きっと、だいじょうぶ。

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きっと、だいじょうぶ。:/18 出会い=西野博之

 自宅を使って里親型の児童ファミリーグループホームを始めたのは、一人息子のタツキが小5の秋のこと。

 その年の11月に児童相談所を通じて小6の女の子が入居。続いて中1の男の子がクリスマスの日にやってきた。

 この頃のタツキは、ぷくぷくタッちゃんと呼ばれ、身長が165センチ、体重が70キロを超える大柄な子だった。「学校生活3大いやな事」は、体重測定・運動会の徒競走・持久走大会。徒競走ではいつもビリに近かった。

 小6になった夏休みのこと。「兄」となった二つ上の子が「おいデブ、お前ちょっとはやせろよ」とタツキを運動に誘う。何段にも分かれたおなかの脂肪をつまむと、そのスキマに遊戯王カードがすっぽり隠れてしまう姿を見るに見かねてのことだった。

 2人一緒のトレーニングが始まった。まずは坂の多い家の周りを、走りこむ。続いて、筋トレ。兄が課したメニューは、腹筋50回を1日2セット、腕立て伏せも毎日100回。当の本人はそれまでの人生で、腹筋も腕立ても、一回もできたことはない。

 見ていると、タツキは半ベソをかいている。「これって、もしかしてイジメじゃないのか」と私の頭をかすめる。止めに入るべきかで揺れる。でも泣きながらもやめたいとは言わず、必死についていくタツキを見て、彼の中で自分を変えたい、変わりたいと願っているのではないかと感じた。親子関係だけでは超えられないことがある。なにかの力を借りて、人は自ら変わろうとする瞬間がある。その時なのではないか。

 地獄の特訓開始から2カ月がたった。いつの間にかぜい肉はしぼられ体重も7キロ減量に成功。そしてタツキが苦手な運動会の日がやってきた。驚いたことに、小学校生活6年目にして初めて徒競走で1位になった。しかも応援団長にも選ばれ、袴(はかま)姿でエールを送っている。その表情のなんといきいきしていること。

 みんなからデブといわれ、スポーツもそれほど得意でなかったタツキだが、ここで自信をつけたのだろう。中学校で始めたバスケットボールでは中2で市の選抜チームに選ばれた。そしてスポーツ推薦で高校に進学。現在は大学でも体育会バスケ部に所属し、バスケざんまいの生活を送っている。兄との出会いが息子の人生を変えた。子どもの力を信じる大切さをふたりの息子たちに教わった気がした。

 里帰りした子たちと元旦恒例の初詣。今年も良き出会いがあるようにと祈った。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は23日

毎日新聞 2011年1月9日 東京朝刊

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