2010年11月4日 2時30分
ロシアのメドベージェフ大統領の北方領土訪問について、ロシア情勢に詳しい元外務省欧州局長(当時・欧亜局長)の東郷和彦・京都産業大学教授は毎日新聞のインタビューに「7月の択捉島での軍事演習や事実上の対日戦勝記念日制定などの延長線上にある」との見方を示した。3日に一時帰国した河野雅治駐ロシア大使は菅直人首相らに「12年の大統領選を見据えた国内向けの動き」との分析を伝えた模様だが、東郷氏は麻生、鳩山両政権の瑕疵(かし)が要因との見方を提示。現在の政府・外務省とは真っ向から対立する見方に立って警鐘を鳴らしている。【西田進一郎】
東郷氏は最近1年間の日露関係を考察し、(1)ラブロフ外相が7月に演説した際、アジア太平洋で協力関係を進めたい国として韓中印ASEAN(東南アジア諸国連合)などを挙げたが日本は含まれなかった(2)7月に択捉で軍事演習(3)9月に太平洋戦争勝利記念日制定--などを挙げ、「顕著に悪化した」と強調。この延長線上に訪問があると位置づけた。
最近の北方領土交渉を振り返って「06年の安倍晋三政権の成立以来、昨年5月のプーチン首相来日までは、ロシア側は『領土交渉を進めよう』というシグナルを繰り返し出してきた」と指摘。にもかかわらず、麻生太郎首相(当時)が「ロシアが北方領土を不法占拠している」と発言したことが日露関係悪化の発端との認識を示した。「大統領が『交渉を本当にやろうと真剣に思っているのなら、相手の国民世論を憤慨させるようなことはやめてくれ』と強烈なメッセージを送ったにもかかわらず、(麻生政権の後の)鳩山(由紀夫)前政権でも同じ趣旨の答弁書を出した」として、ロシアの態度硬化に拍車をかけたと断定。「ロシア側は日本は交渉する気がないと受け取った」と語り、その後の関係悪化につながったとの見方を示した。
東郷氏は「交渉で領土を取り返す以上、日本政府はロシア側のシグナルを外してはならなかったのに、『やる気がない』と彼らが受け取るメッセージを昨年出してしまい、(現在の菅政権に至っても)修復の兆しはない」と最近の歴代政権を批判した。
東郷氏は、祖父茂徳氏(元外相)、父文彦氏(元外務事務次官、駐米大使)と3代にわたる外交官。68年に外務省に入省し、3回にわたるモスクワの日本大使館勤務やソ連課長、欧亜局長(01年に欧州局長)などを歴任した。鈴木宗男前衆院議員との太いパイプで領土問題に取り組んだが北方四島支援事業などに鈴木氏が関与した問題に絡み、駐オランダ大使を最後に免職となった。今年3月には、衆院外務委員会の参考人質疑に出席、日米核密約に関する内幕を暴露して話題を呼んだ。