今日は1月1日。2011年の頭を飾る記念すべき一日だ。
といっても、友達も彼女も家族もいないごく平凡な二十歳の僕には全く関係ない話。ちなみに理由という名のつまらない言い訳をさせてもらえば、友達と彼女がいないのは僕にコミュニケーション能力が皆無であるからで、家族がいないのは単に一人暮らしだから。単に忙しくて実家に帰ってないだけ。
別に僕に漫画みたいなドラマチックな暗い過去なんて一ミリグラムもない。そのかわりリアリティのあるひとりぼっちの大学生活が現在進行形で繰り広げられているわけだけど。
でもよくよく考えてみると、新年早々一人で過ごしている大学生というのはごく平凡でもなんでもなくむしろ人生充実偏差値(なんだそれ)がもの凄く低い変な奴だった。
「……まあだからこそこうやって妄想を現実にしているわけだ」
妄想を現実に。というのは別に僕はギガロでマニアックな能力者ってわけじゃなくて、ただの物書きでしたという話。つまり、自分の妄想を小説にすることで僕は日々何とか生きているわけで。
ということはこの目の前にある箱はある意味僕の妄想によって形作られているわけか。
「……それにしても何で買っちゃったんだろうな、こんなもの」
目の前の箱の中には21センチのホールケーキ。いわゆるクリスマスケーキの売れ残りってやつ。
自分でもどうしてわざわざ購入したのか謎だ。出版社での話し合いに疲れて無意識に脳が糖分を欲していたのか。
でもまあ買ってしまった物は仕方がない。僕は別に神様なんて特に信じているわけでも信じていないわけでもないけど、食べ物を粗末にすると良心が痛む程度の道徳心ぐらいは持ち合わせているので、流石に捨てるのはやめたい。
というわけで――
「開けるか」
21センチのホールケーキなんてどう考えても食べきれるわけもないけど、何日かに分ければどうにかなるだろう。と思い僕がケーキの箱を開けた瞬間――
「――メリークリスマスです」
女の子が飛び出してきた。金色の髪。碧色の目。服装ミニスカサンタ。
「…………えぇー」
「メ、メリークリスマスっ!」
「なぜ言い直した」
「いやだって……何でそんなに反応が淡泊なんですか?」
「なんか大して売れてないラブコメのラノベみたいな始まり方だし。そうだったら面倒だなぁって」
そういうの苦手なんだよなぁ。クドいっていうか。極論美少女のエロいとこみせときゃいい、みたいな。
それに僕が中二病系ライトノベルが好きってのもあるけどさ。特に、漢字にカタカナで振り仮名がついてる禁書や戯言とか大好きだ。
「そんな理由で?! 普通こんな小さな箱から美少女が出てきたら主人公は腰を抜かして、『光をため込んだような黄金の短い髪と大きな宝石をはめ込んだような緑色の瞳から分かるようにその顔立ちは明らかに日本人、いや、人間離れしており、まるで神様が作り上げた精巧な美術品のような――』みたいな描写を始めるのがお約束ですよね!?」
だよなぁ。でもラノベとかエロゲに関して言えば絵があるんだから、そんなの必要ないんじゃないかと思うんだけどな。まあそういう僕も担当さんはやっぱり入れた方がいいって言うから毎回入れてるけどさ。
「それよりも、少なくとも僕はそんな容姿よりも君がどうやってこんな小さな箱から出てきたのか、ということのほうが気になるんだけど」
「だからそんなに私の描写が素っ気なかったんですか?! 『女の子が飛び出してきた。金色の髪。碧色の目。服装ミニスカサンタ』って適当過ぎるでしょう!! 最後とか助詞さえ省略してるじゃないですか!! それ以前にラブコメに常識は通用しませんから!」
「え? これって本当にラブコメなの?」
「…………ええ勿論」
「おい顔を逸らすな」
「…………」
「おい」
とりあえずこのミニスカサンタ(暫定呼称)の説明によると、このミニスカサンタはサンタの精という存在らしい。何でもサンタの精というのは、彼の有名なサンタクロースによって生み出された存在で、その意義は世界の子供たちにプレゼントを配るためにあるとか。
「いやでも今日は一月一日なんだけど」
とっくの昔に過ぎてますよ? クリスマス。
「は? またまたご冗談を……」
とりあえずミニスカサンタに携帯電話を見せてみる。ディスプレイには1月1日(土)の文字が表示されていることだろう。
「……ガッデム!!」
両腕を頭に当てて叫ぶミニスカサンタ。可愛い女の子は何をしても可愛いと言うが、それは嘘だった。バカみたいだ。
というかここ壁が薄いんだから大声出すのはやめて欲しい。
そうして一通り汚い意味のイングリッシュを叫びまくったミニスカサンタはこちらを向いてしおらしい声で、
「……それでですね。今年のクリスマスまで居候させてください。さもないとサンタの呪いをかけますよ」
と恐喝してきた。言ってることはともかく、外見は若干涙目で可愛らしい。
「てか……サンタの呪い?」
そういえば黒いサンタクロースってあったよな。よく覚えてないけど、子供を連れ去るとか殺すとかそんな感じの内容だった気がする。
「いえそれはあくまでフォークロアで、これとは関係ありません」
「え? 無いんだ。つうかフォークロアって単語を使ったからってドヤ顔はやめろよ。むしろアホっぽいからね」
よくいるよね最近知った単語を使いたがる奴。
「……あなたこそよくフォークロアの意味が」
「いやこれでも一応現役大学生の小説家なんだけど」
「ふんどうせ底辺大学のラノベ作家なんでしょう」
「うるさいなー。というかさっさとその呪いとやらを説明してよ」
「はいはい……サンタの呪いというのはただ、今後死ぬまで女性の顔が全てセント・ニコラスに見えるようになるだけです。もちろん二次元も含めて」
「それは嫌すぎる!!」
二次元も網羅しているのかよ! どんだけひどいんだその呪い!
「プリキュアになるセント・ニコラス。魔法先生と31人のセント・ニコラス。魔砲少女のセント・ニコラス。ホッチキスで主人公を脅迫するセント・ニコラス。ウンディーネのセント・ニコラス。地球を砕こうとする魔王セント・ニコラス。猫又で足洗低の管理人であるセント・ニコラス。白のミルハであるセント・ニコラス……ふむ、エイフェックスツインのジャケットにそんな感じのがありましたよね。コラ画像みたいなやつ」
「分かりました今日からよろしくお願いしますつうか最後らへんとかとかマニアックな話題過ぎてほとんどの人がわかんねぇよ!!」
こうして僕の家に一人の居候ができた。とりあえず今年のクリスマスまで騒がしい毎日が続きそうだ。正直さっさとどっかに行って欲しい。
あとがき
ストレス解消で何も考えずに書いた。何も考えずに文章を書くのはとても楽しいですねまる