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[25202] 【習作】トラクローで撃滅のセカンドブリッド
Name: 五十三◆8d4ff906 ID:0719c9a4
Date: 2010/12/31 20:34



異形と化した、右腕。



歪なその五指を、広げた状態からゆっくりと、人差し指を折り、そのまま順に中指、薬指、小指と続ける。


最後に残った親指でまるで封をするように、包み込むようにして出来るのが――拳、である。


そして背の一羽を推進剤とし加速しながら、

音が軋む程強く握ったそこに溜め籠んだ力、想いをただただ真っ直ぐに相手へとぶつける。



一撃目の拳、『衝撃のファーストブリット』に続く二撃目の拳。


それこそが彼の必殺技の一つ、その名も――



「ウッオオオオォッ!撃滅のォ、セカン《チュドドドドドッッ!》ウボァーッ!?」


「ああっ!カズくーんっ!?」





・・・・・・・・・・・・・・・撃滅のセカンドブリッド、である。





トラクローで撃滅のセカンドブリッド





第一話 日野カズヤ





魔法と魔法が交差し、激突し合う事で生まれる衝撃と轟音。立ち込める煙。


戦い合う戦士たちの詠唱や、怒声、悲鳴が夜空へ響く。


向かってくるのは、牙を爪を、鍛えられた己が肉体を武器とするヒトに在らざるモノ、悪魔。


立ち向かうは、『魔術』と言う奇跡の力を操るモノ、魔法使い。


今宵、銃声や硝煙などの存在こそ無かったが、この場所は紛れもない『戦場』であった。



「あ・・・あがががが・・・・・・」



声が、聞こえる。男の声だ。


ぐるり戦場を見渡せば、今なお収まる気配を見せず戦い続ける両陣営を尻目に、

隙だらけの格好でぶっ倒れている一人の男がいた。


年の頃は20手前と言ったところだろうか。


それなりにしっかりとした体つきをしているが、気の弱そうな、何とも無しに情けなさを感じさせる顔立ち。


無造作な短髪に、一目で安物だと分かる服装をしたなんとも地味な雰囲気漂うその男には、

しかし、誰が見ても目を惹く3つのポイントが有った。



一つめは、首に巻かれた深紅のマフラー。


男が地に倒れていると言うのに汚れは見えず、それは暗闇の中で淡く輝いていた。



二つめは、腰部に回されているごてごてと装飾が施された奇怪なベルト。


右側面には円盤のような装置が付いており、中心部には何かを嵌める為だろうか、
上部以外をクリスタルに覆われた3つの丸い隙間があった。



そして、三つめ。


先にあげた二つよりも遥かに圧倒的な存在感を誇るのは―――


男の持つ、異形の右腕。


装甲のようなモノで覆われたその腕は、繋がる背中に一本の赤い羽を生やし、存在していた。


数刻前、戦いを始めた際には三本有ったそれは先の一撃を放とうとした事でその数を減らしている。


恐らく、殴られればタダでは済まない・・・と言うか死ぬんじゃね?


そう思わせる説得力がある、腕だ。



こんな、なんとも怪しい姿をしたこの男、名を日野カズヤと言う。


一応、この物語の主人公だ。



先のカウンターによって見事に吹き飛んだ彼は、

前のめりに崩れ落ちることも叶わず、仰向けで大の字になって倒れていた。



喰らった魔法こそ基本呪文であるただの『魔法の射手』であったがこの男、

魔法障壁どころか魔力そのものを欠片ほども持っていないので、攻撃の直撃が即座に大ダメージへと直結してしまうのだ。



その上―――



「し、痺れびれぇぇ・・・」



受けた射手の属性が雷であったため体が痺れ、立ち上がることも出来そうになかった。


時間が経てば復帰出来るだろうが、今は完全に戦闘続行不可能状態である。


そんな風に、ベストウィッシュ以前のロケット団のようなリアクションを取っているカズヤへ、

銀髪青眼の整った顔立ちをした美少年が、鬼のような姿をした怪物と戦いながら声を掛ける。



「何してる日野!さっさと起きろ!」


「ご、ごめんね織朱(おりしゅ)くん・・・せ、せめて死ぬ前に明日のパンツを干しておきたかったなぁ・・・・・・」


「アホかーーーッ!!」



カズヤの意味不明な発言にツッコみながら、織朱と呼ばれた少年は『無詠唱』で手から雷撃を放つ。


原作でも主人公であるネギ・スプリングフィールドが使っていたその魔法、

『白き雷』は織朱が相対していた化け物に違わず命中、断末魔を上げる暇すら与えず送還させた。



・・・実は上級クラス手前の実力だった今の悪魔を、片手間のように倒してみせたあたり、

どうやらこの少年、容姿だけではなく魔法の腕も相当に優秀なようである。


寝てるロクデナシとは大違いだ。年上の威厳など欠片も無い。



「分かってはいましたが本当に役立たずですね日野さん!これなら案山子でも置いておいた方がよっぽどもマシです!」


「すいません高音(たかね)さんホントすいません・・・」



カズヤの仲間だろうか?


金色の長髪を後ろで結び、頭に十字架のマークの付いた帽子を被った高音と言うらしい女性がカズヤへ怒鳴りかける。


宵闇に映える漆黒の、まるで影で出来ているかのような不思議な衣服を身に纏ったその女性、

どうやらカズヤよりは年下のようだが、そんな彼女の叱咤の声にカズヤは小声で謝りながら、

先の倒れたままの状態でそっと顔を横に倒し、しくしくとヘコんだ。



それなりにガタイがあるので、普通に気持ち悪い。


高音もそう思ったらしく、近くにいた織朱へとヒステリー気味に叫ぶ。



「織朱くんこの人死んだ方がいいのでは!?」


「高音、お前もふざけてる場合かあっ!」



何ともカオスだった。



・・・そんな感じで色々台無しな雰囲気ではあるが、戦いは依然として続いている。

この戦闘が一対一のモノであれば、今のカズヤなどそのままさくっと止めを刺されていたのだろうが、
幸いにも今回は集団戦であり、また相手側は徐々に押され始めてきている為、
今までまったく活躍していなかったカズヤは脅威とみなされず、敵から完全に無視をされていた。


一応ラッキーと言える・・・言えるのだろうか?



「行クゾオオオ西洋魔術師ィィィッッ!」


「いいでしょう悪魔よ、この私の操影術の強さ・・・その身に教えてあげましょう!」


「高音、油断するなよ。お前は直ぐに全裸になるからな」


「よ、余計なお世話です織朱くんっ!!」



ギュウッ!ドタドタドタ!ドドドッ!フミッ!



「ふんげっ!?あんぎゃっ!?あべしっ!おうふっ!・・・ちょ、待って、止めて、踏ま・・・ギエピーッッ!!」



・・・・・・これはひどい。



混戦状態のためだとしてもあんまりな頻度で人、そして魔物に踏まれまくるカズヤ。


と言うか、仲間のコレは絶対わざとだろう。


逃げようにも痺れて動けず、芋虫のように体をくねらせ悲鳴を上げるのが精一杯、

そして懇願は当然のごとくスルー。と言うか味方に踏まれている。


そんな彼の様は傍目に見ていても悲惨であった。まるでゴミのような扱いである。



ああ、顔とも腹とも言わず満遍なく踏まれ蹴られる彼に救いは無いのだろうか・・・・・・



受けた『魔法の射手』とは別の要因で痛んできた体に、

カズヤは年甲斐もなくベソをかき、ふと、雲一つ無い夜空へ目を向けた。


今夜は点検の為の大停電によって地上には明かりは一つもないが、

彼の見た先には雲に遮られることなく輝く今宵の満月が―――



「・・・・・・あれ?」



ぽつり、と墨を一滴垂らしたような黒い点が浮かぶ月がカズヤの視界に映った。



と―――



「メイプル・ネイプル・アラモード」



声と、影が―――



「炎の精霊59柱、集い来たりて敵を射て」



聴こえ、近づいて―――



「『魔法の射手・連弾・炎の59矢』ッッ!!」



チュドドドドドドドドドドッッッ!!!



「ムオゥッ!!?」


「きゃあっ!?」


「何ぃっ!?」


「 」


突如カズヤの周辺に上空から『魔法の射手』が降り注ぐ!


爛々と光を放ち軌跡が踊るそれはさながら連発花火。


視界を埋め尽くさんばかりの炎の塊が向かってくるその光景にカズヤは最早声も出せなかったが、

炎の属性を有した射手は、カズヤどころか近くの植物群や地面に生えた芝生にすら当たる事もなかった。


射手はそれを放った術者が『標的』だと無意識かで認めたモノにのみ軌道を向け、命中。


その宿した効果を発揮していた。



「そ、そう言えば『魔法の射手』にはホーミング性能があるんだっけ。火事にならなくてよかったー・・・」



自分に被害がこなかった為、ズレた発言のカズヤ。



周囲を見渡せば―――



「馬鹿なああぁっ!?全滅、だとォ・・・ッ!!」



今の一撃によって、召喚した悪魔が一体残らず消えうせ、ファビョっている敵の魔法使いや。



「きゃあああああっっ!!み、見ないでください織朱くん!」


「み、見てない見てない!(流石高音・・・脱げ女の異名は伊達じゃないZE!)



ファサッ・・・


「え、これ、あなたの・・・」


「と、とりあえず、俺の学ランで我慢してくれ(落としてみせる・・・このエロ体質は俺のハーレムに欠かせんっ!!)」


「ど・・・どうもありがとう・・・(織朱くんの匂いがする・・・あったかい・・・)」



オリ主パワーでイチャイチャイベント発生中の仲間など。



「うわぁ・・・」


阿鼻叫喚であった。


とりあえず馬に蹴られたくは無いので、走って逃げる敵の確保に代表としていそいそ向かうカズヤ。


この辺り変に空気が読めている男である。



「ヒイィッ、く、来るなあっ!」


「こうなった時に恐怖を抱くんなら、侵入しようなんて最初から企まなきゃよかったんじゃないですか?」



距離を詰め、異形の右腕でドン、と軽く突き飛ばすと、腰が抜けたのか魔法使いは立ち上がらず、ずりずりと尻這いで後ずさった。


その姿に思わず同情してしまうカズヤ。


もみくちゃにされていた先程とは打って変わった余裕の態度だ。


喉もと過ぎれば熱さを忘れるタイプなのだろう。反省を生かせない男である。


彼がゆっくりと歩み寄る間にも魔法使いはなにやらごそごそと怪しい動きをしていて、

どうにもヤバい感じなのだが、カズヤは自身の右腕に怯えているんだろうなどと考え異形を解除。


笑いかけ、ゆっくりと左手を差し伸べた。



「あー・・・大丈夫ですよ。ここの学園長、そんな酷い人じゃないですから。ほら、立てますか―――」



「―――ッ!死ねエエェッ!!」



懐から、銃。



「へ・・・?」



カズヤが事実を認識するよりも早く。


引鉄に掛けられた指が―――



「『武装解除』」



ブン、と風斬り音と共に突風が起きた。


カズヤに向けられていた拳銃が吹き飛びクルクルと宙を舞う。


その様子を呆然と眺める魔法使い、とカズヤ。お前もかよ。



「・・・・・・」



「あ、れ・・・?愛衣(めい)ちゃん?」



いつの間に現れたのか二人の間には、箒を持った一人の少女が立っており、

そして、差し伸べたはずのカズヤの左手は魔法使いではなく彼が愛衣と呼んだ少女に握られていた。


状況から判断するに、どうやらカズヤを助けたのは彼女らしい。



・・・蛇足になるが、手に持っている箒は異界国境魔法騎士団でも正式採用されている優れ物で、

汎用性に富み、オプション機能に優れている。


また、広範囲に「武装解除」をかける魔法『全体・武装解除』を使うことも出来るのだ。



・・・話を少女に戻そう。



彼女の服装は、ブレザーにリボンタイ、チェック柄のミニスカートと

黒のハイソックスにローファーと言う一般的な麻帆良学園本校中等部の制服。


薄く赤みを帯びた綺麗な髪を両側共に団子のように丸め、

余った髪をツーテールに垂らしたその容姿はそれは可愛らしい、美少女であった。



だが―――



「は・・・はひぃぃっっ!!?」



愛衣と目が合った途端、突如奇声を上げた魔法使いにビクッとなるカズヤ。


立ち位置的に庇われるような形で愛衣の後ろにいるカズヤには愛衣の表情が見えない。



―――そう、見えないのだ。



彼女が今、どんな目で、顔で、カズヤを殺そうとした男を見ているのか。


なので、それなりのガタイに異形の右腕を持った男である自分が迫った時よりも更にパニクっている彼の様子に困惑する。


まさか美少女が嫌いなのだろうか、それはお前人生損だなぁなどと考えるカズヤを余所に、愛衣はスッと魔法使いへ手を向けた。



「メイプル・ネイプル・アラモード」



「?」



念を入れた武装解除か、捕縛魔法だろうか、とカズヤは思い。



「ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の主にして再生の徴よ」



「ブッッ!?」



噴いた。



「我が手に宿りて敵を喰らえ―――」


「うわあああぁっ!?愛衣ちゃん『紅き焔』はヤバいィっ!!」



『紅き焔』―――中級魔法『白き雷』のタイプ違い。対象を焼き払う爆炎を放つ。相手は死ぬ。



・・・いや、流石に死にはしないだろうがこの至近距離では大火傷は免れまい。


それはマズいでしょっ!?と、カズヤは慌ててグイッ、と繋いだ左手を思い切り引っ張る。


あるいはカズヤのその行動も予想していたのか、

フラッ、と愛衣の体勢が崩れるが手は魔法使いの顔からブレず、彼女はそのまま詠唱を―――



「・・・『紅き焔』」



轟ッ!と炎が放たれた。



愛衣が寸前で『カズヤを見、手を退けた』為、炎は魔法使いの頬を掠めてそのまま十数メートルほど進み、消滅。


R18Gに抵触するような事態になることは避けられた。被害らしい被害は男のモミアゲ程度だ。


おおぅ、と思わず安堵の息を漏らすカズヤ。


色々と大事なことに気づいていないのだが、それを指摘できるものはこの場に居なかった。


そして、何とか可哀相な顔と頭にならずに済んだ魔法使いはブクブクと泡を噴き気絶していたが、失禁していないだけ大したものだろう。


オレだったら漏らしてたな、と胸中で呟くカズヤの背中や頬をつぅ、と汗が流れ落ちた。


それぐらい、心臓に悪い出来事であった。



「あー、びびったぁ・・・」


「カズくん、凄い慌ててましたね。ふふっ、いくら何でも本当に当てたりしませんよ?」



繋いだ手をそのままにカズヤへと笑い掛けながら、愛衣はハンカチをだし、カズヤの汗を拭う。


自身が凶行に及ぼうとした魔法使いなどまるで空気扱いである。これはひどいや。泣いていいぞ、失神してるけど。


カズヤはもうどう返していいか分からず、ははは・・・、とただただ乾いた笑みを漏らすだけである。



「いや、まあ、そりゃそうだけどいきなりだったしさ。そりゃ慌てるって」


「あは、ごめんなさい・・・そうだ」



ス。ス。ス。



ハンカチをしまい、愛衣はカズヤの身体に数度触れる。簡易的な触診のようなものだ。


別にドキドキはしないが、くすぐったさからぴくぴくと無意識で体が震えた。



「愛衣ちゃん?え、な、何?何かオレに付いてた?」


「いえいえ。・・・怪我は、無いみたいですね。結構踏まれたりしていたようでしたけど」


「頑丈だからね。愛衣ちゃんは大丈夫?」


「はい。へっちゃらですよっ」



にかっ、と少年のような笑みを浮かべブンブンと腕を回して元気アピールをするカズヤに、ぎゅっと拳を作り笑顔で答える愛衣。


何だろうこのシュールな画は。


それなりにしっかりとした体格ではあるが、へたれ気味で地味な感じのカズヤと。


彼の肩ほどまでしかない小柄で、可愛らしい美少女の愛衣。


何ともバランスが悪い、と言うか不釣合いな感じだった。



通報されないといいね!



・・・ともあれ、戦闘中に攻撃を受けていない愛衣は別段不思議ではないが、

射手を喰らうわ、もみくちゃにされるわしたのに見た目がボロボロなだけで既に完全回復しているカズヤは、なるほど異常な頑丈さである。


戦闘中に見せていた異形の右腕と言い、どうやら何かしらの力を持っているようだが・・・



「そりゃ安心。んじゃまあ、この人連れて織朱くんたちのところに戻ろっか」



愛衣をかるく見て、どうやら本当に大丈夫らしいと判断したカズヤ。


未だ男は気を失っていた為、担いでいくかと男に腕を伸ばす。



―――が、そんなカズヤをまるで、「これは汚いから触っちゃいけません!」とでも言うかのように、

服の袖を掴み、愛衣がやんわりと止める。


おかーさんかキミは。


無論、カズヤは何故止められたのかなどさっぱり分からず、訝しげに愛衣を見やった。



「愛衣ちゃん?」


「戻るだなんて、それは野暮ですよカズくん。お姉様たちいい雰囲気でした。もうすぐ電力も復旧しますし、任務時間は終了です。


後はお二人にお任せして、このまま学園長の所に行きましょう?」



未だ手を離さずに言う愛衣の言葉にカズヤは仲睦まじくイチャついていた二人の姿を思い出し、それもそうかと納得する。


カズヤとしても同僚のような関係である彼らが『そういった』関係になって、幸せになるのは好ましいことだ。


特に、高音が織朱に好意を抱いているのは学園の魔法関係者にはほぼ周知の事実であったので、

カズヤもどうにかその想いが実を結べばいいなあと思い、応援していた。


協力出来る所は、しておこう。



「そだね。じゃあ、行こっか」


「はい。・・・メイプル・ネイプル・アラモード、風の精霊67柱。縛鎖となりて敵を捕まえろ。『魔法の射手・戒めの風矢』」


「ろくっ・・・!?」



普通に担いでいけるよ。数多すぎじゃあ。


そんな言葉を口に秘め、カズヤは状況を成り行きに任せる。


冷めた目で男を見る愛衣の周囲から、これは譲れませんと言うオーラが感じられたからだ。


こういう時の愛衣はとても頑固だとカズヤは知っていたし、

そもそも油断して死にかけた分際であるところのカズヤには何も言う権利など無かった。



助けてもらったのだ、自分は。5つほども年下の女の子に。



・・・・・・情けねぇ・・・ッ!・・・オレってヤツは本当に・・・ッ!・・・クズ・・ッ!・・・救いようの無いマダオ・・・ッ!!



結構マジで凹む(当然)カズヤ。


思わず、麻帆良新聞に『心優しい、いたいけな優等生少女の未来を貪るヒモ野郎』と書かれた事を思い出し、

咽び泣きをしそうになった。


後に詳しい説明が入るが、カズヤは愛衣の庇護によってようやくこの学園で生きていける立場の存在なのである。


カースト的にはぶっちぎりで最下層。オコジョ妖精よりも軽く安い社会的地位だ。


そんなわけでカズヤくんは、麻帆良の教員、生徒からは『ごく一部』を除いてかなり嫌われていたり。



・・・鬱になりそうだったので軽く深呼吸。気持ちを切り替える。


別名、現実逃避。


色々な意味でこみ上げてきた嗚咽をぐっと押さえ、虚ろな目で愛衣の作業を見ると、

捕縛呪文が男の体中を這うようにしてグルグルと絡みついているところだった。


あまりの射手の多さで予想通り男はほとんど見えなくなったが、属性は風だ。危険は無いだろうと判断。



・・・まだ怒っているのかなぁ。



愛衣を見つめながら、カズヤはぼんやりと思う。


拳銃を向けられたあの時、もしも愛衣が来てくれていなければ、確かに自分は重傷を負っただろう。それは確かだ。


だが、死にはしなかったはずだ。それもまた、確かだ。


そして、愛衣もそれは分かっていたはずだ。


自身の、日野カズヤと言う男の、身体の異常性を、彼女は知っているのだから。


だというのに、いくら外す気で放ったとは言え、アレはやり過ぎではなかろうか。



―――いや、いいのか?もし頭だったら流石に死んでたかも。


―――と言うかそもそも、愛衣ちゃんってあんな事するような娘じゃないよなぁ?優しいし。ストレスでも溜まってたのかなぁ。



だとすれば、だとすれば原因は―――当然自分だろうと思い至り震えるカズヤ。


なん・・・だと・・・?と声が勝手に出た。



「カズくん?」



そんな風につらつらと阿呆なことを考えているとくい、と袖を引かれた。


見れば、簀巻き・・・と言うか射手の塊が宙に浮いている。


これはひどい、そうカズヤは思った。



「ああ・・・一応訊くけどその人・・・」


「大丈夫ですよ。ほら、早く行きましょう」



大丈夫らしい。


とてもそうは見えなかったが、もうなんか色々と面倒になってきたカズヤはうん、と返事をし手を引く愛衣とゆっくり歩き出す。


先程よりもやや傾いた満月が夜道を歩く二人の下へと影を落とす中、カズヤはふと、思ったことを口に出した。



「そういえば、さっきの空中からの『魔法の射手』での不意打ち一斉射撃。アレ凄かったね。

驚いたよ、愛衣ちゃんがあんな大胆な戦術使うなんて、って」



「そ、そうですか?それは・・・修行の成果が発揮できて、よかったです」



頬を赤く染め恥ずかしそうに、けれど、嬉しさを隠さずに笑う愛衣。


そんな彼女を見ながら、カズヤは愛衣の言うところの修行についての心当たりを探した。



「修行って言うと・・・」


「覚えてませんか?この前、一緒に図書館島へ魔道書探しに行ったじゃないですか」


「ああっ、あれかぁっ」



ぽん、と手を叩―――こうとして、片手が愛衣の物となっていたので代わりに脚を叩くカズヤ。


そんな彼を微笑ましそうに見つめ、彼女は言葉を続けた。



「そうです。他にもガンドルフィーニ先生や神多羅木先生にも何度か教えを頂いたり、
まほネットの通販とか色々・・・・・・私、頑張ってるんですよ?」



くすっ、と花が咲いたような笑顔を浮かべながらそう言う愛衣を見て、
カズヤはまるで向日葵みたいだなぁ、と戯けた感想を抱く。


得意気な様子でカズヤにそう語る愛衣の表情には、どこか、何かを期待するような感情が見え隠れしている。


実は、佐倉愛衣と言う少女を多少なりとも知る者からすれば、
今の彼女の態度は目を剥く程に常の彼女のそれとは違っていたりする、の、だが。


そんな『自身が努力している』と人に話すようなことを・・・
いや、そもそも思うこと事態無いような彼女が、何故彼には話しているのかなど。


少女の心の機微になどさっぱり分からぬこの男が気づく筈も・・・・・・



―――ぽん、と愛衣の頭に手が置かれた。



「えっ・・・?」



愛衣が、顔を上げる。



カズヤが、笑う。



「頑張ってる愛衣ちゃんには、ご褒美がいるよ。

実は今日、超さんから晩御飯の誘いを受けてるんだ。待ってる、って言ってたからこの人を届けたら、一緒に行こう」



その言葉に彼女は―――



「・・・・・・はいっ!」



今日、一番の笑みを、返した。






・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・





「ネギッ、早く神楽坂と仮契約をするんだ!時間は俺が稼ぐ!!(高音の次はエヴァだ!やれやれオリ主も楽じゃないぜっ!)」


「は、はいっ、分かりました織朱さん!」


「フン・・・来ると思っていたぞ神代織朱(かみしろ・おりしゅ)ッ!!」


「織朱くんったら何も言わずに行ってしまうんですから・・・(でも、そんなクールなところも・・・はっ、私ったら!?)」



同時刻。


そんな感じで多少のイレギュラーを交えながら本編が進行していたのだが、カズヤと愛衣には何の関係も無いことだった。



今は、まだ。





・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



次回の、トラクローでセカンドブリッドは!



朝倉「ネタぁ、何かネタはないのかあああぁぁ・・・度肝を抜くようなスクープぅぅぅ・・・・・・」


美空「そういえば・・・知ってる朝倉?少女のヒモになってる男の話」


朝倉「なにそれkwsk」



自称『麻帆良のパパラッチ』朝倉和美。


彼女に起こった悲劇とは!?



・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



愛衣「たす、けて・・・っ」


カズヤ「『変身』ッッ!!!」



《タカ!トラ!バッタ!》



《タ・ト・バ!タトバタットッバッ!!》



エヴァンジェリン「何だ。その、力は・・・・・・?」



愛衣の語るカズヤとの出会いと、彼の持つもう一つの『力』!


そして―――



・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



カズヤ「護衛任務?」


愛衣「はい。関西呪術協会へ新書を渡すネギ先生の護衛。それが任務です」


カズヤ「奈良京都かぁ・・・ガキの頃以来だよ」


愛衣「ホテルももう予約しておきました。背中流しっこしましょうねっ」


カズヤ「ブッッ!!?」



爆発しろ!日野カズヤ!



そんな感じでお送り予定!!



・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



あとがき


大河内さんが可愛すぎてつい書いてしまった。どうしてこうなった・・・愛衣ェ・・・

変身しなかったのは愛衣ちゃんにメダルを没収されてるからです。(コンボの負担的な意味で)


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