先日、Twitterで「学校で食料自給率が低いことは問題だと生徒に教えるのはおかしい」という主旨の発言をしたところ、「食料自給率が低いことは問題だと教えることのどこが問題かわからない」というような返信を頂いた。
経済学の観点から食料自給率について論じる言説は巷に溢れているが、改めて食料自給率について論じてみる。
Twitterなどを見る限り、食料自給率向上派の論拠として挙げられるものは主に3つだ。1つ目は、地球温暖化による環境の変化で食料の生産量が減少したり、世界人口が増加して全体的に食料が不足したりして、各国が日本への食料の輸出を減らすかやめてしまうかもしれない、というもの。2つ目は、突発的な戦争などによって各国の食料の輸出入が突然ストップする、というもの。そして3つ目は他国に食料というカードを握られていると外交的に弱い立場に立たされる、というものだ。
このうちのどれをとっても国策として食料自給率を向上させる論拠にはならない。1つずつ反論していこう。
地球温暖化や世界人口の増加による食糧不足はイノベーションによって解決されるはずだ。農業の生産性は着々と伸びている。10~20年のうちに農業生産性の伸びが急にストップするかもしれない、という意見も聞くが、それは結局のところ杞憂に終わるだろうと考えている。
突発的な戦争が起きた場合、日本が食料を輸入している全ての国と戦争を行うとは考えにくい。もし主要な食料輸入国が全て敵側に回ってしまうことを考えたとしても、その際に必要なのは食料の輸入先の分散化であって食料自給率の向上ではない。そもそも、戦争の際に食料が自給できてもエネルギーを諸外国に頼っていれば食料の生産地から全国に運ぶことができない。
外交カードの問題にしても食料の輸入先を分散化すれば良いだけのことだ。
その他にも水資源を引き合いに出す人もいるが、これは食料の問題ではなくエネルギーの問題だ。そうにも関わらず、なぜエネルギー自給率向上について声高に叫ぶ人が見当たらないのだろうか?
なぜ私は食料自給率向上政策を頑なに拒絶するのか。
輸入先の分散化の代わりに食料自給率の向上をしても良いように思える。
食料自給率が市場の成り行きによって自然に上がっていくのなら良いだろう。食料の輸入が減れば食料価格が上がって農業に転向するインセンティブが高まり、農業用の土地や農家は増える。
しかし国策として自給率向上を行うのなら話は別だ。
なぜなら、そのようなことをすれば日本を含めて世界中が今より貧しくなるからだ。
国策として食料自給率を向上させるには、既存の農家に補助金を出して不採算な農業に留まってもらい、外国からの食料輸入を減らすことになる。
するとどうなるか。日本の消費者は高い税金を支払って今までと同じかそれ以上の価格で食料を買わなければいけなくなる。日本に食料を輸出していた発展途上国の農家は収入が激減して餓死してしまうかもしれない。
食料自給率を市場に反して無理やり上げることには何の利点も存在しない。
そんなことより、農家への補助金を廃止したり、農地の取引を簡単にしたり、農業への参入障壁を撤廃したりして、農業を自由化する方がよっぽど日本も世界も豊かになることだろう。