TPP:火種抱え協議入り 交渉参加明記せず…基本方針

2010年11月6日 21時54分 更新:11月7日 3時27分

包括的経済連携に関する閣僚委員会であいさつする菅直人首相(右)=首相官邸で2010年11月6日、森田剛史撮影
包括的経済連携に関する閣僚委員会であいさつする菅直人首相(右)=首相官邸で2010年11月6日、森田剛史撮影

 政府は6日夜、経済連携の推進策を検討する閣僚委員会を首相官邸で開き、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について「関係国との協議を開始する」とした「包括的経済連携に関する基本方針」を決定した。国内農業への影響を懸念する慎重派に配慮し「交渉参加」の明記は見送った。菅直人首相は「開国と農業再生を両立させ、日本の新たな繁栄を築くための大戦略のスタート」と位置づけたが、推進、慎重両派が都合よく解釈できる余地も残している。菅政権は内部に対立の火種を残したまま、TPP交渉参加へ向けた一歩を踏み出した。

 「尊農開国をやるんだ」。政府・与党内の調整が難航する中、菅首相が玄葉光一郎国家戦略担当相らに指示したのが、「農業の再生・強化」と「平成の開国」の両立。長年、自民党も党内が割れてまとめきれなかった貿易自由化に道筋をつけることを狙ったのだ。13、14日には地域経済の統合を主要テーマにアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が横浜市で開かれる。首相は「議長として強いリーダーシップを発揮する覚悟で臨みたい」と力を込めた。

 とはいえ、9日に閣議決定される基本方針は、TPPに関しては「情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と煮え切らない。協議開始の前提として、自由化にさらされる農業再生の必要性をうたい、首相を議長とする「農業構造改革推進本部」(仮称)の設置や、戸別所得補償制度の拡充などを念頭に「財政措置」の検討が盛り込まれた。

 首相の意欲に沿うべく、表現を「交渉」ではなく「協議」にとどめる知恵をひねり出したのは民主党の検討プロジェクトチーム(PT)だった。10月から16回積み重ねた議論は慎重派の抵抗で紛糾。PT座長の山口壮政調筆頭副会長は協議の対象を情報収集に限定することで慎重派を説得し、政府に「情報収集のための協議を始める」ことを提言した。

 しかし、この表現では首相が10月の所信表明で打ち出した「参加検討」からの後退と映る。そこで基本方針では「情報収集」の文言は残しつつ「協議」と切り離し、交渉につなげる「事前協議」とも解釈できる表現となった。文案調整に携わった平野達男副内閣相は「(所信表明より)一歩も二歩も前に出ている」と強調する。

 それでも、鹿野道彦農相は「どうするかということを決めたわけではない」と慎重姿勢を変えず、政府内にも解釈の違いを残す決着となった。慎重派の急先鋒(せんぽう)、国民新党の亀井静香代表も6日午前、仙谷由人官房長官と電話で協議し、基本方針を了承こそしたが、同党の下地幹郎幹事長は「垣根なく論議するスタートだ」と、さっそく前のめりの菅首相をけん制した。政府が協議を進める過程で、慎重派が抵抗を強めるのは必至だ。

 政府は今後、TPP交渉を進めている米豪など9カ国との間で協議に入る。日本はこれまでにシンガポールなど12カ国・地域と個別に経済連携協定(EPA)を締結(合意も含む)しているが、関税対象9000品目のうち農産物を中心に940品目は「聖域」として関税を撤廃していない。TPP交渉参加国からみれば「協議」と「交渉」の違いは分かりづらい。関税に加え、輸入・参入規制などの非関税障壁の撤廃を突きつけられることも予想される。【増田博樹、小山由宇】

 【ことば】TPP

 Trans-Pacific Partnershipの略で、06年にシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国間で発効した貿易・投資などを自由化する経済連携協定(EPA)。特定分野の自由化をあらかじめ除外した新規参加は認めない見込みで、農業分野も含め発効から原則10年以内にほぼ100%の関税撤廃を目指すなど、通常のEPAや自由貿易協定(FTA)よりハードルが高いとされる。現在、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国が加わり、計9カ国で新たなTPPの枠組み作りに向けた交渉を進めている。11年11月の合意を目指す。

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