コラム

2011年01月07日号

【鷲見一雄の視点】
鳩山、小沢氏の検察批判と指定弁護士の小沢氏に対する強制起訴@


●角栄、金丸氏の後継者
 小沢氏が「金権政治の源流」である元首相・田中角栄氏(1918―93年)と元自民党副総裁・金丸信氏(1914―96)の系譜に属する「最後の大物政治家」であることは周知の事実である。田中、金丸氏には支持する人も多いが、批判する人も多い。私は批判する側の1人だ。

 小沢氏の「金の問題」が田中、金丸氏と同様、表面化したのは平成21年3月3日のことだった。東京地検特捜部が民主党代表だった小沢氏の資金管理団体「陸山会事務所」に家宅捜索に入ったからだ。容疑は政治資金規正法違反。「陸山会」が西松建設から06年までの4年間に2100万円の寄付を受けながら、政治資金収支報告書にはダミーとされる「新政研」「未来研」という、実体のない2つの政治団体からの寄付だったとする、虚偽の内容を記載していた虚偽記載の容疑であった。
 あれから2年近く小沢氏の「政治と金」の問題が国民の間で話題にならない日はない、といっても過言ではない。

 家宅捜索を入れてから一時間余りあと、東京地検は「政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記載)容疑で陸山会の会計責任者で小沢氏の衆院議員公設第一秘書でもある大久保隆則氏ら2人の逮捕と、西松建設の前社長、国沢幹雄氏の再逮捕を発表した。
 民主党幹事長・鳩山由紀夫は「国策捜査の雰囲気がする」と捜査をけん制、一夜明けた4日には小沢氏本人が「総選挙が取りざたされている最中、異例の捜査が行われた。政治的にも法律的にも不公平な検察権力の行使だ。起訴はしないだろう」と公然と検察を批判した。検察は「厳正公平、不偏不党」はタテマエで、実際は「時の国家権力(体制)や社会的・経済的強者を支える重要な武器」とみられていたからだ。

 しかし、東京地検は21日後の3月24日、大久保、国沢氏を起訴した。とはいっても、西松建設の献金は大久保秘書に対するものではなく、小沢氏の「威光」に対する献金だったにもかかわらず、小沢氏の自宅や衆議院議員会館にある小沢氏の事務所に家宅捜索を入れたわけでもなく起訴までに小沢氏本人から事情聴取を行うこともなかった。
 東京地検の捜査は、初めから「秘書の逮捕だけ」で終結と決められていたように私には写った。それなのに民主党は凄まじい検察批判を展開した。あきらかに逆手にとり、政争の具としたのである。
 民主党の代表は鳩山氏と交代、小沢氏は代表代行として衆院選に臨み、国民の圧倒的支持を得て自民党政権を崩壊させ、鳩山内閣が誕生、小沢氏は民主党を預かる幹事長に就任した。民主党の検察批判は功を奏したことになった。

●東京地検特捜部は
 政権は民主党に移ったが、東京地検特捜部の小沢氏に対する捜査は続行していた。国家秩序の担い手としては当然のことである。特捜部は翌21年1月15日夜、小沢氏の元私設秘書で同会の事務担当者だった石川知裕・衆院議員(36)(民主・北海道11区)と、石川容疑者の後任の事務担当者だった池田光智・元私設秘書(32)を政治資金規正法違反(虚偽記入)容疑で逮捕、16日には公設第1秘書大久保隆規被告(48)=公判中=も逮捕。そして3人を起訴した。
 起訴事実の要旨は次のとおり。

 公設第1秘書の大久保隆規被告(48)は小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の会計責任者だった。元私設秘書で衆院議員の石川知裕被告(36)と元私設秘書の池田光智被告(32)は大久保被告を補佐していた。
 石川被告は大久保被告と共謀し、2004年分の政治資金収支報告書の収入欄に、小沢氏からの借入金4億円と関連政治団体からの寄付計1億4500万円を記載せず、支出欄に土地取得費約3億5200万円を記載しなかった。
 池田被告と大久保被告は共謀し、05年分報告書の収入欄に、関連政治団体から計3億円の架空寄付を記入し、支出欄に約3億5200万円を過大に記載した。
 また、07年分の収入欄に、関連政治団体からの寄付計1億5千万円を記入しない一方で、架空寄付計7千万円を記載し、支出欄に小沢氏への返済金4億円を記載しなかった。

●鷲見一雄の視点
 小沢氏からの借入金4億円は小沢氏の邸に近い世田谷区深沢の土地を購入する資金3億5200万円が必要だったため。石川被告らはこの資金の「入り」も「出」も収支報告書に記載しなかった。しかし、小沢氏は起訴されなかった。
 私はこの不起訴処分を「鳩山首相のけん制による検察首脳部の自制」と受け取った。何としても起訴させなければ法治国家でなくなると考えた。なぜかを語ろう。

 そもそも、政治資金規正法は、政治資金をめぐる癒着や腐敗防止のため、政治団体の収支の公開を通じて、『政治とカネ』の問題を国民の不断の監視と批判のもとに置くことを目的とした、議会制民主主義の根幹をなすべき法律」である。政治家には「嫌がられる法律」だが、守らせるのが「法秩序の守り手」である「東京地検特捜部」の役割なのである。

 市民団体から小沢氏の不起訴処分について検察審査会に審査の申し立てがなされた。(つづく)


戻る