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[25220] 【習作】 サトリのリリカルな日々 (リリカルなのは オリ主)
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/02 02:57
はじめまして。kakaと申します。

今回、こちらで初投稿させていただきます。
拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。

以下諸注意

・オリ主は若干チートくさい能力もちです。

・原作キャラとオリ主がくっつきます。

・ところどころ原作崩壊するかもしれません


以上の注意点が気にならないという心の広いお方に読んでいただけると嬉しいです。



[25220] 第一話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/04 09:10
自分には一つ、秘密がある。
物心ついたころにはもうあった秘密だ。
誰にも気づかれたことはない。親ですら知らない。
いや、知られてはならない。


自分には――――――――人の心の声が聞こえるのだ。
そんな自分を俺は異常者だと思っている。



俺、一ノ瀬希は物心ついたときにはもう他人の心の声が聞こえていた。
たぶん、覚えていないだけで生まれたときから聞こえていたのだと思う。
聞こえる範囲は耳で聞き取れる範囲よりもはるかに広く、その上一人一人が何を言っているのかはっきりをわかってしまう。
効果範囲にいれば十人だろうが百人だろうが関係ない。
聖徳太子もびっくりだ。
おかげで聞きたくもないような恨み辛みの呪詛の声まで拾ってしまう。
純粋無垢であるはずの幼児期なのにおもいっきり心の闇をぶつけられてしまった。教育に悪いったらない。
しかし、それでも俺の心が壊れてしまわなかったのはひとえに両親の深い愛情のおかげだろう。
うちの両親は大変仲睦まじく、とてもとても大切に、愛情をこめて俺を育ててくれた。
その心を生まれた時からダイレクトに受け止めてきたおかげで、無遠慮にぶつかってくる心の闇に精神を侵されずに済んだのだ。
それでも、同年代の子供たちと比べて精神年齢がかなり高くなってしまった。
まったく、可愛げがない。
両親はそんな俺も変わらず猫かわいがりしてくれる。
はっきり言って親バカだと思うがそこは気にしないでおこう。
俺もなんだかんだで両親のことが大好きなわけだし。



そんな両親にですら俺は心の声が聞こえることを話したことはない。
理由はいろいろあるが一番大きいのは怖かったからだろう。
この能力が他の人にはないことは既に気付いていた。
そして、人間が自分と大きく異なるものを嫌悪し、排除しようとすることも、今まで聞いてきた声から知っている。
なので、秘密を話してもし両親に嫌われてしまったらと思うと怖くて仕方がなかった。
もちろん、両親に限ってそんなことはないだろうという思いもあった。
それでも万が一……と、思うと話す決心がつかなかった。




 結局今まで秘密を打ち明けたことなんて一度もない。
 これからも、よほどのことがない限りだれにもこの秘密は打ち明けないだろう。
 自分を捨ててまでやりたいことでも見つからない限り。



 物心がついたころになると俺はこの能力を制御するための訓練を始めた。
 別に人の心の声が聞こえる状態なんて普通で、特に何もしなくても生活するのに困らなかったがそれでも無遠慮にぶつかってくる呪詛の声はウザくて仕方がなかった。
 幸い、精神年齢が大人並みになった俺にとっては積み木や玩具で遊ぶなんて何の魅力も感じられなかったので時間ならたくさんある。
 そんなわけで一日中この能力の制御の訓練をしまくった。
 傍から見ればただボケっとしているだけにしか見えなかっただろうが両親は全く気にしなかった。
 とゆうか両親は俺が何をしようとすべて『希君かわいい~』といって喜んでくれる。
 ……そんな甘やかしていいのだろうかと心配になってきた。
 俺だからよかったもののほかの子供なら間違いなくわがままで自己中心的な子供になったんじゃないだろうか。
 兄弟が生まれたら俺がしっかりしてきちんと育てなければ。


 話がそれてしまったので元に戻すが、そんなこんなで訓練は滞りなく行われていった。
 訓練のおかげかもともとそうなるようになっていたのか知らないが拍子抜けするくらい簡単にオンオフの切り替えができるようになった。
 その上いろいろ試行錯誤をしているうちに様々な使い方ができることが分かった。
 気にしない様にしているがマジで異常だ。何者なのだろう、俺って?


 とりあえず当初の目的だったオンオフ切り替えが自然にできるようになったので一旦訓練を止めることにした。
 ちょうどそのころには幼稚園に入学する時期で、今までみたいに日がな一日ぼーっとしているわけにもいかなくなったのだ。
 感覚的に自転車とか泳ぎ方と同じでやめてもできなくなるってことはなさそうだし。

 しかし、いざ訓練を止めると暇でしょうがなかった。
 今まで本当にそれしかやってこなかったのだから無理もない。
 精神年齢が高すぎるせいでほかの園児たちとは話が合わないし。
 別に孤立しているわけではないのだが自然と一人っきりになってしまうことが多くなってしまう。
 このままでは拙いと思ったので解決策として本を読むことにした。
 これならば一人でいても問題ない。暇もつぶせるだろうと考えたのだ。
 この選択が自分の人生に大きく関わるとはこの時はまだ思ってもみなかった





 はまった。
 それも大はまりだ。
 今までいろいろな思考を読み取ってきたがそのほとんどがまとまりがなく、しっちゃかめっちゃかだったのに対し、本は理路整然としていて実に面白い。
 今まで聞こえていたが意味まではわからないといった単語の意味が本の知識でわかるようになる。
 それが知識欲を刺激しどんどんと様々な本を読ませていった。
 すぐに幼稚園に置いてある本などすべて読み切ってしまい、近場の図書館にも手をつけ始めた。
 ジャンルは問わず様々な本を読みまくった。
 児童書から始まり、雑誌、小説、辞典、教育書、芸術本、スポーツ本など活字があれば何でもよかった。
 立派な活字中毒者だ。
 なるべく多くの書籍を読むために速読まで覚えたのだからかなりのものだろう。

 その上一度読んだ本の内容はすべて覚えているし、使える知識は有効に使う。
 おかげで幼稚園を卒業するころには精神年齢がさらに上がり、知識量も相当なものとなっていた。
 成長が追い付いていないのは体だけになってしまった。
 こんなところにも異常な点が出てくるなんて。


 しかしどう見ても異常なこの状況にですら両親は動じなかった。
 むしろ、『希君は天才だっ!』とか言い出して歓喜したほどだ。
 ……どう考えても一日中図書館に入り浸ってその上帰り際には限度いっぱいまで本を借りて帰り、すぐに読み切ってしまうのは天才と言わずに異常だというべきだろう。外国の医学書とか持って帰ったこともあるし。
 この人たちの愛は心が読める俺でも測りきれん。


 そう思っていた両親なのだから当然のように俺を私立の学校に通わせようとした。
 俺としては公立でもよかったのだが。
 どちらにしろ今の俺のレベルに釣り合うとは思えなかったし。
 それでも、両親の期待にこたえるのも親孝行かなと思ったので受けることにした。
 入学試験は予想通り超簡単ですんなり合格することができた。
 合格自体は特にうれしいことではなかったが両親が喜んでくれたのでよかった。





 こうして異常者たる俺は聖祥大学付属小学校に入学することとなった。











 特に学校生活に対して期待はしていなかったのだがこの学校は予想以上に面白いところだ。
 まず、大学の付属学校だけあって図書館が充実している。これはとてもうれしい。
 近場の図書館にはない本がたくさんある。
 とゆうかもう近場の図書館の本はすべて読破してしまいそうなのだ。
 ……小さいとはいえ二年ちょっとで読破できるとは。
 これだから異常者は困る。
 もう一つの面白い点はクラスメイトだ。
 いや、こっちは全くと言っていいほど期待していなかったのだがうれしい誤算だ。
 と、言っても仲のいい友達ができたというわけではない。
 ハブられない程度にコミュニケーションはとっているが基本一人でいるからな。
 面白いというのは見ていて面白いという意味だ。
 皆感受性が豊かでそこまで廃れた奴もいないしな。

 特に目立っていて気になっているのが二人ほどいる。
 一人目はアリサ・バニングス。
 両親は実業家のお嬢様でかなり気が強い。
 それでいて成績優秀でテストでも常に満点をとっている。いわゆる天才少女というやつだ。
 しかし、その気の強さが災いしてなかなか友達ができずにいる。心の中ではさみしいと思っていても言葉にはできないようだ。
 見た目金髪美少女というのも周りから声をかけるのにハードルが高いらしい。
 俺から声をかけるつもりは今のところないがそのうち友達もできるだろう。

 次に眼についた人物は月村すずか。
 資産家の娘で家にはメイドまでいるらしい。
 こちらは引っ込み思案の性格だが運動神経は抜群だ。
 こちらも特に仲のいい友達が居るわけではないようだがこれは彼女自身が進んで人から距離をとっているからだ。
 それは彼女の秘密が原因らしい。
 彼女は夜の一族と呼ばれるいわゆる吸血鬼らしい。
 実に興味深い話だ。
 ぜひ一度詳しく調べてみたいが下手に首を突っ込んで火傷したら嫌なので今のところ自重している。
 家の規模も大きいしな。


 なんで俺がこんなことを知っているのかというと、それは二人の心を覗いたからだ。
 とゆうかこの学校の人間の心はほぼすべて覗いてしまっている。
 休み時間とかならいいがさすがに授業中まで本を読んでいるわけにもいかないし、授業自体は俺にとって価値がないものなので暇なのだ。
 だから授業中は幼稚園時代に辞めていた能力訓練を再開している。
 能力使っていたところで授業自体も聞くことができるので万事問題はない。
 まぁ、勝手に人の心を暇つぶしなんかで覗くのがいいことかどうかは置いといてだ。




 そんなわけで今は思っていたよりも退屈せずに過ごせている。










 月日は流れ小学二年生の春休みになった。
 この三年間は特に変わった出来事も起きずにのんびりと過ごしていた。
 相変わらず友達はいなかったがいじめられているわけでもないので良しとしよう。
 ……あのバニングスにですら友達ができたのにと思ったりもしたが。
 というか、あの二人はあの後すっかり親友になっている。
 仲がいいのはいいことだ。


 しかし最近一つ問題ができた。
 図書室の本をまたすべて読み切ってしまいそうなのだ。
 俺にとって由々しき事態だ。
 最近はまた読むスピードが上がってきたので下手したらあと一週間持たないかもしれない。
 ……仕方がないから新しい図書館でも探すか。
 確か学校の近くにも一つあったと思うし。
 せっかくだからいろいろと廻ってみよう。
 それで、蔵書量と借りれる数を調べて新しい拠点を見つければいい。
 できれば未読の本が多いところがあればいいんだが。


 そうと決めた俺は早速海鳴市の図書館にきた。
 しかし、未読の本の数はやはり少なく、おそらくここも一カ月もしたらすべての本を読み切ってしまうだろう。
 少しがっかりしたが仕方がない。
 早く次の所を探すことにしよう。


 そう思って図書館を出ようとしたところで車椅子の少女を見つけた。
 手を伸ばして上のほうにある本をとろうとしているが届かないようだ。
 別に放っておいてもよかったが図書館ではマナーよく過ごすことを心がけているし助けてやるか。
 能力も今は切っているし、普通に親切するのもたまにはいいだろう。
 だから、とりあえず声をかけた。

「どれが取りたいんだ?」

 少女は急に声をかけられたことで一瞬驚いていたがすぐに返事をしてくれた。

「その上のほうにある料理の本です」

「これか?」

「その隣のやつを」

 指示された本をとった俺はそれを渡すためはじめて少女のほうを向いた。
 親切にされたのがうれしかったのか少女の顔はにこにこと笑っていた。

「おおきに」

 少女はお礼を言って本を受け取ろうと手を出してくる。











 しかし俺はそれどころではなかった。
 少女の顔を見たとたん、雷に打たれたような衝撃が走った。
 体が熱くなるのが分かり、心臓がバクバク鳴っている。
 それでいて少女から目が離せない。
 これはなんだ? 今までにこんな状態に陥ったことはない。
 自分にいったい何が起きているんだ。

「……? あの」

 少女にもう一度声をかけてもらった事でようやくまだ本を渡してないことに気付いて慌てて渡した。
 まだ体の異変は治らない。
 しかし、いやな気分ではない。

「おおきに。手が届かんくてこまっとったんよ」

「あ、あぁ。気にしなくていい」

 少女がにこにこと話しかけてくれるが今は体の異常が気になってそれどころではない。
 それでも、彼女から離れたいとは思えなかった。
 本当にどうしちゃったんだ?

「ここにはまだ居る予定か?」

「へ?あ、うん。そうやけど」

 突然の質問に少女はポカンとしている。

「なら少し待っていてくれ」

 そう言って俺は少女を置いてそのまま医学の本が置いてあるコーナーまで一直線に向かった。
 少女の姿が見えなくなるとなんだか悲しくなるのである程度の量の本を持つとすぐに少女の所に戻っていった。
 その持っている本の量と中身に少女は驚いていたが気にせずに読みだす。
 少女を待たすのは嫌だったので過去最高速度の速読で読み進めた。
 五分もたたずすべての本を読み終えることができたが今の症状に関する内容は乗っていなかった。
 ならばと、次は心理学の本を持ち出す。
 なんだか心に関係がある気がしたのだ。
 しかしそれにも納得のいくものは見つからなかった。

「あの……どうしたん?」

 突然の奇行に面食らっていた少女だったが恐る恐る声をかけてきた。
 そこでようやく自分がへんてこなことをしていると気付き、また一気に顔が赤くなる。
 何してんだ俺は。
こんなことしたら変に思われるに決まっているのに。冷静に考えられていない。
 ……ん、冷静でない?
 そこまで思ってからやっと現在の状況にあうだろう一つの可能性に気付いた。

「悪い、もう一回だけ」

 そう断りを入れてからあるコーナーまで来た。
 そこでやっと自分の状況に会う症例を見つけることができた。
 もう一度少女のもとまでもどり、理解できた気持ちを伝える。

「悪い、待たせた。ちょっと分からないことがあって」

 あるコーナーとは恋愛小説コーナー。

「どうやら俺は君に一目惚れしたらしい」










 俺は生まれて初めての恋をした。




[25220] 第二話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/04 09:33
 気持ちを伝えた後の少女の反応は実に面白かった。
 初めはいきなりのことに理解ができずポカンとした。次に思考が脳に追い付くとみるみる赤くなっていった。そして、手を振ってわたわたしだした。

「え? ちょ、え?」

 かなり混乱しているようだ。
というか会った直後から混乱させすぎだな。
 こうやっているのもすごく可愛くていつまでも見てみたいと思うけど。
 さすがに可愛そうか。

「いきなりこんなこと言われて混乱しているだろう。だけど事実だ。別に今すぐ如何こうしたいというわけじゃないので気にしないでくれ。ただ、いやじゃなかったらこれからも見かけたら声をかけていいか?」

 とりあえずこれでこちらの要求は伝えることはできた。後は向こうの返答しだいだな。
 ……嫌だと言われたらどうしよう。向こうの嫌がることはしたくないし。でも、辛そうだな。
 などと、俺がいろいろと余計なことを考えている間に落ち着きを取り戻してくれたようだった。

「あ~、とりあえず一目惚れ云々は置いといて、私とお話ししたいゆうんやったらべつにかまわへんけど」

「本当か! ありがとう!」

 少女が認めてくれたことで俺は大いに喜んだ。
 おそらく、過去最上級のにこにこ顔をしていることだろう。
 さっきまでクール系のキャラだったと思うのだがいきなり壊れすぎではないか?

 少女も若干苦笑い気味だし。
 ……ん、そういえばまだ名前も聞いていなかったな。

「すまん、自己紹介が遅れた。俺は一ノ瀬希。聖祥大学付属小学校に通っている。春休みが終われば三年生になる」

 すると少女は少し意外そうな顔をした。

「あ、三年生なん? 私も三年生なんよ。大人びてるからてっきり上級生なんかと思てたわ」

 確かに、俺は小学生の割には落ち着いている。
 精神年齢も他と比べて高いし。……先ほどの醜態は置いといてだ。

「私の名前は八神はやてや」

 八神はやてか。
 ……よし、覚えた。たとえ記憶喪失になろうともこの名は忘れないようにし
よう。

「これからよろしくな。八神はやて」

「いや、わざわざフルネームで呼ばんでも。はやてでええよ」

「わかった。なら俺のことも希でいい」

「うん、希君な」

 こうして俺とはやてとのファーストコンタクトは無事?成功した。








 このあと料理の本を借りていったはやては用事があるからと言ってすぐに帰ってしまった。
 送って行こうかとも思ったが初対面の状態でいきなり家を訪ねるのもどうかと思ったし、何よりはやてが遠慮していたので今回は図書館の前まで車椅子を押してあげることで妥協した。
 はやてと別れるのはすごく悲しかったが引きとめても迷惑なので我慢した。それはもうすごく我慢した。
 その後俺は図書館内に逆戻りし、恋愛小説を山ほど読みまくった。すでに読んだことのあるものですら読み返したほどだ。
 帰り際には我に返って未読の本を借りていったが、帰ってもはやてのことばかり気になってなかなか本に手がつけられないでいる。
 そんな俺を心配して両親が話しかけてきた。

「希ちゃん、どうしたの? 今日は本も読まないでボーっとしちゃって。どこか具合でも悪いの?」

「希、何か学校であったのか? 父さんたちでよかったら相談に乗るぞ?」

 確かに今の状況は普段の俺からしたら異常だ。
 食事もあまりのどを通らなかったし。
 両親に心配をかけるわけにはいかないので今日起こったことを伝えてあげることにした。
 途中、はやての件になった辺りで両親の目は輝きだし、話が終わると噴火したかのように勢いよくしゃべりだした。

「まぁ! 希ちゃんが初恋! どうしましょう! もっと早く行ってくれればお赤飯炊いてお祝いしたのに!」

「希が初恋か。大きくなりやがって。父さんうれしいぞ!」

「母さんは少しさみしいかな。希ちゃんが遠くに行っちゃうみたいで」

「母さん、私だって一抹の悲しみくらいあるさ。でも、希の新しい門出を祝ってやらないと」

「そうね、分かったわ、お父さん。そうと決まればちゃんと応援しないとね。相手はどんな子なの?」

「よく知らない。今日初めて会ったから」

「つまり一目惚れか! いや~父さんもそうだったぞ。初めて母さんを見たときにビビッと来たんだ」

「私だってそうだったわ。初めてお父さんを見たときにビビっとね。やっぱり親子って似るのかしらね~」

 そうだったのか。知らなかったな。愛情に関しては両親について理解できないと思っていたが結局似てしまうんだな。
 ……微妙にうれしい。

「それで、相手の反応はどうだったんだ? 向こうもビビッと来ていたか?」

「いや、混乱していた。その顔も可愛かったけど」

「そう、向こうはビビっと来なかったのね。残念」

 その後、両親は腕を組んで思案顔になってうんうん唸りだした。
 しばらく待つと二人同時に手をポンッと叩き

「「よし! 父さん(母さん)が希(ちゃん)の恋を成就させるためにアドバイスをしてあげよう!」」

 と、提案してきた。
 正直、はやてにどうやってアタックしようかは悩んでいたところだった。
 恋愛小説はたくさん読んだがあれはあくまで物語で、現実で使えるかわからないし。
 それに対象年齢が高すぎて何か違う気がする。
 だから、この提案は願ってもないものだった。
 少し気恥ずかしくも感じたが、両親のことを信頼しているのできっとうまく行くと、この時は思ってしまった。








 作戦その一 相手がどれだけ好きなのか語れ

「俺ははやてに惚れている。どこが好きかと聞かれればすべて好きだと言わざる得ないな。声も髪も顔もからだもこころも、存在の一つ一つが限りなくいとおしく感じているぞ。こんな気持ちは初めてだ。こんな幸運が起きるなんて、神様なんて信じていないが、もしいるのならはやてに合わせてくれたことを感謝したいな。はやてのためなら何でもするぞ。俺は。だから遠慮なく何でも言ってくれ」

「うん、ならこれ以上恥ずかしいこと言わんといて!」

 作戦失敗。顔を真っ赤にしたはやてに怒られてしまった。
 うん、そんなはやても可愛い。





 作戦その二 プレゼントを渡せ

「はやては今何かほしいものはあるか?」

「ん? そうやね~。新しいお鍋がほしいね。今家にあるんは少し大きすぎんねん」

「よしわかった! まかせろ!」

「へ? なんなん?」

 次の日、大小様々な形の鍋を用意してはやてを呼んだ。

「の、希君、これは?」

「さあ、いろいろと用意したぞ! 好きなのを上げるからどれか選んでくれ! 全部でもいいぞ!」

「いや、こんなん受け取れへんよ」

「? なぜだ?」

「もらう理由がない」

「はやてが好きだからじゃ駄目なのか?」

「それは理由になってへんよ。だからこんなんは受け取れへん」

「そうだったのか……すまない、気を悪くさせたか?」

「そこまでは言わんけど……こうゆうんは私はあんま好きじゃない」

「そうか、覚えておく」

「ちゃんと返品するんやよ」

「いやこれ自作だから。それは無理だな」

「作ったん!?」

 またはやてを怒らしてしまった。作戦大失敗。





 作戦その三 相手を褒めまくれ

「はやては可愛いな。どこが可愛いか具体的にいうとまずその

「だからそんな恥ずかしいこといきなり言わんといてって!」

 またまた怒られた。とゆうかこれは恥ずかしいことだったのか。作戦大大失敗。





 作戦その四 とりあえず抱きつけ

「いやこれは駄目だろ!」

「!? どうしたん? いきなり?」

 実行不可能のため作戦失敗!








 いや、どうも両親のアドバイスは根本的に間違っているようだ。
 何一つ当たらない。
 とゆうかよく考えたらあの人たちの恋愛感事態普通じゃなかった。
 知り合って二十年近いっていうのにラブラブだし。
 一般の物とのずれは相当なのだろう。
 しかし困った。このままでははやてに嫌われてしまうかもしれん。
 ……そう考えたら死にたくになってきた。
 いや、はやての心を読めばどうにかできるかも知れんがそれは何となくしたらいけないような気がするし。
 どうにかして早く恋愛相談できる人を見つけなくては。
 誰か詳しい人はいないだろうか。


 そう思って心当たりを探っているパッとある人物が思い浮かんだ。
 うん、この子ならいけるんじゃないか?
 頼めば相談に乗ってくれそうだし、何よりもてる。
 きっといいアイディアをくれるだろう。
 こうして俺はその子にアドバイスをもらうことを決心した。








 新学期、俺が学校に行くとその子はもう登校していた。友人の二人仲良くとお話している。
 邪魔するのは忍びないがこちらも余裕があるわけではないので会話に割って入らせてもらった。

「話中に悪いが少しいいか? アリサ・バニングスにちょっと聞きたいことがあるんだが」

 突然話しかけられた高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスの三名は驚いたようだった。
 まぁ、俺から他人に話しかけるなんてめったにないからしょうがない。
 むしろ俺のことを知らないかもしれんな。

「何よ? あたしに何の用? 一ノ瀬希」

 お、知っていたか。ならよかった。
 自己紹介なんて面倒なことをしなくて済む。

「個人的な用事だ。だから出来ればすぐにしてもらいたいが今忙しいのなら後で時間を開けてほしい。頼めるか」

「今ここで言えばいいじゃない」

「私たちは聞かないほうがいいの?」

 月村すずかの質問に俺は少し思案する。
 確かに、頭に浮かんだのはアリサ・バニングスだけだったがいろいろな人に意見を聞いたほうがいいか?
 両親の時のような失敗もないとは限らないし。
 しかし俺が沈黙しているのをアリサ・バニングスは勝手に肯定だと受け止めてしまった。

「わかったわ。すぐ終わるんでしょうね。すずか、なのは、ちょっと行ってくるから」

 そのままそそくさと廊下のほうへ歩いて行ってしまった。

「すまんな、少し借りる」

 二人に断りを入れた後、すぐに俺も彼女について行った。
 彼女はそのまま中庭まで行くと足を止め、俺のほうへ向き直ってきた。

「で、聞きたいことって何よ」

 腕を組んで偉そうにふんぞり返っているが教えを請う身なので特に気にならない。
 時間も少ないので単刀直入に聞くことにした。

「実は惚れた女ができたんだがアタックの仕方がわからないから教えてほしいんだ」

「はぁ?」

 彼女は素っ頓狂な声をあげ、目を丸くしている。
 いきなりすぎたか。

「なんでそれをあたしに聞こうとしたのよ? 特に仲がいいってわけでもないのに」

「あぁ、それは君がクラスで一番もてているからだ。何度かこの中庭で告白を受けていたじゃないか」

 彼女の顔が一気に赤くなった。
 ん? また変なことを言ってしまったか?

「な、な、なんであんたそんなこと知っているのよ!」

「見かけたから」

 本当は心を読んだからだが。
 しかし今はそんなことはどうでもいい。

「で、すまないが教えてくれないか? 今までの作戦ではどうもから回ってばかりで困っているんだ。このとおりだ」

 俺は彼女に頭を下げて頼んだ。
 昨日してしまった最悪の想像が現実になるのは何としても避けたい。
 しばらく沈黙が続いた後彼女は疲れたように溜息をついた。

「わかったわ、協力してあげる。その代わりあたしが告白されてたとかそういうのみんなに言っちゃだめだからね」

「本当か! ありがとう、恩にきる」

 ほっとした気持ちになってつい顔がゆるんでしまう。そんな様子に彼女は苦笑していた。

「とりあえず、もう始業式が始まるから相手がどんな子なのかだけ教えてちょうだい」

 この後、はやての簡単な情報だけ伝えて俺たちは教室へと戻っていった。






 昼休み、バニングスは高町たちとの昼食を断り、俺の相談に乗ってくれた。
 半分いじるような気持ちで好きになった経緯を聞いてきたが、一目惚れだと言ったら驚かれた。

「へー、一目惚れって本当にあるんだ。そんなに可愛い子だったの?」

「可愛いとかそんなレベルじゃない。むしろ、可愛いという言葉は彼女のためにつくられたのではないかと思ったほどだ。目が奪われるとはまさにこのことだな。彼女を見たとき雷に打たれたような感覚に陥った。女神でも降臨したのかと思ったさ。その声もしぐさも表情も、一挙手一投足がすべて愛おしい。そして愛くるしい。俺は口下手だから彼女の魅力を万分の一も伝えられないのが口惜しいよ」

「そ、そうなんだ」

 バニングスはいきなり饒舌になった俺にかなり引いていた。
 地雷を踏んでしまったといった表情をしている。

「と、とりあえずさ、あんたは今までどんなふうにアプローチしてきたのよ?」

 このままもっとはやての魅力について語ったていたかったが、バニングスは話題を変えてしまった。
 むぅ、残念だ。

「あぁ、とりあえず、四つほど作戦を立ててやってみたのだがすべてうまくいかなかった」

「どんなことしたのよ?」

 俺はバニングスに今までの作戦の内容を教えた。
 話を聞いて行くうちにバニングスはなんだか残念な人を見るような眼で俺を見始め、聞き終わる頃には頭を抱えてしまった。

「と、言うわけなんだが。何がいけなかったんだ?」

「全部に決まってんでしょ!!」

 素直に疑問を投げかけただけなのに怒鳴られてしまった。
 そんなに悪かったのだろうか?

「あんたには常識と羞恥心ってもんがないの!? よくこんな恥ずかしいことが堂々とできたわね!」

「気持ちを素直に伝えることは恥ずかしいことなのか?」

「場所も考えずに好き好き言われたら恥ずかしいに決まっているでしょ!」

 そうか?
 うちの両親はわりかしどこでも好き好き言っていたと思うが。

「と・に・か・く! みんなが居る前で好きだの愛しているだの言うのは禁止!じゃないと嫌われるわよ」

 そこまでのことだったとは! そんなことになったら生きていけない!
 俺はすごい勢いでうんうんうなずいた。

「わ、わかった。がんばる」

「別に好きっていっちゃだめってわけじゃないのよ。ただ、場所を考えなさいって言ってるの」

「はい」

 まいった。思ったよりも大きなポカをしていたらしい。
 次に会ったらちゃんと謝ることにしよう。

「で、愛の告白以外では普段どんな話をしているのよ?」

「そうだな、たいていは本の話だな。彼女もかなり本を読むほうだし。ただそれも結構少ないな。たいていは隣同士で本を読んで、読み終えたら少し感想を述べ合った後にすぐほかの本を読み始めるし」

「本ね、ほかは?」

「あとは料理だ。趣味って言っていたし、俺も作れるから意見交換を少々な」

「あんた料理できるの? 意外ね」

「本に乗っている通りに作るだけだがな。家庭の味とやらは出せん」

「ふ~ん、そうなの」

 バニングスは何やら考え込んでいるようだった。
 少し待つとパッと笑顔になって顔をあげてきた。どうやらアプローチの指針が決まったらしい。

「よし! ならその本のと料理の話題をもっと掘り下げるようにしなさい! お菓子なんかを作っていってあげるのもいいかもね!」

「そんなものでいいのか?」

 あまりに拍子抜けな案に少々戸惑ってしまう。
 しかしバニングスは自信たっぷりのようだ。

「あんたはいろいろ段階を飛ばしすぎなのよ! まずはお友達からっていうでしょ? ゆっくりやりなさい。急がば回れよ」

 確かに、バニングスの言うことにも一理ある。
 普通は友達になってからか。

「それにあんた彼女のことよく知らないでしょ? 話を広げていけばもっと相手のことが理解できるわよ。もっと彼女のこと知りたいでしょ?」

 おお! それもそうだ! 俺はもっとはやてのことが知りたい!
 そのためにはまず、話をしなければ!
 そんなことにも気付かないなんて。恋は盲目とはよく言ったのだ。

「その通りだな。ありがとう。おかげでだいぶ指針が決まった。感謝する」

「気にしなくていいわ。なんだかこっちも楽しくなってきたし。後はそうね、あんた自身の魅力を高めるとか? 勉強をがんばるとか、運動をできるようにするとか、見た目にもっと気を使うとか」

「勉強ができて運動神経がよくて見た目がかっこよければ魅力が上がるのか?」

「それだけじゃないけどね。優しさとか気配りとかも重要だけど。まぁ、いきなり全部なんて無理だろうから、とりあえずその長ったらしい髪でも切れば見た目の印象は変えられるからやってみれば?」

 確かに今の俺の髪はだいぶ長い。
 目は隠れているし、特に手入れなんてしていないからぼさぼさだ。
 気にしたことがなかったので気付かなかったがこれではかなりだらしないのではないか?
 確かによくないな。
 このままでは一緒にいるはやてまで恥をかいてしまう。

「わかった。早急に何とかしよう」

 俺が素直に従ったのでバニングスも満足気に頷いてくれた。

「まぁ、今回はこんなところかしら。後は今後の変化に応じてアドバイスしてあげるから」

 なんと今後も俺に付き合ってくれるらしい。これは予想外だ。

「いいのか?」

 俺が恐る恐る聞くとバニングスは腕を組み、胸を張って答えてくれた。

「あったりまえでしょ! ここまで首を突っ込んだんだから最後まで面倒みなきゃ気が済まないわよ!」

 自信満々に、迷いなく言いきってくれる。
 頼もしい限りだ。本当にありがたい。

「本当にありがとう。この恩は何時か必ず返すから」

「気にしなくていいわ。好きでやっているんだから」

 この後、昼休みの時間がまだ残っていたのでバニングスは高町たちの元へ戻っていった。
 俺にも一緒に来ないかと誘ってくれたが今回は断った。
 これから一つやることができたからだ。
 だが、次に誘われたら付き合ってあげるのもいいかもしれないな。
 もしかしたら、初めての友人ができるかもしれないしな。






 用事が終わり、俺が教室に戻ると皆の視線が一気に集まってきた。
 今までクラスで特に目立つことなどなかったので結構驚いた。
 そう言えば、ここに来るまでもなんだか時々見られていた気がするのだが何かあったか?
 するとほどなくしてバニングスが高町、月村とともに教室に戻ってきた。
 俺を見つけると一瞬怪訝な顔をしたのち、口をあんぐりと開いて驚き、そのまま詰め寄ってきた。

「あ、あんた、一ノ瀬よね!? どうしたのよ!? その髪!?」

 皆もハッと気付いたような顔になり教室内がざわざわとどよめきだした。
 あぁ、みんな俺だと気付かなかったからこっちを見ていたのか。

「あぁ、あの後切った」

 そう、俺の用事とは髪を切ることだったのだ。
 あの後、俺は教室からハサミをとって邪魔されないようトイレの個室に籠って切ってきた。
 もちろん、切り取った髪は焼却炉に捨ててきた。

「あの後って……どうやって?」

「どうやってって、自分でだ」

 髪はいつも自分で切っているからな。これくらいは鏡が無くたってできる。

「雑誌とかに出ている髪型で一番似合うであろうものを再現してみたんだが。変か?」

 記憶している雑誌の中から俺の顔付と合うと思い、思い切ってスポーティーなショートカットにしている。
 ワックスを使っていないので再現度は100%ではないがそれなりにうまくできたと思う。
 しかし、バニングスの反応はいま一つだな。
 目逸らされちゃったし。

「へ、変じゃないわよ。うん、似合ってるんじゃない」

「そうか。じゃあ成功だな」

 俺は安堵して胸を根で下した。
 バニングスはなぜかそっぽを向いているがほめてくれたので大丈夫なのだろう。
 問題ははやてが気に入ってくれるかどうかだ。
 前のほうがいいとか言われてしまったらかつらを買うしかないな。
 そんなことを考えていると周りにわらわらとクラスメイト達が集まってきた。

「一ノ瀬くんなの!? どうしたのその髪?」

「一ノ瀬君!? でもさっきまで髪型違ってたよね?」

「一ノ瀬!? ホントに!? どうしたのこの変わりよう?」

「そんなバカな!? 一ノ瀬がこんな……ちくしょーー!!」

「一ノ瀬君って実は……知らなかった」

 次々に話しかけてきた。
 しかもみんないっぺんに喋りやがる。
 いや、ちゃんと一人一人聞き取れるけれどはっきり言ってかなりやかましい。

「こらー!! そんないっぺんに話しかけられてもわからないでしょ! ちゃんと順番に喋りなさいよ!」

 一緒に喧騒のなかに巻き込まれていたバニングスの一喝で何とかこの場は収拾をつけることができた。
 しかしその後、教室に来た担任によってまたも質問攻めにあってしまう。






 放課後、すぐに図書館に行こうと急いで帰ろうとしたのだが担任に呼び出されてしまった。
 しかも、心を読むまでもなく怒っているようだ。
 案の定俺の散髪事件についてこってり絞られた。まじめな子だと信じていたのにとか、私だって頑張ってるんだとか、教師だって辛い時もあるんだとか。
 つーか最後のほうはただの愚痴になっていた気がする。


 早くはやての所に行きたかったのだが思いのほか説教は長く、やっと解放されたころには一時間以上もかかっていた。
 急いで図書館に向かったが間に合わず、閉館時間を過ぎてしまっていた。
 俺は地面に膝をつき、がっくりとうなだれてしまう。
 せっかくいろいろと変身してきたのに。はやてと会えないなんて。
 とゆうか次にはやてに会うまで一日待たなくてはいけないなんて。
 耐えきれない。

 と、そのまま呪いのオブジェのように固まって負のオーラを撒き散らしているとふいに後ろから声をかけられた。

「希君? なにしてんのん? 変なポーズして?」

 救いの声だった。
 俺は一気に負のオーラを霧散させて立ち上がった。

「はやて! 会いたかった!」

「いや、昨日も会うたやん」

 俺のオーバー気味な喜びにはやては冷ややかにつっこんできた。
 最近は慣れてしまったのかこういう対応が多くなってきてる。
 いや、反応してくれるのはうれしいんだけどもうちょっとこう温かい反応がほしいな。
 うむ、そのためにもバニングスの作戦を実行せねば。
 はやては俺の顔をまじまじと見つめてから妙に納得したようにポンッと手をたたいた。

「あぁ、なんや今日は遅いとおもたら散髪にいっとたんか」

「いや、遅れたのは先生に説教をくらっていたからだ。この髪は昼休みに自分で切った」

「自分で切ったんか!? そら先生も怒るわ。相変わらず斜め上の行動するなぁ、希君は」

 はやては俺が変な行動をしたせいで先生に怒られたのだと勘違いしているようだ。
 まぁ、どうでもいいことなのでスルーしよう。
 問題はここからだ。

「それで、どうだ? に、似合うか?」

 そう、大事なのはここだ。
 もし気に入らないようならすぐにでもかつらを買いに行かなくてはならない。
 運命の瞬間だ。
 はやては俺をジッと見つめた後にっこり笑って判決を言い渡した。

「うん、かっこええとおもうよ。前のと違って眼もちゃんと見えるし。おっとこ前に仕上がってるで」

 作戦初成功!!
 やった!!
 思わずガッツポーズをしてしまう。思わず走り回りたくなる。

「でもあんまり先生を困らすような真似したらあかんよ」

「おう! わかった! 約束しよう」

「返事だけはいつもええんやけどなぁ」

 返事だけはって。
 俺ははやてとの約束を破るつもりなんて欠片もないのに。
 ……たまに暴走して結果的に破ることはあるけど。
 話がよくない方向に進みそうなので方向転換することにした。
 せっかく上がった評価を下げられたらいやだからな。

「そう言えばなんではやてはまだ残っていたんだ? もう閉館時間は過ぎていたのに」

 だから先ほど絶望したというのに。
 いてくれたこと自体はうれしいが少し気になっていたのだ。
 するとはやては急にあわてだし、赤くなった。

「へっ! いや、あの、その……今日は希君が来ないからちょっと心配になって。時間もあるし、ちょっとだけ待ってみようとおもてん」

 恥ずかしいのか尻すぼみに声が小さくなっていった。
 だが、充分に聞き取れていた俺は感動した。
 はやてが俺を待っていてくれたなんて。少なくとも嫌われていないのだろう。
 感激だ!

「ありがとう、うれしいよ」

 心が温かいもので満ちていくような感覚がする。
 今、俺は自然に笑顔がこぼれていることだろう。
 今日はなんて良い日なんだ。
 はやては恥ずかしいのかそっぽを向いてしまったが嫌がってはいないようだった。
 このままずっと一緒にいたかったが無情にも時計は帰る時間を示していた。

「ほな、私はもう帰るわ。また明日な、希君」

 そう言い残して、はやてはこの場を去ろうとした。
 しかし、俺は嫌だった。
 いつもなら我慢が出来ていたのに、今日は我慢できなかった。
 それは先ほどの言葉がうれしかったせいか、一緒にいた時間が短すぎたせいか。

「待ってくれ」

 はやてを呼び止めてしまった。いままでは我慢できたのに。

「ん、なんやの? もう帰らなあかん時間やで」

 本当ならもっと仲良くなってから言うつもりだったのに。断られる可能性がもっと低くなってから言うつもりだったのに。
 今日は我慢できない。

「……よかったら、送っていっていいかな?」

 この日、初めて俺ははやての家まで送ろうとしている。

「ええのん? 時間とか大丈夫なん?」

「連絡すれば平気だ。俺のわがままだが今日はもう少し一緒にいたいんだ」

 はやては少し迷っているようだ。
 送ってもらうのを遠慮しているのか、単純に嫌でどう断ろうか迷っているのか。
 ……後者だったらどうしよう。

「うん、じゃあ……お願いしてええかな?」

 こうして今日は初めてはやての家に行く記念すべき日となった。






 道中、俺とはやての会話は今まで以上に弾んでいた。
 バニングスの教えに従ってはやてと俺の共通の話題を話していたのが良かったようだ。
 得意な料理、好きな本の種類、最近ハマっていることなどなど。おかげで今まで知らなかった一面を知ることができた。
 とても楽しい時間だった。
 しかし、この楽しい時間もいつまでも続くわけではなく、はやての家までたどり着いてしまった。
 名残惜しいが今日はこの辺で帰ることにしよう。

「ここがはやての家か。なら、俺はここまでだな」

「えっ? もう帰るん? せっかくやからちょっと寄ってかへんの?」

 はやての誘いに思わず身を固くする。
 いや、はやての家にはいるのは大変魅力的で是非お願いしたいのだが

「しかし、俺はまだ社会に出ていないし稼いでもいない。そんなでは娘さんを下さいと挨拶してもご両親にいい印象は与えられないと思うのだが」

「いや、どんな挨拶をする気やねん」

 はやてはあきれたように突っ込んできた。
 俺としては本気なんだが。

「それに、両親はおらんから挨拶とかはできひんよ」

「何だ、留守なのか」

 するとはやては少しさみしそうな顔をして言葉を続ける。

「いや、もう亡くなっとんねん」

 何? ……なら、今は

「まぁ、とりあえず家ん中に入ろうや。そこでいろいろ説明したる」

 俺ははやてに促されるまま家の中に入って行った。
 その時には別のことに頭がいっぱいになっていてもうはやての家に入るというドキドキ感はなくなっていてた。
 そこではやての現状を聞いた。
 両親の事故のこと。原因不明の病気のこと。父の友人を名乗る男の援助によって生活していること。
 ただその男は忙しいらしく、今は一人暮らしをしていること。
 すべてを聞いて俺は……自分の愚かさを思い知った。
 はやてのことを何も知らずに。
 一人で盛り上がって。自分のことしか考えないで。はやての辛さも知らないで。
 何がはやてに惚れているだ。
 自分勝手にもほどがある。
 俺は大馬鹿野郎だ。

「そう……だったか。大変だったんだな」

「最初はな。でももう慣れたわ」

 そう言って微笑んだはやてがなんだかとても儚く見えて俺は思わず目を背けてしまいそうになった。
 しかし、ここで目をそむけてしまったら二度とはやてをまともに見れなくなる気がした。
 だから、目を背けなかった。
 しっかりと、はやての顔を見つめ続けた。

「俺は、はやてにそんなこと慣れてほしくない」

「えっ?」

 辛そうな顔をしてもいけない。
 だってそんな同情をさせるためにはやては俺にこのことを話したわけではないのだから。
 そんな顔をしたところで、はやてに気を遣わせるだけだ。

「辛いことがあったら辛いと言ってくれ。俺に出来ることならなんでもするから」

 なら、せめて、愚かな俺を信じて話してくれたはやてのために何かできることをしてあげよう。

「さみしい時はさみしいと言ってくれ。いつまでも傍にいてあげるから」

 できることなんて微々たるものかもしれない。それでも、全力で誠心誠意頑張ろう。

「何でも一人で抱え込まないでくれ。少しでもいいから俺に荷物を分けてくれ」

 こんなことで今まで愚かな行為が帳消しにされるとも思わない。
 それでも

「俺は、はやてを愛しているのだから」

 そう思うと、自然に言葉があふれてきた。

「きみと、家族になりたいんだ」






 俺の言葉を聞いたはやては驚いた顔をしていた。
 その眼に、だんだんと涙が溜ってくる。

「…ええんか? 本当に? 家族になってくれるんか?」

 それでも、まだ遠慮がちに聞き返してくる。
 俺は微笑んで、はやてを優しく抱いてあげた。

「いいんだ。俺はそれを望んでいる」

 はやてはついに涙があふれ、俺を抱き返してきた。

「もう……寂しいんは嫌や。一人は嫌や! ずっと! ずっと! 一人は辛かった! もう、一人にせんといて!!」

 はやては堰を切ったようにワンワンと泣き出してしまった。
 溜っていた何かを吐き出すように、いつまでも泣き続ける。

「大丈夫、もう大丈夫だ」

 俺はそんな彼女をたまらなく愛しく思った。
 彼女をもう辛い目には合わさない。俺が彼女を守り続けよう。
 たとえ、どんなことがあろうとも。




 俺は心の中で密かに誓った。



[25220] 第三話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/04 09:49
 その後、俺は泣きやんだはやてとともに夕食を一緒に食べた。
 はやての作った料理は小学生が作ったものとは思えないほどうまくて、褒めまくっていたらまた「恥ずかしいことばっか言わんといて!」と怒られてしまった。
 反省せねば。
 しかしそのおかげでちょっと気恥ずかしそうにしていたはやてと元通りにしゃべることができるようになったので良しとするか。




 夕食の片づけをした後、二人で少しおしゃべりをしてから俺は帰宅することとなった。
 泊って行こうかとも思ったがはやてに「もう大丈夫やから、それに明日も学校あるんやろ?」と言われてしまったので仕方がない。
 特に無理している様子もなかったので丈夫だろう。






 その日以降、俺は毎日はやてのうちに遊びにいくようになった。
 平日は学校が終わってから図書館で落ち合い、本を読んだ後家に行き少し遊んで 夕食を食べておしゃべりをしてから十時くらいになったら帰る。
 休日は朝から八神家に行き、家事を手伝い、午後になると一緒に遊んだり本を読んだりして、また夕食を食べて十時くらいになったら帰宅するいった具合だ。
 さすがに毎日夕食を御馳走になるのは忍びないので一度食費を渡そうとしたが断られてしまった。
 「お金ことは気にせんでええ」と言って見せてきた通帳には桁が一個ほど間違っているのでないかというほどの額が入っていて大変驚いた。
 それでも、何かお返しがしたかったので自分で作ったお菓子を持っていったりしている。
 おかげで菓子作りならはやてよりも上手にできるようになった。
 はやては悔しがっていたが。
 後は、偶に自宅に招待して夕食を食べてもらっているがこれははやてのためというよりも両親のためだった。
 両親は俺を溺愛しているので夕食を一緒に食べれないことが悲しいらしい。
 だが、俺の気持ちも知っているので邪魔することもできない。
 その分朝食の時間を長めにとって話をしているのだがそれでは足りないようだ。
 なので、両親の我慢が限界に達したときには、はやてを連れてうちで食べることにしたのだ。
 幸い、両親ともはやてを実の娘のように可愛がってくれるし、はやても両親と仲良くしてくれるので問題はない。
 いっその事毎回一緒に食べないかと両親に誘われたこともあったが、二人っきりで過ごしたいと本心を語った後は諦めてくれた。
 しかしさすがにわがままが過ぎる気もするのでお菓子作りの時は感謝の気持ちを込めて一緒に両親の分も作ることにしている。




 そのほかに、体力づくりとしてランニングも始めた。介護には体力も必要だからだ。
 これで万が一病気が治らなくても大丈夫だろう。
 もちろん病気の原因は自分でも調べている。
 医学本だけでなく、インターネットを使って様々な医者と意見交換をして解決の糸口を探っているところだ。
 正体は隠しているがそれなりに有名になってきたため、最近は情報が集めやすくて助かっている。








 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎて行ったが、四月末ごろになると一つ事件が起きた。
 いつものように、授業中に能力の訓練をしていると高町が変なことを考え出した。
 まるで、脳内で誰かと話しているようだ。
 気になって能力の範囲を広げてみるとなんと話し相手を見つけてしまった。
 初めは自分と同じような能力を持っている人かと思ったがどうやら違うらしい。
 二人の話をまとめると、どうやら高町は魔法少女になったようだ。
 ……リアル魔法少女がいるとは。
 世の中広いな。
 なら俺の能力も実は魔法なのではないか?
 そう思って話を聞いているとどうやら違うらしい。
 俺には昨日、ユーノ君とかいう魔法使いが使っていた念話とか言うものが聞き取れなかったからな。
 魔法が使えるのなら問答無用で聞き取れたはずだというし。
 しかし、だとしたら俺の能力は何なのだろう?
 そうやって取り留めのないことを考えながら盗み聞きを続けていると話はだんだんキナ臭い方向へと進んでいった。
 なんでも、ユーノ君とやらが発掘し、運送していたジュエルシードなる危険物が事故でこの海鳴市にばら撒かれたらしい。
 それに責任を感じたユーノ君が自分で回収しようとしたが無理だったために高町に助けてもらったのが今回の成り行きか。
 ……しかし、これってユーノ君別に悪くないよな? 
 確かに危険物がばらまかれたのはいい迷惑だが事故ならば仕方無いことだ。
 故意なら許されないが。
 それに対して必要以上に責任を感じているようだがはっきりいってその思想は危険だ。
 今も若干暴走気味と言っていいし、何より迷惑かけたくないからと言ってやっていることなのに高町に迷惑をかけるのはいいのか?
 ……まぁ、俺が口をはさむようなことではないか。高町も気にしていないようだし。
 ここでの一番の問題点はいかにはやての安全を守るかだ。
 後、できれば自分も。
 そのジュエルシードっていう奴の特徴はわかったので近づかないようにするのが一番いいかな。
 はやてもそんな宝石が落ちていたら猫ババなんかせずに交番に届けるだろう。
 下手に首を突っ込まないで、静かに問題が解決するのを待つことにしよう。






 そう思って放置をしていたらまたしても問題が起きてしまったようだ。
 順調に進んでいたジュエルシード集めに邪魔者が現れたようだ。しかも高町はそいつと仲良しになりたいらしい。
 ……いや、普通はそう思わないと思うんだが。
 そういえば高町は喧嘩してから友情を芽生えさせる武道派だったな。
 しかしそのことで悩んでいたらバニングスと喧嘩になってしまったではないか。
 なんでも、辛いくせに自分を頼らずに一人で抱え込んでしまう高町が許せないらしい。
 なんで親友なのに自分を頼ってくれないのかと思っているようだ。
 これはどうしたものか。
 別に他の人物なら気にすることもなく普通に放っておくのだがバニングスなら話は違ってくる。
 彼女には恩がある。
 その恩をここらで一つ返しておきたいのだが首を突っ込んでも余計なお世話なのではないか? バニングスはプライドも高いし……
 そんなことを考えていると不意にはやてが声を掛けてきた。

「どうしたん? 珍しく悩んでるようやけど」

 これには俺も驚いた。そんなそぶりを見せていた覚えはないのだが。

「いや、なんとなくやけど。なんや悩みがあるんやったら相談に乗るで」

 俺のことをよく見てくれているのは素直に嬉しいがこれはどうしたらいいんだろう?
 直接は相談できないし、何よりこんなこと言ったらはやての重荷になってしまうんではないか?
 そう思って渋っているとだんだんはやての眉根が寄ってきた。怒りだす前兆だ。

「なんや私に隠し事か?」

「いや、はやての手を煩わせるわけには……」

「ほう?」

 あっ、やばい。これはスイッチ入れてしまったかも。

「私には一人で抱え込むなゆうといて自分は一人で抱え込むんか?」

 はやての顔は笑顔だったが目が笑っていなかった。
 はっきり言ってかなり怖い。小学生が出していいオーラじゃないし。
 こうなったらおれは降参するしかない。素直に相談することにした。
 ただし、隠すべきところは隠して。

「実は友人がほかの友人と喧嘩してしまってな。その友人には恩があるし、悩んでいたみたいだから和解させてあげようかと思っているのだがこの件に関して俺は完全に部外者だから余計なお世話なのではないかとも思ってな。そいつはプライドも高いし」

 俺の説明にふんふんと頷いていたはやてだったが聞き終わる実に簡単なことのように答えを教えてくれた。

「なんやそんなことで悩んどったんか。ええやん。和解させたりーな」

「しかし、お節介かもしれないのだぞ?」

「お節介上等やん。その子が悩んどるんだったらそんなん気にする必要なんかない。文句言われたとしても結果的に和解させることができればその子も納得すると思うで。和解さすんはできるんやろ?」

 なるほど。
 確かにはやての言う通りかもしれない。
 和解させれば後はどうにでもなる。
 しかし、はやては俺のことを信じてくれているんだな。和解さすことは簡単みたいに言ってくれる。

「もちろんだ。ありがとう、はやて」

「ええよ、またなんか悩みがあったら相談に乗るよ」

 さて、はやての期待にこたえるためにも少し出しゃばってみるか。






 翌日、俺が登校すると案の定二人はまだ仲直りしていなかった。
 いつもなら三人で仲良くお喋りをしているのにバニングスは自分の席について憮然としているし、高町はバニングスのほうをときどき見るが基本しゅんとしているし、月村は二人の間を行ったり来たりしてオロオロしている。
 普段クラスで一番目立っている三人組の突然の喧嘩に教室内には気まずい空気が流れていた。
 まったく。
 バニングスの説得をしていた月村に俺は話しかけた。

「悪いな月村すずか。またアリサ・バニングスを少し借りるぞ。またすぐ返すから安心してくれ」

 俺に突然声を掛けられて月村は驚いていた。
 俺とバニングスの顔を交互に見てどうしようか考えているようだ。
 しかし月村が答える前にバニングスが俺を睨んできた。

「悪いけど今はあんたの相談に乗ってあげる気分じゃないの。あっちに行ってくれる?」

 口調こそ荒げていなかったがどうやらかなり機嫌が悪いようだ。
 でもそんなことは気にする必要がない。

「あぁ、お前には聞いていない。俺は月村すずかに聞いているんだ」

「なっ!!」

 そう、今はバニングスの意見はどうでもいいんだ。
 しかし俺の言いようにバニングスは激高してしまう。

「ちょっと!何勝手なこと言ってんのよ!」

 机を叩きつけながら立ち上がり、俺を睨んでくる。
 月村は展開についていけずオロオロとしたままだ。

「否定の言葉がないようなので肯定と取るぞ。じゃ、すぐ返すから」

「っ!? ちょっと! 離しなさいよ!」

 そのままバニングスの手を掴んで俺は教室の外に出て行ってしまった。
 教室内の生徒には俺の突然の行動に反応できる者などいなかった。


 そのまま俺はいつぞやと同じように中庭までバニングスを引っ張って行った。
 最初こそ抵抗していたバニングスだったが俺の予想以上の腕力に抵抗を諦め、今はおとなしくしている。
 逃げる気もなくなったようなので手を放してやることにした。

「……なによ。私は今人の相談なんか聞いている場合じゃないのに。空気ぐらい読みなさいよね」

 いつものように勝気な態度を取ろうとするバニングスだったが今一つ元気がない。
 俺は説得がやりやすいように能力を使うことにした。

(ほんとにこんなことしてる場合じゃないのに……なのはとどうやって仲直りしたらいいか考えなくちゃいけないのに)

 やはり高町と仲直りしたいようだ。まったく、素直じゃない。

「今日は相談じゃない。借りを返しに来ただけだ」

「借りって……あぁ、あれね。気にするなって言ったでしょ」
(なのは怒ってるかな。でも、なのはが悪いんだから)

「俺の気分の問題だ」

 そう、あくまでこちらの一方的なお節介なのだ。
 でなければ、心ここに有らずな人間をこんな風に無理やり連れ出したりはしない。

「と、いうわけで、アリサ・バニングス。お前と高町なのはを仲直りさせてやる」

 バニングスは一瞬驚いたようだがすぐに俺に食って掛かった。

「何言ってんのよあんた! 関係ないでしょ! すっ込んでなさいよ!」
(何言ってるのこいつ! 関係ないくせに!)

「確かにお前の言うとおりだ。これは余計なお節介というものだよ。だが、現状を鑑みるに最善の手で最も早く仲直りできる方法があると思うのだが」

「うっ!」
(なんでこいつのお節介なんか受けなきゃいけないのよ。……でもなのはとは早く仲直りしたいし……)

「何、一つのやり方を提示するだけだ。聞くだけ聞いてみろ。嫌ならやらなければいいだけのことだ」

 バニングスはそのまま黙りこくってしまう。
 心の中では様々な感情が入り乱れているようだ。

(……どうしよう。確かにこいつの言うとおり聞くだけ聞いてもいいかもしれない。でもそれじゃ、私がまるでなのはと仲直りしたいみたいに取られちゃうじゃない。今回の喧嘩は私が勝手に怒ってるだけみたいなものなのに。確かになのはとは仲直りしたいけどそんな風に思われるのは嫌だし)

「それに俺から仲直りの方法を聞いたということも言わなくて構わない。俺も誰にも言わないと約束しよう。ここに連れだしたのもいつもみたいに相談ごとを聞くためだったとでも言えばいいさ」

 バニングスは俺の言葉に驚いていたようだ。
 まぁ、俺は心を読んでいるのだから懸念を払うなんて造作もないことだ。

「……聞くだけよ」
(そうよ、ここまで言っているんだから。聞かないと可哀そうよね。こいつも約束は守ってくれるだろうし)

 やっと受け入れ態勢になってくれたか。
 しかし、ここからが正念場だな。
 俺はなるべくあっさりと、簡単なことのように解決策を提案した。

「簡単なことだ。お前が謝ればいい」

「なっ!」

 バニングスは期待していた俺の策がこんな簡単なことで驚いたようだ。
 同時に、怒りも覚えた。

「なんであたしが謝らなくちゃいけないのよ!」
(それができないから苦労してるんでしょうが! やっぱり、こいつに期待したのが間違いだったわ!)

 この反応は予想通りだが何気に俺の評価低いな。
 ずれたことばかり言ってきたからしょうがないと思うが。

「それが一番手っ取り早い」

「私は悪くない! 事情も知らないのに勝手なこと言わないで!」
(そう、あれはなのはが悪いのよ! あの子が何も言わないから)

「そうだな、俺も事情は知らない」

 嘘だけどな。心読んでいるから全部知ってるんだが。

「だけど、お前らの性格くらいは知っている。予測するに喧嘩といっても互いのことを思いやって、それがつい擦れ違ってしまっただけだろう? 例えば、高町がお前らに秘密を持っていてそれについて悩んでいる。それをお前が何とかしてあげようとして聞き出そうとしたが話してくれなくて頭に来たとか」

「うっ!」
(なんでこいつこんなことが分かるのよ)

 俺のそのものピタリの推論にバニングスはたじろいだ。
 実際、これくらいの推論は心を読まなくてもできただろうに。
 それくらい、こいつらの性格はわかりやすい。
 純粋無垢だからな。

「図星だな。なら、どっちが悪いもない。それならお前が謝るべきだ」

「……だから、何で私なのよ」
(なのはが謝って放してくれれば、私もすぐに許すのに)

「意志の硬さの問題だ。高町の意思は相当固い。あいつは決して曲がらない。それくらいは知っているだろう?」

「……」
(確かに。あの子以上の頑固者、私は見たことはないわね)

「それに、親友のお前らにすら話せないんだ。何か事情があるのかもしれない。もしそうなら、彼女は絶対に話してくれないだろう」

「……そうかもしれない。それでも」
(私は話してほしい。親友が困っているのに何もできないなんて悲しすぎる)

 ……まったく、なんて顔をしている。そんな風に思わなくても、お前にもできることはあるというのに。
 俺は励ますように、バニングスへの説得を続ける。

「そんな顔をするな。お前にもできることはある」

「私に……できること? 」
(いったい、あたしに何が……)

 バニングスは必死で何ができるのか考えていた。
 しかし、いくら考えても答えがわからず、すがるような眼で俺を見つめてきた。
 そんなに考えなくても、答えは簡単だというのに。
 俺はバニングスの目をまっすぐ見据えて、答えを教えてあげた。

「簡単だよ。『信じて待ってる』と、言ってあげればいい」

「……それだけ」
(そんなことで、なのはを助けてあげることができるの?)

「あぁ、それだけだ。さっきも言った通り、あの子はまっすぐだが何かとため込んでしまうタイプだ。だが、自分を信じてくれる大切な人がいれば、いくらでも頑張れる。だいぶ心も軽くなるはずだ。心を軽くしてあげれば、あの子はきっとうまくやれる。だから、お前が心を軽くしてやれ」

「……うん」

 どうやら、納得してくれたようだな。
 しかしまだ渋っているようだが

(でも、今更謝ったって。許してくれなかったらどうしようかと思うと怖い)

 なるほど。わからないでもないな。
 俺だってはやてと喧嘩して許してもらえないかもと思うと怖くて仕方がないからな。
 しかし、ここは頑張って勇気を出してもらわないと。
 ……仕方ない、少々きついが荒療治ということで我慢してもらおう。

「はっきり言って今のままでは逆にお前は重しになってしまっている。ただでさえ抱え込んでる所にさらに重りを加えてるんだ。下手したら潰れてしまうぞ。そうなったら、回復するのにかなり時間がかかるか、最悪壊れてかもしれないぞ」

「そ、それは!」
(いやだ! なのはが壊れてしまうなんて!)

「俺が言いたいのはここまでだ。先に教室に戻っている、よく考えておくことだな」

「あっ!」

 バニングスは何か言いたそうだったが俺はそのまま彼女に背を向けて、振り返らずにこの場を去った。
 ここまで言えば大丈夫だろう。
 彼女は頭が良くて、優しい子だからな。
 後は自分できちんと正解までたどり着けるだろう。
 これで、自己満足な恩返しはできたかな?






 俺はそのまま教室に戻らず、図書室に来ていた。朝のホームルームまではまだ少し時間があるからな。それまで本でも読んで待つとしよう。きっとバニングスは、俺がいると気恥ずかしくて高町に謝りにくいだろうから。




 案の定、俺が教室に戻ると高町とバニングスは仲直りをしていた。
  状況把握のために能力を使ってみると何とバニングスは皆の前で高町に頭を下げたらしい。
 正直驚きだ。
 てっきり二人っきり、もしくは月村との三人だけになったタイミングで謝ると思ったのだが。
 よほど最後の荒療治が効いたのか。
 まぁ、なんにせよこれで胸を張ってはやてに報告ができる。




 昼休み、俺が図書室に行こうとするとバニングス、月村、高町の三人娘がこちらに近づいてきた。
 なんだ? 俺に用でもあるのか? めずらしい。

「ねぇ、今日私たちと一緒にお昼食べない?朝のお礼もしたいし」

 そう言ったバニングスに月村と高町もうんうんとうなずいてきた。

「アリサちゃんから聞いたの。ありがとう。私たちの仲直りに協力してくれて」

 高町の言葉で俺はようやく納得をした。
 なんだ。秘密にしていていいと言ったのにバニングスは喋ったのか。律義な奴だ。
 しかし、俺の答えはすでに決まっている。

「悪いな。昼休みは本を読むことにしてるんだ」

 最近は午後ははやての家で遊んでいるからな。
 以前と比べて読書量が減ってしまった。
 その穴埋めをしなければ。
 そのまま立ち去ろうとしたのだがバニングスに襟首を掴まれたせいで止まってしまう。
 なんだかご機嫌斜めのようだ。

「……あんた、こんな美少女達にお昼誘われてるってゆうのに断るとはどういう了見よ」

「間違っていないと思うが自分で美少女というのは反感を買うことがあるからやめておいたほうがいいぞ」

 数年後、黒歴史となる可能性も高いしな。
 大体、いくら美少女に誘われようと俺にははやてがいるのだからなびくわけがないことぐらい知っているだろうに。

「いいから来るの! ほら! すずかもなのはも早く行くわよ!」

 そのままバニングスは俺を引きずって行こうとする。
 そこまでして一緒に飯が食いたいのか? お節介な奴だ。
 あぁ、それは俺も言えないか。

「わかった、自分で歩く。その前に弁当箱と本だけ取らせてくれ」

 俺はしぶしぶ図書館に行くのをあきらめた。
 ……たまにはいいか。
 はやてにも友達と仲良くしろって言われているし。




 屋上へと行く道中も、俺はバニングスにいろいろと文句を言われ続けた。
 初めっから素直に来いだとか本ばっか読んでるんじゃないとかもっと友達を大切にしろとか。
 ……確かお礼がしたいからって呼ばれたはずなんだが。
 月村と高町はそんなバニングスを窘めてくれていたがあまり効果はなかった。
 しかし屋上まで来るとバニングスは文句を言うのをやめ立ち止り、俺のほうに向き直ってきた。
 月村と高町も同じように向き直る。

「改めて……今朝はどうもありがとう。あんたのおかげでおかげでなのはと仲直りができたわ。本当にありがとう」

「「ありがとう、一ノ瀬君」」

 そう言って三人そろって頭を下げてきた。
 ……いやはや、本当に律義な奴らだ。わざわざ俺なんかに頭を下げるなんて。

「気にするな。朝も言ったがこっちの勝手なお節介だからな」

「それでも、私は救われたわ。だからお礼を言うのは当然のことよ」

「そうだよ! お節介なんかじゃないの!」

「うん、だから、お礼を言わせてほしいの」

 本当に三人とも素直ないい奴らだな。
 そこまで言うのならこちらも素直にお礼を受け取るとしよう。

「なら、どういたしまして。よかったな、仲直りできて」

「「「うん!」」」

 三人ともすごくいい笑顔で返事をしてくれた。
 悪い気はしないな。
 はやての言う通り、お節介もたまにはいいものだ。




 この後、俺たちは三人にとって定位置になっているらしい屋上のベンチに腰をかけ昼食をとることにした。
 その間、俺は高町と月村から質問攻めにあってしまうが特に当たり障りのない答えを返し続けた。今までもそうしてきたがこうすればこちらに対して興味も嫌悪感も持たれずに済むのだ。
 多少つまらない奴とは思われるかもしれんが問題はない。
 こうして受け答えをしているうちに弁当を食べ終わったので、本を読もうとしたらバニングスに止められてしまった。

「ちょっと! 何本を読み始めようとしてんのよ!」

「ん? 食べ終わったからだが」

「話している途中でしょ!」

「確かに話の途中に本を読むのはマナー違反だと思うがそちらの都合に合わしてあげたのだからこれくらいは勘弁してほしい。読みながらでもちゃんと受け答えはできるから安心しろ」

「生返事しかできないでしょうが!」

 そう言って本を奪い取ろうとバニングスが手を伸ばしてきた。
 俺は本を読んだままその手をかわす。
 ちらりとも見ずに手をかわした俺にバニングスは驚いたが再び俺の本を奪おうとする。
 それもまた本を読んだままかわす。
 心を読んでいればそれくらい造作もない。
 バニングスはムキになって何回も本を取ろうとしたがすべてかわし続けるとだんだんと怒りだしてついには立ち上がって怒鳴り出した。

「なんで全部かわすのよーー!!」

「本を取ろうとするからだ」

 俺が平然と答えたのが癪に障ったのかバニングスはそのまま俺に襲いかかってこようとしたが月村に止められてしまう。

「まあまあ、アリサちゃん、落ち着いて」

 月村に窘められたバニングスは一応座りなおしたがまだ俺を睨みつけている。
 高町はそんなこと気に留めずに俺を驚いた眼で見つめていた。

「一ノ瀬君すごいの。なんで見ないでアリサちゃんの手を避けられるの?」

 そう言えば高町は魔法少女で戦闘もよくしているのだったな。
 確か、攻撃を避けるタイプでもなかったよな。
 なら俺の動きはすごいことだと思ってしまうだろう。
 だが

「完全に見ていないわけじゃない。視界の端に少し映るし、単純な動きしかしていないから避けるのは簡単だ」

 お前のレベルの戦闘基準で考えないでほしい。
 こんなの所詮子供のじゃれあいだ。
 お前みたいにビームを防御できるほうが断然すごいに決まっているだろうに。

「そうかなぁ」

「そうだ」

 高町は納得していないみたいだったかこれ以上は何も言ってこなかった。
 兄たちのような人間もいるのだからこれくらいできてもおかしくはないと思ったようだ。
 すると今度は月村が声をかけてきた。

「本当にちゃんと受け答えしてくれるんだね。邪魔じゃない?」

「これくらいは問題ない」

 百人単位でいっぺんに話されたってちゃんと聞きわけができるのだ。
 それに比べればこれくらい簡単すぎて欠伸が出るくらいだ。

「そう、よかった。なんの本を読んでるの?」

「菓子作りの本。最近よく作るから」

 本当なら医学書を読もうと思っていたのだがさすが俺がそんな本読んでいたら不審がられるだろう。
 下手すりゃ会話が嫌でわざとやっていると思われてしまう。
 それはさすがに失礼極まりないからな。医学書のほうは帰ってから読むことにしたのだ。

「お菓子作りができるんだ。すごいね」

「作り始めたのは最近だがな。なかなか面白いぞ」

 月村は感心したように褒めてくれた。
 はやてのために作り始めたものだが実際、やってみるとなかなかおもしろかったのだ。
 はやてがおいしそうに食べてくれるとこちらもうれしくなるし。
 バニングスは俺の答えを聞いて訳知り顔でニヤニヤしていたが気にしないでおこう。

「あっ、家は喫茶店なんだけどそこでケーキとかシュークリームとかも作っているよ」

「あぁ、知っている。シュークリームが絶品だと聞いている。研究がてら今度食べに行こうと思っていたところだ」

「うん! 待ってるから」

「桃子さんの作るシュークリームは最高よ! 期待していていいわ!」

「それは楽しみだ」

 そんな風にお喋りを続けているとすぐに昼休みは終わってしまった。
 初めは面倒くさいと思っていたがなかなか楽しかったな。
 偶にならこういうのも悪くないかもしれない。
 あくまで、偶にならだが。

「そろそろ教室に戻るか。今日は誘ってくれてありがとう、アリサ・バニングス、月村すずか、高町なのは。思いの外楽しかった」

 俺が素直に礼を言うと三人は変な顔をしてしまった。
 何か変なことを言っただろうか?

「あんたねぇ、何でいつもフルネームで呼ぶのよ。普通にアリサでいいでしょ」

「私もすずかでいいよ」

「私も、なのはって呼んでほしいの」

 あぁ、なるほど。
 確かはやてと初めて会った時も同じようなことを言われたな。
 しかし

「ならバニングス、月村、高町と呼ぼう。それで勘弁してくれ」

「なんでみんな名字なのよ!」

 バニングスは怒ってしまったがこればかりは勘弁してほしい。
 なぜなら

「悪いな。俺が名前で呼びたい女は一人しかいないんだよ。その代わりそっちはどう呼んでくれても構わないから」

 気分の問題だがな。特別ははやてだけだ。

「あんた……よくもまぁ恥ずかしげもなくそんなことを……わかったわ。それで我慢してあげる。すずかもなのはもそれでいいでしょ?」

「……うん」

「希君ってやっぱりなんかすごいの」

 俺の答えを聞いた三人は顔を赤くしていたが何とか了承してくれた。
 その代わり、彼女たちは俺を下の名前で呼ぶようになった。
 これ以来、俺達はたまに昼を一緒に食べるようになった。
 ただ、この時のことをはやてに話したらまた「恥ずかしいことゆうなや!」と、怒られてしまった。
 ……はやての名前は出していなかったのに。何がダメだったんだろう?



[25220] 第四話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/05 03:24
 そんなことがあった数日後、はやてのいる図書館に向かっている途中でジュエルシードらしき宝石を見つけてしまった。
 いや、普通に歩いていただけなんだがなぜこんなところに落ちているのだろう?確か昨日まで何もなかったと思うが。
 しかし放っておいてはやてが拾ってしまっては危険だ。どうにかしないと。
 とりあえず、高町にでも届ければいいか?
 いや、しかしなんて言って渡せばいいのだろう?
 そんなことを考えながら宝石を拾い上げて眺めていると後ろから声を掛けられた。

「それを、渡してください」

 振り返ると、金髪で漆黒の衣装とマント、鎌のような物を持った少女が切羽詰まった顔をして立っていた。
 こいつは確か、高町と争っている魔法少女か。名前はフェイト・テスタロッサだったな。
 今日は使い魔と一緒ではないのか。
 というか普段からこんな恰好をしているのか? バリアジャケットとか言う防具らしいがかなり目立つしコスプレみたいで恥ずかしくはないのだろうか?
 と、一瞬でかなりどうでもいいことまで考えてしまったがそれはおいといて。

「どうぞ」

「えっ?」

 俺があっさりとジュエルシードを渡すと彼女は驚いたようだった。
 俺が猫ババするとでも思っていたのか? 確かに願いをかなえるというのは魅力的だが暴走するのなら意味がないだろう。
 まぁ、向こうは俺がここまで知っているということは知らないが。

「じゃあな」

 どちらにせよどうでもいいことだ。
 俺はそのまま彼女を置き去りにして図書館に向かおうとした。
 が

「ま、待ってください!」

 と、呼びとめられてしまった。
 なんだ? まだ何か用があるのか?
 そう思って振り返ると

「あ、あの、ありがとうございます」

 と、言って彼女は深々と頭を下げてきた。
 律儀な奴だ。
 そこまでしなくても俺は拾ったものを渡しただけなのに。
 むしろ厄介なものを引き取ってくれて助かったほどだ。

「あぁ、どういたしまして。それじゃ」

 そう言って再び俺は歩きだそうとしたがその脚をまたしても止められてしまった。
 いや、今度は呼びとめられたわけでなく自主的に止まったのだが。
 なぜなら、彼女の方からぐぅ~とすごいお腹の音が聞こえてきたからだ。

「あっ!」

 と、彼女は恥ずかしそうにお腹を押さえた。
 が、そんなことに意味はない。
 というか押さえたところで音が抑えられるわけでもないし、そもそも鳴ってしまった後だし。まぁ、反射的に押さえてしまったのか。
 ……確かこいつ戦闘とかバリバリにやっているはずなのに体調管理も碌にしなくて大丈夫なんだろうか? 腹が減っては戦もできぬというのに。
 しかしどうするかな?
 俺としては放っておいてもいいのだがそんなことをしたらはやてに怒られてしまいそうだし。
 いや、言わなければいいのだろうがそれはそれではやてに隠し事をしているようでなんだか嫌だ。
 ……仕方ない。

「これもやる」

「え?」

 そう言って俺は鞄からクッキーの袋を取り出し彼女に渡した。
 はやてと一緒に食べようと思って作ってきたのだが俺の分くらいは分けてやってもいいだろう。
 はやての分はさすがにやらないが。

「とりあえずはそれでも食べていろ。それ以外にも帰ったらちゃんと食事をとるように。顔色が悪いぞ。きちっと体調管理くらいしろ。じゃあな」

 少々おせっかいだったかな?
 まぁ、いいか。はやてもおせっかい上等だと言っていたことだ。
 どうせ二度と会うことはないのだろうし。
 そう言って俺は今度こそ立ち去ろうとした。
 しかし

「あっ!待って!」

 ……今度はなんだ。いい加減はやての所に行きたいんだが。

「何かお礼を……」

 そう来るか。
 しかし慣れないことはするものじゃないな。面倒臭くなってきた。

「そんなものはいらない」

「で、でも」

「どうしてもというのならまたこのくらいの時間にここで待っていれば俺は通りかかるから待ち伏せでもしてくれ。今は急いでいるんだ。じゃあな」

 彼女はまだ何か言いたそうにしていたが俺は気にせずその場を去ってしまった。
 うん、だってはやてに早く会いに行きたいから。






 その日、後はいつもどおりにはやてと図書館で本を読んでおしゃべりをして遊んだ後、はやての家に行き夕飯を御馳走になってから帰宅した。
 夕飯中、俺は今日の出来事としてコスプレ少女に会った事を話すことにした。

「はやて、そういえば今日変な奴にあったぞ」

「ん? 変な奴ってなんや? まさかなんか危ない目にでもあったんか?」

 はやては心配そうに俺に聞いてきた。
 いかん。話始めを間違えてしまったな。
 心配してくれるのは嬉しいが心配をかけるのはよくないことだ。

「いや、そうじゃない。コスプレ少女に会った」

「コスプレ少女??」

 はやてははてな顔で聞き返してきた。
 うむ、しかしどうしてはやてはこうも一々可愛いんだろう?

「あぁ、何か黒いレオタードみたいな服にマントと鎌みたいなものを持っていた」

「ほぇー、マントに鎌か。変な子が居るんやね。希君みたいや」

 ……どういう意味だろう?俺はコスプレなんかしたことはないんだが。
 まぁ、いいか。話を続けよう。

「しかもなぜか腹ペコでお腹を鳴らしていた」

「腹ペココスプレ少女って……なんやそれ? 何やっとんねん」

 はやては呆れたようにいう。

「あぁ、さすがの俺もスルーできなかった」

「まぁ、それ気になるわな」

「だから、とりあえず手持ちのクッキーをあげた」

「クッキーってあれか? 私が食べたんと同じ奴?」

「そうだ。本当は俺の分も作ってきていたんだがその分をその子にあげた」

「ふぅ~ん」

 あれ? 反応があまり良くないな。どちらかと言えば褒めてもらえると思って話
したんだが。

「なぁ、その子可愛かった?」

「は? 可愛かったかどうか?」

「美少女か? 美少女やったんか?」

 なんかしきりに美少女かどうか聞いてくるな。それがどうしたというのだろう?

「いや、まぁ世間一般的に言えば美少女の類に入ると思うぞ」

「……そっか」

 そういうとはやては若干不機嫌そうに頬を膨らませてしまった。
 なんだろう? また何かやってしまったのか、俺は?
 クッキーあげないほうがよかったのだろうか?
 聞いてみよう。

「もしかしてクッキーあげないほうがよかったのか?」

 だとしたら今からでも取り返しに行くのだが。
 いや、もう食べられてしまっているだろうから新しいのを作った方がいいのか?

「いや、クッキーあげたんはええよ。ちゅーかクッキーはあげたほうがよかった」

「そうか。よかった」

 ではなんで不機嫌なんだろうか? 分からない。能力使えば分かるんだろうが……
 やはり直接聞こう。
 俺は勇気を出してはやてに直接理由を聞くことにした。

「なら、何か拙いこと言ってしまったか?」

「いや、別に何も。希君は悪ないで。うん」

 はやての言葉はいつもと違って歯切れが悪かった。しかし嘘をついているようには見えない。
 何か言ってしまったわけではないのか。ではなんなのだろう?

「まぁ、気にせんといて。ちゃっちゃと食べようや。これ何か自信作やで」

「おぉ、そうか。確かに凄くおいしそうだ。ありがとう、はやて」

「たんと食べてや」

 そうやって考えているうちのはやては早々と話題を変えてしまった。
 その後もすぐにいつも通りの雰囲気に戻ってしまったので大したことはなかったのだと思うがあれはいったい何だったのだろう?






 翌日、同じ時間に昨日と同じ場所を通るとやはりテスタロッサがいた。
 手に何か持って。

「あっ、昨日の」

 俺を見つけると彼女は嬉しそうに近寄ってきた。
 しかし、相変わらずバリアジャケット姿なのはどうだろう?
 俺が言うのもなんだがかなりずれているな。

「昨日はどうもありがとう。クッキー、すごくおいしかった。これ、お返し」

 そう言ってぺこりと頭を下げてから彼女はなんだか高そうなステーキ肉を渡してきた。
 ……なぜに肉なんだ?。
 とゆうか、金は持っているってことだよな。
 異世界から来たっていうから無一文で腹ペコだったのかもとも思ったのだが。
 なら、ジュエルシード集めに集中しすぎて食事をとっていなかっただけか。
 しかしその考えも間違っているということを彼女の次の発言を聞いて知った。

「これで大丈夫かな?これが一番ゼロがついていたらしいんだけど」

 ……わかった。こいつは金の使い方とか常識とかをよく知らないのか。
 だから買い物するのが怖くて、自分で飯を買っていないのか。
 とゆうか、能力使って確かめてみれば案の定これを買ってきたのは使い魔の方じゃないか。
 しかもお礼の品だとかは言わずにただ単に高い物を買ってきてと言っただけって……
 それは使い魔は犬なんだからこうなるよな。
 うん、アホだ。
 放っておいてもいいんだが……
 俺はノートを取り出し、お金の使い方と買い物の仕方をメモして肉と引き換えに渡した。

「? これは?」

「お前の渡してくれた肉は俺のと比べて量も値段も大きすぎる。だからその分の差し引きお礼だ。それ見てしっかりと買い物をしろ。それと、ちゃんと食事はとるように。じゃあな」

「? ありがとう」

 そのまま俺はまたその場を去ってしまった。
 今度は引き留められることはなかったがなんだか不思議そうな顔をされてしまった。


 そのまま図書館に肉を持っていくとはやてに怪訝な顔をされてしまった。
「なんやその高そうな肉? とゆうかなんで図書館に肉なんか持ってきたん」
「いや、これはだな……」
 俺が説明をすると今度ははやても不機嫌にならなかった。
 とゆうか呆れていた。
 当然だ。俺だって呆れてしまったのだし。
「……とりあえず持って帰って食べよか」
「……そうだな」
 ただ、はやての作ってくれた肉料理がとてもおいしかったので良しとしよう。




[25220] 第五話 前編
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/07 03:12
 
 その後テスタロッサに会うことはなかった。まぁ、向こうは忙しそうにしていたし、こっちの名前すら知らないのだから当然か。
 学校では、高町がジュエルシード集めのためにしばらく休んだり、それによって元気のなくなったバニングスと月村を励ましたり、高町が悩みを解決して戻ってきたりしたが、その後は特にたいした事件もなく平和に時が過ぎて行った。



 そして今は6月3日の午後十時半。
 はやての家から帰ってきた俺は台所を占領していろいろと仕込みをしている。
 明日ははやての誕生日なのだ。
 はやてと交渉した結果、明日だけは俺が料理を作ってあげることに同意してもらった。
 なので、今ここには一か月前から用意した明日のパーティー用の仕込みがすべてそろっている。
 はやてもさすがにここまで手の込んだ料理は作ったことがないだろう。明日は人生で最高の時間をはやてに過ごしてもらうつもりだ。そのために、今日は寝る間も惜しんで準備をしなくては。
 こうして、明日への期待を込めて、俺の一世一代の計画は進行していった。


 この後、計画を狂わす大きな事件が起きるとも知らずに。






 翌日、俺は張り切ってはやての家に向かっていた。
 リュックサックには昨日仕込んだ料理や誕生日プレゼントが詰まっている。
 そして両手には特に丹精込めて作った特製ソースの入った鍋を持っている。
 これを作るのに一カ月近くかかったのだ。万が一にも零すことはできない。そのために、リュックに入れずに手で持ってきたのだ。
 はやての家までついたら、まずは一番におめでとうと祝福しよう。そのあとは部屋を誕生日使用に飾り付けをしてお昼にはやての手料理を食べてから少し外に散歩にでも行こう。
 家に帰ってきたらこの特製ソースを使った料理とケーキを作り、盛大にお祝いをしよう。
 最後に誕生日プレゼントを渡せば完璧だ!
 こうして、今日一日のスケジュールを確認しつつ、俺は浮かれ調子で歩いていた。
 それでも鍋にはかなり気を使って歩いていたので、はやての家まで特製ソースを一滴もこぼさずにたどり着くことができた。
 家にたどり着くと俺は鍋をこぼれないように注意しながら横に置き、玄関のチャイムを鳴らした。
 はやてが喜ぶ顔を想像しつつわくわくして扉が開くのを待っていると――――――――中から薄紅色の髪をポニーテールした知らない女が出てきた。




 瞬間、状況判断しようと頭をフル回転させる。
 この女を俺は見たことがない。はやての話にもこんな特徴をもった女など出てきたことはなかった。
 そしてこの女の服装。
 薄手の黒いインナーウェアのみである。
 明らかに普通ではない。
 不審者と確定。
 能力を発動し交戦体制をとる。
 すると中にも知らない男女が三名いることが発覚した。
 くそっ! こいつを瞬殺してはやてを助けなくては!
 すると女もこちらの殺気に反応してすぐさま攻撃を仕掛けようとする。
 心を読んで腹部に蹴りを入れてこようとしているとわかった俺はカウンターを狙った。
 しかし、外見とそぐわない神速の蹴りに俺は避けるので精いっぱいだった。
 明らかに普通ではありえない。
 最近は鍛えているから能力を使えば俺は問題なく大人だって倒せるのに。
 なんだこいつは!
 しかし、驚いているのは向こうも同じだった。

(馬鹿な!今のタイミングでかわされただと!! ならば!)

「レヴァンティン!!」

 掛け声とともに女の手には剣が現れた。
 これは魔法!!
 俺は内心驚愕したがそんな反応をしている暇などなかった。
 そのまま女は袈裟がけに俺に切りつけてきた。目を見開き、全神経を集中してこれを躱すが返しが速い。
 すぐに第二撃が迫ってきた。
 くそっ! まだ中に三人もいるのにこのままではジリ貧だ! こいつに触れることさえできれば勝機はあるのに!
 しかし、そんな余裕なんて欠片もなかった。
 それどころか、このままではあと数回避けるのが精いっぱいだ。
 かといって強引に距離を詰めることもできない。
 完全な手詰まりの状況がさらに悪いほうへと進んでいった。
 女の仲間が騒ぎを聞いて玄関まで出てきたのだ。

(敵か!!)

「グラーフアイゼン!!」

 しかもこいつも魔導師のようだ。
 ハンマーのような武器を出しやがった。
 少女のなりをしたそいつは仲間の加勢をしようと俺にハンマーを振りかざしてきた。
 女もそれに合わせて剣を振ってくる。
 これは……避け切れない。
 せめて、こいつらの顔を脳裏に焼きつける。
 もし、はやてに何かしたら草の根分けてでも探しだして殺してやる。
 そう覚悟して最後の時を待っていると

「やめーーーーい!!!」

 はやての叫び声が響いた。
 すると俺に迫っていた剣とハンマーがピタリと止まる。
 家の中を見るとはやてがすごい顔でこちらを睨みつけていた。
 後ろには女の仲間と思われる金髪の女と犬耳の男が驚いた顔で固まっている。

「シグナム! ヴィータ! 何しとんねん!」

 女と少女も驚いたまま固まっている。
 かく言う俺も驚いているのだ。ここまで怒っている姿は初めて見る。

「し、しかし主、この男は」

「その人は私の大切な人や! 乱暴は許さへん!」

 はやての有無言わせぬ迫力に二人はしぶしぶ武器を収めた。
 しかし、まだ俺に対する警戒を解いておらず、いつでも襲いかかれる準備をしている。
 だが俺はそんなことどうでもよかった。
 はやてが俺を大切な人と言ってくれたのだ! こんなに嬉しいことはない! 涙が出そうだ!
 俺が感動を噛み締めているとはやては心配そうに車椅子で俺に駆け寄ってきた。

「大丈夫か希君!どっか怪我とかしてへんか!?」

「……大丈夫だ。はやてが止めてくれたおかげで一撃も喰らっていない」

「ほんまに大丈夫か?ごめんなぁ、痛いところもないか?」

 はやては俺が涙ぐんでいるのを勘違いして俺の体を調べ始めた。
 優しさを直に受け取れてとても嬉しいがこのまま心配をかけるのは忍びないので調べ終わった後も心配そうにしているはやてに微笑みかけてあげた。

「本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう、はやて」

 俺の言葉を聞いたはやてはようやく落ち着いてほっと息を吐き出した。
 そして顔を上げると女と少女のほうを向いて叫んだ。

「シグナム! ヴィータ! どうしてこんなことしたんや!」

 名前を呼ばれた二人はオロオロとしている。
 はやてに怒られたのが堪えているようだ。

「いや、あたしは……シグナムが戦っているからてっきり敵だと思って」

「……すみません主。その男がいきなり殺気を出し始めたのでつい」

「だからっちゅうていきなり襲いかかることはないやろ! 武器まで取り出して! 死んだらどないすんねん!!」

「いや、これは一応非殺傷設定をしてありまして」

「そうゆう問題やない!」

「とりあえず、家に入って事情を聞かせてくれないか?」

 なんだかこのままここで説教を始めそうだったのでとりあえず仲裁してあげた。
 心を読んだところ、今の言葉に偽りはなく、はやてを守ろうとしただけだとわかったからだ。
 なぜこんな状況になったかは知らないがとりあえずは敵じゃなさそうだ。

「……うん、そうやね。でもその前に、二人はちゃんと希君に謝りや」

「……悪かったよ」

「……すまなかった」

 二人は渋々といった風だがちゃんと謝ってきてくれた。
 まだ警戒を解いてはいないがここはこれで良しとしよう。
 こちらとて警戒を解いたわけではないのだし。

「あぁ、こちらもいきなりすまなかった。てっきりはやてを襲う不審者だと思ってな」

 俺も素直に謝ったが二人は釈然としないようだった。
 仕方がない。とりあえずは事情を聞いてからどうするか考えるとしよう。
 そう思ってはやての家に入ろうとして

「ああっ!!!」

「っ!? どうしたん!? いきなり!?」

 俺の特製ソースが倒れていることに気がついた。
 先ほどの戦闘中に倒れてしまったのだろう。
 しかし、そんなことって……せっかくはやてのために一カ月丹精込めて作ったのに……今からじゃ作り直すことなんかできない……
 俺がこぼれたソースの前で絶望に打ちひしがれていると襲ってきた二人は初めてばつの悪そうな顔をしてきた。
「いや、その……わるかったよ」
 先ほどとは違い今度はちゃんと謝ってきてくれる。
 しかし…………今更そんな謝罪なんかいらん!!






 しばらくその場で打ちひしがれていた俺がようやく復活するとみんなでリビングまで移動した。
 そこではやては昨日起こったことを俺に説明してくれた。
 なんでも、誕生日の瞬間を迎えようと12時まで起きていると急に本棚の本が光り出してこの四人が現れたそうだ。その時は気絶してしまったが朝起きるとまだいたので事情を聴くと彼女たちは光り出した本、闇の書と呼ばれる者の守護騎士なのだそうだ。
 守護騎士たちは主を守ることが使命でその主とは本の所有者であるはやてのことらしい。

「と、いうわけで、私はこの四人の主として衣食住の面倒をみることに決めたんよ」

 ……何がと、いうわけでなのかは分からないがともかく四人の面倒をみることにしたらしい。
 はやてらしいと言えばはやてらしいが。
 しかし、大丈夫なのだろうか?
 心を読む限りこの説明に嘘偽りはないようだがだからといってすぐには信用できない。
 こいつらがはやてを慕っているということもわかるが、何か大きなトラブルを巻き込んでくる可能性が高い。
 第一、何でこんなアイテムがはやての家に在るのかが一番の謎だ?
 そこら辺をはやてに質問してみると

「わからへん。私が物心着いた時にはもうあったやつや。あの、希君もみた鍵がかかっていたやつや」

 あぁ、あの本のことだったのか。
 しかし、問題解決とはなっていない。
 仕方がないので騎士とやらに話を聞こうとすると

《主、これ以上この男に我々の情報を話すべきではありません》

 話してくれる気はないようだ。
 念話を使ってはやてに釘を刺してやがる。さっきから一々やっているが、意味がないってわからないのか?

《大丈夫やって、希君なら》

 ほらまた却下されているじゃないか。
 そんなに俺が信用ならないか。確かに第一印象は最悪だがそこまで警戒されるなんて。
 過去に何かあったのか?
 しかし、警戒されていようが今は手掛かりがこいつらしかいないので聞くしかない。
 最悪、応用能力その一を使えば無理矢理でも情報は得られるが普通に聞けることは普通に聞いておこう。
 そう思って俺は質問を続けることにした。

「それで、お前らのほうに心当たりはないのか?」

 案の定騎士たちは話すのを渋ったがはやてに促されて仕方なしといったように教えてくれた。

「……闇の書は主が死ぬとランダム転移をするようになっている」

 これも嘘はないな。その転移先がたまたまここだったというわけか。しかしそうなると……

「前の主の死因は?」

「覚えていない」

 これは半分嘘か。
 くそっ! ちゃんと覚えていないだけで殺されているじゃないか! 最悪だ! なんでかは知らないがこの闇の書っていう奴は追われる立場ってわけか!
 どうする? こんな危険なものはどこかに捨てておきたいがそれははやてが許してくれないだろう。
 もうこいつらを受け入れると決めてしまったからな。
 こっそりやるにしてもこいつら自身意思がある上俺よりも強いときてる。
 だとすると俺に出来ることは……
 俺が今後どうしようか考えているとはやては騎士たちに質問を続けていた。

「これでこの本に関することは全部教えてもろた形になるんか?」

「いえ、まだ続きがあります」

「なんなん?」

「ですが……」

 騎士は俺のほうをちらりと見てまた渋っている。
 まだ何か厄介なことがあるとでも言うのか?

「ええから」

 やはりはやてには逆らえないようで続きを話し始めた。

「はい、闇の書には『蒐集』という能力があります。ほかの魔導師や魔法生物のリンカーコアを取り入れることで本のページが埋まっていきすべてのページを埋めることができれば主のどんな願いも叶えることができます」

「なんだと!!」

 俺は思考をおもわず中断して叫んでいた。
 どんな願いも叶えるだと! それなら、それなら!

「はやての病気も治すことができるって言うのか!!」

「……可能だ」

 はやての病気が治る! なら捨てるなんてとんでもない!
 何としてでも追手に捕まる前にすべてのページを集めなければ。
 そう思っている俺の横ではやてはとんでもないことを言い出した。

「蒐集なんかする必要はないよ。叶えたい望みなんか特にないしな」

「「「「「なっ!!」」」」」

 これにははやて以外の全員が驚きの声を上げた。

「なぜですか主!? 病気が治るかもしれないのですよ!!」

「そうだはやて! なんでだ!!」

 俺と騎士が詰め寄るとはやては頑として言い放った。

「その蒐集ゆうんは集めるんが大変で相手にも迷惑がかかるんやろ? 私はシグナム達にそないな危険なことをしてほしくない。みんなには私の『家族』になってほしいんや。その『家族』が危険なことをしようとしとったら止めるんは当たり前の話や」

 はやての目には強い意志が感じられた。こうなったら意見を変えることは不可能だろう。
 せっかくのチャンスなのに。
 そう思って落胆しているとはやては俺のほうを向いて微笑みかけてきた。

「希君にもそないなことの協力はしてほしくないな。心配せんでもいつか自分で治して見せるから安心してや」

 そう言われてしまったらもう何もできない。
 ……仕方がない。はやてがそう望むのならあきらめることにしよう。
 当初の予定通り、俺がもっと勉強して治せるようになればいいだけのことだ。
 騎士たちのことも、面倒だがなるべく見つからないようにしてあげよう。
 はやてがそう望んでいるからな。
 こうして、騎士たちへの尋問は終わったが今度は騎士たちから俺への尋問が始まった。

「次は我々の番だ。一つ目、貴様は何者だ」

「ただの本好きの小学生だ」

 これはウソ。ただの小学生は心の声なんか聞こえない。

「時空管理局の魔導師か?」

「ちがう、魔導師なんかじゃなければ時空管理局なんて知りもしない」

 半分嘘。時空管理局のことは知っているが魔導師ではないはずだ。

「うそつけ! じゃあなんでシグナムの攻撃が避けられんだよ!」

「目がいいんだよ。動体視力が特にな。なんなら、調べてくれて構わないぞ?」

 本当。だけどすべてではない。
 確かに避けるのにこの目も必要だったが心を読んで先に動き出さなくては避け切れなかっただろう。

「シャマル」

 ピンクのポニーテールの女が言うとシャマルと呼ばれた金髪がペンデュラムをとりだし俺の周りに展開させた。

「……本当よ。彼にリンカーコアはなかったわ」

 どうやらこれで調べられたらしい。
 それを聞いたヴィータとかいう少女が驚いた顔をしている。

「……では、なぜ主のそばにいる?」

「惚れているからだ。純粋に、守ってあげたいと思っている」

 本当だ。これ以上にはっきりとした事実なんかないというくらいに。
 はやては顔を赤くしていたが今回は場の空気が真剣だったために怒られることはなかった。
 ただやはり恥ずかしいのか、この尋問を強制的に打ち切ってしまう。

「はいはい、もう質問タイムはおしまいや! 私は今からみんなの洋服を買ってくるから。希君、手伝ってな。シグナム達は留守番しといて」

 しかしこれをシグナムとかいう騎士が止める。

「主! 危険です! せめて私たちにもお供させてください」

「いや、お供させろいうても着ていく服がないやん。そんなカッコじゃ外歩けへんよ」

「ぐっ! しかし」

 きっぱりと断ったはやてになおも食い下がろうとする。
 そんなに信用がないとはね。
 とゆうかはやてが困ってるだろうが。
 仕方ない。
 本当なら二人きりで行きたいのだが助け舟を出してやるか。
 時間もないことだし。

「ならそこの紅の鉄騎とやらにはやての服を貸してお供させればいいだろう。ほかはサイズないかもしれんがそいつくらいならはやての服も着れるだろう」

 俺の思わぬ助け船に少々警戒していた騎士たちだが、ほかに方法もないのでこの案を受け入れてくれた。

「なら、俺はこの蒼き狼とやらの採寸をしてくるから。そっちも終わったら教えてくれ」

 こうして俺はザフィーラとか言う犬耳マッチョとともにニ階の部屋に移動していった。


 無論先ほどの助言も今回の手伝いもただの好意からではない。
 この守護騎士とやらと一対一で話がしたかったからだ。はやての前では言えないことをいろいろと言わせてもらおうじゃないか。




 俺とザフィーラは無言のまま採寸を進めていった。
 てっきり向こうから何か言ってくるかと思っていたが何も話しかけてはこない。
 しかし、俺にとってはその方が都合がいい。
 無言でいるときはたいてい何か考えているときだ。
 その考えが誰かに聞かれているなんてまず思わないのでいろいろと情報収集ができる。
 案の定、ザフィーラは俺とはやてについて考えていた。

(今回の主はかなり変わっているな。蒐集をしないどころか我らに家族に成れとは。しかし、悪い気はしない。主も望んでいるのだから、しばらくは様子を見ることとしよう。問題は管理局、そしてこの少年だ。管理局についてはとりあえず大丈夫だろう。ここは管理外世界のようだからな。蒐集をする必要もないので静かに暮らしていればまずみつからんだろう)

 管理局に対しては同意見だな。
 先ほど、能力で高町を探って見たが特に何か感じていた様子もなかった。
 ならば、騒ぎさえ起こさなければ、こんなところにわざわざ調査なんかに来ないだろう。ただでさえ人手不足なのだから。

(今はこの少年、こちらの対処の方が火急の問題だ。主とそれなりに親しいようだが。ただの人なら気にする必要もないのだろうがこいつはシグナムの剣を避けれるほどの戦闘能力を持っている。非魔導師でありながらだ。こんなことは、今までいろいろな世界にいたがあり得ないことだ。何か秘密があるとしか思えない。その秘密が主にとって害になるのかどうかが問題だが……)

 あり得ないっていうのは言い過ぎだと思うが。
 確かに俺は異常だが、この街には俺以外でもあの剣に対抗できる人間くらいいる。高町の兄とか。あの一家も普通ではないが。
 しかし、警戒はされているがヴィータとシグナムほどではないようだな。
 思考も終始、はやての安全のためのものだったし。
 これなら、俺の要求も通りやすそうだ。

「採寸は終わった。まだあちらは時間がかかりそうだから今のうちに話しておきたいことがある」

「……なんだ?」

 俺の唐突な発言にザフィーラは警戒心を強めるが、聞く姿勢は保ってくれている。
 これならちゃんと最後まで話せそうだ。

「俺はお前らのことを信用していない」

「…………」

「魔導師云々のことは信じるとしても他はまだ信用できない。はやてを守護するために現れたとか言っていたがそれが一番信用ならない。大体お前らは追われる立場なのだろう。むしろ、厄介事を運んできたようにしか見えない」

「…………」

「だが、はやてはもうお前らを受け入れてしまった。俺がどうこう言ったところでどうにもならない。ならばせめて、俺だけでも警戒はさせてもらう。はやてに火の粉がかかるようなことをするようなら、全力でお前らを排除するからそのつもりでいろ」

「……好きにしろ。我らとて貴様を警戒している」

 ザフィーラは黙って俺の言葉を最後まで聞き続けてくれた。
 ヴィータやシグナムなら話の途中で激昂して、前に進めないところだっただろう。
 こいつを初めの説得相手に選んだのは正解だったようだな。それに、多少なりとも思い当たる節もあるようだ。
 さて、ここからが本題だ。

「しかし、それだははやては納得しないだろう。おそらく、俺とお前らにも仲良くしてほしいと思っているはずだ」

「……何が言いたい?」

 ザフィーラは怪訝な顔をして俺に訪ねた。

(確かに主はそう思っていそうだが先ほど、双方相容れないと言いきったばかりだ。この問題はどうしようもないだろう)

 そんなことを考えているようだが、手がないわけではない。
 それを今教えてやろう。

「この問題を解決するためにはせめて、はやての前だけでも態度をもっと軟化させてほしい。俺は頻繁にこの家に来るからそのたびに先ほどのような態度を取られてははやての負担になる。はやての前以外では別にどんな態度でもかまわないから少しだけ協力してほしい」

 そう言って俺はザフィーラに頭を下げた。
 少なくとも、俺はそうするつもりなのだ。できれば騎士たちにも同じことをしてもらった方がいい。
 その方がはやての負担にならないで済むからな。

「……なぜそこまでする。我らのことが気に入らないのではなかったのか?」

 俺が頭を下げたのが意外なのか、ザフィーラは驚いていた。
 先ほどまで敵意むき出しだったがしょうがないか。
 しかし、ずいぶんとまた間抜けなことを聞いてきたものだ。さっきも言ったと思うのだが? 聞いていなかったのか?

「はやてに惚れているからだ。はやてに笑顔でいてもらうためなら、この程度のこといくらでもしてやる」

 俺は真っすぐと、真剣な表情で言い切った。
 嘘偽りのない、正直な気持ちだった。
 ザフィーラはしばらく黙って考えていたが、そうしている間にはやての採寸も終わり部屋に戻ることになってしまった。
 このまま答えを聞けずに終わるかと思っていると

「まだ、貴様のことを信用はできない。しかし、貴様の言うことも尤もだ。主のためにもいつまでもこのような態度を取ることは止めにしておいてやる」

 そう言い残してさっさと一人で戻ってしまった。
 説得成功だな。後は、強情そうな二人をどうするかだが、それははやてとの買い物を楽しんでいる間に考えることにしよう。
 そう思った俺ははやてを待たせてはいけないので急いで部屋に戻って行った。




 部屋に戻るとシグナムとシャマルが疲れた様にぐったりとしていた。
 はやてははやてでホクホク顔で「いや~、これはええもんやったわ。はまりそう」とか言っているし。
 ……なんだかはやてがよくない物に目覚めてしまった気がしてならない。
 ……いいか、スルーしよう。






 現在、俺ははやてとヴィータとともに近くのデパートまで来ている。
 ヴォルケンリッターズの服と、今夜のパーティー用の食材を買い足すためだ。
 騎士たちが来るなんて考えてもいなかったので用意していた量だけでは足りなかったのだ。特製ソースもなくなってしまったし。
 予定が完全に狂ってしまった。
 俺のソースが……
 そんなふうに若干落ち込んでいる俺を放っておいて、はやてはヴィータと共に楽しそうに服を選んでいた。かれこれ二時間近くは選んでいる。
 対するヴィータははやての好意的な態度に若干戸惑っているようだ。今までの主は騎士たちを道具扱いしかしていなかったようなので仕方ない。
 しかし、はやてをそんな奴らと一緒にしないでもらいたいな。
 はやてはとても優しい子なのだから。




 やっと服を選び終えた俺たちは地下の食品売り場まで来ていた。
 後は、俺が食材を買いそろえれば買い物は終了だ。

「ほな、シグナム達も待っとるし、さっさと終わらせようや」

 そう言ってはやても一緒に食材コーナーへと進もうとしたが

「待ってくれ、はやてはここで待機していてくれないか?」

 俺はそれを止めた。

「なんでや?」

 はやてが振り返って不思議そうに聞いてきた。
 やばい。メチャクチャ可愛いじゃないか。カメラ持ってくるんだったな。

「パーティー料理はサプライズが基本だからな。材料もなるべく秘密にしておきたい。なるべく早く帰ってくるから少しだけ待っていてくれ」

「う~ん、わかった。ほんなら、待っとるわ」

 はやては少し残念そうにしていたが素直に俺に従っていくれた。
 そのままはやてをベンチまで連れて行き、

「すぐ戻ってくるからな。行くぞ、紅の鉄騎」

 ヴィータに声をかけた。
 するとヴィータは俺のことを睨みつけてきた。

「なんであたしまで行かなくちゃいけねーんだよ」

 当然のようについてくる気はなかったようだ。
 とゆうかはやてのそばを離れる気がないのだろう。
 今までだって車椅子を押すのこそ俺に任せていたがずっと横に張り付いていたし。
 しかし、ここで来てもらわなくてはこちらが困る。

「一人では持ち切れないし時間がかかる。それに、誰のせいで買い足しをする羽目になったと思っているんだ」

「うっ」

 俺の正論にヴィータは少し怯んだ。料理を駄目にしたことに多少なりの罪悪感はあったようだ。

「ヴィータ、手伝ってあげてや。私は一人で大丈夫やから」

「くっ、はやてがそう言うんなら。さっさと行くぞ」

 はやての援護もあってヴィータは俺についてきてくれることとなった。
 よし、うまくいった。
 俺たちははやてをそのままベンチに残し食品コーナーまで歩いて行った。
 はやてが見えなくなった辺りで俺は本題に入る。

「さて、紅の鉄騎。お前に一つ忠告しておく。あまりはやての前で俺に殺気を向けるな。はやてが気にするだろう?」

「あぁん! だったらテメーが消えればいいだけのことだろう」

 ヴィータはすごい勢いで俺を睨みつけてきた。
 今にも俺に殴りかかってきそうな勢いだ。

「それはできない。お前らが俺を信用していないように、俺もお前らを信用していない。そんな奴らにはやてをまかしておくことなんてできない」

「なんだと!」

 ヴィータが怒鳴り声をあげたせいで周りの人たちがビクッと反応する。
 予想していたとはいえもうちょっと周りのことも考えてほしい。
 はやてに聞かれたらどうするんだ。

「しかしはやてがお前らを受け入れている以上俺にはお前らを排除することができない。だから警戒だけでもしておく。ただ、そんな態度を取っていればはやてが気にするからそれを見せないようにくらいはしないとな。別に仲良くしろと言っているわけではないんだ。はやてのためにはどうした方がいいかくらい考えろ。じゃあ、俺は精肉コーナーに行ってくるからお前はこれを買っておいてくれ」

 俺はそう言ってヴ―タにメモを渡すとそそくさとその場を離れてしまった。
 ヴィータは何か言いたそうにしていたがそのまま追ってくることはなかった。
 こいつはすぐ熱くなるタイプのようだから、少し間を置いた方がいい返事が利けるだろう。


 欲しい物をそろえてレジに行くとタイミング良くヴィータもレジに来ていた。
 まぁ、能力使って監視していたので当たり前なんだが。
 ヴィータも俺を見つけると睨みつけながらも近づいてきた。

「……書かれたものは揃えたぞ」

「あぁ、ありがとう。さっさと買ってはやての元に戻るとしよう」

 すぐにレジを済ませてはやての元に戻って帰ることにした。
 道中、ヴィータは相変わらず俺に友好的ではなかったがそれでも殺気を向けては来なくなった。
 なんだかんだでわかってくれたようだ。
 さて、あと二人か。どうなることやら。




[25220] 第五話 後編
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37
Date: 2011/01/07 03:08

 俺たちが帰宅するとはやては早速皆を着替えさせ、ファッションショーを始めた。騎士たちは困惑していたがはやては実に満足そうだった。
 俺はその間急いで部屋をパーティー用に飾り付けをしていたので見ていなかったが。
 その後、遅めの昼食を取ってから俺はキッチンを独占した。本当ならはやてと遊ぶ予定だったが量が増えてしまったので今から作り始めなくては間に合わなくなってしまうのだ。
 はやても騎士たちのバリアジャケットの形を考えなくてはならなず、忙しいので仕方ないのだが。
 それでも残念だ。
 そう思って若干ローテンションで料理を続けているとシグナムがキッチンに侵入してきた。
 俺は手を止めずに声をかける。

「何か用か?心配せずとも毒なんか入れていないぞ」

 シグナムは俺の言葉に反応せず、ただ黙って俺を険しい顔で見ているだけだった。
 仕方がないので能力を使って探ってみると

(この男は本当に何者だ。ザフィーラとヴィータの話を聞く限り、主への好意は本物のようだが油断できない。そもそも、こんな子供になぜ私の剣が見切れる? 確かに、魔導師ならば稀に幼くして私と戦えるほどの才能を開花させている奴もいるが、それでもあのタイミングと間合いで避けるなんてまずできないだろう。ましてこいつは非魔導師だ。用心に越したことはない。万が一にも、主を危険にさらすわけにはいかないのだ)

 ……なんというか、随分と高い評価を貰っているな。
 しかし、こうも皆がはやてのことを思っているとなると少々こいつらへの態度を軟化させてもいいかもしれないな。
 まだ警戒は解かないが。
 とりあえず、いい機会だからこいつにも俺の考えを教えておくか。

「警戒を解けとは言わないがいつまでもはやての前でそんな態度を見せるなよ。はやてが気に病む」

「……その話は聞いた。貴様の提案に乗るのは癪だが主のためだ。協力してやる」

 なんだ、素直に協力してくれるのか。意外だ。
 しかし、それならば俺から言うことはもうないな。

「ならいい。後は好きにしてくれ」

 そう言って俺は料理に集中しようとしたがシグナムの話はまだ終わっていなかった。

「一つ聞きたい。なぜお前は私の剣を見切ることができた? ただの子供にそんな芸当ができるはずがない。我々がお前を警戒する一番の理由はそれだ。納得のいく説明がほしい」

「さっきも言ったろう? 多少体を鍛えていたし、何より、俺は動体視力が良いんだ」

「多少動体視力がいい程度で避けられるほど、私の剣は甘くない」

 シグナムは納得できないようだ。
 相当剣に自信があるのだろう。確かに凄まじかったからな。能力がなければ初撃でやられていただろうし。
 しかし、本当のことを喋るわけにもいかない。何とか誤魔化さなくては。
 そう思った俺はメモ帳を指差し、シグナムに指示を出した。

「そのメモ帳の何処でもいいから好きなことをかけ。そして閉じた後、俺に向けてできるだけ早くパラパラと捲ってみろ」

 シグナムは言われたとおりに何か書いた後、俺に向けたメモ帳を捲って見せた。

「……45ページの右下に小さく『烈火の将』か」

「何っ!」

 驚いたシグナムはあわてて自分が何ページ目に書いたのか調べ始めた。
 このメモ帳にはページ数はかいていない。
 つまり俺はあの一瞬でページ数まで数えていたのだ。
 確認を終えたシグナムはさらに驚いていた。

「これでわかっただろう? 俺の眼の良さは多少程度じゃないんだよ。弾丸に書かれた文字だって読み取れる自信はある」

 実際はそこまで出来るとは思わないが多少誇張したところで今は信じるだろう。
 それにこれくらいは言わないと、シグナムの剣を避けた言い訳にはならないだろうからな。
 案の定、シグナムは俺の言葉を信じたようだった。

「……確かに多少程度ではないようだな」

「あぁ、それに避け方自体はそれほど熟練したものではなかっただろう? 格闘技の本を読んだことはあるが戦闘の経験はないからな。紅の鉄騎が加勢に来なかったとしてもあと1,2撃避けるのが精一杯だっただろうし、何より反撃の手段がなかった」

 確かに、とシグナムは先ほどの戦闘を思い出して考えていた。
 俺の戦い方は避けれている割には精彩さに欠けていたようだ。
 ふむ、いつ敵が来るかわからない状況になってしまったことだし、もう少し鍛えてみるか。
 しかし、シグナムはまだ疑問が残っているようだ。

「その目はどうやって手に入れた」

 俺の異常な目の良さに何か改造処置を施されたものだと思ったようだ。 
 魔法ってそんなこともできるのか? だとしたらすごいな。

「生まれる付き良かったが本を大量に読むために鍛えた。はやてに聞けばわかると思うが俺の特技は速読だ。今のようにパラパラと捲っただけで本の全内容を記憶できる」

 これははやての前でも普通に見せている。初対面の時もやってしまったしな。
一度、本当に読めているのかと疑われたときにテストされたが余裕で全問正解だった。
 この時ははやてに褒められてすごい嬉しかったな。
 だが、調子に乗って手あたりしだいに速読したらすぐにはやてと通って図書館の本もすべて読み切ってしまった。おかげで図書館にいるのに別の所から持ってきた本を読まなくてはならなくなってしまった。
 まったく、面倒臭い。

「主に確認を取って見るがとりあえず信じてやる。だがまだお前を信用したわけではない。妙な真似をしたらすぐにたたっ斬ってやるから覚悟しておけ」

 そう言い残してシグナムはキッチンから去って行った。
 やれやれ、なんだかんだ言っていたが本題は俺に釘を刺すことか。
 言われなくても、俺ははやての害になることなんかしない。
 後一人、話していない奴もいるが、とりあえずは料理に集中するか。
 そして俺はパーティー料理作りに専念することにした。




 しばらく料理を続けていると今度ははやてがやってきた。
 なんだろう? つまみ食いにでも来たのか?

「どうしたはやて? 何か用か?」

「うん、あとどれくらいでできるんかなぁと思て見に来たんよ」

「あぁ、それならもう少し時間がかかる。すまない。お腹がすいてしまったのか?」

 思っていた以上の量にだいぶ時間が押してしまっているからな。はやてを空腹にさせてしまっただろうか? それならば急がないと。

「あぁ、そうやないねんけど。それならちょっとの間こっちの部屋に入らんでくれるか?」

「部屋に入らないで欲しい?」

 なぜだろう? まさか奴らに説得されて俺のことが嫌いになってしまったのだろうか?
 いや、はやてはそんなことで嫌ったりはしないはずだ。それに奴らもそこまで変なことを言っていなかったはずだし……
 いや、でも、万が一……

「いや別にそないな顔せんでも変なことは言わへんよ。別に希君のことを嫌いになったわけでもない」

 そう言ってはやては俺のことを窘めた。
 ……そんなに顔に出ていたか? 自分じゃ何も変わっていないと思っていたんだが。
 しかしそれなら何を話すんだろう?

「俺が聞いたら拙い話でもするのか?」

「う~ん、まぁそこまで聞かれたらまずいっちゅう訳やないけど……聞かれたらはずいねん

「ん? すまないはやて。よく聞こえなかったんだが」

 とゆうかなぜはやては赤くなっているんだ? 可愛いけど。

「ああ、もう! あれや! ガールズトークするつもりやから希君は聞いたらあかんねん!」

「ガールズトーク?」

「そうや! そうゆうわけやから聞いたらあかんで。終わったら言うからまっとってや」

「? わかった」

 そう言ってはやてはそそくさと部屋に戻ってしまった。
 しかし、ガールズトークって何を話すのだろう? とゆうかガールズなのにザフィーラはいいのか?
 ……気になる。
 だが、はやてに聞くなと言われてしまったからな。我慢しよう。
 後、能力も切っておかなければ。勝手に聞こえてしまう。
 騎士たちを監視から外すの少々不安だが、今までの奴らの行動と考え方を見ればはやてに害なすことはしないだろうし。
 しかし、気になるなぁ。何を話す気なんだ? はやては。






 しばらくしてはやての話が終わるころとなると、俺の準備もすぐに終わった。

「……これは」

「……うめぇ」

「あらあら、おいしいわねぇ」

「…………」

 夕食時、出来上がった料理を振舞ったがとても好評だった。
 シャマルは普通においしいと言ってくれたしヴィータやシグナムも思わず声が出てしまっていた。ザフィーラは感想を言ってくらなかったががつがつと食べまくっていたのでおいしかったのだろう。
 何より

「メチャうまいやん! さすが希君やなぁ」

 はやてが喜んでくれている。
 これだけで頑張った甲斐があったというものだ。

「ありがとう、まだあるからどんどん食べてくれ」

 俺は笑顔で皆に促した。
 はやてがおいしいと言ってくれる度に、俺の顔はどんどん弛んでいった。
 あぁ、おいしそうに料理を頬張るはやて可愛い。天使のようだ。これを見るために俺は生まれてきたんじゃないだろうか。ずっと見ていたいなぁ。あぁ、可愛いなぁ。なんでこんなに可愛いのだろう?
 そんなふうに俺が幸せをかみしめている姿を見て、騎士たちは驚いていたが俺は無視した。
 今ははやての顔を見るのに忙しいのだ。
 そうやって見続けているとはやてもそのことに気付いたようだ。

「なんや、私の顔になんかついてるか?」

 そう言って確かめるように自分の顔をペタペタと触りだした。
 あぁ、本当に可愛いなぁ。

「いや、はやてが俺の料理をおいしそうに食べているのを見れて幸せだなぁと思って。可愛いよ、はやて」

 俺の素直な感想にはやては

「だから恥ずかしいセリフは禁止やってゆうとるやろ」

 と、注意してきた。さすがにもう慣れたのか顔が真っ赤にはなっていない。

「……でも、まぁ、ありがとうな」

 しかし、若干耳を赤くしてお礼を言ってくれた。
 いろいろと予定がくるってしまい大変だったがそれだけでもう、今日一日の苦労が報われた気がした。

「どういたしまして。それと、誕生日おめでとう」

 そして、思い出してみれば今日一日ずっと言っていなかったお祝いの言葉をはやてに伝えた。




 俺の料理は最後に出した誕生日ケーキまですべて好評価をもらえた。特に、最後のケーキに至ってはヴィータを『ギガうめぇ!』と叫ばせるほどのものだった。
 菓子作りが一番得意だからな。特製ソースが使えなかった分、特に気合を入れた甲斐があったというものだ。
 料理を食べ切った後、俺ははやてに誕生日プレゼントを渡した。前にはやてが欲しがっていた新しい鍋だ。

「ありがとう、希君。覚えとってくれたんやね」

 今度ははやてもちゃんと受け取ってくれた。
 よしっ! やっとプレゼント作戦成功だ!
 俺は思わずガッツポーズをして喜んだ。
 騎士たちは誕生日プレゼントが用意できなかったので悔しそうに俺の様子を見つめていた。
 それに気付いたはやてが慰めたおかげだいぶ機嫌は治ったが少し落ち込んでいるようだ。
 その後、俺が後片付けをしている間にはやて、ヴィータ、シグナムの三人はお風呂に入った。できれば、家にいる間はずっと一緒に居たかったのだが何もしないでいるとはやては片付けを手伝うと言いだしそうだったので、俺が勧めたのだ。
 それに、まだ話したい人もいたのでな。
 片付けが終わり、俺がリビングに行くと相手も待っていたようで俺に話しかけてきた。

「少し、お話ししない?」

「あぁ、俺も話がしたいと思っていたところだ。風の癒し手」

 俺がシャマルの前に座るとザフィーラは立ち上がり部屋を出て行った。
 どうやら一対一で話をしたいらしい。
 こちらとしてもありがたいことだ。
 先に話を切り出してきたのはシャマルからだった。

「あなたの考えは他の騎士たちから聞いたわ。あなたは私たちがあなたを信用していないのを知っている。その上で、私たちにあからさまな敵意を見せないでほしいのよね。はやてちゃんのために」

「その通りだ。加えて言うのなら俺もお前たちを信用していない」

 おおむね、状況は把握しているようだ。さてどう出るかな。
 するとシャマルは意外なことを言い出した。

「そう。なら一つだけ。ヴォルケンリッターとしての意思はあなたの知っている通りだけど、私個人のとしてはあなたを信用してもいいと思っているわ」

「なに?」

 何かの罠かと思い、能力で確かめてみても今の言葉に偽りはないようだった。

「あなたの今日一日を監視させてもらったけど、すべてはやてちゃんのためを思った行動をしていたわ。特に、夕食時の会話は演技とは思えないほど嬉しそうだった。少なくとも、はやてちゃんの害になるようなことはしないと判断できるほどに」

 なるほど、そんなに嬉しそうだったか。確かに嬉しかったがそんなに顔に出ていたとは。
 自分ではわからないものだな。
 シャマルの話はまだ続いた。

「シグナムの剣を避けれるほどの戦闘能力は確かに脅威だけれど、それも決して抑えきれないものではないわ。それに、ここは管理外世界のようだし時空管理局とのつながりがある可能性も極めて低い。何より、はやてちゃんも好意を持っているようだし」

 そこでシャマルの話は終わったようで俺の反応を待っている。
 しかしおれは最後の言葉が気になってそれどころではなかった。

「本当か? 本当にはやては俺に好意を持っているようだったか? 勘違いとかじゃないのか?」

「え、えぇ。私が見る限りそう感じたわ」

 俺の異常な詰め寄りにシャマルは若干引いていたがそんなことは気にならなかった。
 そうかぁ。よかった。
 俺自身嫌われているとは思っていなかったがたまに不安になることがあったからな。俺が勝手にそう思っているだけではないかって。
 しかし、他人から見ても好意的だったとなれば勘違いではないのだろう。
 本当に良かった。
 俺がトリップしているとシャマルが気遣って声をかけてきた。

「あの、どうしたの?」

「あぁ、すまん。ちょっと嬉しくてな」

 その声で現実に戻ってきた俺は気を引き締め、真剣な表情をして自分の考えをシャマルに伝えた。

「信用してくれると言うなら俺も言うことはない。ただ、それだけではまだ俺の方は完全にそちらを信用はできない。しかし、こちらももっと時間をかけてお前らを見極めてからなら、仲良くできるかもしれない。はやての家族なんだ、できることなら俺も仲良くしたいからな」

「……私たちをはやてちゃんの家族として認めてくれるの?」

 シャマルは意外そうに驚いていた。だが、これは俺がどうこう言うものではない。

「はやてがそう望んだからな。俺が何を言おうと、もうそうなってしまっている」

「……ありがとう」

 俺の言葉を受け取ったシャマルは嬉しそうに礼を述べた。
 それで話し合いは終わり、ザフィーラも部屋に戻ってきた。
 念話で呼んだのだろう。
 程なくしてはやてたちもお風呂から上がり、今朝のような殺伐とした雰囲気もなく俺たちはまったりと時を過ごすことにした。
 騎士たちも俺との約束を守ってくれているようだ。

 やがて、俺は帰る時間なる。
 はやてが玄関まで見送りに来てくれたが、騎士たちは空気を読んだのかついてこなかった。
 シグナム辺りは付いてくると思ったんだが。
 まぁ、二人っきりになれて嬉しいからいいか。

「名残惜しいが今日はもう帰るよ」

「うん、今日はいろいろとありごとうな。楽しかったわ」

「俺も楽しかった」

 そう言って帰ろうとしたが俺はあることに気付いた。

「っと、そうだった。忘れるところだった」

「? どうしたん?」

 俺はそう言ってポケットから小さな包みを取り出すとはやてに渡した。はやてがそれを開けると中にはヘアピンが一組入っていた。

「これも誕生日プレゼントなんだ。ただしこれははやての欲しい物じゃなくてただ単に俺があげたいものだ。受け取ってもらえないか?」

 バニングスに誕生日プレゼントのことを話した時「鍋なんてありえない!」と言われたので念のため用意したものなのだが、はやてが鍋を喜んでいたので忘れていた。
 俺が持っていても仕方がない物なのでできればもらってほしい。
 それに、つけている姿も見てみたい。

「ええの?」

 はやては遠慮がちに聞いてきたので俺は笑顔で答える。

「はやてに貰ってほしいんだ」

「……ありがとう」

 するとはやてはすぐにそのヘアピンをつけてくれた。そしてうれしそうに俺に感想を求める。

「どうや?似合ってるかな?」

「……あぁ、最高だ。可愛いよ」

 そのまま、嬉しそうにヘアピンを眺めているはやてを見て俺まで笑顔になる。
 あぁ、このまま時が止まればどんなにいいだろうか。
 しかし、そういうわけにもいかず今度こそお別れの時間になってしまった。

「それじゃあ、またな、はやて」

「うん、またね、希君。このヘアピン、大切にするからな」

 そして俺ははやての家を後にした。
 色々あったが最後にはやての笑顔を見ることができたので、良しとするか。そう一日を振り返りながら、俺は帰路についた。



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