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施設辞め、行動に変化/放火容疑の男性

2011年01月07日

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焼け落ち、まだ焦げ臭いにおいが残る住宅。強風に吹かれ、屋根が音を立てて揺れていた=6日午後、福島市

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 ●事件前、外出続く/福島4人死亡火災1週間

 昨年12月末、福島市内の住宅が全焼し、4人が死亡した火災から7日で1週間。この家に住み、現住建造物等放火容疑で福島署に逮捕された男性(21)は、動機について論理的な供述はしていないというが、通う施設が昨年秋に替わり、その後辞めるなど生活の変化が背景にあった、との見方が捜査関係者にはある。男性の生活をたどった。

 父親や、男性が通った施設の関係者によると、男性は軽度〜中度の知的障害があり、養護学校高等部を卒業後、福島市内の知的障害者らの就労施設に通い、段ボールを組み立てる作業などをしていた。同じ施設に亡くなった姉(29)と弟(19)も通い、元職員は「きょうだい仲が良かった。男性は姉の言うことをよく聞いていた」と振り返る。

 男性は「施設に行く」と言って家を出ても姿を見せないなど、落ち着かない様子を見せることもあったという。父親と施設職員らで話し合って、昨年9月中旬からは、別の施設で自動車部品の組み立て作業をするようになった。

 この施設は、国の基準省令で利用する障害者に支払われる平均工賃の目標が月3千円以上と決められ、最初の施設よりは健常者の働き方に近かった。土日は休みで午前9時半〜午後3時の間、自由な時間に働くことができた。この施設の関係者は「他の人と比べて休みがちだったとかトラブルを起こした、ということはなかった」。男性は2カ月ほど通ったが、12月上旬、「仕事が合わない」「ノルマがある」と言って辞めた。

 「施設の相性は行ってみないと分からない」。男性が最初に働いていた施設を運営するNPO法人理事長の五十嵐裕治さん(69)はそう話す。市内の知的障害者の親らでつくる団体の会長も務める。男性の父親も会員だったという。

 五十嵐さんは「相手からの目線など、ほんのささいなことでその施設と合う、合わないが決まることが多い。『合わなかった』という理由も本人ではうまく説明できなかったのではないか」と言う。

 12月に入るころから、男性はカラオケやパチンコを始め、たばこを吸うようになった。自動車部品の組み立てをした施設を辞めてからは主に自宅で過ごすようになり、父親が知らないうちに外出し、夜になって帰ってくることも。12月23日ごろからはJR福島駅近くのカラオケ店に続けて来店、昼ごろ1時間ずつ利用した。バスの無賃乗車などこれまでなかった行動もとるようになった。

 このカラオケ店によると、男性は27日昼ごろにも来て1時間ほど利用し、料金を払わず従業員用通路から出た。店側がメンバーズカードにあった自宅に電話すると、父親が来て料金を払ったという。その際、父親は顔写真が入った療育手帳のカラーコピーを渡し、「この子を見たら連絡を」と店に頼んでいた。

 翌日は昼と夜の2回来た。昼は従業員が気付かず、午後10時ごろ来た時は自宅への電話がつながらなかったため警察に連絡。パトカーに乗って帰った男性を父親が叱ると、男性は涙を浮かべていたという。

 男性は事件前日の30日昼も同じ店を訪れた。この時は店の連絡を受けて来店した父親が「今日は続けて歌わせてやってほしい」と5時間パックの料金680円を支払った。男性は夕方、店を出た。

 ◎刑事責任能力、慎重に捜査

 県警は立件に向けて捜査を進めつつ、男性の刑事責任能力の有無について慎重に調べることにしている。

 捜査関係者への取材によると、男性は取り調べの際、一つひとつの質問には答えることができているという。

 男性は昨年12月28日夜、カラオケ店からパトカーで送られて帰宅し、父親に叱られたことについて「不満に感じた」との趣旨の供述をしているという。ただ、火を付けた直接の動機については、「自分でも何と言っていいか分からない様子」だという。

 また、別の捜査関係者は、逮捕直後の男性について「取り調べ中もにこにこしていた。自分が何をされているのか分かっていないのかもしれない」と話した。

 ■事件の概要

 12月31日未明、福島市内の木造2階建て住宅約90平方メートルが全焼、焼け跡から4人の遺体が見つかり、福島署は現住建造物等放火の疑いで同日、この家に住んでいた男性(21)を逮捕した。遺体は男性の母(58)、姉(29)、弟(19)、祖父(89)と判明。福島署によると、男性は1階居間に干してあった洗濯物にライターで火をつけた疑いがある。市消防本部によると、火は20分程度で家全体に燃え広がったとみられるという。

 ◎「自分の行動と結果、分からぬ可能性」/施設元職員

 男性が通っていた知的障害者らの就労施設の元職員で、男性と接した経験がある臨床発達心理士は「(男性は)自分の行動がどんな結果をもたらすか、分かっていない部分があったのではないか」と推測する。

 元職員は、男性が本を読むところは見たことがなく、会話は主に主語と述語だけで、コミュニケーションをとるのが大変だったという。「やさしい性格だが、施設ではおなかが空くとほかの人の分まで食べてしまうことがあった。今回も、家族が寝静まっている中で火をつけたのなら、どうなるか分かっていなかった可能性もある」と話す。

 さらに「よかれと思って叱ったことが逆効果になることもある」という。褒められている、関心を持ってくれていると勘違いし、繰り返したりパニック状態に陥ったりすることがあるからだという。施設外に飛び出した時、追いかけるのではなく自宅に先回りし、落ち着いてから一緒に戻った経験もあるという。

 「男性を悪者にして済む話ではない」と元職員。「養護学校卒業後、知的障害者が働いたり、家族以外と交流したりできる行き場所を確保することは、本人にも家族にとっても必要だ」と指摘する。家族をサポートするため、施設内に専門的知識のある人材を配置することも提案する。

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