新年最初の取引となる「大発会」を迎えた4日の東京株式市場は、日経平均株価の終値が前年末比169円18銭高の1万398円10銭と約7カ月半ぶりの高値水準を回復した。市場では今年の相場について株高を予想する声が多いが、懸念材料もある。架空のシナリオに基づき、今年の要注意点を大胆に分析した。【田所柳子、大久保渉、和田憲二】
◆リスクシナリオ1
米株式市場は3日、2年4カ月ぶりの高値をつけた。だが、失業率は高止まりし、個人消費も予想ほど盛り上がらない。景気回復のもたつきを見て市場ではドルが売られ、円が急伸。輸出企業の採算悪化懸念で日経平均株価も下落した。
日経平均が昨年1年間で3%下落した要因は、米経済の先行き懸念による円高・ドル安だった。今年も「日本の株価の鍵は米経済が握る」(みずほ証券の倉持靖彦・投資情報部長)との声は多い。米国の年末商戦は堅調だったが、「住宅バブル崩壊で家計や企業が抱えた過剰な債務や設備の解消には時間がかかる」(日本の金融当局)とみられ、回復がもたつけば「米追加緩和の観測が再び高まり、2月ごろに円高局面を迎える」(日興コーディアル証券の大西史一・国際市場分析部長)可能性がある。
◆リスクシナリオ2
昨年のギリシャ、アイルランドに続きポルトガルが財政危機に陥った。4月に大量償還を迎えるスペイン国債への不安感が市場に広がる。救済策をめぐり、欧州連合(EU)の足並みが乱れ、ユーロは暴落、円が急騰。世界同時株安につながった。
二つ目のリスクは欧州信用不安の再燃だ。もし経済規模が大きいスペインの救済が必要になれば、EUなどが昨年創設した支援基金の増額が必要だ。だが、独仏などは国内世論に配慮して慎重姿勢を見せている。救済策がスムーズに運ばなければ、ユーロを売って比較的安全とされる円買いの動きが加速。95年4月につけた史上最高値(1ドル=79円75銭)を突破するどころか、「投機筋に狙われ、円は1ドル=77円まで上がる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘シニア投資ストラテジスト)との見方すらある。
◆リスクシナリオ3
中国は今年も追加利上げを実施したが、物価上昇は止まらない。高金利を目指して世界からさらに投機資金が流入した。だが、上がり続けた不動産価格は、ある日を境に一気に暴落。他の新興国にも不安が広がり、世界的に株価が急落した。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年12月25日、同10月以来約2カ月ぶりの追加利上げ(0・25%)を発表。胡暁煉・副総裁は「慎重な金融政策は資産バブル回避に有効だ」との声明を出し、不動産バブル阻止の姿勢を鮮明にした。
市場では、「段階的な金融引き締めの効果で、中国景気は軟着陸する」(大手証券)とさすがに急激なバブル崩壊を予想する声は少ない。しかし、バブル崩壊に至らなくても、「中国、インド、ブラジルなどが金融を引き締め過ぎれば国内景気が減速し、世界経済の減速に直結する」(みずほ証券の倉持氏)と懸念する声はある。
相場の格言によると、卯(う)年は「うさぎ跳ねる」で株価が上昇する1年とされる。戦後5回あった卯年の日経平均株価の平均上昇率は23・1%で十二支中3位。下落は63年の1回だけだ。
続く辰(たつ)年、巳(み)年は「辰巳天井」で、跳ね上がった相場がピークを迎えるとされる。バブル絶頂期で日経平均の過去最高値(3万8915円87銭)を記録したのは89年の巳年だった。辰年は平均上昇率が29・0%と十二支中1位で、この傾向が踏襲されれば、卯年は“買い時”と言えそうだ。
ちなみに米国では1943年以降、大統領選挙の前年に17回連続で株価が上昇。11年もこの「当たり年」で、市場では「えとと米株のジンクスが重なる縁起の良い年」との声もある。【大久保渉】
市場では、円相場は「今年後半にかけて円安方向に向かう」(野村証券の岩沢誠一郎チーフ・ストラテジスト)との予想が大勢。米の景気回復が本格化すれば米金利の上昇観測が強まり、ドル買いが進むためだ。株価は、円安予想や新興国の経済成長などを織り込み、「今年後半に上昇」との予想が多い。業種別では、円安や電子書籍普及の恩恵を受けやすい電機や半導体関連、機械などに注目が集まる。「景気回復に先行して上昇するとされる不動産関連銘柄も注視したい」(大和総研の野間口毅チーフ株式ストラテジスト)との指摘もある。
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◆戦後の卯年の騰落率と主な出来事◆
1951年 62.9% 朝鮮戦争特需
63年 ▼13.8% ケネディ大統領暗殺
75年 14.2% ベトナム戦争終結
87年 15.3% ルーブル合意で金融緩和
99年 36.8% ITバブル
※騰落率は前年末と該当年末の日経平均株価終値の比較。▼はマイナス
毎日新聞 2011年1月5日 東京朝刊