2011年01月10日

日本の改新 膨張中国の抑制必要

 第1部識者に聞く 8
 これからはアメリカと中国という原理の異なる2大勢力が世界を分けていく、と考えるべきだろう。工業化が進み、経済的に自立すれば市民が育ち、民主化するという理論が、中国には当てはまらなかった。その異質性について、文明史的な理解が必要になる。
 中国文明は非常に特殊だ。他の文明から明らかな影響を受けないで独自に生まれた。ローマ帝国がそれ以前のギリシャやユダヤから影響をけ、移動・混交することで「雑種強勢」し、新たな文明を生み出したのとは全く対照的だ。
 周から漢の時代に形を整えた中国文明の特徴は、第一に官僚支配だ。この帝国の官僚とは「漢字を知っている人」のことで、詩文に優れることが求められた。普通に使うものだけで数万字ある漢字を覚え、使い方を洗練させるのだから、文人官僚は特権階級を形成し、農民と隔絶する。この点、文字がアルファベットだったために人民の多くが読み書きでき、社会が階層を超えて流動し、縦につながったローマ帝国と異なる。
 第二に、中国では一貫して皇帝独裁が続き、封建制度が成立しなかった。世襲の支配者が地方を治めるのではなく、中央から派遣された官僚が一定期間支配し、成果を上げると戻っていく。これもまた、のちにイタリア、フランスなどの国々に分かれ、地域分権的な「諸国家併存」のヨーロッパを生み出していたローマ帝国と大きく異なる点だ。
 面白いことに、中国は王朝が変わっても、官僚支配は保持した。異民族が武力制圧しても、支配を始めると漢文を使うようになる。この構造は、知識を持つ共産党官僚が支配階級をなし、都市民と農民とを隔離したという意味で、中華民族共和国にそのまま受け継がれている。
 ところが今、中国は史上初めての問題に直面している。一つは、簡体字という読みすい漢字を作って農民も文字が読めるようになった上、IT技術の発達で様々な情報が入るようになったこと。もう一つは、海に関心を持ち始め、海軍力の強化に乗り出したことだ。
 社会が縦につながり、農民が都市民との格差を知るようになると、経済的平等を求めて不満が高まる。また海洋支配は陸地支配と比べお金がかかるので、かつての英米のように抜群の経済力を持たない限り、歴史的に見れば国家の早い衰退を招く。そう考えると、より民主主義的な体制に近づくことがなければ、中国は10~15年の間に、大きな矛盾を露呈するかもしれない。
 どう展開するかは分からないが、日本は日米同盟を東アジアの国際公共財だと認識し、中国の冒険主義をあらかじめ抑止しておく必要がある。

 知的社会の中核育てよ
 一方のアメリカは、他の文明が移植・混交して「雑種強勢」した点で、ローマ帝国に似ている。しかも近代的な自由を生んだ「諸国家併存」の西欧文明が移植された。文明というのは雑種強勢すると生産力を増やす。それゆえ今後は、中国も開放を進めて、欧米の後を追うべきだろう。
 日本も実は、東洋にありながら西洋型の国。仮名を使うために社会が縦につながり、支配階層はたびたび交代した。江戸時代には各藩が地方を世襲支配したように、半ば諸国家併存が実現した。社会の体質からいって、中国よりもアメリカに近い。とすれば、日本はまずアメリカと協調するのが自然だろう。
 その上で日本がどのような社会を目指すべきかといえば、もはや「知識基盤社会」しかない。製造業などで新興国に抜かれても、日米は第4次産業とも呼ばれる知識産業を強めていくことができる。何も抽象的な話ではなく、農業にしても医療にしても、頭脳を投入して産業として発展させるということだ。
 アメリカは知的生産力が衰える気配がなく、その中心をなすアメリカの大学は世界で圧倒的に強い。英語が国際語になっているという強みもある。中国には弱みががある。知識を持つほど自由にものを言いたくなるのが知識人であり、中国が知識産業を強くしようとすれば、自らの足をすくうことになる。
 これに対し、日本は知識基盤の弱さが心配される。日本は戦後、一貫して「高学歴低学力」の人間を増やす教育制度を広げてきた。平等を追求するあまり、小中学校での落第・留年を一切なくした。教室で寝ようが騒ごうが、上の学校に入れる。その結果、分数の足し算ができず、常用漢字が読めない大学生が大量に生まれてしまった。
 となれば、教育制度を改め、「知識社会のコア(中核)」となる人間を育てていくほかない。基礎学力を徹底的につけるために小中学校での落第・留年を認め、高校無償化する金があるくらいなら、やる気のある生徒のための奨学金を充実させるべきだろう。
 もう一つ心配なのが、大衆社会がより悪くなることだ。ブログやツイッターの普及により、知的訓練を受けていない人が発信する楽しみを覚えた。これが新聞や本の軽視につながり、「責任を持って情報を選択する編集」が弱くなれば、国民の知的低下を招き、関心の範囲を狭くしてしまう。ネット時代にあっても、責任あるマスコミが権威を持つ社会にしていく必要がある。
 山崎正和(やまざきまさかず)氏 劇作家。大阪大教授、東亜大学学長などを歴任。演劇、小説、詩、音楽などジャンルを超えた幅広い評論でも知られる。雑誌アステイオンで「神話と舞踏---文明史試論」を編集中。76歳
 聞き手 文化部 植田滋
 中国が責任ある国際社会の一員になるか否かは今や日本の最大の関心事だろう。山崎氏の文明論は、その回答へ貴重な手がかりを与える。そこには中国が「諸国家併存」を受け入れていく可能性も含まれる。ここ10~15年で重大な岐路を迎えると認識し、我々も注視し続けることことが必要だろう。
1月10日讀賣新聞朝刊より
伊達直人より



ayayanoken at 10:46コメント(0)トラックバック(0) この記事をクリップ!

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字
 
 
記事検索
メンバーリスト
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

livedoor プロフィール
カテゴリ別アーカイブ
タグクラウド
livedoor × FLO:Q
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ