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[24779] 【ゼロ魔習作】 突き立てるは傭兵の牙か刃か (転生)
Name: 黒いウサギ◆3eb667ce ID:258374a3
Date: 2010/12/07 02:18

どうも黒いウサギです。

ボチボチと書かせていただこうと思っております。

後は、ぜひ読んでいただけたら嬉しい次第です。



[24779] 1話 異なる世界へ
Name: 黒いウサギ◆3eb667ce ID:258374a3
Date: 2010/12/07 02:28
ハア…ハア……ハア………ハア






乾いた空気が辺りを包んでいた。
コンクリートで出来た建物の中は半壊しており、あちこちにコンクリートの片が散らばっている。

殺風景な内観を色付けするかのように、壁や床の数か所には紅い血が彩られていた。
建物の中には所々に死体が沈黙を保ったまま横たわり、それは迷彩模様の軍服を着こんだものもあれば、服とは言い難いほどのボロボロの布を身にまとっているのもあった。
中には体の一部が欠損しているものもいたが、皆行儀よく静かに倒れている。


外は朝なのか昼なのか定かではないが、割れたコンクリートの隙間から入ってくる日差しは建物内のホコリと死体、そして空気中に漂う硝煙を照らしていた。
遠くの方では誰かが叫ぶ声が聞こえた後、銃のこぎみ良いタタタッという音が続いてやってきたが、タアンとさっきとは異なる銃声がやってきて、それもすぐに消えてしまった。

建物の中はまるで十数分前まで戦闘が行われていたとは信じられないほどに静まり返り、銃声も爆音もなければ、誰かが歩く足音すらなくなっている。
かつて轟音をその銃や手榴弾で鳴らしていた者が今は呼吸音すらも消して倒れているその中で、傭兵ドゥは膝を床に付けた状態のまま、荒い呼吸の音をコンクリートの室内に響かせていた。


彼の周りには数体の死体が倒れており、どれもが迷彩服を着こんでいる。
床には彼らが使っていた自動小銃が、墓標のように彼らの横に倒れ、充満している血と火薬の臭いが、何が起こったのかを色濃く物語っていた。
少し伸びた黒い髪を、後ろで結わえたドゥの身体からは血が流れており、彼が下に着ている灰色のシャツを赤黒く染めていた。
丁度正座のように座っている彼の右手には拳銃が、そして左手にはアーミーナイフが握られていたが、やがて彼の手から力なく床に落ちた。



ドゥは俯いていた顔をゆっくりと上げて、天井をぼぉっと見つめた。
そしてそれと同時に、彼は自分の死がもうすぐやってくることを悟った。



・・・ああ…こりゃ無理だわ…死んだなオレ…



彼は左手を少しずつ上げると、灰色だったシャツの上に着ていた砂色のジャケットの懐に手を入れた。
シャツに染み込んだ血が彼の手でピチャ、ピチャと音を立てるのが、彼には不愉快に感じられた。

やがて懐から手が出された。
その手にはもはやどの銘柄かさえもわからない煙草の箱が握られていたが、箱は真ん中に穴が大きく空いており、中に入ってたはずの2,3本の煙草も消えていた。
ドゥはクソッと煙草の箱を握りつぶすと、自分の前方に向かって投げた。
向こうの壁に当てるつもりだったのだが、もはや投げる力も消えてしまったのか、紙で作られた箱は力なく、へろへろと彼のすぐ手前に落ちた。








ドゥが生まれたとき、彼には普通の人生を歩む道はなかった。
母は場末の娼婦であり、客の一人であろう父親はだれなのか分からない。
しかし母は彼の黒髪と顔を見るたび、「アンタの父親は日本人だろうよ」と言っていたのを今でも覚えている。
最も、母親も客からの病をもらってとっくに死んでしまったが。


17歳の誕生日を過ぎるまで、ドゥは考えられそうなことは全てやって生きてきた。
周りにいた仲間も、翌日には路上に倒れていたこともよくあった。
ドゥに転機が訪れたのは、国内での独立運動が活発化し、ついに独立戦争が勃発した時であった。

ドゥの地域は偶然にも独立軍の本拠地として使用されることとなり、ドゥは傭兵として独立軍へもぐりこんだ。




そこからは戦場とキャンプ、安宿を回る生活が繰り返されてきた。





今まで散々っぱら人を殺して来たんだ...自分だけノウノウと安楽死出来るとは思っちゃいねぇ...まあでも死ぬ時はなるべく楽に死にてぇんだけど…そうなるとやっぱ安楽死かな?




ふと、外から建物へと入ってくる音が聞こえてきた。カンカンカンと階段を上がる音が辺りに響く。


味方か?
まあだとしてもこの傷じゃ治療が済む前にアウトだけどね...だけどモルヒネぐらいはあれば苦しまずに逝けるかな


そんなことが、わずかにドゥの頭によぎったが、やってきた兵士の服を見た瞬間、ドゥは心の中でチッっと舌打ちをした。
そして既に捨てられた煙草の箱のように、ドゥの予想した期待はくしゃくしゃになった。

何だ...相手チームかよ...



ドゥの下に近づいてくるのは、ドゥが所属している軍とは異なる、迷彩柄の軍服を着こんだ兵士であった。
2人、いや後ろから来る者を入れれば3人か。

なにか大きな声で喋っているが、聞き取れない。

それもそうか。お互い知らないもん同士でドンパチやってるんだしな…

数人の敵の兵士は、辺りをキョロキョロと銃を向けながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。どうやら罠であると疑っているようだなとドゥはまだはっきりとしている目で見ながらそう考えた。


死にかけの体に爆弾でも巻きつけてるとでも思ってるのかね。
だが残念。そんなコトやるほどオレは軍に命をかけてないし神にも命を捧げてないしね…
自爆なんて痛そうなコトお前らだけでやってくれよ。


ドクン!!

突然ドゥの腹の底から熱いモノが込み上げてくると思った瞬間、何やらどろっとした液体が口から溢れ出てきた。
ドゥが地面に落ちた液体を見ると、その液体は赤く色付けされてあり、自分の血液であるとすぐに分かった。


あ゛あ゛あ゛あぁ…痛え!!体が崩れてくようにイテぇッ!!
糞クソくそッ!!どうせ死ぬなら楽に殺せよクソッ!!


脳内麻薬によって麻痺していた痛みが、段々とドゥの身体を這いあがった。
ドゥは声にならない悲鳴を口の中に漂わせ、床に付くぐらい額を下げて悶えていたが、ふとドゥの頭の上で、何か向けられている気配がした。
ドゥが痛みに軋む体を無理やり起こし、頭を上げると、先ほどの敵兵が銃口をこちらに向けているのが見える。やはり何を言っているか分からない言葉で喋っているが。


「お…おい…」


ドゥは敵兵に向かって声を出し始めた。
それに気づいた兵士たちも、銃を構えなおしてこちらの方を睨んでいる。
一人の兵士と目が合った。黒に茶色を混ぜたような焦げた色の瞳を向けながら、無精ひげを纏わせた顔には泥や砂が乾いて白く化粧をしていた。
ドゥは伝わらないとは知りながらも、途切れ途切れに声を出した。
声を出すというよりも口から空気を出してるようなものであり、唇を動かすだけでも体中がゴワゴワと異様な感触が駆け抜ける。


「こ…ころ…してくん…ねえかな?………そ…ろそ..楽…に…てえ」


兵士たちは黙ってこちらを見ている。自分で聞いても、何を言ったのか分からないほどの小さく、かすれた声であった。
ふと、兵士の一人が前に歩み出て、ドゥの額に銃口を向けた。
無精ひげに、泥と砂で白くなったあの兵士であった。

お…伝わったのかな…オレが言いたかったコト…君にとどけ僕の想いってか?


段々と、ドゥの四肢からは感覚がなくなっていった。煙草の空箱を投げた手も、今では義手でも付けたのかというくらい無機質に感じられた。

兵士の指が、トリガーを引こうとしているのが分かる。ドゥはニッと笑いながら(本人は笑えたと思えた)
敵兵に「悪いね」と、口を動かした。





そしてドゥが最後に聞いたのは「パッ」という、破裂音の途中までだった。















「ホラ!!もうすぐだ!!もう後少しで出てくるよ!!」


「あ゛あ゛あ゛あぁぁ!!!!ああああ゛あ゛ー!!」



目の前が暗くなっってからしばらくして、ドゥの耳に入ってきたのはどことなくしゃがれた婆さんの声と、泣き喚くように甲高い女性の声であった。
ドゥは目を開けようとしたが、なぜだか思う様に開かない。ひどく眩しくて目が開けられないような状況に似ている。

オレはもう死んだのではないか?

今は天国か地獄に向かっているんじゃないのかこれ?

ドゥは決して信仰の厚い方ではないが、聖書は一通り目は通した。
本の中には、人は死んだら天国か地獄に魂が送られるって書かれてたとドゥはうっすらと記憶していた。

しかしドゥの耳に聞こえてくるのは、天使の優しい歌声でもなければ、悪魔の薄暗い笑い声でもなかった。



「ほら!!出てきて出てきた。生まれたよニベル!!」


「うう…無事なの…私の子供は…?」


「ちょっと待って!!…なにこの子…泣かないわ…」


何さっきから周りで言ってるんだ?オレはさっき、敵の野郎に頭撃ち抜かれてこの世にグッバイしたはずだ。オレは死んだはずだろ!?
それとも何か?
手続きに不備があったのか?
ここどこなんだ。さっきから眩しくて目が開けらねぇけど、天国か地獄かはっきりしてもらいてぇ…出来れば天国の方がいいが


「な、泣かないって?だ、大丈夫なの?私の子は…..」


「息はしてるわ…でも何で泣かないの?」



ドゥの耳に、ぼやけた声が入ってくるが、何を言っているのかさっぱり聞き取れない。
両手を動かしてみたが、先ほどよりは動かせそうだがやはり重く感じる。
未だに現状を把握できない状態で、体に熱い液体が掛った。何か温かいもので体を洗われている。
ここでドゥは、自分がいま裸であると頭の中で気付いた。


しばらくしてドゥの体に布が巻かれた感触があった。そこでドゥは、うっすらと、周りの景色が見れることに気づいた。


ここは、どこなんだよ一体…


ドゥの頭はそれでいっぱいであったが、頭がひどく重く感じられ、眠気が襲ってきたかのようになり考えられなくなった。
そしてドゥの意識は深く落ちていった。



「あれ?眠っているわこの子。奇妙な子…泣かずに生まれて、すぐに眠るなんて聞いたことない」

布を巻きつけて産湯のお湯を拭き、清潔な布を赤ん坊に巻きつけながら女性はいぶかしげに、眠っている赤ん坊を見つめた。


「それでもこれは私の子よ…ありがとう…私の所に生まれてきてくれてありがとう…」

ベッドで横たわる女性ニベルは、眼の端に涙を浮かべながら赤ん坊を抱く女性へ両手を伸ばした。
女性はそっと、ニベルの腕に赤ん坊を入れた。
ニベルは腕で眠る赤ん坊を愛おしく見つめている。
女性は桶にくんだ水に手を入れ、血が付いた手を洗い始めた。
壁際に立っていた、黒いドレスのような服を着た老婆が口を開いた。


「名前はどうするんだいニベル?もう決めてあるのかい?」


老婆の言葉に、赤ん坊の母親となった女性ニベルはそっとベッドに赤ん坊を乗せ、その額を撫でながら老婆に、そして赤ん坊に答えた。


「ドゥアール…ドゥアールよあなたの名前は…」














窓の外は丁度、太陽が沈む時間。
空を進む飛空船が夕日の赤と訪れる闇の黒とに染まりながら小さくなって飛んでいくのが見えた。





トリステイン王国
ラ・ロシェールに近い町オリヴィエの娼婦街で、

ドゥは再び人生を歩む。



[24779] 2話 ナイフと罠の活用
Name: 黒いウサギ◆3eb667ce ID:258374a3
Date: 2010/12/07 22:17
トリステイン南部は山に囲まれている土地柄、
周りには木々が生い茂っており、中には驚くほどに巨大な古代樹も多々存在している。

古代樹の枯れ木は老いても尚朽ちることを知らず、かつてはその幹をくりぬいて人々は住み家としたこともある。
また山あいということもあり、ハルケギニアの空に浮かぶ浮遊大陸が南部ではよく見られ、空に浮かぶ国アルビオンとの交易も行われている。
古代樹を港として作り、多くの飛行船を泊める港町ラ・ロシェールはその代表ともいえ、アルビオンから来る品物が入る場所として栄えていた。



そのラ・ロシェールのほど近い場所、距離でいえばあるいて一日ほどかかる場所に、オリヴィエという町がある。

港での交易で栄えるラ・ロシェールとは異なり、オリヴィエには飛行船が着くための港はない。
しかしオリヴィエはラ・ロシェールと比較的近くにあり、かつトリステインの下にあるガリア王国とも近い場所に存在するため。
主にガリアからの行商人、また時々訪れるアルビオンの商人達との交易によって町は支えられ、町にはあらゆる店が立っている。
宿屋や酒場も数多く、夜には娼婦が客を誘う歓楽街への灯りがあちらこちらと見えた。


四方が森によって囲まれるこの町は、石と木を併せて作られた建物が並び、町中に伸びている道路のほとんどには石畳が敷かれている。
町の東から西を、数本の川が海へと流れており、森の中の所々に池があるのだが、詳しい数と場所は町の者さえも把握している者は少ない。

町が作られる前からオリヴィエの周辺には人が住んでいたらしく、森の中には朽ちた木の家や、蔓を絡ませて立ち続ける石の建物がポツポツと残っている。
もちろん今では住む者はおらず、もっぱら鳥やイタチのような動物の住み家として、または怪鳥やオークの巣となっている。




そんな森の中のとある池、
1羽のウサギが水を飲みに池へとやってきた。

白に幾分か茶色の毛を纏わせた身体は比較的大きく、長い耳をぴくぴくとさせながらウサギは森の地面を飛び跳ねている。
後ろ足が地面を蹴る度に、落ちている小枝や草をかさかさと鳴らす。
ウサギの視界には池が見えてきたようで、途中で立ち止まっては鼻をヒクヒクと動かして、周りに天敵の動物がいないかを確認して.ぴょんと池へと近づく。

しかし池まであと数メイルというところで、ウサギの身体はがくんと止まる。
ウサギは後ろ脚を懸命に動かしてもがくが、地面に倒れたウサギの身体はむなしく草と小枝を散らすだけであった。
良く見るとその体には輪っかのような物が絡まっており、間に立てられた木の棒へと伸びていた。


しばらくして、近くの方からガサガサと歩く音が聞こえてきたと思うと、木々の間から一人の少年が顔を出した。
あまり奇麗とはいえない服に身を包み、少し黒が混じるブロンドは後ろでまとめられて首の根元にストンと落ちている。
逞しい顔つきにもまだ幼さの残る表情は、少年が12、3歳ほどであろう事を表している。


少年は自分がしかけた罠にかかるウサギへと近づきながら腰に手をやり、


鈍く光るナイフを取り出した。










―この世界で命をもらって13年...偶然にも「記憶」はそのままでリスタートしたこの不思議な世界で分かったかことがいくつかある。―




木で組まれた椅子に座りながら、ドゥアールは読んでいた本をパタンと閉じた。
外が薄暗くなった頃、石と木で作られたとある一軒の家の中にドゥアールはいた。
部屋の中は奇麗と言い難いが、場所ごとに道具や衣類が片づけられ、
部屋の隅にある釜戸ではパチパチと燃える火の上にぶら下がる鉄鍋の中からはコポコポと煮立つ音が聞こえる。


ドゥアールは釜戸の方へと近づき、鍋の中の様子を見た。
鍋の中にはウサギの肉と野草を入れたシチューが泡を作って外へと吐き出し、いかにも美味しそうな臭いをあげている。



― 一つ、ここはオレがいた世界じゃない ―


ドゥアールはポケットから先程山で摘んだ小さな野草を取り出し、葉っぱを少し指でこすって臭いを嗅いだ。
そして何等分かにちぎると、鍋の中に放り込んだ。


―二つ、俺は「ドゥアール」という男に生まれ変わった―


意識がはっきりしてきた当初、ドゥアールは「ドゥ」であった頃の記憶が鮮明に頭に残っており、最初は何か科学実験か何かに利用されているんではないかと考えた。
しかしこの世界はあまりにも元いた場所とはかけ離れていた。



―三つ、何と「魔法」が存在するというディズニーも裸足で逃げ出す状況だ―



ドゥアールはニベルという娼婦の下に生まれ、オリヴィエという町で生活をしている。
月が二つあることも驚いただが、空を普通に船が飛んでいるのには目を疑った。
そして時折見る、「メイジ」と呼ばれる者が杖を振って宙を飛んだり火を出したりするのは人生で最大(前世から数えて。この世界ではまだ13年しか生きていない)のショックだった。


まるで「スターウォーズ」や「ハリー・ポッター」を合わせて時代を中世に戻したような世界だ。
しかし文明としてはひどく古めかしい。
良くて中世ヨーロッパ時代か。
おかげで好きだった「マルボロ」は吸えず、「コーラ」や「7up」などの飲み物もない。
代わりに酒はあるがひどい味なのが大半、上等な酒を飲んだのは「アッチ」の世界で死ぬ前に飲んだイタリアのワイン以来か。


―四つ、ここでは「貴族」と「平民」の封建制度。そしてもちろんオレは平民―


今現在、ドゥアールのいる国はトリステイン王国と呼ばれ、王制が敷かれている国である。
もっとも、今は女王がこの国の最高権力者であり、それを取り囲むように貴族が政治を行っているらしい。
ドゥアールの住む町オリヴィエも、ピリュエ・ダルク・ド・オリヴィエという領主が統治しており、時々取り巻きのメイジや豪華な服を着たご婦人を連れて町に来るところを見掛ける。
他にも貴族はこの町にいるが、平民の自分たちを見下しているところがあり、子供であっても親が貴族というだけで偉そうに付き人を連れて歩いている。


まあ、何処の世界も貴族なんて人種は、大抵ロクなもんじゃないのが相場か...




ドゥアールが鍋の中のシチューを味見して、味を整えていると別の部屋から一人の女性がやってきた。

黒が少し混ざるブロンドの髪はウェーブがかかり、胸元が開いた黄色のドレスを着こんだ体は白い肌にブレスレットが手首で光っている。
パチッと開いた目は明るい表情を漂わせ、化粧を施していないにも関わらずその顔はある程度美貌を持っている。

ドゥアールは女性が入ってきたことに気づくと、食器を置いている台から木製の皿とスプーンを取ると、皿の中にシチューをついでテーブルに置いた。



「おはよう母さん。お腹減ってるっしょ?今日はウサギのシチューだよ」



「おはようドゥアール。ありがとねいつも。帰りは明日の朝になるからまたいつも通りにね?」


そう言って黄色のドレスを着た女性、ニベルは椅子に座った。ドゥアールも自分の皿にシチューを盛り付けると、椅子に座って手を合わした。

向かいに座っているニベルも手を組んで顔を下げ、食事の前の祈りを捧げた。


「偉大なる始祖、ブリミルと女王陛下よ。ささやかな糧を我に与えたもうたことを 感謝いたします」








ドゥアールの母、ニベルは26の時にドゥアールを生み、現在は39歳である。
元々ニベルの母も娼婦として町に立っていて、小さい頃から母を見てきたニベルはすでに夜の世界に入り込んでいた。
18の頃から客を取りはじめたのであるが、あるとき客の一人に子供を宿されてしまったのである。
父親は誰だかは見当もつかず、客の誰かであることだけは確かだが、皆の反対を押し切ってニベルはドゥアールを生んだ。
ニベルはドゥアールに愛情を持って育ててくれた。
おかげでドゥアールは問題なく成長し、彼は彼女に対しては母であると同時に、死ぬ寸前に救ってくれたという命の恩人としても非常に感謝していた。
体は年齢に似合わずまだ20代後半に近い美しさを保っており、39になった今でも娼婦として娼館に入っているのだ。



「だけど母さん、あまり無理はしないでくれよ。体に何かおかしなトコがあればすぐに休んでね」


ドゥアールはシチューを口に運びながらニベルに言った。
ニベルはニコッと笑い、



「大丈夫、分かってるわよドゥアール。心配してくれてありがと。それにもう若くもないし、そんなにムリ出来ないわよ」



ニベルの笑い顔に、ドゥアールもつられて笑ったが、内心は非常に不安であった。



ドゥアールは「前」の母親も娼婦であったので、今も尚現役を続けるニベルには驚かされるが、ドゥアールにとっては彼女が現役で続けることをずっと不安にしていた。
特に避妊や感染症の予防も皆無といっていいくらいのこの世界では、オリヴィエだけでも一年に十数人の娼婦が感染病で亡くなっている。
「ドゥ」であった頃には梅毒を客からもらい死んでいった女性を何人も見てきたため、自分の母親が梅毒で死ぬということだけは何としても避けたかったのである。


ドゥアールは生活の足しにと、8歳ぐらいの頃から森に行ってはウサギや魚などを獲り始めるようになった。
森で獲った獲物は今夜のように食事に出す時もあれば、町で売る時もあり、彼女と自分二人の生活を支えていた。


一度、引退して別の仕事を探さないかと言った時もあったが、「もう少しだけ頑張らして」と言って今に至っている。


何か十分な生活が出来る報酬の仕事はないものか...



それがドゥアールになってから彼の一番の悩みとなっていた。


「ごちそうさま。じゃあ私は店に行く支度をするわね。ドゥアールもちゃんと体拭いて寝なさいね。泥で顔が黒いわ。そんな黒い顔には生んだ覚えはないわよ」



そんな息子の気持ちを知ってか知らずか、ニベルはシチューを食べ終わるとドゥアールにそう言い、自分の寝室へと戻って行った。
後に残ったドゥアールはいろいろと考えを頭に巡らせながら、残りのシチューをたいらげた。














―五つ、前の記憶はほとんど役に立たない―


夜が明けて太陽が真上に上った頃、オリヴィエから少し離れた森の中で、ドゥアールは日課の訓練を始めていた。
上半身から服を脱ぎ、右手に持ったナイフを器用に回して低い重心に構えをとる。
少しの間目を瞑り、頭の中に浮かんでくる幾通りもの動きに合わせてドゥアールは体を動かしていく。
無駄のない足運びで的に見立てた木に近づき、そしてナイフを狙ったところへと当てていく。


ドゥアールは生まれてすぐ、傭兵の頃の記憶から使えるモノはないかと必死に記憶を呼び起こしていた。


しかし出てくるのは自動小銃の撃ち方、戦車の動かし方、車の操作方法、爆破作業...
このハルケギニアの世界では到底必要のないモノばかりであった。

近くの町にある飛行船にしても魔法の力を動力として動かしてる様であり、おまけに昔の帆船の形であるからドゥアールにはさっぱりと分からない。

一応何ヶ国かの言葉は喋れるが全く関係なく、医学薬学にしても薬草の範囲までであり、天体などは論外だ。

今、役に立っているのは野戦料理での知識と動物を捕まえる罠の仕掛け方、あとは20数年生きて身につけた人生観くらいか...

戦いに関してはナイフでの戦闘術、体術、独立戦争の時に習った銃剣ぐらいであり、それでも魔法がメジャーなこの世界ではメイジと戦うことになればやはり不利になるとドゥアールは考えていた。
おまけに頭では分かっていても傭兵時代のように動くのは無理に等しく、ドゥアールは必死に当時の動きに近づけるように鍛錬していたのであった。


ナイフを構えてから10数分後、ドゥアールは自分の背後5メイル程の場所に立つ木に向かってナイフを投げた。
ナイフはガツッと音を立てて幹に突き刺さった。


「ハァー、ハァー、だめだな...やっぱガキの身体じゃ思う様には動けねぇな。まあタバコ吸ってないせいか体力はあるんだけど」

荒れた息を直しながらドゥアールはナイフを回収すると服に手を掛けた。
池の方に降りて水浴びしようかと思っていたが、その池への方向から

パキッ!ズザザザー!

と何かが倒れる音がした。

ドゥアールは身をかがめて、音のした方に目をこらした。音は茂みの方からしたらしく、先ほどよりは小さいが同じ場所から音が続けて聞こえてきた。


ウサギか?それにしては音が大きい...でも熊やオークだったらもっとでかい音を立てるはずだし...どうしよ



ドゥアールは音の原因が何であるか調べるかどうかで一瞬考えたが、好奇心に押されたのかゆっくりと音のした方へ近づいていった。


茂みの方からは尚も音は聞こえてきており、ドゥアールは何が起きてもすぐ動けるような態勢を保って茂みのそばまで行き、そしてそっと茂みの向こうを見た。





ドゥアールは一瞬キョトンとなってしまった。
なぜなら茂みの向こうにいたのは

白い髪をした、女の子だったからである。



オイオイ嘘だろ?なんでこんなトコに女の子が?いくら町から近いからってこんな変な場所まで入ってくる奴なんてそういねぇだろ。
それも女の子一人で...

ドゥアールはあまりの展開に驚きを隠せなかったが、すぐに目の前の子に目をやり、様子を見た。
体つきからだと年は同い年か上ぐらいか。ショート・カットに切られた髪も印象的だが、何よりもクルッとしたいかにも純粋そうな目がこちらを見ており、
「ドゥ」であった頃の彼であれば浄化されているかもしれないくらいだ。
転んでしまったのか、倒れた体を動かそうとせず、腹這いの状態のままこちらに顔をジーッと向けていた。

「あ~お嬢ちゃん?なんでこんなトコに...」


ドゥアールは女の子としばらく見つめ合った状態であったが、とりあえず何か話そうかと口を開いたところで、






辺りに獣の唸り声が響いた。



[24779] 3話 少女は誰だ
Name: 黒いウサギ◆0c7d2f48 ID:ea7ed839
Date: 2011/01/07 22:05
獣の唸り声はあたりの空気を震わせ、森の中に得も知れぬ緊張感を生み出した。

ドゥアールは声のする方へと振り向いた。
そばで倒れている少女のことも気にかかったが、今は身に迫る危険を確認することのほうが重要だ。

ドゥアールが耳を澄ますまでもなく、獣らしき鳴き声は間隔を空けずにあたりに響いてくる。


熊か?距離は結構近ぇな...てかこりゃ...「ナニか」に襲われてるのか?


ドゥアールが思ったとおり、しばらくして熊と思われるその鳴き声は、助けを求めるかのように聞こえ、その中に混じって別のモノの声が森を覆い隠した。
その声はドゥアールも知る低い鳴き声であった。


最悪だ...よりによって「オーク」がサービスかよ...


オーク鬼はハルケギニア全土に生息する豚の顔をした2メイルほどの身長を持つ亜人である。
その醜悪な顔とずんぐりとした体、そして鼻を覆いたくなる臭いを発するオーク鬼はその巨体通り、並みの人間では歯も立たない戦闘力を持っている。

オリヴィエの森にも数体のオークが群れで住んでいることが確認されており、ドゥアールもこの森で何回か遭遇したことがある。
初めにあったときはその外見のおぞましさに悲鳴を上げたくなったくらいだ。

ドゥアールは森に入る時はこういった、自分では到底かなわない獣や亜人と遭遇しないよう注意はしていた。
しかし今日は自分の不注意か不運か、はたまたそこに倒れている少女の所為か、その注意もあまり役立たなかったようだ。

熊もオークの鳴き声もだんだんと大きくなっている。
偶然なのか何なのかは知らないが、この場所に近づいてきており、来るのも時間の問題だ。

とにかく逃げる。
ドゥアールはすぐさまそう判断すると地面にうつぶせになって倒れている少女へ体を向け、膝を地面につけた。
少女は熊やオークの鳴き声を聞いておびえているのか、若干体が震えているように見えた。


「お嬢ちゃん。あんたが誰かは後で聞く。ここから離れるから立ちな」


少女は何も言わず、その目を少し細めると、フルフルと顔を横に振った。


おいおい何だこの娘?自殺志願者かよ?


ドゥアールは眉間にしわを寄せると膝を突いたまま少女のほうへズッと近づいたが、その視界に少女の足首(どちらかは説明しづらいが)が赤黒く晴れているのが見えた。

「おい。嬢ちゃんまさか転んで...」

ベキペキベキミシドンッ!!

ドゥアールが言い切る前に周囲が木の枝が折れる音と、何か硬いものを叩き割ったような音が爆ぜた。

それのすぐ後に、

ドザザザァー!!

ドゥアールの目の前、ちょうど少女の足先の手前に赤黒い大きなモノが転がった。

ドゥアールは急に飛び出てきたその赤黒いものをチラッと見ると、「やはり」という自分のカンの良さを呪い、顔を上げた先に立つ巨体との遭遇に今日の自分の運の悪さを呪った。

地面に横たわったモノ、ドロッとした血と舌を外に垂れ流し、顔の半分をグニャッと変形させて、熊を仕留めたオーク鬼は鼻息荒く、ドゥアールたちの方へと視線を向けていた。

マジかよ...
ドゥアールは心の中で跳ね上がる心臓の鼓動を感じ、背中に冷や汗が流れるのを感じた。

オークはその醜悪な顔をさらに歪めさせ、ジロリと二人から目を離さないでいる。
まるで仕留めた獲物に「オマケ」がついていたような、
人間で例えれば娼婦を品定めする肥えた貴族のような目つき...
そんな視線がドゥアールと少女に向けられていた。

人の数倍はあるかのようなその手には熊を撲殺した道具である、先に石をつけたような巨大な棍棒が握られており、棍棒の先には熊のものであった黒い毛と白い肉がわずかにこびりついている。

ドゥアールは叫び声をぐっと胸の奥へと押さえ込み、オークから視線を離さないまま、ゆっくりと右手で少女の手の裾を、そして左手を自分の腰へと動かしていった。


・・・熊のほうがまだましだったぜ。オークなんて百害あって一理なし。
俺にとっちゃイイこと何一つなしだ。

クセェし仲間は呼ぶし力は馬鹿強いし、メイジじゃなきゃ倒せねぇくらいだしよう。
オマケに何の嫌がらせか...

ドゥアールが少女の腕の裾をしっかりと握り、自分方へ引っ張ろうと力を入れたと同時に、



...人間を食べるときた




オークの持つ棍棒が上に振りあがった。





     
                     *

「ではピリュエ様、これが今月分のお薬です。服用時間と量はくれぐれも守ってください」

「うむ。いつもすまぬなオルクス」

オリヴィエの街の歓楽街、幾多の店が通りに立ち並んでいるが、その中で一軒の診療所が目に付く。
石や木で造られた周りの家とは違い赤レンガでつまれた壁は、その屋敷を赤く照らすようだ。
玄関からすぐに目に入る決して豪華とは言えない広間の奥の部屋には、木が張られた床にこじんまりと、テーブル、ソファ、そして木製の椅子が3つほど置かれており、そのうち二つの椅子に男たちが座っていた。
壁に掛けられているなんだかわからない金属製の人形は窓のほうへ顔を向け、じっと窓の外をにらんでいた。

「しかし、わざわざピリュエ様が薬を取りに来ずとも、私が屋敷のほうに届けに伺いますのに...」

「かまわぬよ街に来たついでだ。それにお前がここを離れれば、その分ほかの患者に手を回せぬからな。私が取りに来たほうが利は大きい」

そういうと白い髪を肩まで伸ばした男、ピリュエは向かいの椅子に座る男から袋を貰うと、すっと椅子から立ち上がった。
髪と同じ白いあごひげをわずかに伸ばしたその顔には皺が目立つが目には生気に満ちている。
身に付けている服や装飾品は、平民であれば身につけることはおろか、それを手に取ることすらもできないような上等なものばかりであり、左胸にはギラッと純銀のブローチが、ラッパを吹く小人の横顔を形造っていた。

ピリュエが立つと同時に向かいに座っていた男オルクスも立ち上がった。
二人は部屋の扉を開き、広間の方へと歩いて行った。
ピリュエは背中に纏った紅いマントと、オルクスが着込んだ白いローブが部屋の中で対照的に映る。
赤レンガでできた広間の真ん中まで歩くと、ふとオルクスが口を開いた。

「そういえば小耳に挟んだのですが、レナール様が来年から魔法学院へご入学するとか」

ピリュエはピクリと反応すると、広間の真ん中で立ち止まり、白いあごひげを少し指でなぞった。

「なに、レナールはもう15だからな。いつまでも遊んでいるばかりではなく魔法も学んでいかなくてはならないからな。今家庭教師をつけて勉強させているよ」

オルクスはホホウと相槌を入れると、両手を腰あたりの高さでこすり合わせながら言った。

「家庭教師ですか...フフッ、かつては『紫煙』と呼ばれたメイジ様も今では大分子煩悩になりましたな」

そういうとオルクスはピリュエに向かって意地悪そうに微笑んだ。
ピリュエはオルクスの方へは顔を向けずに続けた。

「そんなことはない。ただ入学時に魔法も使えんようじゃ話にならんからな。だから家庭教師を付かせたのだが...まあどうだか」


二人はそれから二言三言話していると、出口である黒色の扉の前へと足を止めた。

「ではお大事にピリュエ様。何かあればご連絡をください」

オルクスは相変わらず微笑みながらドアノブに手をかけた。
するとその瞬間

コンコンコンコンッ!!

扉の向こうからノックの音が広間へと伝ってきた。

オルクスはそのまま扉を開けると、二人の男が扉の前に立っていた。
年は二人とも18くらいか。身につけているものから二人は貴族であることが分かり、その胸にはピリュエと同様に銀の小人がラッパを吹いていた。

「なんの用だ」

ピリュエは二人に向かっていった。
さほど大きな声ではないが、その声はずしっと腹の底に響くようであった。


「失礼しますピリュエ様。只今屋敷からの使いの者から連絡がきまして...」

そういって貴族の青年の一人が扉の中へズイと入ると、ピリュエの耳元で小声で囁いた。
オルクスはドアノブに手をかけた状態で今の状況を見ていたが、やがてピリュエは「分かった」と一言だけ言うと、ピリュエが体をスッとオルクスの方へ向けた。


「ではオルクス。優秀な街医者よ。私は用事が出来たのでこれで失礼するよ。また薬が切れた時は頼む」

「お気をつけて」

オルクスの言葉が終るかその前に、ピリュエは扉を出ると杖を取りだし、二人の青年と共に空へと飛んで行った。

オルクスは一歩外へ出て空を見上げた。
すでに小さくなった3つの人影と、いやに眩しく感じられる太陽が雲と共に景色を作っていた。





                   *


「ハッ!ハッ!ハッ! くっそ重ぇ!この体じゃそんなに体力は続かないのは分かってっけどこれじゃヤバイな!」

ドゥアールは森の奥へ奥へと足を動かしていた。
しかしその顔は汗にまみれ、ハーッ、ハーッと荒い呼吸を繰り返している。
もっとも、背中に少女を背負いながら山間の森を走っているのだから無理もない。


オークが棍棒を振り上げたとき、ドゥアールは瞬時に腰につけた鞘からナイフを抜き取りオークの顔面へと投げつけた。
ドゥアールの技術かそれとも偶然か。ナイフの刃はオークの右目へと吸い込まれ、あたりに叫び声が木霊した。
ナイフに貫かれた右目の痛みに暴れ始め、ぶんぶんと振られる棍棒は木の幹をゴスッとえぐったが、幸い二人には当たらず逃げる時間を生んでくれた。
ドゥアールはすぐさま少女を引っ張り立たせて背中に背負うと、森の奥へと走り出したのであった。


そのまま見逃してくれればよかったのであるが逆に怒りを買ったようで、オークはすぐに唸り声を上げて二人の後を追い始めた。
しかし大分距離があるのか、ドゥアールからはオークの鳴き声しか聞こえない程度の距離は開いているのである。


ドゥアールは森をしばらく走った後、膝をガクッと着いて少女を地面に降ろすと手を地面につけると息を整えようとしたが途端に吐き気がこみ上げてきた。
危険な状況下で体のリミットを振り切って動いたためだろうか、13の幼い体には一気に負担が襲ってきたのである。

ドゥアールはキョロキョロとあたりを見回した。
すると少し先の方に蔓で覆われた小屋が目に入った。
ドゥアールは上手く呼吸ができない体を押し、少女を前の方で担ぎあげると小屋の方へと向かった。


小屋の扉はとうに朽ちており、中へ入るとあたりは人が住んでいた名残を少し残しながらも、あたり一面にびっしりと絡む木の枝や弦が人が長い年月住んでいないことを物語っている。

ドゥアールは奥の方に少女を運んで下ろすと、すぐさま壁の方へと向かった。
オエエッと胃から少し酸っぱいものが逆流してくる。


体が動かねえなチクショウ!!
筋力がねえから無理もねえが、予想以上だ。もっと筋トレしとけばよかったよ。


ドゥアールは胃の中のものを出し切ると、口の周りを腕で拭って少女のもとへ近づいた。
少女はやはりおびえているのか、何も喋らずにただブルブルと震えていた。よく見ると少女が着ているのは白いワンピースのみであり、ところどころが茶色く汚れている。


「なあ嬢ちゃん。そんな怖がらなくていい。あのデカブツはどうやらまいたようだしな。それよりもなんで嬢ちゃんがこんな森の中にいるのか教えてくれないか?」


13の子供が喋るような口調ではないが、ドゥアールは少女を刺激しないように、あくまでも優しい感じで話しかけた。
少女は前に手をワタワタと動かして口を動かすが、口からは声が出てこず、ただパクパクと口が動いているだけであった。


ドゥアールは怪訝に思い、少女に少し近づいた。

「嬢ちゃん...もしかして喋れねぇのかい?」


少女はピタッと手を止めると、コクコクっとうなづいた。

ドゥアールはハアッと溜息をついた。


口無しか...となると街のどっかの馬鹿親が捨てたのか?だけどこんな娘街で見た事ねえし、顔も悪かねぇから捨てるよりかは身売りさせるだろうし...ホント誰だ?


ドゥアールの頭の中をぐるぐると疑問が回ったが、分からないことを考えてもしょうがないと、考えるのをやめて少女へいった。

「なあ、あんたの名前は?」

そういってドゥアールは自分で言ったことにガクッと首を下げた。


喋れねえのに名前聞いてどうすんだよ!?


どうやら疲れすぎて頭が回ってないようだ...ドゥアールは自分に毒づくと、オークが来ていないか確かめるために小屋から出ようと立とうとした。
その時少女がぐっとドゥアールの右手をつかんだ。


「ちょ、あんだい?って嬢ちゃん?」


ドゥアールが疑問に思う間もなく、少女はドゥアールの手首をぐいっと引っ張った。どうやら近寄れということらしい。

そう考えたドゥアールは先ほどの配置に戻ると、少女はドゥアールの手のひらを裏返し、手のひらを指でなぞり始めた。
最初、何をしているか分からなかったが、やがてドゥアールはハッと気付いた。


「・・・・ッ!!ああっ!名前を書いてくれてるんだ!そうだろ!?」


ドゥアールがそういうと少女は嬉しそうに首を縦に振り、一度手のひらから指を離すと少ししてから再び指でなぞり始めた。

英語のアルファベットではなく、ハルけギニアの文字であるため少し苦労したが、なんとか分かりそうだ。


プ・・・フ・・・ラ・・・プ・・・フ・・・・


「プ..フ..ラ?プフラか?プフラって名前か?」


ドゥアールがそう答えると、プフラと呼ばれた少女はぐるぐると手に丸を何回もなぞり始めた。
正解ということなのであろう。


「そうか...プフラっていうのか。じゃあレディが名乗ったんだから俺も名乗らなきゃな。俺の名はドゥアール、ドゥアールだ。こんな喋り方だけどたぶんプフラより年下だから」

ドゥアールがそういうと、プフラは嬉しそうに指を動かし、手のひらに「ドゥアール」と書いた。


「そうそうそうそう。ドゥアールで正解だ。んじゃあ自己紹介も済んだところでそろそろ街へ帰...」


ドゥアールが言い終える前に、ズシャッと小屋の入口に蔓を踏む音が聞こえてきた。
ドゥアールはやばいと直感的に感じて振り向くと、そこには先ほどのオークが右目から血を流しながら立っている。
ご丁寧に右手には棍棒も携えており、先端部分は地面についている。


「こういうときに限って来るのな。ホント空気読めない奴は勘弁してほしいよ」


ドゥアールの皮肉が伝わったのかどうかは分からないが、オークは棍棒を引きずりながら一歩小屋の中へと入ると、


ニヤリと笑うように顔を歪めた。



[24779] 4話 見えない少女と罪
Name: 黒いウサギ◆0c7d2f48 ID:258374a3
Date: 2011/01/08 14:26
「よく映画とかだとさ、一息ついた後は必ずと言っていいほど悪役が登場するけどよ、実際体験してみるとホント勘弁してほしいなこれ。こんな時に来るとは...大人しく帰ればいいのによ」


ドゥアールはオークの動きに気を配りながら、小屋の中の隅々にまで視線を運んだ。
小屋の壁に貼り付けられた木や、絡まる蔓の間からは陽の光がチロチロと侵入してきて床を不規則な形に照らしている。
床には天井から脆くなって落ちてきたのか、木の枝や蔓の上に木片が引っ掻かっている。
本来ならば一番陽の光が入ってくるであろう天井は蔓や枝に覆われているためか光は差し込んでは来ず、次には行ってきそうな出入り口は、あいにく巨大な亜人の体躯がそれを阻んでいた。
今の状態を例えるならば、袋小路に追い込まれた二匹の弱った鼠が、猫に追い詰められていると言えば分かりやすい。
オークはすでに自分を確信しているのか、その場からじっと動かず、二人の人間をジーッと品定めしているようである。
先ほどナイフが刺さった右目からは血が流れた跡があり、今は血が固まりつつあった。


オークの考えているコトはさしずめ
どちらの方が旨そうか。
どうやって仕留めようか。

そんなトコロか


ドゥアールは床に手を当てながらオーク鬼との距離を測った。


距離はおよそ5,6メイル...小屋の中には脱出経路は出入り口一つしかなく、それはあのデカブツが塞いでる。
あちらの得物はバカでかい棍棒に対しこちらは足が利かないお嬢に足ガクガクのガキ一人...


考えれば考えるほど絶望的であることはドゥアールには嫌というほど分かった。
戦力になるモノは見当たらず、少女プフラを背負って長距離を進んだ体は鉛のように重く感じられる。
しかし、彼の頭にはせっかく生まれ変わった命を、こんな醜いデカブツにくれてやるつもりは毛頭にもなかった。

ドゥアールの後ろではプフラがブルブルと震えていることが感じられた。
ふと、彼女を囮にすればなんとか生き残れるのではないかという考えが浮かんだが、しばらくすると霧が晴れるかのようにその案は消えうせた。


この嬢ちゃんには何も恩もないけどさ...


ドゥアールは知らず知らずの内にフフッと声を漏らして笑っていた。


そいつはない。見捨てることはない。情とかそんなコトじゃなくて...


口からスーッと息を吸うと、しばらくの間息を止めた。
まるで体中に行き渡らせるかのように。


 一人だけ助かるよりよ、二人で助かった方が気分いいだろ。死ぬ時も一人より二人の方がいくらかマシだ


ドゥアールは床に目をやった。
床に転がっている木片のうち、一番とがっているものに右手を近づけ、そっと握りしめた。

 さあ行こう、体の状態は考えるな。頭から雑念は拭い捨てろ

ドゥアールはスッと立ちあがった。
オークは一回ブフーっと唸ると、一歩小屋の中に入ってきた。
右手に掴んだ棍棒は先端が小屋の外に出ている。

 今はこのデカブツを...

右足にギシリと体重をかけた。
体を低くし、短距離のスタートのような姿勢を作る。
オークがまた一歩踏み出...








殺すことだけ考えろ











オークの片足が宙に浮いた時、ドゥアールの右足は床を蹴った。
それと同時にオークの顔が歪み、
大人の腰回りぐらいの太さを持った右腕が鈍い音と共に横に振られた。

バキバキバキっという音が響き、ドゥアールの左から棍棒が迫る。

 そうだろ。タイミングよく詰められたら横に振るしかねえよな          あと3メイル

棍棒はドゥアールの頭を粉々に吹き飛ばす軌道を描いて近づいてくる。

 来るトコロさえ分かりゃ、避けることもできらぁ                あと2メイル


ドゥアールは力をふっと抜いた。
脱力した体は紙飛行機が落ちるかのように高度を下げ、体を地面スレスレへといざなった。
顎が床に当たる瞬間、頭のてっぺんを棍棒が通り過ぎ、ブォンという鈍い風をかき消す音が後に続いた。

 そしてこいつの右半身は死角になる                     1メイル

勢い余った棍棒はバキッという音を出し壁にめり込んだ。
ドゥアールは脱力した足に力を入れ、ありったけ身体のばねを総動員した。
ドゥアールの体は飛び上り、左手をオークの後頭部に添え、右手に持った木片の先を目的地へと振り下ろす。

 そしたら俺のターンだ  0

グチャッと、トマトのような野菜をつぶしたような音が小さく鳴った。
少年の体は空中でわずかに停止したかと思うと、両足がオークの背の方へブランと振られるとドサッと落ちた。
肩から落ちたため、ドゥアールはグウッと鈍い声を口の中に漏らした。


部屋の奥ではプフラが一瞬の出来事であったやりとりを瞳に写していた。
まるでトルコ石を思わせる蒼く光る彼女の瞳には
床に倒れた少年と、右目に木片を生やしたオーク鬼が写っていた。




                 *


ドゥアールは倒れた体を起こすと、オークへと顔を向けた。
狙った場所はナイフが刺さっていた右目。
木片じゃいくら尖っていようとオークの分厚い脂肪に阻まれる。
しかし眼球なんかに、ましてや一度「何かが刺さった」ところを狙えば致命傷を狙えるのではないか。
ドゥアールの頭の中で計画は立てられ、そして実行された。


後は結果...



ドゥアールは元来神や仏など、そういうものは信じない。
ドゥであった頃も様々な宗教を絡めた紛争や内紛に参加したことはあるが、彼にとっては信仰のために銃をとる彼らが理解できないものであった。

信じる者は救われる。


そんな彼の「前」の母もそんなコトを言っていた気がするが、熱心に祈っていた彼女は梅毒で死んでいった。
ハルケギニアの宗教は以前と違い、ブリミルと呼ばれるお偉いさんを崇めているらしいが、ドゥアールはもちろん信じていない。


だってそうだろ?遠くで神様が弾丸を防いでくれるか?
何処にいるか分からねえ神様を祈るくらいなら...


オークの右目からは余り血は流れ落ちず、代わりに鼻や口からダラダラとどす黒い血がこぼれ出てきた。
ドゥアールはくるっと後ろを振り返った。
そこにはプフラが涙を流しながら震えていた。


身近な奴に祈った方がましさ


オークの体がズドオォンという音と共に地面へと倒れた。


一瞬の静寂の後、ドゥアールはゆっくりと、一歩一歩踏みしめるようにプフラへと近づいていった。
心臓はドック、ドックと体中に血液を巡らせながら音を鳴らす。
緊張が途切れたのか、思わず呼吸困難になりそうな感覚が襲ってくる。
プフラはブルブルと震えながらこちらの方を見ていたが、ドゥアールの方へ、まるで飼っている犬でも迎える入れるかのように両手を伸ばしてきた。


「よし...とりあえず...は一安心かな。とにかく森から出るぞ嬢ちゃ..ん。今日は疲れた」


プフラはコクコクと首を縦に振った。
そしてドゥアールの手を掴むと、もう片方の指で手のひらをなぞりはじめた。

あ・・り・・が・・と・・・・あ・・り・・

「『ありがと』ね...それは帰れたらもう一度言ってくれよ。さあ、担ぐぞ。乗り心地は悪いけど我慢してくれよ」


プフラはちょっと笑うと、ドゥアールの首にゆっくり手を回した。
ドゥアールは息を整えると、ふらつく背中にプフラを背負った。
小さな体に合った体重なはずなのに、ドゥアールには天体を一つ乗せられたかの様に感じられた。
プフラの細い腕からは、ほんのりと彼女の体温が首筋に伝わってくる。


まだ大丈夫だ。まだ動けるぞ。森を抜けて街までコイツを運ぶくらいの力はまだ残ってるはずだ。
さあ体を動かせ!!今日はアウトドアの予定はないんだぞ!!


ドゥアールはギシギシと軋む体を持ち上がらせた。
立ち上がってから一呼吸置くと、先ほどプフラに近づいたかのように、ゆっくりと、一歩一歩床を踏みしめて小屋の出入り口まで歩きはじめた。


家に帰ったら寝たいな…
いや、その前に水浴びしてから…
いや、あの人(二ベル)の夕食作ってからないとな...
昼過ぎには帰るって言ってたのに、これじゃ夕方くらいになりそうだしな。
あの人に心配かけるのは好かねえ


ドゥアールは倒れているオークの横を通り過ぎ、小屋の外へと出た。
プフラの体がズルッとドゥアールの背中からずり落ち、木の葉と枝が敷かれた地面に尻を着いた。


だけどコイツはズリィだろ...


二人の前には巨体な体躯をそびえ立たせ、悪臭を振りまきながらこちらを睨む「二頭」のオーク鬼がいた。




                  *






先程の大きな物音に反応してきたのか、それとも既に仲間を読んでいたのか。
どちらにせよ、招かれざる客がそこにいることは確かであった。


 やべぇな...流石にここまでお客がいるとさばき切れねぇよ


自嘲気味の薄笑いが自然と浮かび、薄汚れた顔にはツーッと汗がにじみ出てきた。
離れてはいるがプフラが恐怖で体を震わせていることが手に取るように分かった。
短い付き合いではあるが例え彼女が声を出せても、今の状況じゃ叫び声も出ないだろう。
 
 一旦小屋に...後ろから穴をあけて...


ドゥアールがプフラを小屋に運ぼうと後ろを振り向こうとした瞬間、一頭のオークが拳を振りまわしてきた。
ドンっとプフラの背を押し、彼女を小屋の中へと入れた。
その瞬間、右肩に鈍い衝撃が奔り、ドゥアールは横へと吹き飛んだ。
地面に顔が擦りつけられ、土と緑色の木の葉が口の中に入り、口の中にボソボソとした感触に覆われる。
オークの拳は肩へと当たったらしい。肩の感覚は麻酔を打たれたかのように感じなくなっている。
体をひねって直撃を避けたことと、顔面で受けずに済んだのは幸いか。
ドゥアールはすぐに立ち上がろうとしたが、上半身に走る痛みが全身へと広がり、立とうとする気力さえもそぎ落とした。
立ち上がろうとしようにも、頭の伝達指令が『動くな』と命令している。


 テ、メこの野郎...もうすぐだってのにココで終わりかよ...ふざけんな


ドゥアールが動かない体を無理やり引きずり、もがいているのを尻目にオーク鬼の興味はもう一人の人間、小屋に入り込んだ少女に移された。
そしてドゥアールには一瞥もくれず、ゆっくりと、小屋へと入ろうと入口に近づいていった。


 クソがァァァッ!!!


ドゥアールは叫び声を張り上げた。


 「アアアアアアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!」


ドンッ!!


乾いた音が辺りに響くと同時、小屋に入ろうとしたオーク鬼の一体がグチャッと鈍い音を響かせて吹き飛んだ。
横に倒れたオーク鬼の体は、ドゥアールのそれとは違く、クルミをつぶしたかの様に頭骨を砕かせていた。


な、何が起こった!?


ドゥアールの頭の中に疑問が生まれるの同時、上空の方からヴァサっと風が吹き下ろしてきた。
もう一体のオークが不安と怒りを混じらせた叫び声を上げた。

風が吹き下ろされた後、それに続くかのようにスッとマントを身につけた男が降りてきた。
男の身なりからするとメイジなのだろう。
まだ若い顔つきであるが(無論、ドゥアールよりかは年上であろうが)、短く刈り込まれたブロンドの髪と、額に付いている傷跡が特徴的な男だ。
男は右手に持った杖を振り上げると、小屋に入りかけたオークへと杖を伸ばした。
再びドンッという音と共にオークの頭がはじけた。
「エア・ハンマーってやつか?」とドゥアールが考えてると、上空からバサッ、バサッっと翼をはためかせる音が聞こえてきて、体長が3メイルもあろうかという鳥が降りてきた。
鳥は青や赤、他にも様々な色で彩られ、背中には男と同じマントをはおったメイジらしき男がもう一人座っていた。
短い短髪の男とは反対に、長く伸ばした金髪を後ろで結わえた格好で、痩せこけた顔をしている。


 「プフラ様!!ご無事でございますか!?」


短髪の男が大きな声を上げて小屋の中へ入って行った。
しばらくして短髪の男がプフラを抱きか掛けて小屋から出てきた。
ドゥアールが事の次第を見守っていたが、目の間にズンっと何かが突き刺さった。
目を上げて前を見ると、揺らめくモノが見える。
さらに上を見上げると顔が痩せこけた男が立っている。


 「おっと動くなよ貴様。動いたら頭に風の刃が突き刺さるからな」


痩せこけた顔のように、ひょろひょろとした声をドゥアールにかけてきたが、後ろから短髪の男が抑制のない声で叫んできた。


 「クリスト!!私はすぐにお嬢様を屋敷へと運ぶ!!お前はそいつを運んでくれ!!」

 そう叫ぶと短髪の男は、先ほどクリストと呼ばれた痩せこけた男が乗っていた鳥の背中へと飛び乗った。
男に抱きかかえられたプフラが、こちらを見て手を伸ばしているのがドゥアールの視界にぼんやりと映った。
鳥が2人を乗せて空へと羽ばたくと、痩せこけた、クリストと呼ばれた男はドゥアールの髪を掴んでグイッと顔を持ち上げた。
ドゥアールを見るその表情はまるで地面に転がるオークを見るのとあまり変わらない。


 「小さいな...まだ12,3のガキじゃないか。こんな小汚ぇガキがホントに屋敷に侵入したのか?」

 侵入...屋敷...?なんのことだよ?

ドゥアールに分からないことを痩せこけた男が喋ッていると、しばらくして森の木をかき分ける大きな音が近づいてきた。
バキバキバキと木を折る音が大きくなり、茂みの向こうから巨大な熊が現れた。
黒い体毛に覆われた熊の口から白い牙と赤黒い舌をのぞかせダラダラと涎を垂らしている。

 
 「驚いたか平民?こいつはオレの使い魔だよ。名前は『ジョン』。アンティの鳥とは比べものにもならねぇくらい主人の俺に忠実なんだよこいつは」

 知らねぇよ...


クリストはニヤッと顔を歪ませると、ドゥアールの髪をつかんだまま熊の方へと引きずっていった。
頭の痛みと体を走る痛みに悲鳴を上げそうになったが、急にドカッと地面に投げつけるかのように降ろされると、首筋のほうに熊の吐息がフーっ、フーっと湿った息がかかってくる。

 「ホントはジョンにおめえを食わせてやりたいが...犯人も屋敷に連れてこいって言われてるんでな」


クリストはドゥアールに向かって杖を振った。
するとボロボロになった体はスーッと宙に持ちあがり、少し移動したかと思うと熊の背に
ドサッと乗せられた。
クリストは変わらず顔を歪ませ、笑いを堪えるかのような声を出した。


 「ピリュエ・ダルク・ド・オリヴィエ様のご令嬢、プフラ・ベイレヴラ・ド・オリヴィエ様『誘拐』の罪でお前を捕縛する。屋敷まで連れていくぜぇ」



ドゥアールはその言葉を聞いた後、何も返答する間もなく、意識を落とした。


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