老舗(しにせ)温泉旅館とほぼ同じ接客、サービス、料理を提供する本格的な和風温泉旅館が12月、台湾でオープンする。室内には畳が敷き詰められ、着物を着た客室係が日本産のビールや日本酒で旅客をもてなす。旅館の誘致やノウハウを学ぶ動きはベトナムやロシアなどからもあり、温泉文化の「輸出」が進む可能性がある。
台北から車で約30分。酸性の硫黄泉で知られる北投温泉に着く。石川県七尾市の和倉温泉「加賀屋」と、台湾の不動産開発会社「日勝生活科技」の合弁企業が経営する「日勝生加賀屋」ができる。加賀屋には富裕層を中心に年間8千〜1万人の台湾人観光客が訪れており、台湾との縁は深い。
日勝生加賀屋には、客室係のきめ細かい「もてなし」で知られ、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(主催・旅行新聞新社)で30年連続1位となった加賀屋のノウハウをつぎ込む。「もてなし」が台湾人観光客から高い評価を受け、リピーターも多いことから台湾進出を決めた。
地上14階地下4階、90室の旅館を約60億円をかけて建設した。部屋は8割以上が和室。日本から畳職人らを派遣して作った。源泉かけ流しの和風大浴場のほか、日本の旅館のように家族風呂もつくられた。宴会場では台湾でも人気のカラオケが楽しめる。
とりわけ力を入れるのが接客の指導だ。従業員70〜80人は着物姿で接客に当たる。接客係の台湾人女性たちは1月から来日し、加賀屋で部屋食の配膳(はいぜん)やお酌など老舗温泉旅館のもてなしを学んでいる。
「正座に苦労しているようですね」と加賀屋の鳥本政雄専務。5月から加賀屋で研修中の客室担当の台湾人女性(26)は「台湾と日本のサービス内容はほぼ同じ。でも、台湾ではお客様から要望があってからサービスするのに対し、日本ではお客様から言われる前にサービスすることが大きな違いです」。