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[25203] 【ネタ】魔法少年リリカルぐりむ!
Name: しらが◆da5095d9 ID:ad9d341d
Date: 2010/12/31 23:13
諸注意!!

ネタです! 

深く考えないでおきましょう!

続きません!・・・・・・おそらく。

年末の熱気に当てられて書いたものなので、結構な矛盾や原作上の相違点などが酷いはずです!

そして最重要、


きゃら崩壊!!


やばいです。
ええ、結構なレベルで。

ネタなので感想も帰ってこない可能性も大!!ぶっちゃけ投げっぱなしジャーマン!!

では、一応注意終了!

ゆっくりしていってね!



[25203]
Name: しらが◆da5095d9 ID:ad9d341d
Date: 2010/12/31 23:05


 時空管理局
 無限に存在する次元世界の平和と平穏を維持するために設立された組織である。

「ふん、ふん、ふん、ふん!」

 その職務とは、次元心などの次元災害などの対応、次元犯罪者などの捕縛。

「ふんふんふんふんふん!」

 魔法と呼ばれる超次元の能力を武器として、ありとあらゆる次元犯罪に対応していく組織である。

「ふんぬふんぬふんぬふんぬぅ!」

 そんな時空管理局には、有る一つの噂がある。

「ふんぬっふぁー!!筋肉とは、無敵であぁぁある!!」

 これは、アホみたいな稀少技能《レアスキル》とバカみたいな戦闘能力を保持した魔導師の話である。



「はぁー・・・、どないしよ・・・。」
「どうしたの?はやてちゃん。」

 機動六課、創立して一年にも満たない新設部隊であり、SクラスランカーやオバーSクラスの魔導師を「リミッター掛けてるから!」とか言って平然と保持しているあり得ない部隊である。
 その部隊の長、八神はやては憎っき目の上のたんこぶである地上本部の実質上の長であるヒゲゴリラもといレジアス・ゲイズ中将から送られてきた人事異動の報告に頭を悩ませていた。

 基本的には先程述べたとおりの化け物クラスの戦力をリミッター掛けたからと言って保持している機動六課は地上本部からは非常に嫌われているわけである。
 ので、その本部の人間達は何としてでも生意気新設部隊を潰す口実を探すためにありとあらゆるスパイを送って来たのだが、年齢不詳の異常味覚保持者であるリンディ・ハラオウン総務統括官やシスコン代表クロノ・ハラオウン提督によってことごとく潰され、残った優秀なスパイ達も『闇の書』の元主にして現在魔道書型ストレージデバイス『夜天の書』の主、地球の誇る腹黒狸こと八神はやて、現在頭を悩ましている張本人によって奸計に嵌められて消えていくわけである。

「毎回お馴染みになってきた、本部からの嫌がらせ何やけど・・・・・な。」
「この人のこと・・・・?優秀な人だね、珍しく。スパイじゃないんでしょ、悩んでいるってことは。」
「調べた限りじゃ何もないんよ。リンディさんやクロノくんからの注意もなかったし、問題もないと、思う。やけどーーーー」
「其れが逆に、あやしいんだよね・・・・。」
「オマケに名前と階級、魔導師クラスしかのってへんし・・・せめて顔写真は送れや。ネックの稀少技能《レアスキル》の詳細もなし・・。怪しすぎるんやけどな・・。」
「此処はリンディさんとクロノくんを信じようよ。」

 ちなみに現在はやてと話しているのは管理局の誇る最終兵器、白い悪魔、魔砲少女、と様々な異名を持つ管理局の魔王、高町なのはである。


 一つ暴走しただけでもかなりヤバイ災害をまき散らすロストロギア、『ジュエルシード』。オマケに周囲の強い情念に反応しただけでも暴走するという素敵仕様。ついでに言うと、複数有れば『次元断層まで発生しちゃうよっ★』と言う、トンデモ出力。
 しかも使用目的が『願いを叶える』という意味不明具合。
 で、其れが何と襲撃に遭い、管理外世界にばらまかれ「オワタ」な状態にあってしまった。
 だがしかし、そんな下手物兵器を魔法を初めて知ったごくごく普通?の一般市民、高町なのはが目出度くも魔砲少女デビューしてAAランクの魔導師や、それに匹敵するようなジュエルシードの暴走体をばっさばっさとなぎ倒し、見事事件を解決してしまったのが切欠。
 そしてまたもや少女の故郷を切欠とする事件を解決してしまい、見事今に至るというわけである。


 話を戻すが、はやてが呟いたように地上本部の嫌がらせは毎回である。
 前述したとおりのスパイ攻撃から始まり、別段何の能力もない無能や、精神的に「コレどうよ?」と首を傾げてしまうような戦闘狂、そして何かあるように見せかけての実は何もなかったみたいなブラフ野郎、と様々なパターンが送り込まれてきたわけで。
 
 其れがなければ今の六課の作業効率は数倍に跳ね上がるとはやては確信しているほどである。
 
 だがしかし、今回送られてきた人事はーーーーーーー

「魔導師ランクは・・・AAAランク。しかも詳細は書いてないけど、稀少技能《レアスキル》持ち、殆どSランク判定の陸士・・・・。何だか、信じられないね・・・。」
「正直、戦力は喉から手が出るほど欲しいんやけど、こんな人材、本部が手放すわけないんよ。何かぜっっっったい裏が有るんや!!」
「でも、初めっからそんな風に疑ってちゃ、だめだとおもうよ。」

 必死にはやてをなだめている金髪の少女、金色の死神、首狩りフェイト、フェイト・ザ・リッパー《切り裂きフェイト》等の異名(アンサイクロペディアより)を持ち、魔法もとい魔砲少女、高町なのはと並び立つ管理局の切り札である。

 一目見ただけで「この人いい人!」と分かるような柔らかな印象と、ちっちゃい者とかわいい者を放っておけない性分は過去の色々な事情が関係してくるので以下省略し、最近はなのはとの関係が真しやかに囁かれている今日この頃な天然ッ子である。

「しかし、地上本部にこれほどの人材が居たとは・・・・是非手合わせしてみたい者だ。」
「いや、止めろよシグナム。先週一体何人の陸士沈めたと思ってんだよ。そのせいではやてにも苦情やら慰謝料やらの対応で仕事が増えてんだよ。」
「わぶっ。」
「医務室に有る薬品も只じゃないんですから本当に考えてください。」

 桜色の戦闘狂であるシグナムの呟きに突っ込んだ、永遠のロ(ryヴィーダと出番的にも色々問題のあるザフィーラ、そして医務室担当となり戦闘狂の餌食となってくる管理局員の癒し的存在であるシャマル。
 ヴォルケンリッター、世紀の魔道書『闇の書』の守護騎士たる存在であり、現在多少丸くなった魔王と死神、その他化け物メンバーズにO★HA★NA★SI★された結果、色々あって管理局へと奉仕活動を行うことになった。
 そして此処には居ないが、『夜天の書』の管制人格であるリインフォースⅡ。現在、主によって押しつけられたシグナムの後始末のために四苦八苦している最中である。

 さて、こんな化け物メンバーズに加わり、さらに伸びしろ満々な新隊員を加えようとしているこの時期である。シグナムによって潰される可能性よりも、地上本部によって潰される可能性が濃厚になってきたという状況のために招集されたこのメンバー。

 そしてその隊員は、後日ホッとし、驚愕し、驚嘆し、感激?し、この化け物メンバーズを絶望の底どころか奈落へと突き落としてくれた。
 



「我が輩、本日付けで機動六課配属となりました、グリム・グーリル二等中尉であります。」

 フェイトが沈没した。
 ついでにシャマルも沈没した。
 なのははギリで持ちこたえた。
 新人陸士のスバルは落ちた。
 
 ヴィーダとティアナは冷めた目で見ている。
 エリオとキャロは嬉しそうだ。
 はやては別段興味なさ解な様子である。
 ザフィーラは言うに及ばず。

「よろしくおねがいします!」

 計三名が地に沈んだ。



「よ、予想外や・・・まさか地上本部がこんな方法で私らを潰そうとしていたやなんて・・!」
「いや、そりゃねーだろはやて。」
「でも現に結果は出てるんよ?」

 赤と茶色の視界の先は、現在もみくちゃにされているちっちゃい白。
 説明するのも気が引けてしまう隊長陣の豹変振りとグリム二等中尉。
 
 配属された隊員、グリム・グーリル二等中尉。
 あどけなさの残る童顔に、エリオ達と殆ど差のない身長。
 アルビノなのだろうか、透き通るほど白い肌に、幼年故の丸みを帯びた体躯。
 ぷにぷにした頬は今現在バーサクモードに入った獣たちにもみくちゃにされ、ほんのりと赤く染め上げ、くりくりとした大きな瞳は涙で潤っている。

 無論、やはてはナイス判断でエリオとキャロを適当な理由を付けて退散させた。

 「ヤバス」心の中で一致した一言。
 はやてとツッコミ役なまともな人間さえもダークサイドに落としかけたアレである。

「・・・・あれで、男か・・・。ショタ殺しやな。」
「・・・あれは、仕方無い気もしますね。私も一瞬ぐって来ましたから。」
「おい、ティアナ、間違ってもアレには参加するなよ。するようだったら訓練密度二倍に上げるぞ。」
「ヴィーダ副隊長を置いていくような真似はしませんよ。私だってアレを理解するのはちょっと気が引けますし。」
『や・・ちょ、まっ・・・・!!だ・・・!』
「何かうめいてますけど、大丈夫ですかね、主に隊長達の精神が。」
「これ以上攻撃力上げたら多分もたねえだろ。下手すると六課内で乱交騒ぎが起きるな。」
「エリオ達には見せられへんな。」

 とうとうなのはが陥落し、眼前の饗宴へ加わった頃にははやて達三人は事態の収拾を諦めていた。
 もう駄目だ、色々達観した精神でこの乱癖気騒ぎを眺める三人は、隣で不満げに己のデバイスを磨いている戦闘狂(シグナム)の方へと視線を向けた。
 綺麗な白い布で己の愛機、レヴァンティンを磨き、「最近戦ってないな・・・」と呟くシグナムは今回レヴィアティンの錆と成るはずだった新人について愚痴っていた。

「・・・・あれではラジオ体操にも成らん・・。せめてもう少し肉付きが良ければ・・・・。そうだ、切る場所を自分で制限すればいい。はやてがいってた『しばりぷれい』とか言う奴でやればきっと・・・!」
「物騒なこと言ってないで止めて来いよ。」

 ごちんと結構痛そうな音を鳴らしてヴィーダのデバイス、グラーフアイゼンが振り下ろされた。
 何気に不満げなシグナムだったが、このまま放置していても現在バーサク筆頭であり最近の模擬戦相手であるフェイトが懲戒免職されそうなことをしてしまいそうなので、渋々といった様子で動く。
 
 シグナムは思う。
 別段幼年な男児には興味はない。其れが戦えるのならばいいが、見た目綺麗なだけなコレがどうしてこの惨事を引き起こせるのかと。

 口に出すのも憚れるといった状態の『泉の騎士』と『魔王』と『フェイト・ザ・リッパー』、そして今回の新人の中では筆頭クラスの戦闘力を誇る陸士を引きはがし、息も絶え絶えといった様子のグリムを肩へと担ぎ上げた。

ーーーーー筈だった。

「なっ!!」
「どうしたんやシグナム?」
「・・・・・落ちたか。」
「・・・・・落ちましたね。残念です、また優秀な武装隊員がショタの魔の手に・・・!」

 動かなかったのだ。
 馬鹿なと思い直して再び力を込め治すと、ようやく身体が浮いた。
 咄嗟にあり得ないと思ったシグナムは、すぐさまにグリムの服へと手を掛けた。

「ちょぉぉぉぉ!!」
「シグナム止めろぉぉぉぉ!!何してんだお前は!」
「し、シグナム副隊長!?流石に其れはどうかと思います!!」

 だが、本当に咄嗟だったためにその多勢にはグリムの障気に当てられたようにしか見えなかった。
 構図で見ると、年儚い男児を剥こうとする大人のお姉さん。
 アウトである。

 しかしそんなことには耳扱かさずに、グリムの服をはぎ取るシグナム。
 体服の襟を盛大にはだけさせた後に、その中をまさぐる。
 
「ーーーーーーーー!!」
「ぶぅーーーーーー!!」
「きゃぁああああ・・・・・ふぅ」
「・・・・・・・・・。」

 四人ほど涅槃へと旅だった頃にはシグナムが漸く目的の物を見つけた。
 其れは基本的には服と大差ないようにも見えるインナー。
 其れを取るまでにティアナの精神に多大なダメージが及んだのは気のせいである。

「主はやて、これを見てくれ。」
「・・・・・・・シグナム、警察行こか。」
「・・・ヴォルケンリッター、止めようかな・・。」
「ちょ、ヴィーダ副隊長頑張ってくださいよ!」
「遊んでいないで、問題はコレです。」

 シグナムが高々と戦利品を地面へと放り投げた。
 臭いでも嗅がせようとしたのかこの変態と思ってみていたはやてだが、次の瞬間には目を疑った。

 普通、衣服が落ちる場合は「ふわり」と言った効果音が最も近いだろう。しかし、シグナムの放った其れは、予想外の音を立てて地面へと付いた。
 まず、はやての視界からインナーが消えた。
 そして次の瞬間には布とは思えない音を立てて落下した。

ーーーーズドォン

 揺らし凄まじい勢いで地面と衝突した其れは、床をわずかに揺らし埃を中に舞い上げた。
 数瞬沈黙が続き、涅槃へと言っていたなのは達の理性も元に戻る。

「な、何やコレは!亀仙人の甲羅か何か!?」
「シグナム、其れ服か?」
「ーーーーコレと似たような材質の布が、あらゆる所に編み込まれていた。どうやら先方の報告書、偽造ではないようだな。」

 陸戦ニアSランクの実力者、その言葉が全員の脳裏に過ぎった。

「気が済んだのなら我が輩の服を返していただけないだろうか?其れがないと身体が軽くて困るのです。」
「っ!」

 振り向くと、其処にいたのは衣服の乱れたグリムの姿。
 ショタ耐性の異常に低いフェイトのみが沈没したが、他のメンバーは緊張感を持った目でグリムを見ている。

「・・・・・いつの間に・・。」
「さっきであります。別段、我が輩は気配を消すという芸当は出来ませんので。」
「・・・い、良い臭い・・。」
「ちょぉぉぉっ!何やってるんですか!?我が輩の服返してください!」
「シャマル止めろ。さっさと返してやれよ。」
「ヴィーダも一度嗅いだ方が良いと思います。コレは嗅がないと人生の半分を損することに成りますよ。」
「ならねえよっ!・・・たくっ、ほらよ。」

 インナーを奪い取ったとき、その重みに地面へと落としそうになったが、しかし流石はヴォルケンリッター永遠のロ(ry。
 根性でグリムの方へと投げつける。
 其れをどうという様子もなく、普通に受け取り、普通に着込んでいくグリムの様子を此奴化け物化みたいな目で見るティアナ。
 もはやナイスショタの面影は残っていない。

「感謝します、ヴィーダ副隊長。・・・・・では、自己紹介も終わったので我が輩としては仕事の内容を説明していただければ助かるのですが。」
「ーーーーー率直に聞くわ。あんた、レジアス中将のスパイか?」
「いいえ、どちらかというと、転勤・・・いえ、懲罰人事ということになります。我が輩、どうやら先方の気に食わないことをしてしまったようで。」
「それは、命令違反をした、と言うことでいいのなか?」

 なのはが、鼻血を垂らしながら聞いてくる。
 幾分緊張感が削がれもしたが、ティアナは全力で無視し、ヴィーダは最早ツッコミを半分放棄していたのでスルーしていた。
 
 なのはの質問に対して、眉間にしわを寄せて苦々しげに答えるグリム。

「・・・そう言うことになるのでしょうか・・。しかしながら、その命令を聞くということは我が輩の陸士生命に関わる者だったので、拒否しました。」
「その命令って、何かな?場合に依っちゃーーーー」
「いえ、それほど危惧する物でもないはず、なのですが・・・。」
「言えない、もしくは言いたくない、か・・。」
「・・・・元上司よりは、公言を禁止されております。それにあの方が急にその様なことを言うはずもない。おそらくは我が輩の修練不足、迷惑を掛けて非常に申し訳ない。」

 上司との仲は良好だったのか、それともかなり慕っていたのか、どちらにしろその時命令を断ったときはかなりの決断が必要だったに違いない。
 沈痛な面持ちのグリムからは、そう言う思いが伝わってきた。

 暫く黙考するはやて達。
 レジアスからの差し金という可能性が抜けきらない以上、その秘密とやらを聞かないわけにはいかない。
 グリムにそのつもりが無くとも、グリムの過去を利用して地上本部が六課潰しに利用しないとも限らない。

 だが、

「安心しいや。別段、聞いたところでグリム中尉にどんなに非があろうとも、直ぐにどっかに飛ばしたりするつもりないんよ。ただ、その懲罰の理由を聞いとかんと、地上本部がやっかみ掛けてきたときに対応出来んのや。」
「そ、それは・・・・・。」
「私たちは、仲間を切り捨てるような真似はしない。信じてくれるか?」
「ーーーーわかりました。正直に言います。」

 うっすらと、グリムの瞳が涙で潤う。
 なのはたちに襲われたときの目の潤みではない、感動したときの、助けられたときの、救われたときの安心感から来る物だった。

「我が輩が、命令された物は、戦闘スタイルの変更。つまり、陸戦前衛から陸戦後衛、もしくは中衛に変更しろとのことでした。」
「なっ!んなばかな!?」
「そ、それはさすがに・・・・・。」

 戦闘スタイルの強制変更、常識からは考えられない命令である。
 魔法には特性があり、其れを扱う個人にも相性があり適正もある。
 
 管理局ではよほどのことがない限りは、戦闘スタイルを強制したりすることはない。
 魔法とは突き詰めれば個人技能であり、それぞれの特性に由来する物があるので、例えどれだけ効率の良い方法を研究したとしても、すべからく全ての人に適応できる戦闘スタイルなど発見は出来ないのだ。
 故に管理局は陸戦、空戦などの種別を付け、その中で魔導師ランクを決定するのだ。

 そしてグリムは陸戦ニアSランク。これは現在管理局の保有する陸戦レベルとしては実質上の最高戦力である。
 そのスタイルの変更を求めると言うことは、どう考えても無駄以外何者でもない。
 
「・・・我が輩は、中・長距離の魔法の適正は殆ど無い故、其れを了承してしまえば何の役にも立たない。だから、拒否したのだが・・・・どうやら、我が輩は上層部に要らないと判断されたようだ。」
「そ、それは」
「主はやて、模擬戦をしたい。」
「シグナムッ!」
「このふぬけ、見ていて腹が立つのだ。・・・戦い方にケチを付けられただけで此処まで凹むなど、六課に置いておくだけで邪魔です。」
「・・・我ら兵士は、使われてこそ。使われぬコマは、埃を被って只朽ちるのを待つのみ。騎士である副隊長ならおわかり頂けるはずです。」
「貴様と一緒にするな、虫酸が走る。その様な負け犬根性、誇り高きヴォルケンリッターには存在しない。」

 見て分かるほどの怒気がシグナムから溢れていた。
 軽蔑の視線と侮蔑の意志がありありと伝わり、不味いと思ったヴィーダが止めに入ろうとする。
 だがはやては其れを止めた。

「ええよ、ただし、怪我せえへんようにな。グリム中尉、それでも良いか?」
「我が輩は、かまいません。ただ、模擬戦となると先程言った事情が関係してきます。ですからーーーー。」

 そこまで言って、グリムの喉元に刃が当てられた。
 たどっていくと、相当頭にきているシグナム。

「騎士との決闘に、手を抜くというのか・・・!!」
「リミッターならば、副隊長もつけています。それを考慮するならば、いい分でしょう。元のランクに差はありません。」
「-----死にたいのか。」

 ちゃきり、といってシグナムのレヴィアティンがグリムののどを薄く切る。
 さすがにここまで行くとなのはたちが割って入ったが、それでもシグナムの怒気は納まらない。

「・・・シグナム、いい加減にしろ。あと、非殺傷設定も入れとけよ。」
「ふんっ、こんな抜け殻、切ろうとも思わん。安心しろ。」
「・・・・そのワリには、結構本気だよね・・。」
「すみませんグリムさん。今治療を。」

 恐縮した様子のシャマルがするに治療をと駆け寄るが、それを手で制すグリム。
 その様子を見て再びシグナむの時が膨れ上がるが、慌てふためいて説明をするグリム。

「か、勘違いしないでください。別段、敵対心とかそういうものではなく、余り意味はないのです。コレぐらいの傷ならば直ぐに治ります故。・・・あ、ほら。」

 喉元を見せ付けるようにあごを上げるグリムに、なのはたちが傷を凝視する。
 正確には、傷跡を。

「なっ、なんだそりゃ!!」
「----希少技能≪レアスキル≫、かな?その様子だと、肉体に作用するタイプ、だね。しかも、代謝強化か全身機能の強化。」
「さ、さすが執務官。正解です・・。」
「色々あって、そういうのの関係には詳しいんだよ。」
「フェイトちゃん・・・何時の間に復活したの・・・?」

 いつの間にかなのはの背後に寄り添う感じで復活していたフェイトは、グリムの傷跡を注視していた。
 そうしているうちにもグリムの傷跡はどんどん薄くなっていき、もうすでに薄く白い線しか残っていなかった。

「副隊長との模擬戦もあるので詳しくはいえないのですが・・・。まぁ、そんな感じですね。どちらかといえば、コレはおまけなのですが。」
「すごいなぁ・・・。あら、傷跡ももう消えてしもうた。便利やな・・・。」
「にゃははは、私たち生傷絶えないもんね。それに、肌に傷が残るのもアレだし。」
「そこまで綺麗に治ると、ちょっとうらやましい・・・・・・。」
「・・・・・・何というか、そういう反応をされたのは初めてですね・・。大抵は引かれるのですが。」
「便利なのは事実なんや。軽蔑したところでなんもかわらへん。」
「それは、そうです・・・ね。」

 半分苦笑いで対応するグリム。
 どうどうと言い切るその様子にはさすがに何にもいえなくなったのか、逆に感心してきた。

「そうそう、話戻すけど模擬戦、いいんやな?」
「はい、別段それに関しては問題はないです。」
「じゃ、やってもらいますか。無論全力やで。」
「はい?」

 気の抜けたグリムの声に、にたりとはやての笑みが深くなる。
 その笑みに背筋に寒気を感じたグリムだが、すでにはやての術中。
 ぺらりと背中の方に隠していた紙を一枚取り出し、広げてみせる。
 それは地上本部からの許可証。
 具体的には一時的なリミッター解除の許可証。

 それを見て、グリムの顔が引きつる。
 
「いやいや本部にグリム注意がスパイじゃ無いかと難癖つけたら、色々説明してくれてな。で、戦闘能力が低いんじゃないかとも難癖つけてみたら、こんなん融通してくれたんよ。いやー、太っ腹やね本部は。」

 実際は今までの嫌がらせの証拠をちらつかせながらの交渉だったのだが、それは気にしない。
 背後に控えるシグナムの闘気が増加していく。

「は、ハハハハ・・・・。」
「じゃ、よろしくな。」

 狸にしてやられた。
 六課にいる全員の視界には、尻尾と耳を生やした狸なはやてが高笑いしているようにしか見えなかった。



[25203]
Name: しらが◆da5095d9 ID:ad9d341d
Date: 2010/12/31 23:12
地上本部某室内

「レジアス中将、本当に良かったのですか。グリムを向こうへやって。」
「別にいい。正直、使い所に困っていたところだ。」

 やや質素な室内では、無駄な威圧感を放つゴリラもといレジアスと名無しの部隊長が会談中であった。
 部隊長はやや不満そうに、実際はらわた煮えくりかえるほどイラッ★て来ているが、もし其れを一言でも漏らせば眼前のゴリラに辺境の地へ飛ばされかねないので何とも言えない。
 だがしかし、あんなのでも相当可愛がっていた大切な部下なのだ。其れをいきなり圧力を掛けられての人事異動など納得がいかない。

「た、たしかに、いえ、かなり、あー、多大な被害?は有りますが、有能ではあります。其れを六課などに放っては・・・・・・。」
「・・・・・戦闘で活躍してくれる分には構わん。大いに結構だ。だがな・・・。」

 ちらりと視線を向ければ紙束の山。
 そう、山である。
 見まごうこと何綺麗な其れは、机一つをまるまる占領しても尚足りず、地面にまでその脅威を振るっている白い軍勢は、現在レジアスの執務室の一角を占領していた。
 おまけに、

「失礼します、例の書類、追加です。」
「・・・・入れ。」
「はっ、失礼します。」

 一兵卒と思わしき人物が、敬礼をして扉を開ける。
 そして入ってきたのは段ボールを持った局員達。その数5人ほど。
 局員達は、先程の紙の山の前で段ボールをおろすと、其れを明けて中身を取り出す。
 
 出てきたのは、紙。
 隙間から見る限りでは、みっちりと詰まった其れは、次々と段ボールから取り出されて軍勢へと追加されていく。
 こっそり除き見えた時の内容は、『被害報告書』。

 そして、全ての筺から書類が取り出し終えた後には、先程の一・五倍ぐらいに増えた書類の山があった。

 その様子に、凄まじい勢いで冷や汗を流す部隊長。
 やっべー何なのとか思って紙を見ていると、眼前のゴリラから発せられる威圧感が数段レベルアップ。
 もやは何処ぞのサイヤ人と言っても過言ではないくらいの闘気を発し、幾分ヒゲが金色に光って見えるという補正まで現れ始めた。

「・・・・何か分かるな?」
「・・・・はい。」
「何が言いたいか分かるな?」
「・・・・はい。」
「何か言いたいことは?」
「・・・・ないです。」

 無理だろコレ。
 そのうちデバイスなしに砲撃魔法でも打てそうな状態のレジアスを前に、名無しの部隊長、そしてグリム・グーリルの元上司は無言のままに部屋を後にした。

 そして誰もいなくなった執務室。
 未だに補正の消えないレジアスは、たまった書類を見て気持ちの悪いニタリ笑い。

「くくくくくっ、只であれ程の戦力が手にはいると思うなよ六課よ・・・・!!」



 所変わって、六課の訓練室。
 静かに対応するシグナムとグリム。
 そしてそれをモニタールームより観戦する六課全員。
 ふと、ヴィーダが結構重要なことに気がついた。

「・・・・はやて、シグナムの奴、ちゃんと非殺傷設定にしてたよな・・・・?」
「あ・・・・・。」

 晩飯のおかず買い忘れたわー、見たいな乗りで口元を押さえるはやて。
 それを見て、ヴィーダの背中に大量の冷や汗が発生。

 クエスチョン、戦闘狂シグナムが非殺傷設定をいれずに戦闘を行った場合。

 アンサー、ミンチ!!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!とめさせろぉぉぉぉ!」
「どうやって止めるんですか!?シグナム副隊長やる気満々ですよ!?今入ったら死にます!!」
「は、はやてちゃんから言えば・・・!」
「む、無駄や・・・スイッチの入ったシグナムは・・・」

 わたしでも、そこまで頭の中で思っていたはやてに、訓練場からの音声が入った。

『・・・・・・構えもないとは、余程死にたいらしいな。』
『別段、我輩は死ぬつもりは毛頭無いのですが・・・・。というか、非殺傷設定入ってますよね・・・?』
『・・・・そんなものもあったな・・・・。』

 ぴしりと、モニタールームの中が停止した。
 フェイトとなのははシグナムの言ったことを必死に理解しようと反芻しているが残念ながら演算不可能という悲しい結果。
 最後の良心ヴィーダははやてに『ヴォルケンリッター止めます』と書いた辞表を手渡している。
 明らかに理解しているティアナは全力でマイクに向かって叫んでいるが、シグナムはとうの昔にインカムを握りつぶしていた。
 そして主はやてはこれから起こる血みどろ惨劇に備えて、キャロとエリオの目をふさいでいた。
 スバルとシャマルは「コレでショタは見納めだね」と言う訳のわからないことを悲しんでいて。

 グリム、ご愁傷様。
 はやては心の中でこっそり謝罪した。

 グリム終了のお知らせ!!


「・・・・・・構えもしないとは、余程死にたいらしいな。」
「別段、我輩は死ぬつもりなど毛頭無いのですが・・・・。というか・、非殺傷設定入ってますよね・・・?」
「・・・・そんなものもあったな・・・・。」

 嘘である。
 シグナムは模擬戦の前にしっかりと非殺傷設定をオンにしている。
 
 目の前からは、過去の自分たちのような臭いがする。

 諦めの染み込んだ、諦観と悲哀の腐臭がぷんぷんするのだ。
 それほどまでに目の前のグリムの目は死んでいて、それが又シグナムを刺激する。
 過去の虚像を見せ付けられているようで、そしてなにも出来なかった自分たちを思い出させるようで、それがシグナムの癪に障っているのだ。

 用は全力で、八つ当たり。

「構えろ、でなければーーーー」

 シグナムが全力で殺気を送り込む。
 それに反応してグリムが両腕を交差させて防御を図る。
 だがしかし、

「----死ぬぞ?」

 シグナムの剣閃はグリムのか細い両腕を吹き飛ばしてなお勢いを失わず、返しの太刀で腹へと一文字に切りつけた。
 
 ティアナの叫び声が訓練場へと響き渡り、グリムの鮮血が舞う、筈だった。

「ぐっふ・・・・さ、さすがに、きついものがあります、ね。」
「ふん、やはりか。本気を出せ。」

 シグナムが切りつけた所は、対服こそ切り裂いてはいるが、その白い肌には傷の一つも入っていない。
 舌打ちをして、レヴィアティンを持った己の右腕を見る。

 痺れたのだ。
 グリムを切った瞬間、人の肉を切る感触ではなく、鉄にたたきつけるような強烈な反動が帰ってきたのだ。
 全く予想外の反撃だったために、それこそ対応することすら出来なかった。

 そんなシグナムに気付いてか、それとも無意識か。
 薄っすらと微笑を浮かべてグリムが問いかけてきた。

「・・・・シグナム副隊長、リミッターは、解除していますね?」
「無論、だから貴様も本気を出せ。」
「----いいでしょう、わかりました。スパルタ、第一制御解除≪ファーストリミテッドリリース≫。」
『Yes.boss』

 グリムの右腕から、抑揚のない人口音声が響く。
 音の発生源へと目を向けると、そこにあったのは腕輪。
 
 それはグリムのオーダーに了承の意を示すと、急に巨大化した。
 それに比例し、グリムから突如大量の魔力が膨れ上がる。

「それが、本気か・・・。」
「いえ、まだです。スパルタ、第二制御解除≪セカンドリミテッドリリース≫!」
『Yes.boss』

 噴出した魔力が、今度は急速に練り上げられていく。
 そして、グリムの足元にはベルカを象徴する三角形の魔方陣。
 高まっていく魔力のあおりを受け、グリムを中心に風がまい起こる。
 砂埃を含んだ風が白い紙をたなびかせ、腕につけた金の円環へと魔力が注がれていく。

「稀少技能≪レアスキル≫起動、第一、第二制御開放、魔力路全開(フルオープン)、最終制御解除≪ファイナルリミテッドリリース≫!!スパルタ!!『バンプ・アップ』!!」



「ふひー、疲れましたーって皆さん何してるんですか?」
「あ、リインちゃんの疲れ様。」
「なにって、あぁ・・・・新入隊員の公開処刑。」
「あー、シグナムさんとの模擬戦ですか・・。」
 
 実際戦闘狂が局員を欲求不満のために叩き潰しているのは日常茶飯事である。
 そして其れが自分たちの隊にまで及んだとしても何ら不思議ではないだろう。
 そんなことよりも、スパイじゃ無いなんて目ずらしーですねといいながら、はやての横へといって画面を覗き込む。
 そして、いつも道理「殺る気」満々なシグナムを見て、ため息一つ。

「で、なんていうんですか?今回の生贄。」
「グリム中尉、グリム・グーリル中尉ってひ」
「ぶーーー!!ぐ、グリム中尉ぃぃ!?あの幻想殺しの!?」

 リインフォースが一気に顔を引きつらせて、フェイトへと駆け寄ってきた。
 顔面中に冷や汗だらだら、ついでに言うと、「うっそだー」みたいなことを期待している切羽詰った顔。
 
 その剣幕に押されるも、なにやらおかしな単語が混じっていたことに気がつく。
 どこぞのフラグメイカー所有の能力みたいな二つ名に、はやてたち全員は首を傾げるが、シャマルだけが反応した。
 さーっト顔を青くしていき、ひざががくがくぶるぶる震えだす。
 そして震えるあごから小さくうめき声のようなものまで。

「ど、如何したンやシャマル!?」
「まままままままずいのです!!みなさん、モニターの電源を」
『・・・・最終制御解除≪ファイナルリミテッドリリース≫!!スパルタ!!『バンプ・アップ』!!』
「ぎゃー間に合わなかった!!」

 モニター内に一瞬閃光が走る。
 服がたなびき、ちょくちょく見えるへそちらにフェイトはノックダウンしそうに鳴ったが、ここは懇親の精神力で押さえ込んだ。

ーーーー後になって、ここで気絶して置けばよかったと、彼女は非常に後悔する。

 ベルカの魔方陣が高速回転し、グリムを包み込んだ次の瞬間。

『『バンプ・アップ』、全力行使状態≪フルドライブモード≫。これが我が輩の全力です。』

 そこに居たのは、アームスト○ング少佐だった。

 世界が停止する。

 シャマルとリインフォースは目を隠して絶対に見ないようにしている。だが、直前までへそちらを堪能していたフェイトはそれを直視してしまった。

 ハゲである。
 筋肉である。
 達磨である。

 遠目からでも汗でてかった見事な肉体美が披露されているのがわかる。
 着ていた隊服は何時の間にか紫色のブーメランパンツへと変貌しており、その丸太のごとき腕にはグリムのデバイス「スパルタ」がみっちりとはまっていた。

 さて、常人ならばここで思考放棄、気絶をするだろう。
 しかし、有能、優秀、切れ者と称される敏腕執務官であるフェイトの頭脳は、残酷なことに演算を続行した。いや、してしまった。

 グリムは何処だ。
 アレだ。
 
 体格その他が一致しない。
 稀少技能、もしくはそれに該当するような魔法による身体強化。
 
 転移などで入れ替わった可能性。
 零、そもそも管理局内は不正な転移防止策がなされている。
 
 高速で入れ替わった可能性。
 入れ替わる直前のポーズ、立ち位置、手の角度から見て同一人物。

 再度思考する、アレはなんだ。
 あれはーーーーーーー、グリムだ。

 そこまで結論に達して一気にめまいがする。がしかしそれよりも早く、悲惨な症状が現れた。
 確か自分はアレに対して、ほお擦りとか撫でまわしたりとか臭いをかいだりとカカカカカカ!!

 脳内に焼き付けていた「ナイスショタ!フォルダ」の画像が変貌する。

 自分が抱きついていたのが全てあのような筋肉の塊のようなこの世のアクをすべて集結したようなというより最早あれ自体がアクでありアレこそが夢幻の欲望でありアレがアレがられれれれれ!!

「あぁぁぁあああぁぁぁぁああぃぃぃぃややややあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふぇ、フェイトちゃん!?一体どうしっ!!」

 見てしまった。
 かろうじて防いでいたはずなのに、友人の声泣き叫びに耳を傾け、その両手を外してしまった。
 そして視界に移ったのはーーーーー!!

「にゃヌ如丹生ぬゆにゅぬにゃにゅにぃにゅぅぅぅぅぅ!!」

 没。

 十秒にも満たないこの一瞬で管理局の切り札二枚が一瞬にして沈没した。
 
 八神はやては戦慄する。
 今このときほど自分が同姓の胸部以外に対して興味を持っていなかったことを神に感謝したことはないだろう。
 だがしかし、あのなのは達の様子を見る限りでは、自分のような一般人が見たとしても強度の精神汚染に犯されることは間違いないだろう。
 現に、途中見捨ててしまったエリオとキャロの身体からぷるぷると身体が振動しているのが伝わってくるのだから。
 
 決して両手を目から話さないようにして、己のデバイスの管制人格、リインフォースへと呼びかける。

「な、何があったんや!?なのはちゃんとフェイトちゃんが良く分からん状態になってんやけど!?」
「お、おそらくは、グリム中尉の『バンプ・アップ』状態を見たのかと思われますぅぅ!!」
「だからなんなんやそれ!?」
「グリム中尉の稀少技能《レアスキル》、魔法(・・)変換資質『筋肉』と魔力変換資質『筋力』の複合魔法です!!あれをつかうとーーーー」
「使うと!?」
「アームスト○ング少佐になります!」
「なん、やと・・!?」

 曰く、幾千万のショタコン達の精神を崩壊させ、その容貌の変化具合に一般市民にも被害が現れている。その魔法を使うだけで犯罪者は両手を地に着け頭を垂らし泣いてグリムに助けを懇願するのだという。

 数々の大きいお姉さん達の夢と希望を打ち砕き踏みにじり唾を吐きかけていくその様子に、誰が付けたかいつの間にか『幻想殺し』の異名が付いていたという。

 オマケに勤務態度その他諸々良好すぎる上に、直属の上司との仲も良好なので下手なことは出来ないという。そして、その真面目すぎる勤務態度から被害者は鰻登りになる一方だという。

「そして先日遂に『幻想殺し』を葬ったという方を聞いたのですが・・・・」
「そ、そうやシャマル!あんた『幻想殺し』の二つ名知ってたのに何で忠告せんかったんや!?」
「む、無茶言わないでください!!『幻想殺し』の噂なんて半分以上都市伝説ですよ!実在するとは思わなかったんですよ!!だいたい、はやてこそ信じられますか!?」

 見目かわいらしい幼年男子が、瞬きした瞬間に筋骨隆々ガチムチマッチョに変身する。

 無理である。

「す、すまんかったシャマル・・。私が悪かったんや。・・・はっ、ヴィーダ!スバルは!ティアナは無事か!?」
「筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉」
「す、すみません!スバルはもう駄目です!何だか視界の端っこに映っちゃったみたいで!」
「わ、私も大丈夫だ!一瞬見たが、其処まで酷くはない!・・・もの凄く吐きたいが!!」

 歯がみするはやて。
 この状態ではうっかり手を外すことも叶わない。
 何せのモニタールームには巨大なモニターが一つと、各机ごとに小さなモニターが複数個設置されているのである。
 後ろの巨大モニターに背を向けたからと言って油断すれば、机に設置されている小型モニターの餌食になるのは目に見えている。

 どうすれば、この状況を。
 若くして腹黒狸と悪名を轟かすはやての思考が高速回転する。同時に、並列思考を行使し一刻も早くこの状況を打破するための演算を行う。

 そして一つの希望にたどり着いた。

「シグナム!今すぐ模擬戦は中止や!緊急事態なんや、あれや今六課が全滅の危機なんや!今すぐ戦闘を中止せぇ!」
『・・・其れがお前の全力という訳か・・。なるほど、面白い。』
『この状態の我が輩は、生半可な刃など全て弾く。覚悟してください。』
『ふんっ、良いだろう。その自慢の筋肉、我がレヴィアティンが切り裂いてくれよう!!』
『我が輩も、只では負けません!!』
「駄目だ此奴ら!!完全にワールドはいっとるぅぅぅぅ!」

 聞きやしないで何だか熱血始めだしたグリムとシグナム。
 何か無いか、何か無いのか。
 スピーカーから聞こえる戦闘の音声でさえも精神力をがりがり削っていくのだ。
 このままではじり貧である。

「・・・っは!そうやモニターの電源を切れば!!」

 そう、モニターの電源さえ切ればこの悪夢からは逃れられるのである。
 そう思って手探りで電源を探り当て、根性で引っこ抜いた。

「み、みんな!もうたすかっ」
『六課諸君、どうやら電源が急に落ちたようなので緊急用の電源へと接続しておいたぞ。なお、これは地上本部の物と連結してあるので強制的には切れないがな。くっくっくっ・・・』
「クソゴリラァァァァァァァァ!!」

 電源を抜いたかと思ったら、突如、非常に聞き覚えのある渋い声がモニタールームに響き渡った。
 そしてすぐさま回復したモニター。

 はやい、いくらなんでも早すぎる。

 今回の件も、恐らくはあのヒゲゴリラが仕掛けてきたに違いない。
 あんなにあっさりリミッター解除の申請が降りたのも、恐らくは其れを予知していたレジアスの根回しだろう。

「こうなったら直接交渉しかない、電話や・・・・・・・っ!!」

 そこまで言って、はやての思考が止まった。

 電話は何処にある?
 モニターの横だ。

 其れはつまり、電話を取るためには必ずモニターを視界に納めなければならない。たとえ先程のように手探りで見つけたとしても、番号まで押すためにはモニターの直視は避けられないと言っても言い。

「あ・の・ゴ・リ・ラァァァァァァァ!!」

 高笑いするレジアスの姿が脳裏に過ぎる。
 今回の件、一体何処まで緻密に計算されていたのだろうか。
 申請を許可したところか、それともグリムを送ってきたところか、いや、もしかすれば今までの使えない連中を送ってきたところからかも知れない。

 どちらにせよ、今このメンバーの中から犠牲が出ることは確実だ。
 今生き残っているのは、シャマル、リインフォース、ヴィーダ、ティアナ、そして自分。
 どうするどうするどうする!!

 そんなはやての焦りと迷いが伝わったのか、ふと、肩に手が置かれた。
 こんな状況で手を離すというのは自殺行為だ。一体誰が。
 そう思ったが、その答えは直ぐに出た。
 その優しい声と、豆だらけの手のひらで。

「ーーーーーはやて部隊長、私が本部へと連絡します。ですから、部隊長は本部との交渉を!」
「だ、駄目やティアナ!そんな事したら精神が崩壊してまう!何かもっと別の方法がある筈や!みんなが、みんなが笑って終われる方法が!!」
「・・・・・はやて部隊長。私、六課に来て本当に日が浅いですが、其れまでの日々とても充実してて、楽しくて、・・・だから、六課のみんなは助かって欲しいんです。」
「だめや・・・・駄目やティアナ。そんな事したら本当にっ!」
「楽しかったです、部隊長。」
「ティアナァァァァァァァァ!!」

 がちゃりと受話器を取る特有の音がした後に、電子音が四回鳴る。
 そして、ばさりという人一人が倒れるような音と、はやての足下へと投げられた受話器。
 
 瞳が潤み、喉が震える。
 
 こみ上げてくる物に耐えられなくなりそうだ。
 だが、そんな事で立ち止まってはティアナの犠牲が無駄になる。
 意を決して受話器を手に取り、耳へと当てる。

『何のようかと思えば、八神はやて部隊長ではないか。一体どうしたのだ?』
「惚けよって・・・!あんたの策略やと言う事は既に見抜いてるんや!今すぐモニターを止めなさい!」
『ふむ、其れは困るな。今モニターを止めてしまえば、此方の業務が滞ってしまう。ーーーーーそれとも、此方のモニターを止めなければならないような事態でも起きたのかな?』
「そ、それはーーー」

 言えない。
 此方の副隊長と新入隊員の戦闘映像が気持ち悪いんで止めてくださいなんて言っても無駄だの一言で一蹴されるに決まっているのだ。
 思わず歯ぎしりをしたはやては、それでも諦めずに切り返しを行う。

「ーーーーこちらのモニターが復旧したんで、戻したいだけや。ただ、其方に繋がったままだと、此方に再接続できんのや。ただ、それだけや。」
『ほぅ・・・・ならば仕方ない。』
「なら!」
『だが、此方も遅れるわけにはいかない作業があるのでな。残念ながら、あと二時間ほど待ってくれないか。』
「に、二時間!?」

 無理だ、絶対無理だ。
 この極限状態で二時間は流石に持ちそうにもない。

 此方の焦り用を聞き取ったレジアスが、小さく、本当に小さく喉で笑った。
 
『ーーーーーまぁ、遅れた分の作業を其方で補填してくれるのならば、直ぐにでも停止できるが・・・。どうする?』
「も、勿論受ける!受けるから今すぐ頼みます!!」
『ふむ、ならばいいだろう。』

 プライドなんて気にしている暇などない。
 そんな物を後生大事に持っていれば、六課の全滅と自分の精神崩壊が待っているのだ。
 其れと自分のちっぽけなプライドを天秤に掛ければ、どちらに傾くかは既に分かって居るではないか。
 
 だから気にしないのだ、目から血の涙が流れていようとも。

 そして、多大な犠牲を払って漸く停止したモニタールームには、要カウンセリングな精神異常者が四名、幼い心に多大な傷跡の残った幼気な子供二名、そして子羊のように震える二名と血の涙を流す六課部隊長だけが残された。

 終われ。


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