きょうの社説 2011年1月3日

◎理念なき政党政治 予備選で政治家を鍛えたい
 本格的な政権交代という偉業を成し遂げ、歓喜に包まれて誕生した民主党政権は、未熟 な政権運営で1年もたたずに国民の期待を裏切り、八方ふさがりのまま新しい年を迎えた。安全保障上の危機対応や国の予算編成よりも党内の権力闘争の方が大事といわんばかりの民主党議員の振る舞いからは、政権党の担い手というにふさわしい政治理念も志操も感じられず、ますます失望の念を深めた有権者は多いに違いない。

 政治のよしあしは詰まるところ、政治家の能力にかかる。民主主義国では、よい政治家 を育てる責任は国民の側にもあるのだが、その務めをまず果たさなければならないのは政党であるという自覚をあらためて強めてほしい。優れた人物の発掘、育成は政党の消長の鍵でもある。そのための取り組みの一つとして、国会議員候補者の党内選考の方法を見直し、党員らによる予備選挙の導入、拡大を図ることを求めたい。

 米国では大統領選のほかに上下両院選や州議会議員選でも、予備選で候補者をふるいに かける仕組みが導入されている。予備選とは要するに、党候補の決定権を執行部から党員ら有権者に移すことである。党は中立的な立場に立ち、立候補希望者は政策や弁論の能力だけでなく、自前の資金力や組織力で予備選を勝ち抜かねばならない。候補者はおのずと予備選で鍛えられ、党の指導者や実力者の意向に左右されない自律的な政治家に育っていくのである。

 米国の予備選はもともと、特定の政治家勢力が候補者の決定権を握り、政治権力を独占 するのを防ぐために採用されたという。

 日本では小選挙区制の導入で、かつての派閥の機能は弱まり、党執行部に権限と資金が 集まるようになった。それでも実力者といわれる政治家の影響力は強い。例えば、小沢一郎氏や小泉純一郎氏の厚い支援を受けて当選した新人議員を「小沢ガールズ」、「小泉チルドレン」などと呼んでいるが、こうした子飼いのような議員集団の存在は、日本的な政治現象と言わなければなるまい。

 むろん民主党も人材の育成に手をこまねいているわけではなく、いわゆる世襲候補者の 制限や公募制を採用している。世襲議員やタレント議員の中にも、信念、政策のしっかりした議員がおり、一概に批判はできない。が、そうした候補者を擁立するにしても、資質や能力を正しく評価し、競い合いによって選抜し、鍛錬する仕組みを工夫しておかないと、政治の質の低下は免れまい。

 予備選については自民党の方が先行しており、昨年の参院選でも県連レベルで党員・党 友が公募に応じた人物の中から投票で選挙区候補者を選ぶ試みが見られるようになった。公募・予備選方式をさらに広げていけば、自民党の再生力は格段に高まるだろう。

 統治能力の欠如による政治の行き詰まりや見苦しい党内抗争に、高貴な理念に基づく政 治への期待はしぼむばかりであるが、そもそも民主党はいまだに党綱領を持っていないのである。この政党の「欠陥」を早期に正す必要がある。

 いわば政党の憲法である綱領がないということは、政党の基本理念も定見もないという に等しい。こうした状況では、確たる外交・安全保障戦略も望むべくもない。普天間飛行場移設問題の迷走も中国漁船衝突事件の外交敗北も、突き詰めればこのことに起因していると言わざるを得ない。

 候補者の公募・予備選と党綱領は本来、不可分のものである。綱領に掲げた理念の旗の 下に集まる賛同者の中から適格者を選び、政治の場に送り出すのが政党の望ましい姿であるからだ。

 中国漁船事件で民主党政権を厳しく批判する自民党の外交・安保政策も決してほめられ たものではなかった。領土の問題化をひたすら避ける「事なかれ主義」などは自民党政権下でしみついたものである。保守政党の再生を掲げた新綱領を昨年策定したが、党内は依然一枚岩ではない。

 迂遠のようでも、有能な政治家を育て、理念の根本から政党を立て直すことが停滞する 政治を前進させ、「善政」を実現する正道であることを国民も心したい。