提供:池田信夫/アゴラ
2011年01月09日13時46分
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2011年01月09日13時46分
こうした「やりなおしのきかない」採用システムと年功序列にもとづく賃金体系は,欧米型の専門職能を基準に考えると不合理に見えるが,企業特殊的な文脈的技能に対するインセンティヴとしてはうまく機能している.一生をかけて多面的な技能を蓄積してゆくシステムのもとでは特定の専門的技能にすぐれていることは大した意味を持たず,中途採用で専門家を採用すると,新技術の導入などによってその職種が不要になった場合に処遇がむずかしく,配置転換をめぐって労使問題をひき起こす要因となるからである.日本の会社が高度成長期にうまく行った原因は、このような長期雇用と退出障壁によって労働者を会社に閉じ込めるタコ部屋方式でインセンティブを保ち、労使紛争を防いだ点にあります。これは金融システムとも補完的で、資金不足で起債が困難だった時代にはメインバンクが企業をモニターできた。しかし労働市場や資本市場が競争的になると、こうした長期的関係の拘束力が弱まり、ガバナンスが崩壊してしまう。
この意味で,白紙の状態の新卒を採用して企業特殊的な技能を一から教えてゆく技能形成システムは,長期的・年功的な雇用慣行と不可分の強い補完性を持っている.ここでは労働者は「丁稚奉公」によって組織に対する初期投資(贈与)を強いられ,他の企業では役に立たない「会社人間」となるため,彼の企業特殊的な人的資本への投資は埋没費用となり,退出障壁はきわめて高くなるのである.
経済学者。上武大学経営情報学部教授、SBI大学院大学客員教授。著書に、「使える経済書100冊 (『資本論』から『ブラック・スワン』まで) (生活人新書)」など多数。
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