民主党内で検討が始まるなど、医薬品副作用被害救済制度に、抗がん剤による死亡を含めようとする機運が高まっているのは、がんが国民の死因のトップ(09年で約34万人)を占め、3人に1人ががんで死亡する中、抗がん剤が幅広く治療に使われているためだ。
進行がん患者に使われる抗がん剤の副作用は、問題が起きても「他に治療法がなく患者も覚悟していた」と片づけられがちだ。しかし、行政や製薬会社、医師から十分なリスクの説明がないまま効果だけが強調され、その結果、副作用で多数の死者を出した「イレッサ」の問題は、がん治療の在り方をも問いかけている。
抗がん剤の副作用による死亡率は1~2%とされる。具体的な人数など正確なデータは不明だが、厚生労働省が抗がん剤を救済制度の対象に含めるのに慎重な理由の一つは、請求が殺到し製薬会社の負担が増え、制度が維持できなくなる懸念があるためだ。
厚労省幹部は「医療者と患者が納得して治療する体制づくりが先ではないか」というが、イレッサ訴訟が投げかけた問題を真摯(しんし)に受け止め、救済制度の見直しに向けた検討も進めるべきだ。【佐々木洋】
毎日新聞 2011年1月9日 東京朝刊