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[25302] (習作)才人→リリカル世界(とらハ成分入り)
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/10 16:54
 これは、ゼロ魔の才人君が帰還してみたら故郷はリリカルな世界だったという話です。

 このようなクロス作品を探しても見つからなかったので、パンがなければケーキを食べればいいじゃない!?
 と、悪い頭で自分で書いてしまえーと思い立ってしまったものです。
 
 読み専でしたので文章力はアレです。酷いというアレだと思います。
 どうかご容赦のほどを。 
 ご注意、ご感想お待ちしております。

 1/7 文章量が短すぎなので、1話から5話まで統合しました。

 1/8 NG投稿  深くは突っ込まないでくださいな。
    二話投稿 タイトル変更。語弊与えて申し訳ないー

 1/9 三話投稿
    三話修正 
 1/10 NG投稿  本文は明日です。
    四話投稿 と思ったら今日のうちに投稿。ペースがまだ掴めません。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 地図に記されたシティ・オブ・サウスゴータ、その南西百五十リーグにある丘でその日
 ──奇跡が起こっていた。

「……馬鹿な!?何が起こっているのだ!」
「はっ速すぎるッ!!魔法が当たらん……!」

 小柄な影が通り過ぎ、次々と落馬する騎兵隊。
 雨あられと降り注ぐ破壊の魔法、だがそこに影はなく……
 兵士の倒れる音が彼の足音となった。

 七万の軍勢。
 文字にすれば、あっけないものである。
 しかし遥か上空、鳥の視点でも借りて見下ろしてみれば、それは大河が流れているようなものだっただろう。
 そして、大河の流れを押し流そうとする小蟻。
 それはひどく滑稽なものであろう。
 どんな覚悟を決めていても、どんな決意であっても、例え大事な存在を守るためであっても。
 いや、それがあるからこそ皮肉の効いた喜劇にしかなるまい。

 ──そう、それが本当に流れを押し止めてしまうまでは。

 幻獣マンティコアに跨った一隊は、各々の騎獣を解き放ち、魔法を放つ。
 どんな強者もこれで葬ってきた、大型の幻獣もこの波状攻撃の前では一分とはもたせない。
 そんな矜持が一秒と続くことはなかった。

 吹き飛ぶマンティコア。肋骨を折られ、あるいは手を折られ、あるいは昏倒させられ、殺されることなく無力化されていく兵士達。

「相棒……どうして殺さねぇ?」

 影──少年の剣からそんな声が漏れる。

「俺は軍人じゃない」

 少年は短く答えた。

 飛び、跳ね、駆け、あるいは敵の間をすり抜ける。
 魔法の矢を避け、炎を剣で切り裂き、ブレイドを纏わせた杖を切り飛ばす。
 槍を構えて突いてきた一隊をさらに低い姿勢で潜り込み、足を払う。
 隊長格と思しき敵を蹴り付け悶絶させる。

 前衛の混乱は激しくなっていった。

「気に入らないな……」

 軍勢をまとめるために配置している風メイジの報告を聞き、軍を率いる将、ホーキンスは呟く。
 曰く、敵は単騎である。
 曰く、敵はメイジである。
 曰く、十数騎の部隊である。
 曰く、エルフの魔法戦士であった。
 曰く、エルフの一部隊である。等等…。
 曰く、復帰した烈風のカリンの攻撃であるという報告には知らず冷たい汗が流れた。

 しかし、歴戦を重ねた将であるホーキンスには最初の報告が最も正しいと判断を下していた。
 速く、強く、的確で、揺るがない。
 気に入らない敵だった。
 まるで子供の頃に読んだ英雄譚のようだ。
 自分には絶対になれない英雄。

「本当に……気に入らないな……」

 一つため息をつき、ホーキンスは再度呟いた。

 中隊長と思しき杖を払い、少年は狙いを定める。
 メイジに囲まれ、混乱の中いまだに整然と構えている一部隊。

「お偉いさんがいそうだな」

 少年は剣の声に返事すらできなくなっていた。
 右腕は炎で焼かれ、全身に負った傷から命が零れ落ちてゆく。
 ──だが、足は前へ、闘志は変わらず、最高の相棒は刃こぼれの一つもなし。
 一分一秒でも混乱させ、押し止め、最愛のものを守るために。
 少年はメイジの群れを目指し風となった。

 ホーキンスは己めがけて飛び込む一陣の風を見た。
 速い。
 杖を抜き呪文を唱え、風の刃を放つ。
 ことごとく避けられ、あるいは剣で切り払われる。
 護衛隊がマジックミサイルを次々と放つ。
 全身にそれを受けながらも、剣士は止まらない。

 剣士は身体ごと剣を突き出し、
 ――その剣がホーキンスに突き刺さることはなかった。

 止まってしまった剣を杖で払うと、剣士はそれが限界であったのか、どうとばかりに倒れこんだ。

「ご無事ですか閣下!」

 護衛隊が駆け寄る。

「大丈夫だ。……戦闘は終了。損害をまとめて報告しろ」

 報告を命じたがホーキンスには概ね理解していた。
 ここまで混乱させられた以上、部隊を整え進軍を再開するまでに三時間といったところか。

 そして倒れ伏した剣士を見下ろす。
 かろうじてまだ息はある。が、もうじき終わるだろう、この英雄の生涯は。
 一つ思う事もあり、馬から降り剣士に近づいた。

「閣下!危険です!」

 手振りで部下を留め、剣士の顔を見る。
 童顔、というよりまだ少年なのだろう。

「──―…見事だった、剣士の少年よ。君の力により我が軍は押しとめられた。確実に数時間は動けまいよ」

 ホーキンスが言った言葉が聞こえたのか、少年の口角が上がる。

「……一つ聞かせてくれ、トリステインの勇敢なる剣士よ。君の名前は何という?」

 ホーキンスは英雄に憧れていた。
 単騎にして一軍をはね返す。幼き頃の夢を追いかけ、軍属に。
 そして現実を知り、一個の才能の限界を知り、生き残る為に軍才に磨きをかけた。
 将にまで昇りつめた今の自分に不足はない。不足はないが──
 目の前にかつて憧れた光が倒れ伏している。
 名前だけでもせめて拾いあげたい。

「……ヒラガ……サイ……ト」

「ヒラガサイト……若き英雄よ。貴方の武名は私の名誉に誓ってトリスタニアに届けよう」

「……好きに……してく……れ」

 ――そして、英雄は力を失った。

「……相棒、思い出したぜ、最後の手段。
 これを使えばなんとかなんだろうがな……」

 剣の呟きを聞いたものは誰もいなかった。




[25302] 一話 ここは現実ですか?
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/08 14:00
 白いカーテンがたなびく。
 清潔な白い壁、ステンレスの鈍い光沢を放つ窓枠、透明で不純物の混じらないガラス。
 手触りの酷くいいシーツ、テレビ、蛍光灯、小さい冷蔵庫。

 そんな風景を才人はぼんやりと見ていた。

「あれは夢だったのかな?」

 そう一人ごちる。
 ピンクブロンドの乙女にキスされ、決闘などもして、でっかいゴーレムを近代兵器で倒したりもした。
 いけすかない髭貴族との戦い、助けられなかった空の国の皇子様。
 ミ・マドモアゼル…、いや思い出すまい。うん、ジェシカは可愛かった。
 そして戦争…
 ゼロ戦を自由自在に操り、飛竜相手に空戦などしていたり。
 貴族の誇りと責任の為に死のうとするゴシュジンサマのために体張ってみたり。

「夢だった、って方が現実的だよなぁ……」

 はぁとため息をつく。

「でも、怪我してんだよなー……」

 切り傷、擦り傷、打ち身、火傷。
 総計192箇所。とはいえ、これだけの傷なのになぜか後遺症の心配はないというが。

「平賀さーん?検診の時間ですよー……って寒っ
 ああ、また窓開けて……、まだ寒いんですから外の空気吸いたいといっても程ほどにですよ?」

 看護師さんが開けっぱなしにしていた窓を閉める。

「ああ、すんません。でもやっぱこの時期の空気は乾いてて気持ちいいんで……」

 びきっと看護師さんのこめかみに判りやすい井桁が浮き上がる。

「言い訳はめーですよ? 平賀さんは心停止までしていたんですから。いくら若くて治りも早いからといっても、安静にしてなくちゃならないのは変わらないんですからね。大体平賀さんは術後の夜に勝手にうろつきまわるなんて前科があるんですから、私たち看護師のほうもそうそう甘い顔ばかり見せていられないんですよ? この間も屋上でダンスなんか踊っていたりして、こちらの苦労も……」

「う……うぐ……、す、すいません……」

 ダンスじゃなくて、どのくらい動けるのか試してたんだけどなー等と思いつつ、地雷を踏み抜いてしまった事を後悔する才人であった。 





 ──―――時は少し遡る。
 
「相棒……死ぬにゃまだはえーだろ?」

 戦場に倒れ伏した才人は薄れゆく意識の中、その声を聞いた。

 ――デルフ?

「思い出したぜ、最後の手段。
 これを使えばなんとかなんだろうがな……」

 ――なんだ、まだ奥の手なんかあったのかよ。

「こいつぁ、初代ガンダールヴ用にブリミルが俺っちに埋め込んだ術式でな。……ま、やるだけやってみるかね」

 ――ああ、任せた。

「――稀人は帰るべき場所へ、在るべきものは在るべき時へ、お疲れ様サーシャ。今までありがとう――」

 ――サーシャ?

「――なお、この音声は自動的に爆発します。ばーい、ぶりみる――」

 才人はひどく身に覚えのある爆発に押され、目の前の銀色の鏡に吸い込まれていくのだった。

 ――幾日が経ったのだろう。
 才人は朦朧とした意識の中思った。
 体の感覚はすでに無い。現実というものがあやふやになってきている。ハルケギニアの言葉が思い出せなくなってきている。ルイズを尊敬する気持ちが抜けてゆく。
 何となくだが直感で分かる。ガンダールヴのルーンが消えてきているようだ。

「……相棒よ、どーやら俺っちもここまでらしーや」

 ――デルフ。

「溜め込んだ魔力がちっとばっかし足りねえ。ま、相棒はしっかり送り届けてやっから心配すんなよ」

 ――馬鹿野郎。

「短ぇと言えば短ぇ間だったが、楽しかったぜ?」

「……で、デルフ……また……」

「……けっけ。そだな相棒。また、な?」

 そして才人は考えることもなくなり、眠りについた。
 気が付いたのは現実に帰還し、傷だらけで倒れているのを通報され、搬送されつつある救急車の中であった。





 その日、平賀家に警察からの一報が入った。

「あ、あの本当ですか……?息子が見つかったと?」

「どうか、落ち着かれてください奥さん。……大丈夫ですか?ええ、では説明しますね。
 ……先日、海鳴大学病院に搬送された患者の身元確認がとれないということですので、行方不明者の写真と照合しましたところ、平賀才人さんと見て間違いないようです。もしもし?奥さん?」

「……あ、ああ……才人が……う、うぅ」

 泣き崩れる母親に、電話越しの警察官も貰い泣きしそうになる。が、警察はbe cool、理性的でなくてはならない。何よりこれからこの、やっと子供が見つかった親に酷い現実を教えなければならない。
 できるだけ優しい口調で話しかける。

「……落ち着かれましたか、奥さん。……どうか気をしっかりもって聞いてください。
 搬送された、と言いましたが、発見された当時、才人さんは心肺停止状態にありましたが、救急車内での蘇生措置により心肺機能は回復。一時的には意識も回復。現在は小康状態です」

 母親は息を呑んで聞いていたが、ひとまず無事であることを聞き、大きく息を吐く。

「ひとまず、詳しいところは医師の方も交えて説明しますので、旦那さんに連絡をとって頂いて、一度連れ立って海鳴大学病院に来て下さい」

 電話を置き、息を整える。
 まずは夫の会社に電話だ。

「もしもし……あ、あなたっ、才人が見つかったのよ!」




 
「ご主人さまにこんな格好させるなんて……あんた最低ね」

 何やら顔を赤らめてぶつぶつ呟いているが、才人の耳は左から右へ聞き流す天才だった。
 否、目の前の少女を見つめるのに脳機能のありうる全てを使っているので聞こえていても意味がなかっただろう。

「る、ルイズ……、そ、その、な。すげえ可愛いぞ」

 艶やかなピンクブロンドはツインテールに纏められ、いつもより5割り増しで白いうなじを垣間見せる。
 滑らかで触ると折れてしまいそうなほどの足にはいつもの黒いニーソ、ではなく危険なほどの網タイツをガーターベルトで止めている。
 そして黒のレオタード。ほっそりとした体をさらに引き締め、妖精のごとくしたてている。
 何よりその頭に見えるのは。
 猫耳。かつてアルビオン戦役中にちらっと見たことのある猫衣装の猫耳であった。無論尻尾も忘れない。

「じ、じゃあ、あの時聞き逃しちゃったから、また言ってみてくれ」

「……う、うるさいわね。あれはあんたがどうしようもなく落ち込んでたから、ご主人様としてはたまにご褒美をあげなくちゃいけないというか……」

 段々小声になっていくルイズ。
 いい感じにのぼせ上がってきた才人は腕を回し、抱きしめ。

「言ったろ、俺はお前が好きなんだって。俺も返事になる言葉が欲しいんだ」

「う……し、かたないわね……
 きょ、きょ、きょ、今日はあなたがごしゅじっ……じ、じ、じ、いいい、言えないわよーっ!!」

 どごん、と全身のひねりを使ったワンインチパンチが才人のレバーを直撃した。

「ぐごお……」

 潰れた蛙のような叫びをもらしうずくまる才人。
 しかしピンクの暴君はその程度で止まるはずがない。

「さっきから使い魔のくせに、いい気になって……。あ、あげくにご、ご主人様と呼ばせようなんて……そ、それに見苦しいものを、お、お、大きくしちゃって
 ば、ば、馬鹿じゃないの!この馬鹿犬!」

 叫びながら鞭のコンボが才人を襲う。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ、夢なら覚めてくれぇぇえええええ」





「あなた、才人がうなされているわ……」

 処置が終わり、集中治療室から出されていた才人だったが怪我の箇所が多すぎたために、凄まじく痛ましい格好だった。
 姿を見た次の瞬間、母親は泣き出し、父は溢れる感情を歯を食いしばって耐える。

「嫌な夢でも見ているのかもしれないな……。母さん、手を握っていてやろう。才人は……子供扱いされて嫌だと言うかもしれんが、な」

 父はうなされる息子を見て、行き場のない怒りを覚える。そして思い出すのは先の刑事との会話だった。


「事件性……ですか?」

「ええ、才人さんの怪我については明らかに刃物、あるいは直接バーナーのようなもので焼かれたような痕があります。
 さらには、巨大な犬の噛み痕に類似した傷も残っていました。」

 絶句する。日常を破壊する非日常。
 平賀夫妻もまさかと思っているのだろう。

「そ……れで、息子は何に巻き込まれたのでしょうか?」

 声がかすれる。

「……本人の意識が回復次第、調書を取らせていただきたいと思っていますが、考えられる可能性としては」

 ぴんと指を立てる。

「何らかの目的があっての拉致、あるいはご両親には申し上げにくいことですが
 本人が犯罪に加担、あるいは騙されて加担させられていた場合、といったところでしょうか」

 実のところ、平賀夫妻にはそう説明したものの非常に不振な点は何箇所もあった。
 血まみれで倒れるまでの目撃者が居ない。
 血を流してから移動した様子がなく、いきなりその場に怪我人が現れたような状況。
 切り傷から凶器の大きさが判別不可能なこと。
 噛み痕も噛み痕で、歯型が84本もあった。犬の歯並びの倍である。
 そして何よりも異常だったのが、それだけの傷を負いながら重要な血管、筋肉の断裂、骨折が存在しなかった事だった。
 そんな異常事態を生み出す存在に刑事は心当たりがある。

「矢沢先生に任せてしまったほうが早いかね……?」

 その呟きは風に溶けて消えた。




「……あれ、白い?」

 目覚めた才人の第一声だった。

「ッ!才人、起きたの!」

「あ、おはよ母ちゃん」

 抜けているのか寝ぼけているのか、才人にかかると感動の再開も台無しだった。
 しかし、現実を認識してくるにつれ、驚きが沸いてくる。

「って、え、ええ!?俺、死んだはずじゃ?……いやでもルイズが迫ってきていや、なんでもない生きていてごめんなさい、俺はモグラだモグラなんです」

 絶賛混乱する才人。
 そして犯罪に巻き込まれたと思っている両親はますますその思い込みを深めるのだった。

「……才人、落ち着いて、大丈夫よ、大丈夫」

 子供の頃にそうであったように、頭を優しく撫でられた才人は、久しぶりの感覚に呆然となり。

「かあ……ちゃん?」

「うん……おかえりなさい、才人」

「あー、なんだ父さんもいるわけだが……」

 しかし悲しや家長。母に空気読めとばかりに睨まれ、肩が落ちる。

「ああ、そ……っか、蛍光灯の光はこんな色だったっけ」

 白い蛍光灯……魔法とはやっぱ違うんだなとずれた納得をする才人だった。





「記憶喪失!?」

 一つ年下の友人の声が病院に響く。

「あー、そんな感じだ。てかあれだよ、異世界に召喚されちゃって、説明しようもないので記憶喪失ぶってんだ」

「はいはい、召喚勇者様乙ー♪
「でも、本当に記憶喪失なんかい?ここ一年のことだけ覚えてねーって普通じゃないっしょ?」

 そう、普通ではない。とはいえ説明できようはずもない。
 才人はこういう時、ギーシュみたいに口がぺらぺら回るといいんだけどなぁ、と一人ごち。
 
「今は何も問題ねえよ。こんな怪我したから大げさに見てるんかもしれんけど、無用の心配だかんな?
 しかし、後輩よ、病院に見舞いに来るのに土産の一つもなしかね? うん?」

 と、話題をそらすことに専念するのだった。

「……フっ、この伊藤洋一を甘く見てもらっちゃぁ困るぜっ!
 さあ、堪能するがいい、驚くがいい、平伏すがいい!ベスト・オブ・懐ゲーたる沙羅曼蛇とファミコンセット!」

 泣いて喜べとばかりに、どこぞの長靴の国の独裁者を越えるドヤ顔で微笑む伊藤。
 病院用にロングケーブルのイヤホンが同梱してある辺りにさりげな気遣いがかいま見えた。
 これでもというべきか、これでこそというべきか。才人の古き友人である。
 
「そりゃ、遊ばせてもらうけどさ……、なんでそんなに上機嫌なんだ?」

 と、妙なテンションの友人に聞いてみる。
 それが才人にとっての毒だとも気付かずに。
 ニヤつきの止まらない友人はそして明かす。最早、口はチェシャ猫である。

「それは――
 平賀先輩様がダブって俺と同年代に入ることになってるからですよ!!」

 せーの。

「な、なんだってー!!」

 考えてみれば一年近く休学していたのだから当然である。
 才人は落ち込んだ。こうかはばつぐんだ。

「……ルイズ、俺ダブっちまったよ……」

 遠い目をして、妄想嫁?の名前を口に出し、ぶつぶつ呟きだす才人。
 煤けた空気が漂い「ああ、また馬鹿犬呼ばわりと鞭か……」などと呟く才人。
 洋一はドン引きである。
 
「ま、まぁなんだ……こういうときは、ちぇりおー!」

 突っ込みというには少々激しい「打ち下ろしの右」が才人の脳天に炸裂した。

「……ぐおぅ……、いきなり何すんだよ、てかちぇりおってなんだちぇりおって、昔懐かしの瓶のあれか!?」

「……かつて、俺が憧れた人の死に際の台詞さ。ちぇりお!という掛け声を広めてくれ、とな……」

 重々しく、拳を握り締めて話す。策謀に身を浸し、殉じるしかなかったあの人の唯一の意思であり遺志。
 それがこの掛け声なのだと。遺志を継ぎ、世界に広めるのだと。

「いや、情報ソースが漫画か小説だってのは分かってるからな?」

 才人は半眼で睨むが、少々悪ノリの過ぎる後輩はどこ吹く風である。

「ま、今更くよくよしたとこで、どうしようもないよ? それにそんだけ傷だらけだったんだから、生きてるだけでめっけもんだって。
 記憶も、思い出してみたらマフィアに監禁されて、そっち系のおじ様たちに弄ばれていたとかだったら忘れてたほうがいいだろしなー」

「さらりとおっかねえ事を言うな……」

「ま、綺麗にまとまったとこで、そろそろ行くわ。可愛い義妹が家で待ってるんでなー」

「綺麗じゃないから、むしろぐだぐだだからな。それとディスプレイの中の義妹だろ」

「たまに這い出てくるがな。んぢゃ、おだいじにー」

 ひらひらと手を振って去っていく。

「……貞子か?」

 才人の突っ込みは不発と化すのだった。

 



 才人の目が覚めてから早くも10日。
 毎日様子を見に来てくれる両親や、友人。
 そして、記憶喪失について何回も聞かれるので一度、全部ぶっちゃけてハルケギニアに召喚されていたと言うと、次の日から担当医師が矢沢医師というダンディな髭先生に変わった。

「しかし、洗脳の可能性とか実験対象?とか聞こえたけど、なんだろな?」

 才人は首をひねるが、考えても仕方ないのでまぁいいか、と思うのだった。
 そんなことを考えながらぶらぶらしていた才人だったが、目当ての場所に着く。

「おぉー……」

 やってきたのは海鳴大学病院トレーニングルーム。
 リハビリや入院患者の運動のための部屋である、が。

「しかし、これは……」
 
 入り口に近い方はまだいい。通常のトレーニング施設である。
 ストレッチマシーンやお年寄りに優しい器具、手足が不自由でもトレーニングしやすいように考案された施設が設置されている。
 しかし、奥のほうには妙な施設が設置されている。

「あれって、確か、は○めの一歩で某スピードスターが使っていたトレーニングマシンでは……」
 
 しかも何故かワイヤーの先についているのは鉄芯入りと思われる短い木刀である。
 そしてその横ではカード認証が必要なルームランナー。
 少し奥を見ると直径が1メートルもありそうな巨大サンドバッグ。しかも何故か才人の拳位置から20センチほど下の位置にくっきりと拳の痕が残っている。

「……回れー右」
 
 とても健全なことに、見なかったことにする才人だった。
 気を取り直し普通のルームランナーを使う。
 ほぼ、包帯も取れ、予後を見ている段階なのですでに運動は許可されている。

「んーじゃ、走るか」
 
 たんたんたんとこれまでたっぷり動けなかった分を発散する。
 しかし、才人は違和感を感じていた。

「……疲れない?」

 1時間ほど時速16キロ設定で走ってみたものの、体が温まってきた程度にしか感じない。
 さらに懸垂を片手人差し指でひょいひょいっとやってみた。……余裕です。
 鼻の穴を膨らませた才人はちょっと試してみようかとばかりに思い切り地面を蹴り飛び上がり……
 天井に頭をぶつけるのだった。

「……いや、こりゃあ」
 
 そう、才人はこの感覚を知っていた。
 心を振るわせるほどに際限なく強く速くなる最強と呼ばれた使い魔、神の左手。

 ハルケギニアではそう呼ばれていた。
 ガンダールヴと。






「検査結果も良好でしたし、問題はないでしょう。おめでとう、退院です」

 才人が検査結果を聞きに言ったらそんな事を言われた。
 しきりに検査し通しだったのだが、問題ないのだろうか?
 才人が不思議な顔をしているので、説明が足りないのだと思ったらしい。
 白髪交じりの髭を軽くなで、矢沢医師は説明を始めた。

「まず、平賀君の体中についた傷は、戦争に参加して戦ったときの傷だったという話だね?」

 まず信じられてないだろうなーと思いながらも「はい」と一応答える才人。
 痛い子扱いされるという未来を描けないのが彼の美点である。

「前にも説明したと思うが、君の体についた傷は総計200箇所近く。どれもが何故か派手な出血の割に傷口そのものは浅いものばかりだったのだよ」

 ルーンの加護が効いてたんだろうな、と才人は思い返す。
 思えば、ワルドの雷撃を食らった時も何とか腕が動きにくくなる程度で済んじまったもんな。と、嫌いな男の顔をつい思い浮かべてしまい、むんと眉間に皺がよる。
 だが、確かにスクウェアクラスのメイジの雷撃を受けて黒焦げにならないどころか腕一本で済んでいるのは、ガンダールヴの並外れた自己治癒能力のおかげだったのだろう。

「……ああ、いや。君の話を信じないわけではない。だが、話してもそうそう信じられることでないのは君も自覚していることだと思う」

 自分の話で不機嫌になったと勘違いした矢沢医師はやんわりとそう諭す。

「君が嘘をついていると思われるかもしれないし、妄想を見てしまったのだと思われるのかもしれない。あるいは、そうだな、荒唐無稽な話になるが、人間の能力開発を主体に研究を進める非合法組織が君の頭をいじくってしまった、なんて思われるかもしれない。」

「…………」

「だから、ね。秘密にしておきなさい。君の過去は君だけのものだし、例えそれが想像力によるものであろうと、何かに巻き込まれたことであろうと、それは君の経験になっているのだろう?」

「…………」

「才人君、寝不足かね?」

「……ふ、ひゃ、ひゃい?」

「……くくっ、全く君を見ているとこちらが心配しすぎてしまっているのかと思ってしまうな」

 ひとしきり苦笑しながら、予後を一応見るから月に一回は来て検査するように、と指示し書類を持たせて送り出す。

「ふう……」

 才人君の遺伝子には障害を起こしてしまう類の変異遺伝子は見当たらなかった。これは遺伝子研究の先達の一人として自信を持って言える事である。
 だがしかし、現実として彼は心肺停止からの蘇生後、その夜には歩き回り、トレーニング施設では天井まで一飛びで届き、ルームランナーの最高速で1時間。息も切らさず走っていたという、在りえない身体能力を持っている事が病院内でも確認されているのが事実だ。かつて在った開発局などが見つけてしまったら、誰にとっても愉快なことにはならないだろう。
 あるいはHGSではなくミオスタチン関連筋肉肥大症のような症例で、未だ未発見のホルモンなどの作用とも考えられる。

「いや、今はそれを考える事でもないか。ただ、ご両親には注意をしておかねばな」

 そう、それに。

「……常識離れと言っても高町さんの一家ほどではないしな」
 




「おう……、久しぶりの我が家だ」

 懐かしさに才人は身を震わせ。

「ただいヴぁっ!?」

「おかえり才人っ……?」
 
 ドアを開けようとして、内側から思い切り開けられたのであった。
 お約束である。



[25302] 二話 日常
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/08 16:30

 学校は休学中(ということになっている)
 家に居ても食っちゃ寝するしかやることがない。
 暇を持て余した才人は珍しく、図書館なる場所を訪れていた。
 そう、ハルケギニアに居た頃、どうしても理解できなかった貴族という存在。平民と貴族という二分化された階級制度、コルベール先生のカツラ。
 最後は余分ではあるが、あの中世ヨーロッパじみている世界、才人がかつて招かれ、恋を、あるいは命を賭けた戦いをした世界を知りたくなったのだ。
 しかし才人には最初の難関が待ち構えているのだった。

「何を読めばいいんだ……」

 そう、海鳴最大の図書館である風芽丘図書館はその蔵書量の多いことでも知られている。
 そして、才人は本といえば、せいぜいが夏休みの課題の読書感想文の時に図書室で借りるか、友達と回し読みしたライトノベルぐらいのものであった。図書室の貸し出しカードの埋まった項目は5つを超えたことがなかった。
 そんな彼はあまりの広さに呆然とし、次いでどこにいけばいいのかとキョロキョロし始める。
 才人は挙動不審の王道を歩いていた。

「ちょっとええかな?そこなお兄さん?」

 そこへ救いの手か泥沼への誘いか、声がかけられた。

「へ?お、俺のことか?」

「せやー、さっきからキョドっとるお兄さんの他おらんでー」

 才人が視線を移すとそこには車椅子の少女が居た。
 栗色な髪のタバサ?と思ったのは才人の秘密だ。薄幸オーラなんて感じてない。

「えーと、黙られると困るんやけどー……」

 くりっと小首を傾げる。

「あ、ああ。すまねえ。昔の知り合いにちっと似てたんでさ」

「ほんま?」

「ああ、ほんまほんま」

「?……でな、お兄さん、初めて図書館来たんやろ?」

「あ、ああ。なんで判るんだ?」

「…………図書館のフロア図の前で10分もキョロキョロしとれば、それしかないと思うんやけど?」

「……10分も経ってたのか」

 煤けた表情で落ち込む。

「……でな、お兄さんがよければ私が案内したるけどどうや?」

「す、すまねえ、頼む」

 明らかに年下の少女に落ち込まされた才人は独力での探索を諦めるのだった。いいもんどうせモグラだもんと内心で思っていたとかいないとか。

「それじゃ、とりあえず第二図書室行っとこかー」

 と、話は決まったとばかりに少女は先導する。

「なんで第二図書室なんだ?」

「ここの図書館の作りはなー、第一が子供向け図書、第二が一般図書に別れとるんや。専門書、資料なんかはその上の番号やな」

 「それとも」とくりっと振り返りのたまった。

「若き青春のパトスを滾らせるようなえっちぃのが目当てやった?」

「違うわっ!」

 あかん、あかんてー私のような美少女にそんな場所を案内させたらあかんてー、とわざとらしくいやんいやんする少女に振り回されるのだった。

「……というか、なんでそんな知識があるんだよ?」

「お兄さん、今は小学生でもレディースコミック買う時代やで?あと昔の推理小説とか今のでもどろどろ三角形モノでも読めば割とえっちぃし」

 ソンナモンデスヨネー。
 何かの幻想を砕かれた才人はまた一層煤ける。

「お、ついたで。ここが第二図書室や」

 第一図書室を通り過ぎ、緩やかなスローブを抜けるとそこは中央に吹き抜けのある、3階建ての立体的な空間だった。
 中央には才人には良くわからないが巨大な像が飾られている。
 平日の昼前なので人はそう見かけないが、収容しようと思えば1万人でも入れそうな空間だった。

「どこのデパートだよ?」

 呆れてそう漏らすと、可笑しそうにしている少女がいた。

「私も初めて見た時そう思ったわ。なんや聞いてみるとな、ここは図書室言うても旧図書館を改装して一室として使ってしまお、なんちゅー贅沢な作りやねん。他の図書室は基本増築した部分やな」

「どんだけ本あるんだよ……」

「企業秘密やー。とりあえずここまでくれば、司書さんに聞けば読みたいもん読めるで」

「おう、ありがとうな、えーと……」

「八神はやてや。どういたしまして平賀さん」

 才人は目をぱちくりとさせた。

「どっかで会ったっけか?」

「病院で平賀さん人気者なんよー。私も通院しとるからよう知っとるで」

「あー……」

 才人には心当たりが有りすぎた。多少なりともガンダールヴの力が残っている事にすっかり調子にのって、トレーニングマシーンたちの記録に挑戦していたのである。
 しかも記録を更新するたびに、K・T、あるいはM・Tという謎の人物がそれを上回ってくる為、対抗意識を燃やし、すっかり病院の名物となってしまっていたのだった。

「最初は話しかけよかどうしよかと迷ってたけど、話しかけてよかったわ、思ってたよりおもろい人やったし」

「褒められてるのか微妙だな……」

「あはは、そりゃ言わんお約束やー。ほな、またどっかで会ったらよろしゅうなー」

 はやてはそう言って、第一図書室に向かって行った。

「あれ、あいつ学校どうしてんだ?」

 才人はひとの事を言えない。二重の意味で抜けていた。





 司書に中世ヨーロッパの辺りのことを判りやすく説明した本はと聞くと、大まかな中世の歴史ならばと「図解で判る早分かり世界史」なるものを才人は紹介してもらっていた。
 だが、あまりにハルケギニアとユーラシアでは成り立ちが違いすぎた。

 ユーラシアにおいて、中世ヨーロッパというものはアジア、中東の勢力が切っても切り離せないものであるからだ。例えば、モンゴル帝国が勢力を伸ばさなかった場合、西と東の商業ルートは細々としたものだったろうし、後のティムール王朝も存在しなくなる。
 またモンゴルに追われたトルコ人がオスマン帝国を作るのかどうかも判らない。オスマン帝国が無くなればドラキュラで知られるワラキア侯も戦いで名を挙げる機会を無くし、吸血鬼の物語すらないのかもしれない。
 オスマン帝国という文字をみるたび、オールド・オスマンが美女のハーレムを作り、尻を撫でているのを想像してしまったり横道にそれながらも、何時ものように30分で投げるようなこともせず、才人は珍しいほどに集中していた。
 そしてこの辺りか、と17世紀あたりの人物図鑑なども紹介しもらい、一つの項目に目が留まった。留まってしまった。
 ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール。フランスの貴族。フランス王ルイ14世(太陽王)の愛妾となり、ラ・ヴァリエールおよびヴォージュール公爵夫人の称号で呼ばれた。

「うぇ?」

 才人の口から間抜けな声が漏れる。似すぎなどというものではない。
 挿絵に描かれている姿絵では細身のルイズとは似ても似つかない、が名前があまりに一致しすぎである。
 さらにギーシュ伯、ルイ14世の愛妾のアンリエッタ・アンヌと浮気?
 似たような名前の連中とちょっと前まで一緒にいた才人は、想像力がかきたてられて仕方がない。
 そして、ジャン=バティスト・コルベール。ルイ14世の財務総監である。

「ふさふさだ……」

 いろいろな意味で力が抜け切った才人は本を閉じ、もう考えないことにするのだった。並行世界?何のこと?
 
「ハルケギニアはハルケギニアだってことだよな」





 その日、才人は浮かれていた。

「よう、おまたせ」

 と、才人が挨拶をする。

「べ、別にそれほど待ってなんか居ないんだからねっ」

 と、返したのは例によって才人の古い友人、伊藤洋一であった。

「……テンションが今マリアナ海溝より深くまで下がったぞ、どうしてくれる?」

「そういう時にはコレコレ、これが効くんですよ」

 そして洋一は懐からごそごそと小袋を取り出し、手の平に白い粉をさらさら。
 ストローで吸い始める。

「ちょ……!、おま、それやべえ!やめろっ」

 慌てて才人が洋一の手を叩き、その小袋を奪い取ると、洋一はドヤ顔で。

「粉末ジュースの素さ★」

 ――ラムネ味だった。
 朝から疲れた才人は、こいつ駄目だ早くどうにかしないと、と毎回ながら思っていた。


「秋葉原ー、秋葉原ー お出口は左側です。総武線各駅停車地下鉄日比谷線はお乗換えです」

 アナウンスが響き、ぷしーと音を立てドアが開く。
 そう、才人はほぼ一年ぶりの秋葉原に来ていた。ノートパソコンを購入するためである。
 何しろ、ノートパソコンはハルケギニアに置いてきてしまったので、現代に帰ってきて情報に飢えた身としては非常に寂しい。試しにと親にねだってみたところ、帰還祝いということであっさりOKがでたのだ。
 問題は……

「あきはばーら♪あきはばーら♪見つけたにょ、何か!」

 などとおでん缶を買いに走る自らの友人であったりするが。
 非常に恥ずかしい。
 ひとまず、他人の振りをして離れて歩くが。
 いつ召喚されても問題ないように、と食料、サバイバルグッズ、武器、物理や化学の基礎の本などをフル装備の才人も目立っている点では同じ穴のムジナだった。

「しかし、せいぜいが1年だってのに変わるもんだなー」

 才人が述懐する。

「そりゃ、この街はなー。それとS区の風俗規制法案がそろそろ適用されそうなんで某K町の店が秋葉原に移り始めてるってよ?」

 「やっぱりこの街は楽でいいのだー」などと言っている猫耳コスプレイヤーに手を振りながら、そんなどこのソースか判らないネット情報を披露する洋一。

「っと、この細い道真っ直ぐ行くと、近いな」

 地図を持っているわけでもないが、迷うことなく進んでいく。今のところ100%の到着率を誇る、洋一の無駄な特技だった。
 秋葉原は一時期乱雑に建物が建った結果、裏道という裏道が迷路状につながっている部分がある。
 そして狭い道を塞ぐように歩いている前の男三人と、先ほど通り過ぎた十字路からでてきた三人によっていつの間にか前後を挟まれる形になっていた。
 前の男達が立ち止まると、後ろの男達は才人と洋一の肩に手を回した。

「よぅ、ちょっといいか?」

 洋一は既に固い顔になっている。
 判りやすい方々の襲来である。
 本来、下げたくない頭は下げない。喧嘩上等な才人であるが、汗臭く戦うのはもう軍勢に突っ込んだことでお腹一杯であった。

「よくねえっ!」

 才人は体をねじり振りほどく。次いで洋一に絡んでいる連中の腕をもぎ離すと。

「逃げるんだよぉおおおおおお!」

「JOJOネタかぁぁぁぁああああ!?」

 二人そろってドッギュウゥゥゥゥンと走り去るのだった。
 
「おい、なんで放しちまうんだ!」

「アホ、すげえ馬鹿力だったんだぞ……」

 もぎ離された手首にはくっきりと痣が残っていた。


「洋一の行ってたなんとかパラダイスってあれじゃないのか?」

 才人の指差す方向には――

「…………あれはパラダイス違いだ。今いろいろ移転してきてると言っただろうが」



[25302] 三話 動き出す?
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/09 19:48
 才人は買ったばかりのノートパソコンに熱を上げていた。
 幸い行方不明になっている間、親が何かの手がかりになるかも、とプロバイダとの契約を維持していてくれたのだ。インターネット環境はすぐに用意できた、両親さまさまである。
 
「しかし、こうして久々に使うとすげえな」

 座ったままで超広範囲の情報をリアルタイムで集められる。
 ハルケギニアで過ごしたからこそ、この文明の利器の素晴らしさを強く感じているのだった。
 気にいったサイトを無造作にお気に入りに登録していく。後で整理に苦労するのだが。
 そして一段落ついたとこでメールチェック。

「うぐぉ……」

 呻く。10ヶ月も放置したのだ。当たり前といえば当たり前だが。

 ――892通のメールを受信中です

 大半はダイレクトメールだった。
 中には、昔登録していた出会い系サイトからのメールも中々多く入っている。
 条件に合う人が見つかりました、というあれだ。
 釣りだね、釣り。うん乙乙……
 などと思いながらも一番最近のメールを開こうとして。

 ルイズの顔が浮かんだ。
 あの、我がままで高慢ちき、本当は弱気で寂しがりのあいつは今頃何やってるかと思う。
 姫様の肝いりでねじ込んだが軍としては敗退。姫様は味方だけど、周りはどうかわからねえしな。
 実際に感じた疑問を図書館で学んだ知識で答えが出る。才人は少しだけ成長していたのかもしれない。
 
 あの公爵がついてるから大丈夫か。

 ぶるりと身を震わせた。





 住宅街の一角に高町家はある。
 道場そしてところどころ妙な穴の開いた庭地と妙に多い盆栽が特徴の何のことはない日本家屋である。
 少なくとも住んでいる方々にとっては。

「なのは、三年生になったが勉強に問題ないか?判らないことがあれば何時でも聞きに来い」

「恭ちゃん、まだなのはも始業式から二日目だよ?他に声の掛けようがないからってそれは……」

「む……」

「にゃはは……」

 そしてエプロン姿の桃子が最後の椀物を食卓に並べる。
 エプロンを取り、席についたのを見て、士郎がまとめる。

「さて、桃子の故郷だと今日、雛祭りの日でな、雛人形はないが気分だけでもと思って用意してもらったんだ」

 鉄板であるちらし寿司と蛤のお吸い物であった。さらに帆立の西京味噌焼き、旬野菜のいりどりなども並ぶ。
 いただきます、と皆で手を合わせて頂く。
 新婚気分満載な夫婦は放置として。

「んーお母さんの料理は何時食べても美味しいわー」

「にゃー」

「なのはが溶け……いや、かーさん、この蛤汁のおかわりを頼みたい」

 そんなこんなで和やかに食卓は進む。

「お姉ちゃんはまだ春休みなの?いいなぁ……」

「聖祥は春休み短いよね」

「でも、それだけアリサちゃんすずかちゃんと話せるの」

 実に楽しげな顔で話す末妹。
 あまりの微笑ましさに家族は総デレである。
 兄は無表情であったが、何かに耐えていたらしく。

「恭ちゃん、素直に洗面所に行こうね」

「……ああ。」

 とんとんと首を後ろを叩かれながら連行されてゆく姿があったとか。





「高町なのは」は夢を見る。

 色も音もなく、何かが止まった世界で少年が戦う。
 暗い、黒い森の中、黒い影が走る。
 少年は必死に影から距離をとり、ときたまカタカタと震える短剣に話しかけている。
 とうとう、追いつかれ。
 影は少年を飲み込もうとし、かろうじて少年が張ったと思わしき障壁が阻む。
 徐々に、徐々に押されてゆく。
 亀裂が入り影は少年を包み込もうとする。
 ただ少年の持っていた短剣が黒い霧を飲み込もうと

 ――PIRIRI♪PIRIRI♪

 む……
 むんん……

「……ぅ、変な夢みちゃった……」

 むー高町家の洗面所はいつも混雑なのです。
 仕事場に急がなくてはならないお父さん、お母さんはあわただしく……

「あ、ほら、なのは立ったまま寝ちゃ駄目だよ」

「ああ、ちょっと美由希そのまま動くな。髪にゴミがくっつきっぱなしだ……ほれ、いいぞ」

 なのははちょっと浮いているというか眠いかもしれません。
 挨拶をしてバスに乗り込みます。今日も元気です。
 アリサちゃんはさっと場所を開けてくれたりして、すごい気遣いスキルだと思います。

 でもすごく、今日は眠いです。





 
「アリサちゃん、すずかちゃん、何か聞こえなかった?」

 少々眠かったとはいえ、いつものように授業を受け、いつものように学校が終わり、塾に行こうとしている時だった。
 なのはが首をかしげる。

「んー、聞こえてなかったけどね」

「なのはちゃんは何か聞こえたの?」

「うん、でも良く聞き取れなかったの……ってあれ?また何か」

 何かを受信したらしく、小走りで進むなのは。

「ち、ちょっと待ちなさいよなのは!」

 アリサが駆けつけた時には、血を滲ませた小動物、イタチ?の傍にかがんで、心配そうにするなのはが居た。

「あ、アリサちゃん!病院知らない?フェレットちゃんが痛そうなの!」

「……っ!待ってなさい。……鮫島、一番近い動物病院を探して。それと迎えの車をお願い。場所?GPSから判断……、ここは大まかにしか出ないんだったっけね……一番近いのは槙原動物病院?地図を送って、今から行くから」

 どうだった?と見つめる二人に対してアリサは答えた。

「ちょっと待ってなさい。鮫島からの連絡待ちだから……っ来た。近いわね。そのフェレットの搬送先にはもう連絡を入れてくれたみたい。ここの通り沿いだから、急いで運び入れるわよ」

 てきぱきと事を片付けていく姿に「相変わらず、アリサちゃんすごいなあ」と感心していたすずか。
 だが、ふと見ると。

「なのはちゃん?」

 フェレットを見つけた本人は何故か近くの草むらをがさごそ探っていた。

「んー、ちょっとまって…………あ、ホントにあったの!」

 ペーパーナイフほどの短刀を拾うのだった。



[25302] 四話 思惑と意思
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/10 16:51
 速成レスキュー少女隊は槙原動物病院に傷ついたフェレットを運びいれ、ほっと一息ついた。
 院長先生が話したところによると、疲労が主に弱っている原因とのこと。ただ切り傷も多いので抗生物質打って三日は病院預かりらしい。

「院長先生ありがとうございました」

「いいえ、どういたしましてー。ああ、それとお代はいいわよ、うちは飼い主じゃない人からは原則とってないから」

「ええ!?」

 と、目を丸くするなのは。
 1年ほど前から店の経理の手伝いをしているなのはの脳裏には赤字という文字が点滅している。
 逆にアリサとすずかはそんなものかといった表情だったが。
 だが院長先生の琴線に触れたらしい。

「そんなに驚かないの。元々好きだからやってる仕事だしね」


 なのはと別れ、帰り道。護衛の都合から二人は同じ場所で迎えを待っていた。

「好きにか……すごい人だね」

 すずかは呟く。

「ん、院長先生のこと?」

「うん、好きだからやってる仕事って素敵だなって」

「そうね。素敵だけど……すずか?」

「うん、アリサちゃん。私達はそんな好き勝手できないよね……」

 何かを諦めたようなすずかに、先ほどからある小さな違和感が苛立ちであったのをアリサは感じた。

「ええとね、すずか。私はまだ諦めてないわよ?」

「え?」

「バニングス家なにするものぞ!……って日本語あってるわよね?後は、成せば成る」

「アリサちゃん……」

「私は私で家なんかに縛られずに生きて見せるわ!なんだったらその時副社長として雇ってあげるからちゃんと勉強はしておくこと!」

「私を貰ってくれるの?」

「ばっちこいね、幸せにしてあげるわ!」

「……………………
 ……ぷっ、くくく、くすくす」
 
 目を合わせ、どちらからともなく笑い始める。
 悩みの多い小学三年生たちであった。



 

 帰宅後、姉の美由希が刀剣好きと知っていたので、拾った短剣を見てもらうなのはだった。

「……これは!…………うん、なるほど」

 ルーペで見、指でコツコツと叩き、重さのバランスを把握する。一通り鑑定し、軽くうなずいた。

「お姉ちゃん何かわかったの?」

「不明ということが判ったけどね」

 どこかでずこというコけた音がする。

「装飾がミリ単位なんてぬるいっていうレベルで刻まれてるのよ。なんというか美術品?鋼の折り返しが繊細すぎて実用品といった感じじゃないわね」

「ふぇ?じゃあどういう剣なの?」

「儀礼用……かな?あとは宗教的な何かかも。ほら、ここなんだか文字らしきものが並んでいるでしょ」

 ルーペで柄頭を拡大したものを見せる。
 普通に見た分には鈍い真鍮のように見えたが、拡大するとびっしりと細かい彫金が刻まれている。

「でも多分、元はかなり長い西洋剣かな?重さのバランスが変だし、柄もそれなりに長かったんじゃないかな。折れるか何かで短剣にしなおしたのかもしれないね」

 はい、となのはに返す。

「でも、なのはが剣に興味持つなんて珍しいね。あ、またフリーマーケットのお手伝い?」

「あ、そ、そうなの、段蔵さんにみてもらってくれって」

 ごめんなさい段蔵さんと古物商のお爺さんに心の中で謝るなのは。
 見た夢を頼りに探してみたら拾ってしまいました、などと言えるわけもなく誤魔化してしまうが、普段から嘘をつき慣れていないなのは、割と一杯一杯だった。
 美由希は一瞬不思議そうな顔をしたが、ま、いいかと切り替える。

 こんこん、と美由希の部屋のドアがノックされた。

「美由希、なのは、そろそろ夕飯だぞ」

 と恭也が外から声をかける。

「はーい」と二人揃って返事をする。

 のこのこのこと部屋を出ていくなのはを見ながら美由希はふと思った。
 あれ、なんで恭ちゃんはなのはが私の部屋に居るって判ったんだろ?





 8時を回り、消灯時間が近い槙原動物病院の一室で異変が起こっていた。
 昼間、少女たちが運び入れたフェレットが入れられていた小動物用ケージの扉が内側からこじ開けられ、中に居たであろう姿は消えていた。


「……良かった、封印は成功してる」

 夜の森に安堵の声が落ちる。
 なのはが短剣を拾った付近で青い涙のような宝石を前にするフェレットの姿があった。

「レイジングハート、格納お願い」

 首につけている赤い宝石が一瞬形を変え、青い宝石を吸い込む。

「やっと一つ目……か」

 突如、横合いから黒い影がフェレットを飲み込んだ。





 平賀家の食卓は才人が戻ってからというもの明るさを取り戻していた。
 母などは茶目ッ気が乗り、オウムライスなどを出していたりしたが。

「母さんや、大分この王蟲は怒っていないか?」

「俺のは目が青いけど母ちゃんどうやって作った……」

「お父さんのはミニトマトを半分に切って乗せてるだけで、才人のは小茄子のピクルスの先っぽね」

 ほらほら、いい色になったでしょ。と残りの茄子ときゅうりのピクルスを食卓に一皿追加。
 聞かれるまで隠しておいたらしい。

 食事を終え満足げにソファに転がる才人。
「頑固なマルトーの日替わり賄い定食」が大好きであったが、やはり子供の頃から慣れ親しんだ味付けに大変満足しているようだ。
 胃を満足させ見るともなしにTVを見る。だらけ真っ最中の時だった。

 ぃいん

 頭の中に何かが響く。

 ぃいぃいん

 チューニングが合ってないラジオが頭の中で響いているようだ。

 ――――……ぇ…ます……れ……――――

 目を閉じ、聞くことに集中する。

 ――――聞こえますか、僕の声が聞こえますか――――

 それは。

 ――――僕の声が聞こえるあなた、お願いです、僕に少しだけ力を貸してください――――

 再び出会った非日常への誘いだった。

 ――――お願い、僕のところへ……時間が…もう……――――

「……いいぜ、貸してやるよ。俺の力だって借り物かもしれねえけどな」

 と不敵な顔で笑い、何かを決めた顔で言う才人。しかし。

「才人?また変な電波でも入ったの?……もう、何か悩みがあったら相談しなさいよ、母さんもお父さんもついてるんだから」
「母さん、もしかして才人は恋人でもできたんじゃないか?あの笑いは」

 両親が近くに居るのを忘れていたのだった。





「とりあえず飛び出してきちまったが……力貸せってもどこに行けばいいんだよ」

 両親の何か心配気でどこか生ぬるい視線に耐えかね、慌てて飛び出してきてしまった才人である。
 服装もパーカーにジーンズという、期せずしていつか銀色の鏡に飛び込んだ時と同じ格好だった。
 一通り頭をひねってみたものの。

「くそ、こうなりゃ勘だ」

 身体能力に任せて走りまわることにした才人である。





「全く、あと一年も待たないって時にこんな事態が起きるなんて!」

 (全くね、でもだからこそ冷静にだよロッテ)

「判ってるわよ、でも本当にタイミングが悪い。今の段階で闇の書の主が魔法に覚醒しちゃったらどうすんのよ、対処できるタイミングじゃないってのに!アリアの方は?」

 (アースラが着任するのは時間の問題ね、お父様が一連の情報を抑えてるけど誤魔化すのにも限度があるから」

「クロすけが来ちゃう……か」

 (判ってるだろうけど、絶対にばれないようにね。ロッテは記録上地球には居ないはずなんだから)

「……ああ、判ってる判ってる。隠密裏に監視するよ。……得意じゃないけど」

 (肉体派だもんね、ロッテは。でも、本当に危なくなったら介入してね、次元震で地球ごと吹き飛ばさせる訳にもいかないから」

「まーいざとなったら、ね」

 リーゼロッテ、リーゼアリアは猫の姉妹であった。あった、という過去形なのは現在はギル・グレアム提督の使い魔であるからだ。
 主であるグレアムが凡そ9年をかけて用意している「目的」の為に交互にこの97管理外世界を訪れているのだった。
 用意さえ整ってしまえば、誰にも知られることなく世界は救われる。表向きはリンカーコア略取による昏倒事件という新聞の1面に載ることはまずない地味な事件があっただけ、で終わるはずだった。
 周到に協力者を作り上げ、政治力、グレアム自身の名声、あげく金で動かせるものは金で、女で釣れるものは女で釣り、「目的」のその日に万全の体制になるよう整えてきたはずだった。
 それが、スクライアの発掘品を載せた船が事故に会ってわざわざこの97管理外世界のわざわざ日本のわざわざ海鳴市に落ちるなんて。

 端的に言って、リーゼロッテは腹が立っていた。

 怒りで注意力が散漫になっていたリーゼロッテは、気づく事ができなかった。いや気づいても魔導師でもない存在にさほどの警戒は払わなかったかもしれない。認識阻害への過信があったのかもしれない。だが。

「猫が飛んでるよおい……」

 ばっちり才人に目撃されていた。

「……えーと、ついて行くかとりあえず」

 空飛ぶ猫の飛んでいった方向へ向かうことにしたのだった。





 そして才人が街中を抜け、住宅地の近くにある森に突き当たった時。

「ubmoooooooooooo!」

 などという形容しがたい雄叫びを上げるそれに追い回される少女の姿が目に映った。

「なんだよあれ……」

 異世界で様々な生き物を見てきた才人だったが、絶句する。

 不定形の黒い巨大な生き物。
 時に狼のような姿になることもあれば、木の形に、黒い雲状になったかと思えば丸い巨体になる。
 何となく少女に引き寄せられているようでもあるが、まるで検討違いの場所に何度も攻撃するなど脈絡がない。
 おかげで少女はかろうじて逃げ回れているが、どのくらい逃げ回ったのか疲労困憊の体である。
 我に返った才人は。

「ちっと抱えんぞっと」

 少女を小脇に抱え逃げ出した。
「へ、ふぇええ!?」などと混乱しているが気にしない。横抱きなどよりは暴れられても平気なのでがっちりホールド。
 少女の足でもある程度逃げることの出来た相手に、多少なりともガンダールヴらしき力の残っている高校生、才人はあっという間に距離を離すことに成功した。

「ここまでくれば平気そうだな」

 と、公園まで来た才人は少女をベンチに降ろす。

「ほい」と買ったココアを渡した。

「えっと、助けてくれてありがとうございます」

 へこりと頭を下げる。

「おう、気にすんなよ。でもなんであんなのに追われてたんだ?」

 首を傾げ聞く才人。

「それは……」

「それは僕から説明させて下さい」

 フェレットがそう割って入った。

「……あれ……もしかしてお前か?ちょっと前に助けて、力を貸してって言ってきたの」

「えっ、……本当だ。あなたもリンカーコアがあるんですね」

 と、言うフェレット。

「……ユーノ君が喋るの驚かないんですね」

 何があったのか少女が若干ぷくれていた。



[25302] NGシーン01 ハルケギニア蹂躙のお知らせ(ゼロ魔×ムシウタ)(ネタ)
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/10 16:50
 アルビオン戦役。
 七万の軍勢相手に一人引かず、抗い続け、トリステインの撤退を助けた英雄。
 後にそう呼ばれるであろう少年は死にかけていた。

 大将、ホーキンスはその健闘を称え、少年はそのまま死にゆく……はずだった。

 最早、流れる血は流れ、頭は動かず、体は冷たさしか感じない。
 死の間際にあってなお彼、才人は落ち着いていた。
 ――ルイズは、逃げられただろうか。
 最後までそんなことを考えているなんて、自分の色ボケ具合に苦笑してしまう。
 実際に唇は1mmも動いていなかったけれど。

 近くで仕留めそこねた敵将が声をかけている。
 声はもう聞こえないけど。

 そんな死に体の才人の顔に蝶の影が被った。

「ねぇ、貴方の夢を聞かせて?」

 ――ゆめ?

「ええ、貴方の夢はどんな夢かしら」

 ――やめろ。

「ああ、ああ……、こんな美味しそうな夢……うふ、うふふ」

 ――おれのなかをみるな。

「うふふ、あはは、うふふふふふふふふははははははははは」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 どぐん、と世界が脈打った。
 現れていけないものが現れる。
 そんな予兆。

「しょ、将軍!?これは?」

「落ち着け!!トリスタニアの新兵器である可能性もある。まずは伝令を各小隊に遣わし、沈静にあたらせろ!
 斥候小隊は分散してAレベルの哨戒体制を敷けい!」

「ほ、ホーキンス将軍!報告します!軍後方の中心部より謎の生物より攻撃を受けております!」

「謎とはなんだ!?正確な報告をせんか!」

「し、しかし、あれは……」

 報告した風メイジは風メイジならではの能力への誇りがある。
 しかし、その鋭敏な知覚で判断した生物は、ハルケギニアにおいて観測されたことのない生物だった。

 それは巨大な蟲。
 竜すら飲み込みそうな巨大な蟲。
 赤く光る一対6眼の目。

「あ、あれは……」

 その時だった。報告より先に人の叫び声が聞こえてきたのは。
 それも一つや二つではない。100や1000ではない。万を越す叫び声だ。
「ぐっ……後方が既に崩れた……だとっ!?」
 それは在りえてはならないことだった。
「一体何を読み違った!?……いや、それどころではない!
 誰か在る!そこの風メイジ、お主は先発部隊の伝令纏めへ伝えよ!」

 ホーキンスは一瞬だけ鼻の頭に皺を寄せ、搾り出すような声で言う。

「先発部隊より順に散開し、撤退せよ。集合地点は南の港町エッダである」

 それは、敗北宣言と言うべきものだった。
「早く伝えろ!ここまで大群の逃げる声が聞こえるとなれば、すでに後方軍3万はただの群集に過ぎん!」

「ハハッ、ただちに!」

 ホーキンスの読み通り。
 後方軍は未曾有のパニックに陥っていた。 

「嗚呼嗚呼あああぁぁぁ!着たぁぁぁああああああああああ!」
「逃げろ、馬鹿野郎!潰されるぞ!」
「落ち着け!静まれーい!」
「なんだ、何がおきてるっ!?」
「俺の腕が、俺の腕がぁぁぁ……」
「兄ちゃん!兄ちゃん!行くなよ俺を置いていくなっ」
「馬鹿野郎!押すんじゃねえ、崖から落ち、落ちるああああああああああああ!」

 この戦役において運良く逃げ延びたアレン・シャーウッドはこう話した。

「あの時は、もう戦うとか逃げるとか以前の問題でした。人がね、こう波になるんですよ。うん?判らない?そうだなあ、身動きなんかもとりようがありませんでしたね。当たり前でしょう?鎧兜もった連中で一方通行におしくら饅頭されてるようなもんでしたよ」

 当時の将、ホーキンスの近習はこう話す。

「あの折は、死ぬかと思いました。パニック?いえホーキンスさまの殺気ですよ。こう近づくと体中の毛が逆立つというんですか?あれが殺気に当てられるって事なんですね。本でしか知りませんでしたが。え?その後?……ぶっちゃけホーキンス様の撤退命令に従って逃げ回るので精一杯でしたよ。後ろを見るのはやめてました。悲鳴しか聞こえなかったので」

 アルビオン戦役における被害報告。
 アルビオン神聖王国 将軍ホーキンス 死亡
   佐官      死亡18 行方不明2
   尉官    死亡28 行方不明32 生存10
   兵    死亡21382 行方不明 22893 生存 31001

 ガリア主導によりゲルマニア、トリステイン、ロマリアの四国同盟、及び北花壇水霊騎士団を設立。戦役を境にして増え始めた能力を持つ平民、通称「虫憑き」の管理を発表。
 戦役時に出現した虫憑き、個体名ヒラガサイトを秘種一号通称「おうむ」と称し、要討伐指定をかけるに至る。

 それはアルビオン戦役後1年が経った時のことであった。



[25302] NGシーン02 魔法少女の奇妙な冒険(なのは×JOJO)(ネタ)
Name: カイマン◆77a8c41b ID:708c337f
Date: 2011/01/10 16:48
「高町なのは」は夢を見る。

 色と音のない世界で男が本を読んでいる。
 なのはには恐ろしいと思えてしまうほどの巨体。そしてなぜか首に横一線の傷が走っている。
 しかし、何より恐ろしいと思ったのはその足元に明らかに女性の死体が倒れていることだった。
 あり得ないほどにやせ細り……いややせ細るという表現すら生ぬるい。
 血を絞りつくされたらこうなるだろう、とでも言わんばかりの体が倒れていた。
 そして首筋に二つの穴。
 これではまるで。
 ――吸血鬼
 そう思ったときだった。
 ぴくんと何かに反応し、男は本から目を上げる。
 そして、まるで刺繍の中から赤い糸だけ探すような目つきで部屋をゆっくり、ゆっくりと見回す。
 何かに気づきこちらを見た。
 
「貴様、見ているな」

――PIRIRI♪PIRIRI♪

 がばっとばかりになのはは起き上がり。
 激しく震えはじめた。
「あ、ああ……あの人は……」
 自分一人の部屋であることを何度も確認するように、キョロキョロと見回す。
「あ、い、居ない……居ないよね……よかった……よかったよぅ」
 あれが夢だったということをやっと頭が理解し始め、落ち着いてくるなのは。
「はあ、酷い夢だったの……、でもあの星の痣……」
 無意識に首のうしろに手を回すなのは。
 そして何かを呟きかけ、口に出すと恐ろしい祟りでもありそうな気分になり、つぐむ。
 星の痣は、高町一家に遺伝する妙な特徴でもあった。
 
 そして――
 この夢を見た日を境に、高町なのはの平穏な日は終わりを迎える。

「御神の母さんが危篤!?」

 ――自らの体から湧き出した茨に囲まれ、蝕まれ、弱っていく美沙斗

「やたがいないせかいなんて、こわれてしまえ」
「嘘……、くおんが肉の芽に寄生されたなんて」

 ――心を囚われ、雷を纏い暴走する妖狐

「不破の血、貴様から貰うぞ」
「……恭也、今は逃げろ。何、親父としてこのくらいはしなくちゃな。死出の旅だ、付き合ってもらうぞ吸血鬼!」
「とーさんっ!?……!!」

 ――家族を逃がすため、爆弾を抱え、敵と共に宙に身を躍らせる高町士郎。

「あ、ありのまま今起こったことを話すね。『私は奴の前で階段を登ったと思ったら降りていた』何を言ってるかさっぱりだと思うけど
 私にもわからない。頭がどうにかなりそうよ。神速の重ねとか催眠とかではあり得ない、もっと恐ろしいことの片鱗を味わったの」

 ――在りえない現象、在りえない敵の力

「数ヶ月前、やつは言った…………
『ゲロを吐くぐらいこわがらなくてもいいじゃあないか……
 安心しろ……安心しろよクロノ・ハーヴェイ』
 ―――くそ……二度と!二度と……負けるものか……」

 ――決意を固める魔法使いの少年

 そして

「あなたの敗因はたった一つ。たった一つのシンプルな答えなの。

 ――あなたは私を怒らせた。レイジングハーーーーーート!!!!!」

 『Star Platinum Breaker』

「シューーーーーート!!!!!」





 平凡な小学三年生だったはずの私
 高町なのはに訪れた突然の事態
 大事な人の思いこそ守りたいものだから
 受け継いだ勇気は魂に
 友との誓いを心に秘めて
 
 魔法少女の奇妙な冒険 リリカル★なのは
 はじまりません


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