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【コラム】悪いことばかりではない円高の影響

HEARD ON THE STREET

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円高の日本の製造業に与える影響といえば、「苦痛」以外にはなさそうに思える。

 一般的に日本の輸出業者は為替相場から身を守る必要があると思われている。しかし、実際にはこうした企業に円がもたらす苦痛の分岐点は、投資家が思っているほど低いものではない。

 円は5月初め以降、ドルに対して11%以上急上昇し、日本株からの資金流出につながった。円が24日、節目の1ドル=85円を抜け、対ユーロでもほぼ過去9年間の高値を付けるなか、日経平均株価は1年3カ月ぶりの安値を付けた。

  こうした為替相場の動きは、日本の製造業が危機的状況にあるとの印象を与える。だが実は、大和総研によると、製造業セクター全体の通期の営業利益は、円が1ドル=80円に上昇するまでは前期比で減少し始めることはない。これは円の名目史上最高値に近い水準だ。

 また、円が1ドル=67円を付けるまでは利益が完全に消えてしまうわけではない。これは製造業は実際には石油や食品業界と同様、円高が部品の輸入のコストを押し下げるという恩恵を受けるためだ。さらに日本の輸出取引の40%は円によって決済されているためでもある。こうした企業にとって、為替レートの変動は営業利益にリスクをもたらさない。

 すべての企業が円高の影響を受けにくいというわけではない。もし円が1ドル=84円近辺で推移していれば自動車メーカーの利益は減少し始める。

REUTERS

英国日産の工場(英サンダーランド)

  しかしその自動車メーカーの中でも他社よりも円高に強い企業が存在する。例えば、日産自動車はトヨタ自動車よりも米国内での自動車生産比率が高いのでその痛みは少ない。また日産は、タイから低価格帯の自動車を国内で販売するため輸入しているため、円高がプラスに働く。

 さらに日産の第3の市場である欧州で販売される車種は現地生産されている。ドイツ銀行によると、同社の今年3-6月期のユーロ安に関連した損失は合計でわずか1300万ドル(約11億円)という。

  企業がさらなる円高から自分たちを守る動きに出ることで、日本はある程度、長期的な難題に直面することになる。製造業が海外に生産を移転するため、設備投資と高額な給与の雇用の海外流出は問題となる。さらに、円高は日本がデフレを輸入することを意味する。すでに10年間物価下落を続けてきたのだが。

 しかし、投資家が非常に心配している業績への打撃はしばらく先のことかもしれない。

[ハード・オン・ザ・ストリート (Heard on the Street)は1960年代から続く全米のビジネス・リーダー必読のWSJ定番コラム。2008年のリニューアルでアメリカ、ヨーロッパ、アジア各国に 駐在する10人以上の記者が加わり、グローバルな取材力をさらに強化。刻々と変わる世界市場の動きをWSJ日本版でもスピーディーに紹介していく]

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日本版コラム〔12月27日更新〕