【米アリゾナ州トゥーソン】米アリゾナ州トゥーソンで乱射事件を起こしたジャレッド・ロフナー容疑者(22)は、ガリガリにやせ、グレーのスウェットシャツのフードからのぞかせるもじゃもじゃの髪ぐらいしか特徴のない少年だった。フットボールの試合で友人のバンドと組みサックスを演奏したこともあった。
ただ最近、動画配信サイト「YouTube(ユーチューブ)」に投稿した数々の動画では、政府や憲法に対する怒りをぶちまけ、「テロリスト」と自称していた。
当局によると、ロフナー容疑者は8日午前10時過ぎ、一緒に暮らしていたとみられる両親の家から数マイル離れたスーパーマーケット、セーフウェイの駐車場で半自動式の拳銃を乱射。19人が撃たれ、うち6人が死亡した。狙われたとみられる民主党のガブリエル・ギルフォード下院議員(40)は重体だ。
容疑者の友人やクラスメートにインタビューし、オンラインに掲載された大量の画像を見ると、不穏で常軌を逸した行動をとるに至るひとりの若者の姿が浮かび上がった。
マウンテンビュー高校1、2年時代のロフナー容疑者は目立たない生徒だった。「することといえばビデオゲームや音楽の演奏くらいだった」と当時の友人トミー・マリオッティさんは語る。
マリオッティさんによると、ロフナー容疑者は学校のバンド活動に多く時間を割いていた。特に政治的思考はなかったが、ブッシュ政権への不満を口にしていたという。
高校時代のバンド仲間クリスティーナ・ランドバーグさん(21)は、同容疑者がサックスの名手だったと述べた。「本当に上手で、才能があり、尊大だった」という。
一方、小、中、高校でクラスメートだったジョシュ・ハッテン氏は、もじゃもじゃの髪を除いて、「彼のことは誰も気に留めなかった」と語った。
ただ、その後高校3年頃までにロフナー容疑者は変わった。マリオッティさんは、同容疑者が薬物をやっており、成績が下がって退学を口にするほどだったと述べた。4年になっても戻らなかったという。
裁判所の記録によると、卒業するはずだった2007年にはピーマ郡で逮捕され、薬物保持と売買で起訴された。訴えはその後、棄却されている。
ロフナー容疑者は一時期ピーマ・コミュニティ・カレッジに通っていた。マリオッティさんによると、同容疑者はインスタントメッセージで、体を鍛えており軍への入隊を考えていると言ってきたり、ジョギングに誘ってきたこともあったという。地元のエディー・バウアーで働いており、1960年代のゼネラル・モーターズの乗用車シェビーノバに乗っていたという。
同コミュニティ・カレッジの声明によると、ロフナー容疑者は2つのキャンパスの図書館や教室で問題を起こし、カレッジポリスから5回調査を受けた。カレッジポリスによると、キャンパスで撮影されたオンライン動画が発見されたが、この中でピーマ・カレッジを違法だとしていたという。
8日の記者会見でピーマ郡の保安官は「容疑者が心の問題を抱えていた可能性があると信じる理由がある」と婉曲に述べた。
ピーマ・コミュニティ・カレッジの広報担当は電子メールで、ロフナー容疑者が05年から10年10月まで在籍していたことを確認した。同月に、「校則に違反した」ため停学になり自主的に退学したという。
同容疑者の行動を示す証拠の多くはオンラインの動画にある。どの動画もよくできているが難解だ。彼自身は画面に登場せず、何かに対する不満を述べているものもない。ある動画では、フェニックスの入隊センターで陸軍の新兵だったと語っている。だが米陸軍のスポークスマンは、同容疑者が入隊しようとしたが合格しなかったことを確認した。拒否の理由は明らかにしていない。
ここ数カ月、ロフナー容疑者の動画投稿はますます活発化していたようだ。「How to:マインドコントローラー」と題する動画では、「マインドコントローラーであることで、あらゆる信仰や宗教をコントロールできる!」としている。
12月15日にウェブにアップロードされた最後の動画「最後の思索(Final Thoughts)」では、自らを「テロまたはテロリズムを、特に政治的武器として、採用する人物」すなわちテロリストだと呼んでいる。背景に音楽が流れるなか、とりとめのない文がスクリーンに現れるが、同容疑者は登場しない。
その中で、同容疑者は「連邦法を受け入れる必要はない」とした上で、「現行の反逆的な法律をすべて理解するためにはアメリカ合衆国憲法を読め」としている。