憲法の再現答案ですが、作成したのは論文試験の成績発表後です。
再現度は高くないと思われますので、ご了承ください。
読んでいただければわかると思いますが、公法系のスコアが良いのは行政法のおかげです。
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第一、設問1
1、弁護士の主張
本研究の中止命令は、Xの学問の自由(憲法23条)を侵害し違憲である。以下、その理由を述べる。
(1)憲法23条で保障されている学問の自由には研究活動を行うことの自由が含まれる。そして、Xにはこの研究活動の自由が憲法上保障されている。
(2)しかるに、本件中止命令はXが遺伝子治療について研究することを禁止するものであるから、これによりXの研究活動を制約するものである。
(3)そして、かかる制約は「公共の福祉」(憲法13条)に基づく制約として正当化される範囲を逸脱している。
ア、まず、学問の自由は精神的自由権であるところ、経済的自由権に対する不当な制約が民主的政治過程内において自己回復可能であるのに対し、精神的自由権に対する不当な制約は民主的政治過程そのものを傷つけるため自己回復ができない。したがって、学問の自由に対する制約についての違憲性は厳格に判断されなければならない。
具体的には、学問の自由に対する制約は、①重大な法益に対する侵害が、②明白かつ現在している場合に限り合憲であると解するべきである。
イ、本件についてみる。たしかに、本件中止命令の目的は、Xの遺伝子治療研究に伴う事故により患者の生命・身体に危険が生じることを防止することにあるから、①重大な法益に対する侵害を防止する目的はあるといえる。
しかしながら、Xの研究に伴い事故が生じるというのは不確定な事柄であって、患者の生命・身体に対する危険も抽象的なものにとどまるから、②侵害が明白かつ現在しているとはいえない。
ウ、よって、本件中止命令は「公共の福祉」に基づく制約とはいえない。
(4)以上より、本研究の中止命令は、Xの学問の自由を侵害し違憲である。
2、大学側の主張
遺伝子治療研究というのは先端的な学問分野であり、いったん事故が生じた場合には予想できないほどにその被害が大きくなる可能性がある。したがって、抽象的な危険しか認められない場合であっても、研究を中止させる必要性・合理性が認められるべきである。
3、自身の見解
(1)学問の自由が精神的自由権に属するとしても、本件で問題になっているような遺伝子研究は政治的問題とは無関係であり、これを制約したとしても民主的政治過程が傷つけられるわけではない。そこで、審査基準としては、最も厳格な基準よりは緩やかに解すれば足りると解するべきである。具体的には、当該制約について、①目的が重大であり、②より制約的でない他の選びうる手段がない場合に限り、合憲であると解する。
(2)これを本件についてみる。
ア、まず、本件中止命令の目的は、患者の生命・身体を保護することにあるから、その目的は重大であるといえる。
イ、次に手段についてみる。本件中止命令はXが遺伝子治療研究をすることを全面的に禁止するものであるから、学問の自由に対する強度の制約といえる。他方、遺伝子治療研究に伴う事故の発生を防止するためには、Xに対し、再発防止策の策定や定期的な報告を義務付け、場合によっては改善命令を発するなどといった段階的処分を行うことによっても達成することが可能であると考えられる。
そうすると、本件中止命令が、より制約的でない他の選びうる手段のないものとはいえない。
(3)よって、本件中止命令は、「公共の福祉」による制約として許容される範囲を逸脱しており、違憲である。
第二、設問2
1、弁護士の主張
遺伝子情報保護規則6条1、2項は、被験者の知る権利を侵害するものであり、違憲無効であり、したがって、同項違反を理由とする本件停職処分も違法である。以下、その理由を述べる。
(1)憲法21条1項は表現の自由を保障しているが、その趣旨は自己実現・自己統治を可能ならしめる点にある。もっとも、自己実現・自己統治を可能とするためには、情報の送り手のみならず、情報の受け手側の自由もまた保障されなければならない。したがって、知る権利が憲法21条により保障されるといえる。
(2)そして、本件規則6条1、2項は、遺伝子情報について本人以外の者への開示を認めていないから、本人以外は当該遺伝子情報について知ることができない。したがって、同項は本人以外の知る権利を制約している。
(3)よって、本件規則6条1、2項は憲法21条1項に反し違憲である。
2、大学側の主張
(1)まず、憲法は付随的審査制を採用しているのであるから、X以外の者に対する権利の制約についてXが違憲の主張をすることは許されないと解するべきである。
(2)次に、本件規則6条1項、2項は、被験者のプライバシーを保護するための必要かつ合理的な制約である。すなわち、遺伝子情報が流出してしまうと、それを理由にいわれなき差別を受ける可能性があるから、かかる事態を防止するためには本件規則のような制約が必要である。
3、自身の見解
(1)主張適格について
ア、権利が制約されている者以外であっても、訴訟において主張する必要性・合理性があれば、主張することは可能と解するべきである。
イ、本件について見ると、Xは、被験者であるCの求めに応じてCの家族全員の遺伝子情報を開示したのであり、XはいわばCの利益を代弁して主張しているという関係にある。したがって、XにはCの利益を主張する必要性・合理性があるといえ、XがCに対する権利の制約が違憲であるとの主張をすることは許される。
(2)制約の合理性について
たしかに、遺伝子情報が本人と無関係の第三者に知られてしまうと、本人の知らないところでそれが理由で差別が生じることもありうる。しかし、情報を本人の家族に開示する場合には、家族の遺伝子情報を本人と同様に大切に管理するであろうことが予想されるから、これがむやみに第三者に知られることは考えにくい。
他方、家族の健康状況については、自己の健康状況と同様に気を遣うべきものであるから、家族の遺伝子情報についてもこれを知る合理的な必要性があるといえる。
よって、規則6条1、2項は、少なくとも本人の家族に対しても遺伝子情報の開示を認めていない限りで憲法21条1項に反し違憲である。
以 上
(2497字、140点代、2桁前半)