時空管理局
無限に存在する次元世界の平和と平穏を維持するために設立された組織である。
「ふん、ふん、ふん、ふん!」
その職務とは、次元心などの次元災害などの対応、次元犯罪者などの捕縛。
「ふんふんふんふんふん!」
魔法と呼ばれる超次元の能力を武器として、ありとあらゆる次元犯罪に対応していく組織である。
「ふんぬふんぬふんぬふんぬぅ!」
そんな時空管理局には、有る一つの噂がある。
「ふんぬっふぁー!!筋肉とは、無敵であぁぁある!!」
これは、アホみたいな稀少技能《レアスキル》とバカみたいな戦闘能力を保持した魔導師の話である。
「はぁー・・・、どないしよ・・・。」
「どうしたの?はやてちゃん。」
機動六課、創立して一年にも満たない新設部隊であり、SクラスランカーやオバーSクラスの魔導師を「リミッター掛けてるから!」とか言って平然と保持しているあり得ない部隊である。
その部隊の長、八神はやては憎っき目の上のたんこぶである地上本部の実質上の長であるヒゲゴリラもといレジアス・ゲイズ中将から送られてきた人事異動の報告に頭を悩ませていた。
基本的には先程述べたとおりの化け物クラスの戦力をリミッター掛けたからと言って保持している機動六課は地上本部からは非常に嫌われているわけである。
ので、その本部の人間達は何としてでも生意気新設部隊を潰す口実を探すためにありとあらゆるスパイを送って来たのだが、年齢不詳の異常味覚保持者であるリンディ・ハラオウン総務統括官やシスコン代表クロノ・ハラオウン提督によってことごとく潰され、残った優秀なスパイ達も『闇の書』の元主にして現在魔道書型ストレージデバイス『夜天の書』の主、地球の誇る腹黒狸こと八神はやて、現在頭を悩ましている張本人によって奸計に嵌められて消えていくわけである。
「毎回お馴染みになってきた、本部からの嫌がらせ何やけど・・・・・な。」
「この人のこと・・・・?優秀な人だね、珍しく。スパイじゃないんでしょ、悩んでいるってことは。」
「調べた限りじゃ何もないんよ。リンディさんやクロノくんからの注意もなかったし、問題もないと、思う。やけどーーーー」
「其れが逆に、あやしいんだよね・・・・。」
「オマケに名前と階級、魔導師クラスしかのってへんし・・・せめて顔写真は送れや。ネックの稀少技能《レアスキル》の詳細もなし・・。怪しすぎるんやけどな・・。」
「此処はリンディさんとクロノくんを信じようよ。」
ちなみに現在はやてと話しているのは管理局の誇る最終兵器、白い悪魔、魔砲少女、と様々な異名を持つ管理局の魔王、高町なのはである。
一つ暴走しただけでもかなりヤバイ災害をまき散らすロストロギア、『ジュエルシード』。オマケに周囲の強い情念に反応しただけでも暴走するという素敵仕様。ついでに言うと、複数有れば『次元断層まで発生しちゃうよっ★』と言う、トンデモ出力。
しかも使用目的が『願いを叶える』という意味不明具合。
で、其れが何と襲撃に遭い、管理外世界にばらまかれ「オワタ」な状態にあってしまった。
だがしかし、そんな下手物兵器を魔法を初めて知ったごくごく普通?の一般市民、高町なのはが目出度くも魔砲少女デビューしてAAランクの魔導師や、それに匹敵するようなジュエルシードの暴走体をばっさばっさとなぎ倒し、見事事件を解決してしまったのが切欠。
そしてまたもや少女の故郷を切欠とする事件を解決してしまい、見事今に至るというわけである。
話を戻すが、はやてが呟いたように地上本部の嫌がらせは毎回である。
前述したとおりのスパイ攻撃から始まり、別段何の能力もない無能や、精神的に「コレどうよ?」と首を傾げてしまうような戦闘狂、そして何かあるように見せかけての実は何もなかったみたいなブラフ野郎、と様々なパターンが送り込まれてきたわけで。
其れがなければ今の六課の作業効率は数倍に跳ね上がるとはやては確信しているほどである。
だがしかし、今回送られてきた人事はーーーーーーー
「魔導師ランクは・・・AAAランク。しかも詳細は書いてないけど、稀少技能《レアスキル》持ち、殆どSランク判定の陸士・・・・。何だか、信じられないね・・・。」
「正直、戦力は喉から手が出るほど欲しいんやけど、こんな人材、本部が手放すわけないんよ。何かぜっっっったい裏が有るんや!!」
「でも、初めっからそんな風に疑ってちゃ、だめだとおもうよ。」
必死にはやてをなだめている金髪の少女、金色の死神、首狩りフェイト、フェイト・ザ・リッパー《切り裂きフェイト》等の異名(アンサイクロペディアより)を持ち、魔法もとい魔砲少女、高町なのはと並び立つ管理局の切り札である。
一目見ただけで「この人いい人!」と分かるような柔らかな印象と、ちっちゃい者とかわいい者を放っておけない性分は過去の色々な事情が関係してくるので以下省略し、最近はなのはとの関係が真しやかに囁かれている今日この頃な天然ッ子である。
「しかし、地上本部にこれほどの人材が居たとは・・・・是非手合わせしてみたい者だ。」
「いや、止めろよシグナム。先週一体何人の陸士沈めたと思ってんだよ。そのせいではやてにも苦情やら慰謝料やらの対応で仕事が増えてんだよ。」
「わぶっ。」
「医務室に有る薬品も只じゃないんですから本当に考えてください。」
桜色の戦闘狂であるシグナムの呟きに突っ込んだ、永遠のロ(ryヴィーダと出番的にも色々問題のあるザフィーラ、そして医務室担当となり戦闘狂の餌食となってくる管理局員の癒し的存在であるシャマル。
ヴォルケンリッター、世紀の魔道書『闇の書』の守護騎士たる存在であり、現在多少丸くなった魔王と死神、その他化け物メンバーズにO★HA★NA★SI★された結果、色々あって管理局へと奉仕活動を行うことになった。
そして此処には居ないが、『夜天の書』の管制人格であるリインフォースⅡ。現在、主によって押しつけられたシグナムの後始末のために四苦八苦している最中である。
さて、こんな化け物メンバーズに加わり、さらに伸びしろ満々な新隊員を加えようとしているこの時期である。シグナムによって潰される可能性よりも、地上本部によって潰される可能性が濃厚になってきたという状況のために招集されたこのメンバー。
そしてその隊員は、後日ホッとし、驚愕し、驚嘆し、感激?し、この化け物メンバーズを絶望の底どころか奈落へと突き落としてくれた。
「我が輩、本日付けで機動六課配属となりました、グリム・グーリル二等中尉であります。」
フェイトが沈没した。
ついでにシャマルも沈没した。
なのははギリで持ちこたえた。
新人陸士のスバルは落ちた。
ヴィーダとティアナは冷めた目で見ている。
エリオとキャロは嬉しそうだ。
はやては別段興味なさ解な様子である。
ザフィーラは言うに及ばず。
「よろしくおねがいします!」
計三名が地に沈んだ。
「よ、予想外や・・・まさか地上本部がこんな方法で私らを潰そうとしていたやなんて・・!」
「いや、そりゃねーだろはやて。」
「でも現に結果は出てるんよ?」
赤と茶色の視界の先は、現在もみくちゃにされているちっちゃい白。
説明するのも気が引けてしまう隊長陣の豹変振りとグリム二等中尉。
配属された隊員、グリム・グーリル二等中尉。
あどけなさの残る童顔に、エリオ達と殆ど差のない身長。
アルビノなのだろうか、透き通るほど白い肌に、幼年故の丸みを帯びた体躯。
ぷにぷにした頬は今現在バーサクモードに入った獣たちにもみくちゃにされ、ほんのりと赤く染め上げ、くりくりとした大きな瞳は涙で潤っている。
無論、やはてはナイス判断でエリオとキャロを適当な理由を付けて退散させた。
「ヤバス」心の中で一致した一言。
はやてとツッコミ役なまともな人間さえもダークサイドに落としかけたアレである。
「・・・・あれで、男か・・・。ショタ殺しやな。」
「・・・あれは、仕方無い気もしますね。私も一瞬ぐって来ましたから。」
「おい、ティアナ、間違ってもアレには参加するなよ。するようだったら訓練密度二倍に上げるぞ。」
「ヴィーダ副隊長を置いていくような真似はしませんよ。私だってアレを理解するのはちょっと気が引けますし。」
『や・・ちょ、まっ・・・・!!だ・・・!』
「何かうめいてますけど、大丈夫ですかね、主に隊長達の精神が。」
「これ以上攻撃力上げたら多分もたねえだろ。下手すると六課内で乱交騒ぎが起きるな。」
「エリオ達には見せられへんな。」
とうとうなのはが陥落し、眼前の饗宴へ加わった頃にははやて達三人は事態の収拾を諦めていた。
もう駄目だ、色々達観した精神でこの乱癖気騒ぎを眺める三人は、隣で不満げに己のデバイスを磨いている戦闘狂(シグナム)の方へと視線を向けた。
綺麗な白い布で己の愛機、レヴァンティンを磨き、「最近戦ってないな・・・」と呟くシグナムは今回レヴィアティンの錆と成るはずだった新人について愚痴っていた。
「・・・・あれではラジオ体操にも成らん・・。せめてもう少し肉付きが良ければ・・・・。そうだ、切る場所を自分で制限すればいい。はやてがいってた『しばりぷれい』とか言う奴でやればきっと・・・!」
「物騒なこと言ってないで止めて来いよ。」
ごちんと結構痛そうな音を鳴らしてヴィーダのデバイス、グラーフアイゼンが振り下ろされた。
何気に不満げなシグナムだったが、このまま放置していても現在バーサク筆頭であり最近の模擬戦相手であるフェイトが懲戒免職されそうなことをしてしまいそうなので、渋々といった様子で動く。
シグナムは思う。
別段幼年な男児には興味はない。其れが戦えるのならばいいが、見た目綺麗なだけなコレがどうしてこの惨事を引き起こせるのかと。
口に出すのも憚れるといった状態の『泉の騎士』と『魔王』と『フェイト・ザ・リッパー』、そして今回の新人の中では筆頭クラスの戦闘力を誇る陸士を引きはがし、息も絶え絶えといった様子のグリムを肩へと担ぎ上げた。
ーーーーー筈だった。
「なっ!!」
「どうしたんやシグナム?」
「・・・・・落ちたか。」
「・・・・・落ちましたね。残念です、また優秀な武装隊員がショタの魔の手に・・・!」
動かなかったのだ。
馬鹿なと思い直して再び力を込め治すと、ようやく身体が浮いた。
咄嗟にあり得ないと思ったシグナムは、すぐさまにグリムの服へと手を掛けた。
「ちょぉぉぉぉ!!」
「シグナム止めろぉぉぉぉ!!何してんだお前は!」
「し、シグナム副隊長!?流石に其れはどうかと思います!!」
だが、本当に咄嗟だったためにその多勢にはグリムの障気に当てられたようにしか見えなかった。
構図で見ると、年儚い男児を剥こうとする大人のお姉さん。
アウトである。
しかしそんなことには耳扱かさずに、グリムの服をはぎ取るシグナム。
体服の襟を盛大にはだけさせた後に、その中をまさぐる。
「ーーーーーーーー!!」
「ぶぅーーーーーー!!」
「きゃぁああああ・・・・・ふぅ」
「・・・・・・・・・。」
四人ほど涅槃へと旅だった頃にはシグナムが漸く目的の物を見つけた。
其れは基本的には服と大差ないようにも見えるインナー。
其れを取るまでにティアナの精神に多大なダメージが及んだのは気のせいである。
「主はやて、これを見てくれ。」
「・・・・・・・シグナム、警察行こか。」
「・・・ヴォルケンリッター、止めようかな・・。」
「ちょ、ヴィーダ副隊長頑張ってくださいよ!」
「遊んでいないで、問題はコレです。」
シグナムが高々と戦利品を地面へと放り投げた。
臭いでも嗅がせようとしたのかこの変態と思ってみていたはやてだが、次の瞬間には目を疑った。
普通、衣服が落ちる場合は「ふわり」と言った効果音が最も近いだろう。しかし、シグナムの放った其れは、予想外の音を立てて地面へと付いた。
まず、はやての視界からインナーが消えた。
そして次の瞬間には布とは思えない音を立てて落下した。
ーーーーズドォン
揺らし凄まじい勢いで地面と衝突した其れは、床をわずかに揺らし埃を中に舞い上げた。
数瞬沈黙が続き、涅槃へと言っていたなのは達の理性も元に戻る。
「な、何やコレは!亀仙人の甲羅か何か!?」
「シグナム、其れ服か?」
「ーーーーコレと似たような材質の布が、あらゆる所に編み込まれていた。どうやら先方の報告書、偽造ではないようだな。」
陸戦ニアSランクの実力者、その言葉が全員の脳裏に過ぎった。
「気が済んだのなら我が輩の服を返していただけないだろうか?其れがないと身体が軽くて困るのです。」
「っ!」
振り向くと、其処にいたのは衣服の乱れたグリムの姿。
ショタ耐性の異常に低いフェイトのみが沈没したが、他のメンバーは緊張感を持った目でグリムを見ている。
「・・・・・いつの間に・・。」
「さっきであります。別段、我が輩は気配を消すという芸当は出来ませんので。」
「・・・い、良い臭い・・。」
「ちょぉぉぉっ!何やってるんですか!?我が輩の服返してください!」
「シャマル止めろ。さっさと返してやれよ。」
「ヴィーダも一度嗅いだ方が良いと思います。コレは嗅がないと人生の半分を損することに成りますよ。」
「ならねえよっ!・・・たくっ、ほらよ。」
インナーを奪い取ったとき、その重みに地面へと落としそうになったが、しかし流石はヴォルケンリッター永遠のロ(ry。
根性でグリムの方へと投げつける。
其れをどうという様子もなく、普通に受け取り、普通に着込んでいくグリムの様子を此奴化け物化みたいな目で見るティアナ。
もはやナイスショタの面影は残っていない。
「感謝します、ヴィーダ副隊長。・・・・・では、自己紹介も終わったので我が輩としては仕事の内容を説明していただければ助かるのですが。」
「ーーーーー率直に聞くわ。あんた、レジアス中将のスパイか?」
「いいえ、どちらかというと、転勤・・・いえ、懲罰人事ということになります。我が輩、どうやら先方の気に食わないことをしてしまったようで。」
「それは、命令違反をした、と言うことでいいのなか?」
なのはが、鼻血を垂らしながら聞いてくる。
幾分緊張感が削がれもしたが、ティアナは全力で無視し、ヴィーダは最早ツッコミを半分放棄していたのでスルーしていた。
なのはの質問に対して、眉間にしわを寄せて苦々しげに答えるグリム。
「・・・そう言うことになるのでしょうか・・。しかしながら、その命令を聞くということは我が輩の陸士生命に関わる者だったので、拒否しました。」
「その命令って、何かな?場合に依っちゃーーーー」
「いえ、それほど危惧する物でもないはず、なのですが・・・。」
「言えない、もしくは言いたくない、か・・。」
「・・・・元上司よりは、公言を禁止されております。それにあの方が急にその様なことを言うはずもない。おそらくは我が輩の修練不足、迷惑を掛けて非常に申し訳ない。」
上司との仲は良好だったのか、それともかなり慕っていたのか、どちらにしろその時命令を断ったときはかなりの決断が必要だったに違いない。
沈痛な面持ちのグリムからは、そう言う思いが伝わってきた。
暫く黙考するはやて達。
レジアスからの差し金という可能性が抜けきらない以上、その秘密とやらを聞かないわけにはいかない。
グリムにそのつもりが無くとも、グリムの過去を利用して地上本部が六課潰しに利用しないとも限らない。
だが、
「安心しいや。別段、聞いたところでグリム中尉にどんなに非があろうとも、直ぐにどっかに飛ばしたりするつもりないんよ。ただ、その懲罰の理由を聞いとかんと、地上本部がやっかみ掛けてきたときに対応出来んのや。」
「そ、それは・・・・・。」
「私たちは、仲間を切り捨てるような真似はしない。信じてくれるか?」
「ーーーーわかりました。正直に言います。」
うっすらと、グリムの瞳が涙で潤う。
なのはたちに襲われたときの目の潤みではない、感動したときの、助けられたときの、救われたときの安心感から来る物だった。
「我が輩が、命令された物は、戦闘スタイルの変更。つまり、陸戦前衛から陸戦後衛、もしくは中衛に変更しろとのことでした。」
「なっ!んなばかな!?」
「そ、それはさすがに・・・・・。」
戦闘スタイルの強制変更、常識からは考えられない命令である。
魔法には特性があり、其れを扱う個人にも相性があり適正もある。
管理局ではよほどのことがない限りは、戦闘スタイルを強制したりすることはない。
魔法とは突き詰めれば個人技能であり、それぞれの特性に由来する物があるので、例えどれだけ効率の良い方法を研究したとしても、すべからく全ての人に適応できる戦闘スタイルなど発見は出来ないのだ。
故に管理局は陸戦、空戦などの種別を付け、その中で魔導師ランクを決定するのだ。
そしてグリムは陸戦ニアSランク。これは現在管理局の保有する陸戦レベルとしては実質上の最高戦力である。
そのスタイルの変更を求めると言うことは、どう考えても無駄以外何者でもない。
「・・・我が輩は、中・長距離の魔法の適正は殆ど無い故、其れを了承してしまえば何の役にも立たない。だから、拒否したのだが・・・・どうやら、我が輩は上層部に要らないと判断されたようだ。」
「そ、それは」
「主はやて、模擬戦をしたい。」
「シグナムッ!」
「このふぬけ、見ていて腹が立つのだ。・・・戦い方にケチを付けられただけで此処まで凹むなど、六課に置いておくだけで邪魔です。」
「・・・我ら兵士は、使われてこそ。使われぬコマは、埃を被って只朽ちるのを待つのみ。騎士である副隊長ならおわかり頂けるはずです。」
「貴様と一緒にするな、虫酸が走る。その様な負け犬根性、誇り高きヴォルケンリッターには存在しない。」
見て分かるほどの怒気がシグナムから溢れていた。
軽蔑の視線と侮蔑の意志がありありと伝わり、不味いと思ったヴィーダが止めに入ろうとする。
だがはやては其れを止めた。
「ええよ、ただし、怪我せえへんようにな。グリム中尉、それでも良いか?」
「我が輩は、かまいません。ただ、模擬戦となると先程言った事情が関係してきます。ですからーーーー。」
そこまで言って、グリムの喉元に刃が当てられた。
たどっていくと、相当頭にきているシグナム。
「騎士との決闘に、手を抜くというのか・・・!!」
「リミッターならば、副隊長もつけています。それを考慮するならば、いい分でしょう。元のランクに差はありません。」
「-----死にたいのか。」
ちゃきり、といってシグナムのレヴィアティンがグリムののどを薄く切る。
さすがにここまで行くとなのはたちが割って入ったが、それでもシグナムの怒気は納まらない。
「・・・シグナム、いい加減にしろ。あと、非殺傷設定も入れとけよ。」
「ふんっ、こんな抜け殻、切ろうとも思わん。安心しろ。」
「・・・・そのワリには、結構本気だよね・・。」
「すみませんグリムさん。今治療を。」
恐縮した様子のシャマルがするに治療をと駆け寄るが、それを手で制すグリム。
その様子を見て再びシグナむの時が膨れ上がるが、慌てふためいて説明をするグリム。
「か、勘違いしないでください。別段、敵対心とかそういうものではなく、余り意味はないのです。コレぐらいの傷ならば直ぐに治ります故。・・・あ、ほら。」
喉元を見せ付けるようにあごを上げるグリムに、なのはたちが傷を凝視する。
正確には、傷跡を。
「なっ、なんだそりゃ!!」
「----希少技能≪レアスキル≫、かな?その様子だと、肉体に作用するタイプ、だね。しかも、代謝強化か全身機能の強化。」
「さ、さすが執務官。正解です・・。」
「色々あって、そういうのの関係には詳しいんだよ。」
「フェイトちゃん・・・何時の間に復活したの・・・?」
いつの間にかなのはの背後に寄り添う感じで復活していたフェイトは、グリムの傷跡を注視していた。
そうしているうちにもグリムの傷跡はどんどん薄くなっていき、もうすでに薄く白い線しか残っていなかった。
「副隊長との模擬戦もあるので詳しくはいえないのですが・・・。まぁ、そんな感じですね。どちらかといえば、コレはおまけなのですが。」
「すごいなぁ・・・。あら、傷跡ももう消えてしもうた。便利やな・・・。」
「にゃははは、私たち生傷絶えないもんね。それに、肌に傷が残るのもアレだし。」
「そこまで綺麗に治ると、ちょっとうらやましい・・・・・・。」
「・・・・・・何というか、そういう反応をされたのは初めてですね・・。大抵は引かれるのですが。」
「便利なのは事実なんや。軽蔑したところでなんもかわらへん。」
「それは、そうです・・・ね。」
半分苦笑いで対応するグリム。
どうどうと言い切るその様子にはさすがに何にもいえなくなったのか、逆に感心してきた。
「そうそう、話戻すけど模擬戦、いいんやな?」
「はい、別段それに関しては問題はないです。」
「じゃ、やってもらいますか。無論全力やで。」
「はい?」
気の抜けたグリムの声に、にたりとはやての笑みが深くなる。
その笑みに背筋に寒気を感じたグリムだが、すでにはやての術中。
ぺらりと背中の方に隠していた紙を一枚取り出し、広げてみせる。
それは地上本部からの許可証。
具体的には一時的なリミッター解除の許可証。
それを見て、グリムの顔が引きつる。
「いやいや本部にグリム注意がスパイじゃ無いかと難癖つけたら、色々説明してくれてな。で、戦闘能力が低いんじゃないかとも難癖つけてみたら、こんなん融通してくれたんよ。いやー、太っ腹やね本部は。」
実際は今までの嫌がらせの証拠をちらつかせながらの交渉だったのだが、それは気にしない。
背後に控えるシグナムの闘気が増加していく。
「は、ハハハハ・・・・。」
「じゃ、よろしくな。」
狸にしてやられた。
六課にいる全員の視界には、尻尾と耳を生やした狸なはやてが高笑いしているようにしか見えなかった。