ぎか。思ったより時間が経っていたらしい。
今のところは順調にことが運んでる。
他の魔法関係者に会えば話は違ってくるだろうが、うまく学園長と話すことが出来た。
明日何を言われるかは行ってみないとわからないが、まずい状況にはならないだろう。
カップ麺を食べながら考える。……中々旨い。
それにしても、なぜあの場面で倒れてしまったのだろうか。
いくら凄い能力を持っていたとしても肉体が伴わなければ意味がない。
二週目で術技引継ぎをしてもTPが足りなければつかえないのだ。
まだまだ確認すべきことはあるが、眠気が俺を襲ってきた。
タカミチの言っていた通り、疲れが出ているようだ。
俺はテーブルに半端なカップ麺を残したまま、眠りについた。









~あとがき~

新年明けましておめでとうございます。
友達と徹マンしてたんで、大分調子悪いですが、何とか書き上げれました。
……親の役満喰らいましたがw
まだあまり話は進んでいませんが、次回も見てくださるとありがたいです。
それでは、皆さんのご多幸とご健康を祈り、新年のご挨拶とさせていただきます。






[25165] 第4話
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:78153ba0
Date: 2011/01/07 23:40
-藤咲 悠人-

身体に妙な暖かさを感じて目が覚める。いつの間にか眠っていたようだ。それにしても、また知らない天井を見ることになるとは。
昨日はたしか飯を食っているときに眠気を感じて、そのまま寝落ちしちゃったんだっけか。
まだ重い瞼を擦りながら起き上がり、壁に付いている時計を見る。まだ午前六時を過ぎたところだった。
昨日寝たのは確か正午過ぎだったから……正味十八時間も寝ていたことになる。いくらなんでも寝すぎだろう。
とりあえず体が汗臭いので、シャワーにでも入ろう。寝ている頭を覚醒させなければ。
脱衣所に入って服を脱ぐ。洗面所で見た俺の裸体は見事に平均的な体つきをしていた。こんな体でよくあんな化け物を切れたと心の底から思う。
ため息をつきながら風呂場に入ってシャワーを浴びる。ちょっと熱めにしたお湯が心地よい。
備え付けてあったシャンプーやボディソープを使って体を洗う。段々と頭が覚醒してきた。
風呂場を出て体を拭く。タオルもふかふかしていた。本当にいたせりつくせりだな。
服は流石に今まで着ていたやつしかないので仕方なく着ることにした。
体も綺麗になったし、頭もスッキリした。……とりあえずは飯にしよう。
時刻はまだ七時前。流石にこんな朝早くからタカミチもこないだろう。
昨日に引き続きカップ麺を食べる。味には満足しているが、少々物足りない。まぁ贅沢を言ってもしょうがないが。
カップ麺を食べながら今までの事を整理してみる。
まだ学園長と会ってみないと俺の処遇はわからないが、大して心配していない。こちらは大丈夫だろう。
そして次に今が原作からどのくらい前なのか知る必要がある。神様は原作が始まる時よりも少し前に送るといっていたはず。
そしてタカミチは『2-A』の担任といっていた。壁に貼ってあるカレンダーは四月になっている。
以上から推測するに現在は2002年の四月ということになる。ネギがやってくるのは三学期だから……まだ半年以上はあるな。
それだけあればかなり準備が出来るはず。だが、別に積極的にネギ達に関与しようとは思っていない。あくまでも脇役として生きていくのが良い選択だと思うのだけれど……学園長が何か言い出すかもわからない。まぁその時にならないとわからんが。
正確な月日は後でタカミチにでも聞いておこう。
それよりも神様からもらった能力の方が重要だ。なぜ俺はあの時倒れてしまったんだろうか。技を出すごとにあんな風に倒れられても困る。
そういえばまだメモ帳を全て見てなかったな。なにか重要なことが書かれているかもしれない。
カップ麺を汁まで飲み干して、テーブルの上においてあったメモ帳をめくってみる。
最初のページには以前見たとおり《付与された能力の使い方》と書いてあって、下には『1、術技の発動』と書かれている。
そこで俺はある事に気付いた。森の中で見たときは薄暗くて気付かなかったがページの下の方に小さく

(ただし発動条件はゲームに依存)

と書かれていたのだ。神様わかりづらいですってば。
このことが本当なら、冥空斬翔剣や極光壁等のチート級の技は俺がかなり危険な状態にならないと使えないということだ。
冥空斬翔剣は確かHPが四分の一以下の時で、極光壁はHPが点滅した時だったはず。
……どうやらお蔵入りになりそうだ。
生命の危機に瀕してまで技を使いたい訳じゃない。その前に回復しているだろう。
それに四分の一以下とか点滅とか曖昧すぎる。だいたい点滅ってどんなときだよ。ウルト○マンじゃあるまいし。
よくよく考えれば危険すぎて使えない術や技がたくさんある気がする。
TOPのブラックホール、メテオスォーム、ビックバン辺りの禁呪文はヤバい。下手するとこの辺の地図が変わるかもしれないし。
同様にしてブルーアースもダメだろう。ブルーアース自体は回復だが、出すまでの過程がヤバい。
プリズミックスターズ辺りで地球が滅びてる可能性がある。惑星間の衝突とかしてるんじゃなかったっけか?
召喚術あたりならまだ許されるだろうが、他にもまだまだ危険な術があるかもしれない。
強すぎる力は味方にも危険視される。アムロがZの時に軟禁されたのと同じだ。
色々考えることはあるが、角が立たない程度の術や技を使っていれば大丈夫だろう。
次のページをめくる。前に見たとおり《装備、アイテムの取り出し方》と書いてあるが、案の定下の方に小さく

(持ち主以外には扱えません)
(消費系アイテムは一種類につき一日一個まで)

と書かれてあった。一日一個でも十分な効力を持つものばかりなので、別に不満はない。
そしてこのポーチは俺専用ということか。
試しに何か出してみようかと思い、ポーチの中に手を突っ込む。

「えーっと、定番のアイテムと言えば……アップルグミ!」

手にグニャっとした感触がして、そのまま握りこんでポーチから手を抜き出す。
手の中には赤い色をしたグミが握られていた。一見して普通のグミだが、果たして体力は回復するのだろうか。
意を決してグミを口に含んでみる。味は名前の通りリンゴの味。なかなか果汁がきいている。
噛んでいる限りでは体に変化はない。少し柔らかくなってきたところで飲み込んでみる。
飲み込んだ瞬間、体にスーっと何かが流れていく感じがして、心なしか体の調子が良くなった気がする。
今の自分の体力がどれくらいかわからないが、一番良い状態ぐらいにはなったんじゃなかろうか。グミ凄いな。
上位版のレモングミもあるので、いざという時の回復に使えるだろう。
続いてメモ帳の真偽を確かめるために、再びポーチの中に手を入れてアップルグミを出そうとしてみる。
すると、少し待っても手に先ほどのような感触はこない、一日一個というのは本当のようだ。
さらにメモ帳をめくる、次のページからはまだ確認していない部分だ。そこには前の二ページと同じようにタイトルと説明が書かれてあった。

《TPについて》

・TPはこの世界における魔力や気のようなもの。ただし本人以外感じることは出来ない
・TPはアイテムでしか増やすことができない
・TPを消費しすぎると体に影響が起きます
・TPは寝ると回復します

ふむふむ、説明に則ればTPは魔力と気に似た性質を持ちながらも、他人には感じ取れない不思議パワーといったところか。
そして注目すべきは三番目の項目。森の中で倒れたのはもしかしてTPを消費しすぎたことが原因だったんじゃないか?
俺の予測が当たっているのなら現在の俺のTPは次元斬一発で倒れたことから、最低でも35位しかないことになる。多く見積もっても50位だろうか。
いやいや、いくらなんでも少なすぎやしないか?
神様は身体能力をある程度強化して送ってくれるといっていたはずだ。
そこである考えがよぎる。もしかして……元が弱すぎるからこんなにヘボいんじゃないか……?
考えてみれば俺は元はしがない大学生。特段スポーツをやっていたわけでもないし、体を鍛えていたわけでもない。
そう考えると、強化してもこの程度……というのも頷ける。
これでバカスカ技や術を連発するわけにもいかなくなった。考えて使うようにしなければ。もうあんな風に倒れるのは御免だ。
次に俺は二番目の説明にも注目する。
『アイテムでしか』ということは、俺がどれだけ体を鍛えたりしてもTPは増えないということだ。
そして、テイルズでTPを増やすアイテムといえば……

「セボリーだ!」

思わず口に出して叫んでしまったが、そういえばこれがあった。
『アイテムでしか』と念を押しているのだから、セボリーで最大値を増やせという事だろう。
レッドの方もあるから、一日最大値の15%づつ増えていくことになる。
今のTPがどれだけあるかわからないが、毎日使いつづければいずれMAXまで伸びるだろう。
早速使ってみようと、俺はポーチから『セボリー』と『レッドセボリー』を取り出す。
取り出すときに気付いたが、どうやらアイテムは一個づつしか取り出せないようだ。二個同時というのは出来ないらしい。
一個づつ取り出してテーブルに置く。出てきたのは緑と赤の草。緑の方を手にとって匂いを嗅いでみる……すごい独特な臭いがするんですけど……。
セボリーってたしかシソ科の植物だった気がする。
ゲームではクレス達にたくさん与えていたが、どうやって食べたんだろう。もしかして生?
食べても死にはしないだろうが、そのまま食べるのは非常に憚れる。

「ええーいっ、ままよ!」

手に持ったセボリーを口に含んで一噛み……辛っ!
思っていた味よりも遥かに不味い、そして刺激的な辛さが俺の舌を襲う。
吐き出すのを我慢して台所にむかう。そしてコップに水を入れて一気に飲み込んだ。

「……はっ、はっ」

なんとか流し込むことが出来た。
少しクレス達の気持ちがわかった気がする……いつも大量に与えてごめんなさい。特にクラースとアーチェ……。
何とか呼吸を整えて、テーブルに戻る。そういえばレッドも残っていたんだった……。
げんなりしたが、これも自身の成長のため。大丈夫、モンスターと戦うよりはずっとマシな筈だ。
自分にそう言い聞かせて、レッドセボリーを口に含んで咀嚼する……。今度は水を用意してある。
噛んだことを後悔した。

「ゴホッ!ゲホッ!カハッ!」

先ほど食べた普通のセボリーの三倍は辛い。流石赤といったところか。
舌が痛い、目が痛い。涙が出てきた。
急いで水で流し込む……なんとか落ち着けた。
簡単すぎると思ったんだよなぁ、食べるだけでTPがあがるなんて……とは思っていたけど、ここまで不味いとは。
やはりそれ相応のリスクがあったということだ。
さて、果たしてTPは上昇するのだろうか。ここまでやってなにもありませんでしたは悲しい。骨折り損だ。
じっとすること数分、心に何か余裕が出来たような、不思議な感覚が俺の体に来た。
これはTPが上昇しているということだろうか。
目には見えないのでなんともいえない。数値化してくれればいいのに。
とりあえずこれを毎日続ければ良いということなんだろうが……しんどい。
へこたれていても仕方がない。下の方には何も書かれていないようなので、気を取り直してページをめくることにする。
次に目に入ってきたのは

《身体能力強化について》

・武器を装備した際に身体能力が上がります。丸腰の時は元の世界にいたときのままです
・身体能力の上昇量は現在のTPに比例します

と書かれてあるページだった。なにそれ何処のガンダールヴ?神の左手ですか、どんどん肩書きが増えていきますね。
心の力に比例しない辺りが違うが……ほとんどパクリなようなものだ。
TPに比例するということは毎日セボリーを食べれば毎日強くなれるということだ。
なるほど、レベルアップという概念がないからこういう形になっているわけか。
純粋に修行とかする手間が省けたが、これじゃ死に物狂いで修行している人達を愚弄しているような気が……。
また罪悪感を感じてしまった。まぁ気にしてもしょうがない。俺はこの世界のイレギュラーなんだから。イレギュラー……便利な言葉。
次のページをめくろうとして玄関のチャイム鳴った。
時刻は八時を回るか回らないかの所になる。タカミチが来たようだ。
玄関のドアを開けるとそこには相変わらずダンディなタカミチがいた。

「おはよう、よく眠れたかな?」
「ああ、おかげさまでな。ちょっと寝すぎたくらいだよ」
「それはよかった、じゃあさっそくだけど学園長の所に行こうか。準備はいいかな?」

タカミチの問いにちょっと待ってと言いながら居間にむかう。
テーブルの上にあるエターナルソードをタカミチに見えないようにポーチの中に入れてメモ帳と一緒にポケットへ入れておく。
不測の事態があったときにも対応出来るようにだ。

「わるいな、待たせちゃって」
「いや、気にしなくてもいいよ。……あの剣はいいのかい?」
「いいんだ、別に闘うってわけでもないんだし」
「それもそうか。じゃ、向うとしよう」

タカミチについて昨日通った道を歩く。ふいに嫌な予感が俺の頭をよぎった。これがシックス・センスというやつだろうか?
さて、何事もなければいいけど……。





タカミチの後をついて歩くこと数十分、何事もなく学園長室の前まで来た。
歩いている間にタカミチに今日の日付を尋ねたら、今日は四月二十一日で第三日曜日だそうだ。
やはり俺の予想は当たっていたようだ。ネギがきたら一気に危ないことが増えてくる。
それまで準備を欠かさずに頑張るとしよう。

「さて、着いたよ。学園長!悠人君を連れてきました。……さ、入って」

二回ドアをノックしてドアを開けて俺に先に入るように促すタカミチ。
中に入ると相変わらず立派な椅子に座った学園長の他に三人の姿があった。
あれは刹那と龍宮と……刀子先生?
黒のタイトスカートがよく似合っている。そして大きな野太刀……間違いない、葛葉 刀子だ。
刹那と龍宮はわからないでもない。しかし、刀子先生はなぜこの面子の中に加わっているのだろうか。
そして、なぜ入った瞬間から三人ともこちらを睨み付けているのでしょうか。俺何にもしてませんよ?
ビクビクしながらも気丈に勤めようと、足を進めて学園長の前まで来る。
一歩近づく毎に視線が鋭くなった気がした。

「おはよう、藤咲君。寮の眠り心地はどうじゃったかな?」
「学園長のご厚意のおかげで、よく眠ることが出来ました。少々寝すぎた気もしますが……」
「フォフォフォ、それは良かった。さて、早速君の処遇について話したいのじゃが……その前にわしの隣にいる三人についても紹介しておこうかの。左から順に、桜咲 刹那君、龍宮 真名君、葛葉 刀子君じゃ。先日の襲撃の際に出張っていて、君のことも全て話してある。特に刹那君と龍宮君は君をここまで運んでくれたのじゃが……覚えているかの?」
「いえ、すみません。よく覚えてなくて……」
「まぁ無理もなかろう。ずいぶんと消耗しておったようじゃしの」

とりあえず嘘をつく。段々と悪びれもなく嘘をつくことが出来るようになってきた。
並び立つ三人は相変わらずこちらを睨んでいる。特に刹那の睨み方は他の二人の比じゃない。胡散臭い男とでも思っているんだろう。別に危害は加えませんって。

「まぁ詳しい自己紹介は後にしてじゃな、君の処遇について話をしたいと思う。一晩考えた結果じゃが……君には戸籍と住む場所を提供してあげようと思う」
「学園長!?」

刹那が吼える。おいおい、茶々を入れるなよ。
せっかく良いところだっていうのに。

「まぁまぁ、落ち着きなさい刹那君。もちろん、タダというわけにもいかん。ある条件……というか仕事を手伝ってくれるのなら、今言ったものを用意してあげようと思うのじゃが。もちろん、お給料も出してあげよう」
「願ってもないことです。こちらとしてもタダで提供していただけるとは思っていませんでしたから。それで、どんなことをすれば良いのですか?」
「それはよかった。仕事についてじゃが……一つは先日のような襲撃者、君が倒した鬼とかじゃな、それの撃退。そしてもう一つは、この学園の広域指導員……タカミチ君と同じ事をしてもらいたいのじゃよ。」
「広域指導員というのはなんですか?」
「この麻帆良という所は学園の大きさもさることながら、生徒数も多くての……血の気の多い連中がどうしても暴れたりケンカしたりしてしまうんじゃよ。それらを取り締まるのが広域指導員じゃ。麻帆良も深刻な人手不足での、生徒数に対して釣り合いが取れていないんじゃ。君の実力なら大丈夫だと思うんじゃがの?……鬼を切った時は無我夢中だったそうじゃが、本当は実力を隠しておったんじゃろ?」
「……お察しの通りです。折を見て話そうかと思っていましたが、バレてましたか」

流石学園長といったところか。原作ではどこか抜けているイメージがあったが、中々鋭い。

「フォフォ、年の功という奴じゃよ。それにしてもなぜ正直に言ってくれなかったのじゃ?別に隠す必要はなかったと思うのじゃが?」
「あの時はあなた達が敵かどうかわからなかったものでしたから。隠しておいたほうが何かと有利じゃないかと思いまして」
「なるほどの。まぁきちんと話してくれたし、そのことについてはもう問いはせん。さて……長くなって申し訳ないが、明日から早速仕事に取り掛かってもらいたい。夜の襲撃者の撃退についてはこちらが用意した携帯に連絡をいれるから、失くさないように持っていてほしい」

机の引き出しから携帯を出して俺に渡す。中々良い機種のようだ。

「わかりました。本当にありがとうございます。それにしても、なぜ襲撃者はここに来るんですか?なにか目的でもあるんでしょうか?」
「ッ!?」

刹那が反応した。無理もない。奴らが狙っているのはこのかだからな。刹那ももちろんわかっているのだろう。

「……襲撃者達がねらっているのは、実はわしの孫娘での。関西呪術協会……この麻帆良と微妙な関係にある奴らが狙いに来ているのじゃよ」
「学園長!話しすぎです!」

やっぱり刹那が吼える。そろそろ耳が痛いです。

「刹那君、いいのじゃよ。藤咲君はわれ等を信用してくれたようじゃし。こちらも彼の信用に答えてやらねばいかん」
「ですがっ!……わかりました」

納得いかない顔をしているが、刹那は学園長の言葉に渋々頷いた。

「さて、諸注意があるんじゃが、聞いて欲しい。それは魔法を秘匿することじゃ。一応認識阻害の魔法があるが、聡い生徒は気付いてしまう可能性がある。気をつけてほしい」
「それについては大丈夫です。心得ています」
「そういえば君は魔法世界のこともしっておったな。行ったことがあるのかな?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、こちらの世界に来たときに大体の魔法の常識等が頭に流れ込んできたんです。……おそらくはエターナルソードのおかげかと思いますが」
「ふむ……君がもっていた剣のおかげか。確かに、異世界のものだけあって何か不思議なものを感じたしの、そのようなこともあるかもしれんな。もう一つあるんじゃが、君が異世界から来たということは隠しておこうと思う。そのほうが都合がいいじゃろ。ここにいる藤咲君とわし以外の四人には口外しないようにいってあるから大丈夫じゃ」
「わかりました。俺も口外しないようにします」

剣については少しいぶかしんでいたようだったが、なんとか納得してくれたようだ。危ない危ない。ボロが出るところだった。
もうひとつの注意は俺も言おうと思っていたことなので話す手間が省けて助かった。

「なら、大丈夫なようじゃの。君の住むところじゃが、昨日泊まった場所そのまま……というわけにもいかなくての。違う場所に部屋を用意しておいたから、そこを使って欲しい。今日の分の食費はわしがおごってあげよう。流石にカップ麺ばかりじゃキツいじゃろうし。さ、タカミチ君とそこの三人に案内してもらいなさい。明日からよろしく頼む」
「重ねて、お礼を申し上げます。明日から誠心誠意がんばります」

思いっきり頭を下げて礼を言う。これは本心からだ。学園長、人が良すぎる。それにしても学園長……そこの三人を押し付けないでくださいよ。胃が痛いです。
俺は学園長から封筒に入った現金を受け取って四人と共に学園長室を後にした。





タカミチの隣を歩いて外に出る。後ろにはいまだに三人の射抜くような視線。前を向いていてもひしひしと感じる。
なんでそんなに目の敵にするかなぁ……俺何にもしてないのに。
刹那辺りなら怒る理由もわかるが、後の二人はまったく検討がつかない。
学園長もちゃんとなだめてくれればいいのに……。
しばらく歩いて人気の少ない公園のような場所に来た。
するとそこでいきなり刹那が俺に話しかけてきた。

「一つ問います。あなたはお嬢様を狙いに来た刺客ではないのですか?」

おいおいいきなり何を言うんだいサムライガール。
さっき学園長の話を聞いていなかったのかい?しかもその質問ってかなりお馬鹿だよ。

「もちろん、違う。俺はそのお嬢様が誰かも知らないし、別に君達と敵対するつもりはない。せっかく職をもらったんだ、俺はそれを全うするだけだ」
「……今はその言葉を信じましょう。ですが、もしも裏切ったのなら、私は全力で貴方を葬り去ります」

こえぇぇぇぇ!なにその凄いドスの利いた声!
ちっちゃい子じゃなくても泣いちゃいますよ?俺とかね。
刹那の声にビビりながらもなんとか返事を返そうとする。
しかしその時、思わぬ方向から声が響いた。

「まぁ刹那、そういきり立つな。納得いかないなら実力を示してやったらどうだ?」
「龍宮……そうですね。藤咲さん、私と一つ手合わせ願います。」

龍宮ーーーーーーー!?なに言ってんだよこのやろう!しかもそれに乗るなよ刹那!
俺が断ろうとしたとき、またも思わぬ方向から声が響いた。

「いえ、刹那。あなたは下がっていなさい。この男とは……私と手合わせしてもらうことにしましょう……ふふふふふ」

刀子さーーーーーーーーん!?いやいや、ふふふふふってなんですか?バトルジャンキーですか!
あなた原作じゃそんなキャラじゃなかったでしょうよ!冷静な剣が売りじゃなかったんですか!
俺の頭はパニック寸前。どうやら学園に来るときに感じた俺の第六感は当たっていたようだった。









~あとがき~

今回は能力の説明と悠人の処遇に関してでした。
能力説明についてですがもう少し説明があります。
仕事は臨教か広域指導員かで迷いましたが、結局広域指導員で落ち着きました。
能力説明のせいで前に比べて文章が長くなってしまいましたが……。
次回はVS刀子先生ですが、持ち前のチートを使ってあっさり倒してしまうかと。
まだまだ展開は遅いですが、次回もよろしくお願いします。








[25165] 第5話
Name: しゅりと◆705b40f2 ID:78153ba0
Date: 2011/01/10 22:45
-葛葉 刀子-

私はイライラしている。そう、どうしようもないほどにです。
普段はクールな先生で通っている私ですが、今回ばかりは我慢なりません。
そもそも私がなぜこんなにもイラついているかというと、最近夫と酷いケンカをして離婚したことに他ありません。
お互いを信じて寄り添っていたのに……ずっと、ずっと添い遂げると思っていたのに、まさか離婚することになるなんて……
夫と結婚する前、私は神鳴流剣士として魔を祓う仕事をしていました。
剣の修行ばかりやっていて……自分を磨くことなんて一切考えていませんでした。
ただ、宗家である青山家の鶴子様がご結婚なさったときは羨ましいと思いました。そのとき私は二十台の前半、結婚なんて……とは思っていましたが、心のどこかで憧れが芽生えていたと思います。
そんな中、仕事の関係で出会った彼……正に一目惚れと言っても過言ではなかったでしょう。
彼は関東の人でしたから中々会うことは出来ませんでしたが、なんとか時間の折り合いをつけて会っていました。仕事もなるべく関東のほうにまわしてくれる様にしたりして……
彼も私を好きになってくれて、初めてのデートの日は慣れないオシャレをして出かけていったっけ。今まで疎かだった家事もちゃんと練習して……手料理を披露して『美味しい』って言ってくれて……。
彼はとてもやさしくて、いつも私を受け止めてくれていました。
プロポーズされたときは嬉しくて嬉しくて、幸せの絶頂だった気がします。
晴れて女の幸せを手に入れることの出来た私……そのときは離婚するなんて思ってもいませんでした。
関東から西洋魔術師である彼の元に嫁いで、七年間共に歩んできてどこで歯車が狂ってしまったんでしょう。
予感はあったんです。何かぎこちない感じがすると思っていましたから。
それに私と夫の間には子供を授かることが出来ませんでした。そのことが夫との関係を悪くしていたのでしょう。
けれど一番悲しかったのは、彼が浮気をしていたことでしょうか。それも私より何歳も年下の一般人女性と……。
そりゃ若くてピチピチな女性の方が良いでしょう。でも、七年も一緒に生活してきて離婚はないでしょう!
そんな夫とケンカをして離婚したのがついこの前のこと。彼は浮気していた女性とも別れて魔法世界に行ったと聞いています。大方、麻帆良で私と一緒の仕事をするのには抵抗があったのでしょう。
ついに私もバツイチ……はぁ。
思い返せば思い返すほどストレスが溜まる毎日。
けれど刺客は麻帆良を襲撃しにやってきます。
極めつけは先日の襲撃の際に鬼に『おばさん』と呼ばれたことでしょうか、私はまだ2X才ですよ!たしかに最近お肌にハリがなくなってきましたけど!
もちろん、その鬼には召喚されたことを後悔させてあげましたけどね……ふふふふふ。
そんな感じで、募っていくイライラを解消できないまま過ごしていたわけですけど……
今、絶好の機会がやってきました。
目の前にいるのは、異世界から来たとかいう胡散臭い男。私達を馬鹿にしているとしか思えません。
ただでさえ問題が多いというのになんなんですか学園長は!しかも、広域指導員?いくら人手が足りないといっても流石に浅慮過ぎるんじゃないでしょうか。ついに耄碌し始めましたか。
相手は魔力も気も感じない、ただの一般人。……刹那達は鬼を切り裂いたといっていましたけど。真偽はわかりませんが、どちらにせよ広域指導員が務まるのか私が見極めてあげましょう。
刹那が手合わせを申し出ましたが、そんなことさせるわけにはいきません。
今はただ、私の内にあるこの気持ちを吐き出したいのです。大丈夫、痛いのはちょっとだけですから。
ふふふふふ、目の前の男は私を楽しませてくれるのでしょうか……?










-藤咲 悠人-

俺は焦っていた。原因は目の前にいる女性……刀子先生のせいだ。
唇をニヤリと吊り上げ、笑いながらこっちを見ている。正直言ってかなり怖い。
刹那が手合わせを申し出たときもかなり焦ったが、まさか刀子先生が言ってくるとは。

「あの……俺達が手合わせする必要はないと思うのですが……」
「これから仲間になる人の実力を知るというのは大事なことです。貴方に広域指導員が務まるか見極めて差し上げましょう……決して!決して私怨が絡んでなんていませんとも!」

ダメだ。これは完璧に闘う流れだ。言っても聞く耳持たないだろう。
それになぜかイライラしているのが見て取れる。血管浮いてますよ。
はっきり言って闘うのは御免だ。能力があるといっても怖いものは怖い。俺は基本的にはヘタレなのだ。
俺が黙っていると、刀子先生は懐から御札を二枚取り出して地面に貼り付けた。

「音消しと人払いの呪符です。これなら周りに気付かれることなく手合わせできるでしょう」
「刀子さん、こういうのはあまり……」
「高畑先生は黙っていてください!だいたい怪しいと思わないのですか!異世界ですよ、異世界!私達をおちょくっているとしか思えません!それに先生も実力を知りたいと思っていたんじゃないですか?」
「うっ……」

タカミチ、そこで黙るな。何とかなだめようと頑張ってくれたが、ダメみたいだった。
ヒステリックな人は怖いね。
どうやら俺も腹を括ったようがよさそうだ。

「……わかりました。お相手しましょう。判定はどのようにしましょうか?」
「ようやくその気になりましたか。判定は相手が降参するまでとしましょう。武器・技等は自由。思いっきりやりましょう。後の処理は学園長にでも任せれば済む事ですし」

魔法関係者がこれじゃあ学園長も苦労するわな……。
さて、できれば穏便に済ませたいところなんだが、手早く相手を降参させられる技あったっけ?

「刹那、審判を任せます。さぁ、異世界の技とやらを見せてもらいましょうか!」

叫びながら、刀子先生は野太刀を構える。
とりあえずは俺もエターナルソードを出しとくか……。ポーチ持ってきて良かった。
ポケットからポーチを取り出して、見せつける様に中からエターナルソードを取り出す。
案の定タカミチが驚いている。

「その剣は寮においてきたんじゃないのかい?それにそのポーチは……」
「まぁ異世界の不思議アイテムということで納得してくれ。アーティファクトのようなものだよ」

ポーチをポケットにねじ込みながら、答える。
隠していてもしょうがないし、問われる前に説明した方が良い。

「準備は出来たようですね……。刹那、合図を」

刀子先生は刹那に合図を促す。もうちょっと待ったりしないかなぁ。
お互いに距離をとり、獲物を構える。

「はい。それでは距離をとって……始め!」
「葛葉刀子、参ります!」

言った瞬間、刀子先生は一気に距離を詰めてきた。瞬動でも使ったのだろう。
あまりの速さに驚いたが、俺の体は勝手に反応していた。どうやら武器を持ったことで知覚能力も上がっているらしい。
繰り出してくる野太刀を防ぐ。身体能力が強化されていなければ一瞬でやられていただろう。

「中々やるようですね。魔力も気も使えないと思っていましたが……」
「その辺は聞かないでください。禁則事項ということにしておきます。それにしても……」
「?」
「――その太刀筋、京の深山に秘して伝わると言う神鳴る剣……神鳴流ですね」
「なっ!なぜそれを……」

驚いてる驚いてる。とっさに瀬田さんのセリフ言ってみたけど結構揺さぶることが出来たようだ。

「埒があきませんね。奥義でも使ったらどうですか?」
「言ってくれるじゃないですか。使わないつもりでしたが、お望みどおり使って差し上げましょう。――雷鳴剣!」

辺りに轟音が響きわたる。俺はとっさに距離をとってうまいこと避けることができた。
ちょっと力込めすぎじゃありませんか刀子先生。地面が陥没してますよ。
刹那達もポカーンとした顔でこちらを見ている。刀子さんが激昂しているのが珍しいのだろう。

「上手く避けたようですが、次は決めていきますよ。貴方も何かしてみたらどうです?何かしら技はあるのでしょう?」

いやぁあるにはあるんですが、人に使ったらどうなるかわからなくて下手に使えないんですよ。
でもこのままじゃこっちがやられちゃうし、なにかいい方法は……あ、そうだ!

「やられっぱなしというのも気に食わないですし、一瞬で勝負をつけてあげましょう」
「なんですって……?さっきから防戦一方の貴方が何を言っているんです?馬鹿にするのもいい加減にしてください!」

離れている刀子先生にむかって話しかける。そして俺はおもむろにポケットからポーチを取り出して、中にエターナルソードをしまった。

「いったい何を?まさか降参するなんてわけじゃありませんよね?まだまだ私の怒りはおさまっていませんよ!」
「まぁまぁそう焦らず。見せてあげましょう。異世界の技を」

軽口で答えながら言うが、刀子先生は俺をストレス発散の道具か何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。自分で言っちゃっているしね。
そして取り出すのはBCロッド。青い宝石が輝く杖。

「それは……杖?貴方魔法を使えるのですか?」
「いえいえ、魔法ではありませんよ。まぁ似たようなものですが」

さて問題はTPが足りるかどうかだけど……大丈夫かなぁ。
そう、俺が使おうと思ったのは『法術』。ミントが覚える癒しの術。その中で使うのはTP消費も激しい屈指の効力を持つあの……

「貴方が何をするのか知りませんが、安々とやらせる訳にはいきません。次で決めます!」

そう言って再びこちらに向かって走り出す刀子先生。さて、上手くいってくれよ……!

「時を統べる神の御技を……今此処に……!タイムストップ!」

叫んだ瞬間、世界の時が止まった。
刀子先生はこちらに野太刀を振り上げたまま動かない。上手くいったようだ。
タイムストップ……時を止めて相手の行動を停止させる法術。
この世界においてもチート級の効力を持つものだろう。ただし六秒程度だが。
俺は秒数を数えながら急いで刀子先生の背後にまわって手に持っている野太刀を剥ぎ取り、そのまま刃を首に当てる。これで後は動き出すのを待つだけだ。
そして時は動き出す……

「えっ……いつの間に!?」

直ぐに首に当てられた刃に気付く刀子先生。そりゃ驚きますよね、知覚出来ないんですから。

「言ったでしょう?一瞬で勝負をつけると。さ、大人しく降参してください」
「くっ……参りました……」
「そ、そこまでっ!」

刹那が試合を止めた。流石にみんなも驚いてるようだ。あ、刀子先生凄い悔しそう。
他の人には気付いたら俺が刀子先生の背後にいた、という風にしか見えてないだろう。時を止めているのだ、瞬動とか縮地とかそういうレベルの話ではない。

「……驚きました。気付いたら貴方が背後にいた……瞬動というレベルではないですね。それが異世界の技なんでしょうか?何か叫んだように思えましたが……」
「それも禁則事項です。いつか教えてあげますよ」
「どうやら貴方のことを見くびっていたようですね。……少し腑に落ちませんが、貴方の実力を認めます」

ふぅ……やっと終わった。
なんとか怪我することなく降参させることができた。TPも足りたようで何より。けれど少し体が気だるい、TP50消費はきつかったか。
野太刀を返して刀子先生の後ろを離れる。少し名残惜しい。
手合わせを見ていた刹那達もこちらに寄ってくる。

「驚いたな……私の魔眼を持ってしても捉らえられなかったとは……」
「ああ、しかし気や魔力を行使したというわけでもないようだ。あんな現象見たことないぞ」

龍宮と刹那が何か話している。これで少しは信じてくれるといいのだが……。

「悠人君、君が何をしたのか僕にもわからなかった。見たところその杖に秘密がありそうだけれど……。それに何か呪文を詠唱していたのかい?」
「ああ、そうだよ。まぁその辺りは秘密で。そうそう使えるわけでもないしね」

そういってポーチの中にBCロッドをしまう。あ、刀子先生地面になんか言ってる。

「まさか、まさかあんな一方的に……今まで修行してきた私はなんだったっていうの……?それも私よりも何歳も若そうな男に……これが年齢の差だっていうの?うぅ……ファイトよ刀子……。大丈夫、生徒はまだ美人だと言ってくれてるわ……」

地面に跪きながらぶつぶつ言ってる。なんかトラウマスイッチはいった?

「あのー、さっきのはインチキ技みたいなものなので気にしないほうが良いですよ……?」
「慰めてくれなくて結構です。……少々お見苦しい所を見せてしまいました」

スッと立ったかと思うと表情はもう冷静なものになっていた。切り替え早いですね。

「……まだ貴方にはちゃんと自己紹介していませんでしたね。私は葛葉 刀子。麻帆良学園で教師をしています。貴方も知っている通り神鳴流の剣士です。……次は負けません。ほら、刹那達も自己紹介なさい」
「私は桜咲 刹那といいます。麻帆良学園女子中等部2-A所属です。刀子さんと同じく神鳴流剣士です。……刀子さんを倒したのには驚きました」
「私は龍宮 真名。一応魔法関係者だが、学園には雇ってもらう形で仕事を受けている。刹那と同じく2-A所属だ。中々興味深いものを見させてもらったよ」

三人三様に挨拶してきた。なんとか認めてくれたかな。そういえば三人にはちゃんとした挨拶をしていなかったな。
ついでにしておこう。

「俺は藤咲 悠人……まぁ学園長から聞いていると思うけど。一応異世界から来ました。よろしくお願いします」

丁寧に挨拶をする。印象は良くしておかないとね。

「さて、紹介も済んだし、そろそろ行こうか。ここからもうすぐだよ。後の処理は学園長に頼もう」

タカミチに促されて刀子先生が地面に貼ってある呪符を剥がす。中々便利そうだねそれ。
そして学園長は頑張れ。
タカミチが携帯で学園長に連絡した後、俺達はまた歩き出した。





公園から再びタカミチ達に案内されてついたのは、人気の無い場所にポツンと立っているログハウス調の造りをした家。
どこかで見たことがあるような気がする。あれ……これってエヴァの家じゃなかったっけ?

「ここは学園長が敷地内にいくつか持っている別荘のようなものらしくてね、これと同じデザインのものを知り合いもここの近くで使ってるんだけどね。今日からここが君の住まいだよ。」

なるほどそういうことか。エヴァも学園長から家をもらったんだろうか。そして近くにいるのかよ。
エヴァに俺を監視でもさせる気か?確かに適任かもしれないけどさ。
離れたところに住まわすというのは学園長らしい決断だ。さすがに住まわす寮も無かったんだろう。

「こんな立派な一戸建てを使っていいのか?ちょっと居たたまれないんだけど……」
「君は特殊な状況におかれている人だからね。住まわせられる所も限られてくるんだよ。まぁせっかくのご厚意だ。受けないのは失礼というものだよ」
「そういうことなら、ありがたく使わせてもらうよ」

せいぜい小さなアパートとかその辺を想像してただけあって嬉しい誤算だ。中に入ると、家電はある程度設置されていた。わざわざ買いに行かなくても済みそうだ。
刹那達三人も驚いている。彼女達は寮住まいだからあまりこういう家には馴染みが無いのだろう。
俺が辺りを見回していると、タカミチが一枚のカードを懐から取り出して俺に渡してきた。

「明日から広域指導員の仕事が始まるわけだけど、これを渡しておくよ。身分証明書みたいなものだ」

渡されたカードには《学園広域指導員 藤咲 悠人》と書かれていた。

「これを見せれば麻帆良の中なら多少の自由が利くはずだ。あと、携帯電話には僕の番号と刀子さんの番号も入ってるから何かあったときには連絡してくれ」
「わかった、何かあったら連絡するよ。仕事はいつからやればいいんだ?」
「そのことなんだけど、仕事の詳しい説明は明日にしたいと思う。明日の十二時頃にあの大きな木……世界樹というのだけれど、そこの前の広場まで来てくれ。道はわかるね?」
「あぁ、大丈夫だ。今日はもう自由にして良いのか?」
「うん、大丈夫。少し散歩してくるといいよ。麻帆良は広いからね、迷わないように気をつけてくれ」
「了解だ。明日からよろしく頼む」

どうやら今日はもう自由に行動して良いらしい。街にでも行きたいな。お金はもらったし、食料品を買い込みたい。久々にうまいものにありつける。
タカミチ達にお礼を言って別れる。刹那が俺をしきりに見ていた気がするが気にしないことにした。
さて、俺も買い物に行きましょうかね。





その後俺は辺りの散策ついでに街に繰り出し、食料品を買い込みにいってきた。帰ってきたときにはもう辺りは暗くなっていた。ちょっと時間かけすぎたか。
散歩をしていて驚いたのは新しい家から数分歩いたところに同じログハウスが立っていたことだ。
おそらくエヴァが住んでいるのだろう。タカミチが近くにいるといっていたが、いくらなんでも近すぎる。
ていうか学園長、近くに似たようなログハウス作るなよ。
だが、このログハウス中々立地条件が良い。少し歩けば街の中にいけるし、学園もそこそこ近い。
そして中も広いし住みやすいし、かなりの良物件だ。
俺は早速買ってきた弁当を食べる。なにか料理でもしようかと思ったが、おいしそうな弁当屋さんを見つけたのでついつい買ってしまった。
明日からはちゃんと料理するようにしよう。
弁当を食べて一息つく。するといきなり机の上においてあった携帯が着信音を響かせた。画面を見るとどうやら学園長からのようだ。まさか襲撃者だろうか。

「はい、藤咲ですけど。どうかなさいましたか?」
「おお、夜にスマンな。別に何かあったというわけではないのじゃよ。ちと君に伝え忘れたことがあってな。君の戸籍の事なんじゃ」
「戸籍ですか、そういえば用意してくれるといってましたね」
「そうなんじゃよ。そのことなんじゃが、君はわしの遠い親戚という様にしておいたからの。もし誰かに聞かれた時はそのように答えて欲しいのじゃ」
「わかりました。ありがとうございます。それにこんな立派な家まで用意してもらって……」
「フォフォフォ、気にすることはない。余っていた物件だったしの。お気に召してくれたようで何よりじゃ。明日から広域指導員の仕事よろしく頼む」
「了解です。それでは失礼します」

電話を切って机に置く。さて、この世界で生きていくための条件はほぼ出揃った。後はネギが来るまでどう準備していくかが問題だが……それは追々考えていくことにしよう。
俺はその後シャワーに入り汗を流した。一つ気になるのが服だ。今着ている服一着しかないので、非常に不衛生なことこの上ない。
まとまったお金が入るまでは服は買えないか……
学園長にまた頼んでみるかな。
俺は携帯のアラームをセットして、備え付けてあったふかふかのベッドに体を預けて眠りについた。










~あとがき~

というわけでVS刀子先生でした。
タイムストップの詠唱部分は必要ありませんでしたがバーサスから使わせてもらいました。
あと、刀子先生の離婚時期についてですが、刹那が三年生の学園祭の時に最近といっていたので、この時期ではないでしょうが、早めてもらいました。
次回から広域指導員の仕事が始まります。
そろそろ金髪ロリ吸血鬼のあの人も登場する……かな?
それでは、次回もよろしくお願いします。










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