「マンガが発展したのは手塚先生が“誤解”させたからです」

●「マンガ大戦争１９４５〜１９８０」幸森軍也（講談社　１８００円）

　マンガ雑誌の誕生から青年誌創刊に至るまでの勃興の歴史をつづったノンフィクション。

　戦後の混沌からさまざまな雑誌が生まれ、赤本マンガと呼ばれた単行本や貸本マンガを経て、少年向け週刊マンガ雑誌へと進化していくさまは、まさにマンガ創世記ともいえる。

「大学で日本文化研究の講座を受け持つことになり、その講義のために調べ始めたのですが、今までの資料本や研究本に間違いが結構あることに気づきました。例えば手塚治虫のデビュー作の赤本『新寶島』は、４０万部出たとも８０万部出たともいわれているんですが、その根拠は手塚先生がエッセーで書き残していることをそのままうのみにしているだけなんですね。マンガの神様が言っているのだから本当だろうと。だから、本書では徹底的に裏付けを取ることにこだわりました」

「サンデー」と「マガジン」の同時創刊の舞台裏とその激しい攻防戦、さらに他社の参戦による戦線の拡大、そして成長した愛読者の受け皿としての青年マンガ誌の創刊まで。一つの媒体が生まれ、成長していく過程を、漫画家や編集者らのエピソードを交えながら紹介していく。

「手塚治虫の出現前の、マンガより絵物語が主流だった時代は、その作者である山川惣治さんや小松崎茂さんの絵がものすごく上手で、誰も真似しようと思わなかった。でも、手塚治虫の絵は真似ができるんです。これだったらと、みんながマンガを描き始めた。そういう意味で、逆説的ですが、手塚治虫の功績は、このスタイルだったら僕も描けるとみんなを“誤解”させたことが大きいと思います」

　漫画家たちの活躍と共に、マンガ雑誌の興隆に尽力した編集者たちの知られざる戦いぶりにも触れる。

「最初のころは、普通の雑誌の編集者や新聞の記者だった人が、さあマンガの雑誌を作れと言われて模索しながら作っていたんですね。マンガの発展に編集者の果たした役割は大きいと思います。漫画家が誰も見たことがない作品を描いたとしても、それを認めて載せてくれる編集者がいなければ、日の目を見ないわけですから」

　同時代を生きた読者が手にしたら、夢中になってマンガを読んだ少年時代の思い出がよみがえってくるに違いない。マンガの正史の誕生だ。

▼こうもり・いくや　作家、（株）ダイナミックプロダクション出版企画部部長。１９６１年兵庫県生まれ。関西大学卒業。９２年「げんまん」で作家デビュー。現在、専修大学文学部で日本文化研究の講座を担当。日本マンガ学会、著作権法学会会員。著書に「ゼウス」ほか。

（日刊ゲンダイ2011年1月5日掲載）