PJ: 田中 大也
東京都青少年健全育成条例 歴史ものもSFもファンタジー作品も、現代日本の法や倫理で規制
2011年01月07日 07:23 JST
【PJニュース 2011年1月7日】■ 過去の歴史を描いた作品も、現代の法基準や倫理で規制対象に。
フィクション作品に現在の刑罰法規や倫理を当てはめて、規制対象にしようというのが、東京都青少年健全育成条例の新基準なわけだが、では、現在の日本を舞台としていない「歴史モノ」の作品や、未来を描いたSF、異世界を描写したファンタジー系の作品についてはどうなるのかという疑問は公表当時から存在していた。現在の日本ではない以上、現在の法や倫理でもって事の善悪を問うことができないというのは当然の話だからだ。
この疑問についても、先日公表された、東京都議会における質疑を記した文書、「青少年健全育成条例改正案における漫画等に関する質疑について」では、都側の回答が示されている。
過去の歴史をモチーフにした作品やSF等の作品についてだが、東京都側は、
「過去の制度、慣習や諸外国の文化等、架空の設定にかこつけて、テーマに照らし必要以上に、今の日本では刑罰法規に触れる性交等について、特別なものではなく通常あり得ることとして青少年が受けとめてしまう程度まで、こうした性交等の場面を殊さらに描いたものは、区分陳列を検討する対象になり得ます」
と、述べている。つまり、歴史ものやSFものだったとしても、現在日本の刑罰法規等々に反する性交等があれば、規制の対象になり得ると明言しているのだ。
また、その対象として、「例えば古典文学の漫画化の体裁や、幼児との性交が合法的に許されている架空の世界の出来事であるとの体裁を」を取った作品が規制され得るとしており、全く架空のファンタジー作品や歴史ものの作品だけではなく、例えば「源氏物語」を漫画化したような作品でも描写次第では規制の対象になってしまうことにもなるということも明らかになっている。
諸外国や、過去、あるいは未来を舞台とした物語に対して、現代日本の法律や条例を絶対の正義として規制の基準にしていくなどということは、表現どころか、文化や歴史、あるいは未来の可能性といったものを著しく軽視しているとも思われるわけだが、都側は、あっさりと規制対象にすると明言してみせた。
これによって、歴史ものやSF、ファンタジー作品での性描写すら難しくなった。実際、「十八歳未満との性的交渉は淫行条例違反だ」といった法律や概念ができたのはごく最近であるわけで、成人年齢が現在とは違うなど現代とは全く別の法律や掟で動いていた歴史ものや異世界ものの作品にこれらの基準を当てはめれば、当然、多くの作品が抵触してしまうことになるだろうからだ。
■指摘される歴史や「可能性」についての軽視
今回は、性交及び性交類似行為が対象になっているとは言え、過去の歴史や、SFやファンタジー作品で示される世界観よりも、現在の刑罰法規や倫理が優先するとした回答が示されたことは、あまりに重い事実だ。
本質的には、「宮本武蔵のした行為は、現在の法に当てはめると殺人罪だから、対決シーンの描写は規制しなければならない」と言っているのと全く変わらないからだ。
こうした基準は、単に描写表現のみならず、人類の過去歩んできた歴史の史実性や、今後、歩むかも知れない「可能性」を著しく軽視するものであり、つい最近作られたような「法律」を基準に、それらの要素を規制できると考えているのなら、明らかに基準自体がひどく傲慢であると指摘せざるを得ない。
過去の映画などを放映する際に、「この作品には、現在の価値観からすれば差別的と思える表現もありますが、原作の意向を尊重してそのまま放映します」などと但し書きが加えられるながらも、そのまま放映されるのは、作品が製作された時代、あるいは作品の舞台となった時代背景への敬意のあらわれと受け取ることができるが、今回の答弁には、歴史や可能性への配慮を見ることはできない。
性描写に限っても、十代前半で成人し、結婚するのが当たり前という時代を描いているのに、登場人物が十八歳になるまで満足に性描写もできないかも知れない、売春的な状況を描いたら刑罰法規に触れる性交ということで(「不健全図書」ではないにせよ)「18禁」の規制対象になるという状況であれば、もはやリアリティのある描写は難しくなってくる。
都条例は、現実の法律や倫理をフィクション世界に当てはめたばかりか、現在とは全く事情が違う過去にまで、現代の法をさかのぼって適用し、規制対象にしようとしている。過去の事例を現在の法律で裁かない「刑罰不遡及の原則」は、刑法上厳守しなければならない項目の一つのはずだが、その点はまるで無視されているようにも思える。
過去の歴史や可能性への傲慢、そして、法律基準で規制しようとしているにも関わらず、法原則を無視する根本的な矛盾。無数の問題点が存在する新条例だが、今回取り上げた「歴史やファンタジー、近未来ものまでをも現代日本の法や倫理で規制対象にするかどうかを決める」とするスタンスは、表現問題の観点からも、重大な問題性を指摘できるものだったと言えるだろう。【了】
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