2010年11月9日 11時57分 更新:11月9日 12時50分
政府は9日の閣議で、「包括的経済連携に関する基本方針」を決定した。原則すべての品目を自由化する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について、「関係国との協議を開始する」と明記する一方で、国内農業への影響を懸念する与党内の慎重派に配慮し、TPP参加の判断は先送りした。菅直人首相は13、14日に横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、基本方針を踏まえ、TPPへの対応を表明する。【小山由宇】
TPPに関し、基本方針では「情報収集を進めながら対応していくことが必要であり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と記した。
同時に国内農業に配慮、農業振興や食料自給率向上策を講じる「農業構造改革推進本部」を設置し、来年6月に農業改革の基本方針を決定することも盛り込んだ。仙谷由人官房長官は9日の会見で、判断の時期は農業改革の基本方針をまとめる来年6月前後になるとの見通しを示した。
基本方針は2国間の経済連携協定(EPA)推進もうたっている。ペルー及び豪州との交渉妥結、日韓交渉の再開を記し、「取り組みを加速化する」などとした。
9日の閣議で、菅首相は「農業再生を念頭に置きながら国を開く、重大な基本方針だ。『平成の開国』で必ずプラスになる」と強調。さらに、「農業構造改革推進本部長(議長)として抜本的改革を進める」とTPPの前提となる農業改革に意欲を示し、来年度の農業関係予算充実のため、玄葉光一郎国家戦略担当相や鹿野道彦農相らによる4閣僚会合を開催することを指示した。
交渉に参加するかどうかは今後、判断することになる。同日、各閣僚からは「座して死を待つより打って出て競争力をつける発想」(仙谷氏)「参加に向けた最初の一歩」(海江田万里経済財政担当相)など、評価する発言が相次ぎ、慎重派の鹿野農相も「私自身の考え方も相当盛り込まれた」と語った。しかし、与党内にも慎重派は多く、参加に向けた調整は難航が予想される。
一方、自民党の石原伸晃幹事長は9日午前の記者会見で「銀行、生保、損保など金融全般の自由化の問題が議論された形跡はまったくない。何をやろうとしているのかというのが率直な印象だ」と批判した。また共産党の志位和夫委員長は同日、「『恩恵』を享受する自動車、電機など一部の輸出大企業のために日本の農業を破壊し、国民生活に多大な犠牲を負わせることは断じて許されない」との談話を発表した。
TPPは貿易・投資などを自由化するEPAで、現在は米国、豪州、チリなど9カ国で交渉を進めている。農業分野も含め発効から10年以内にほぼ100%の関税撤廃が原則で、11年11月の合意を目指す。
玄葉光一郎国家戦略担当相は9日午前の衆院予算委員会で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を巡り、関係国との協議開始を明記した「包括的経済連携に関する基本方針」について、「交渉参加を表明するものではない。各国の全体の進ちょく状況や我が国に対する見方を情報収集しながら、各国と個別に相談し判断をして本格交渉にはいるかどうかを決める」と理解を求めた。
一方、前原誠司外相は「(TPP)参加をある程度意思表示しなければ情報収集できず、日本の参加条件も整わない。今回の閣議決定は一歩前進で、それを前提に外交を進める」と述べた。
自民党の赤沢亮正氏への答弁。【野原大輔】